着たけどよケーキ屋!flyでありcryでありTATAMIだ
そして、俺は今まさにシャルルン・デブというケーキ屋の前にたどり着いた…………のだが。
「な……なんだ……と……」
クローズっ……? 俺様が来てやったというのに……閉店……だとっ……!?
「あぁ……まぁ……」
途中走るの止めて歩いてきたのがまずかったのか……。
「しゃあない。また明日だな」
と、踵を返そうとした時……。
「………………」
どこからか視線を感じ――――というか、実は店の前に着いたときからずっと気になっていた。
“なに見てんだこの野郎!!”
と、叫びたくなるほどには気になっていたんだ……。
シャルルン・デブの店内から向けられる視線に……。
「っ……」
視線を合わすと驚きを隠せなかった。
「………………」
空になったショーケースに顎を乗せ微動だにせず睨んでくるおっさんがそこに居た。
「ぁ……ぁぁ……」
想像以上にキモい見られ方でたじろぐしかない。
「っな、なんなんだよこの店っ。キモいとこでケーキ、か、買ってんじゃねえぞっ……」
よく見りゃむっちゃでかい黒猫が隣に居るし、おっさん頭に赤いリボンとか付けてんじゃねえかっ!
「ぷぅっ……」
頬を膨らましてこっち見るんじゃねえ!! ボーダーメガネになれっていうのか!
気持ちわりいな、おい!!
「ああ、やだやだ! も、もう、帰るっ!」
おっさんの視線から逃れる為、俺は急いでシャルルン・デブを後にした。
「ふっ……」
この時、赤リボンのおっさんが不適な笑みを浮かべていたことなど知らずに…………。
翌日―――。
「うわあ……。本当に赤リボンしてるよ~……」
「ほんまやな……。キモぉっ……」
「あぁ……二度と来たくなかったよ……」
一人で来るのは絶対嫌だったので、今日は昨日の出来事を話して、半ば強引に学校をふけさせたロピアンとゴリラも連れて、三人でシャルルン・デブの店内がよく見える辺りで張り込みをしていた。
「しかしあれだな……流行ってるよな」
先ほどからひっきりなしに人が入っては袋を提げて嬉しそうに帰っていく。
その年齢層は老若男女様々だ。
「なんだってんだ? ガキやサラリーマンやOL風な奴等は学校や会社サボってまで来てるってのか? あんなおっさんが作るケーキがそんなに美味しいのか?」
「ま、まあ、見た目はあれな人だけど、有名なのは有名だよあの店。美味しいからね」
そう答えやがるロピアンはやはり、流石と言うべきか流行りものに詳しいらしい。
「行ったことあんのか? ロピアン」
俺の問いにロピアンは「いや、ないよ」とあっさり答え……。
「女の子とは、まあ、話す機会が多いからね。よく名前は聞いたことあるんだ」
と言い「あと、差し入れとかも貰ったことあるし」と少し恥ずかしそうに言い辛そうに付け足した。
「そうか……。まあ、とりあえず―――」
「死ね」と、俺が言おうとしたら、ゴリラが振り返ってロピアンを見据え……。
「死ね」
と言い、再び店に顔を向ける。
「いや、何故なんだい!? 死ねって酷いよ!! 僕が自ら彼女たちに話しかけてるんじゃ―――」
「いや、もういいから。もういいからロピアン」
喚き足りなさそうなロピアンの肩を掴む。
「なにがもういいのさ! 僕はよくな―――」
「いや、ほんともういいから。とりあえずお前が暗黒のなんとか買って来い。な?」
本当、理不尽だと思う。だが、ノリで「わかったよ。行ってくる」とか、ありえないと思うが言いそうな気もしたのと、俺は絶対に行きたくなかったのでそう口にしてみた。
するとロピアンは……。
「わかったよ……。行ってくる」
あっさりそう言うと、店に向って歩き出した。
「えっ? ちょっ!? 本当にいいのか!?」
自分で言ったがこうもあっさりしすぎると本当にいいのだろうかと凄く思い、ロピアンにそう聞くが。
「これで罪滅ぼしになるなら容易いよ…………」
と、力なく親指を立て、再び店に向って歩き出した。
「なんの罪を犯したんやあいつは…………」
そう口にするゴリラはなんか引いていた。
「いや、全くわからん…………」
そう返した俺もなんか引いてしまっていた。
そして、数分後。
「買ってきたよ。あんこく―――」
「おお! ありがとう! マジでありがとう!」
帰ってきたロピアンにお礼と共に感謝をこめて抱きついてしまう。
「これで許してもらえるかな?」
「あったりまえだ! というか、許すも何も初めからお前の勘違いだって!」
そう言いながらロピアンから袋をぶんどり、箱と一緒に入っていたレシートを掴み上げる。
『暗黒のナントーカ 1500円』レシートの表記はそうなっていた。
「…………」
「よかったよ~。本当の友達は君たちだけと思っていたから本当に―――」
「やっぱお前死ね」
ロピアンにそう言い、クシャクシャにしたレシートをゴリラに放り投げる。
「何故なんだい!? 僕はちゃんと買ってきたよ!!」
「暗黒のナントーカ。……何を買ってきたんやお前。1500円も使って、お前」
ゴリラもレシートをくしゃくしゃにし、ケーキの袋の中に放り込む。
「ちゃんと買ってきたじゃないか!」
ため息を吐く俺とゴリラにロピアンは自分の正当性を訴えてくるが……。
「お前、ネタじゃなく地でやってるなら、かなりの問題児だぞ……」
「ほんまやわ。そもそもなんや暗黒のナントーカって。よう、こうたなお前……」
俺とゴリラはただただため息を吐くしかなかった。
「そんなこといわれたってしょうがないじゃないか! 暗黒シリーズだけでもかなりの量あったんだから!」
とうとうロピアンが声を荒げ始める。
「どれも見た目が同じだったんだよ! 暗黒スィリーズ! 全部ホールだったshit!」
ロピアンは怒るとどんどん英語が混ざり発音が良くなってくる。
「You are so mean! MOTHERF**―――」
「もうわかった! わかったから、ロピアン落ち着けっ!」
流石に汚い言葉を喚き散らし始めそうになったので肩を掴んで止める。駅前だけあって人通りも多いわけで、制服を着てたむろしている形となっている俺たちだ。目立つのはまずい。
「F**k off!!」
だが、ロピアンは完全に頭に血が上ってるようで手を振り払おうともがき、汚い言葉を吐く。
「落ち着けってロピアン! ああー! もう! いつもの!!」
一刻も早く静まって欲しいので、傍で成り行きを見ていたゴリラに“いつもの”を頼む。
「おっしゃ」
ゴリラはそれだけ言うと、素早くロピアンの背後に回り……。
「んがはぁっ……!」
どこを狙ったかはあえて言うまい。手刀でロピアンを気絶させた。
「ふぅ……。しゃあないな……二人で買いに行くか」
「そうやな」
倒れているロピアンを見下ろしながら二人して頷き、シャルルン・デブへと足を向け歩き出した。
「気合やでぇ……」
「あぁ……」
始めから三人で買いに行けばよかった筈なんだが、何故こうなったんだろうか……。
「…………」
「…………」
その疑問は当然、私や隣を歩くこのゴリラという男の中にもある。
だが、私はそんな疑問よりも思うことがある。
それは、人というのは集団の中での自分の役割というのが必ずできるということ。
しかも、決めてそうなった訳ではなく、他人と時間を共有することにより自然と周りに居る人間にそういう認識が生まれ、自身でも無意識の内に自覚するようになるというものだ。
「んぐぁ……」
ロピアン。彼は恐らく、ちょっとしたネタの為だけに私達と同じ時間を共有したのだろう。
そして、それは今日だけでは終わらない。
今までも、そしてこれからもずっとそういう役割を担ってくれることだろう。
何故なら彼もまた……。
“特別な存在”なのだから。
そして―――。
「お前、先入れよ」
「いや、お前が先やろ」
シャルルン・デブの前に着き、後は店に入るだけなんだが……。
「いやいや、入るだけなんだしお前先入れって」
「そう言うなら、お前先入ったらええやんか」
この期に及んでまだ俺とゴリラはどっちが先に入るか言い合いをしていた。
「いやいやいや。そもそも、こういうのは親友とかそういうポジションが先に入って、叫び声とか聞きつけてから主人公が入るっていう鉄板な流れってもんがあんだよ。さあ、入れ」
ドアを指し示し、ゴリラの為に場所を開けてやる。
「んなもん知るか! なんや叫び声て! 何かある前提で入りたないわ!」
そう言い、ゴリラは俺の背後に回ろうとするが……。
「させるか!!」
素早く、ゴリラの背後に回ってやった
―――と思ったのに。
「こっちこそさせるか!!」
ゴリラも負けじと俺の背後を狙ってくる。
「馬鹿やろうめ! これじゃいつまで経っても入れんだろうが!!」
「うるさい! 正直言うと入りたないわ!!」
くそ、ほんとに正直に言いやがって!
「俺だって入りたないわ! 美味しいかろうが、ウィッチの宅急便みたいなコスプレおやじんとこで買いたねえ!!」
「じゃあどうすんねん! 入らんでええんちゃうんか!!」
入らない……か。
……いやいや。ケーキを買ってかないとアリスとの条件がそれなもんだから、どうしようも……。
「とりあえずさ。やめへん?これ」
「え?なにが?」
と、聞いてはっとする。俺とゴリラは言い合いと背後の取り合いに夢中になりすぎて、店の入り口前でほぼゼロ距離の狭い追いかけっこをしていた。
「やめようか……。男二人でなにしてんだろうな、まじで」
「ほんまやで……」
店の入り口で野朗二人が互いに背後を追いかけグルグル回っているなんてのも大概キモいことだ。
「とりあえず、移動しよか」
「あ、ああ……」
恥ずかしさのあまり俯きがちに早歩きをして店の前から去る。一刻も早く変な目で見ていた人達とどこかの壁を隔てたい。
「…………」
「…………」
つうか、隠れたい。いや、もう蒸発したい。つうか帰りたい。ひきこもりたい。
「…………」
「…………」
そんなことを考え、店から10メートルは離れただろう時。
「おやぁ~もしや百太郎殿ではござらんか~?」
聞きなれた声が聞こえてきた。
「…………」
が、今は立ち止まりたくない。気づかない振りして通り過ぎるのみだ。
「…………」
隣を歩くゴリラも無視を決め込んでるし同じ気持ちのはずだ。
「あれぇ~違うのかいの~。おサボりもうしている百太郎とゴリラではござらんのかぁ~」
おサボりもうすってなんなんだ……。い、いや、気にならない。気にならないぞ。申し訳ないがスルーだ。
「っ…………」
ゴリラもツッコミを抑えているし大丈夫だ。
「かぁ~なぁ~しぃ~なぁ~。無視とか始めてだぁ~」
全然悲しそうじゃない。というか、そもそも感情が全く入っていない。
「まあぁ~私から逃げれるわけがないんだけどねぇ~。地獄の果てまで追いかけるのではなく。私に追いかけられるのが地獄なのだぁ~」
え…………?なんか恐ろしいことをさらりと言ってる……?
「気がつかないのかい?百太郎君。さっきから私の声が遠のく兆しあるかい?」
そういえば、遠のいてない。むしろクリアに―――つうか、真横から声が聞こえる?
「…………」
視線を向けてみた。
「乗ってく?」
親指で後ろを指し、軽くそう言って来る人物と目が合った。
「なんでなんですか……」
そう言わずには入れなかった。
「新しい道具の試運転ってとこだよ。乗ってく?」
再び後ろを指すが、乗る乗らない以前に乗り物ではないはずだ。でも、なぜか並行して走って―――とい
うか飛行している。
「その、新しい道具の名前教えてもらってもいいですか?」
俺の問いにこの人は「よかろう」と頷き、そして言った。
「Fly……」
言ったまま、じぃっと溜める。
「…………」
その間ずっと目が合っていて、何故か緊張した俺の喉が鳴った時だった。
「TATAMI……」
言ったままニヤリと笑い、凄いドヤ顔で見てくる。
「FlyTATAMI……。すげえや、どらさん。世界にも通用するネーミングだ……」
「いや、通用するかわからんけどさ。なんで、全米大ヒット作みたいな言い方したん? 変に緊張したやん……」
そんな俺達のコメントにどらさんは「うむ」とだけ答え、更に続けた。
「乗ってく?」
もちろん親指で後ろを指して。
「うおぉおおおお!最っ高!!」
「ほんまやなぁあああ!めっちゃきもちい!!」
やはり日本人だからだろうな。畳って凄い乗り心地がいい。
「ふふん。まだまだ序の口。こんなものではないぜぇ~い」
「まじすかどらさん!ていうか、今も充分スピード出てますぜ!」
結局、乗ってくことにした俺達は今、鬼我島(おにがとう)を一望できる遥か上空を、畳で車の法定速度ギリギリか少し超えてる位のスピードで飛行していた。
「ひぃやっほぉぉぉおおお!」
畳で空を飛ぶなんて普通では決してありえないことであり、できたとしても座席も囲いもないわけで俺達は圧に耐えられず吹っ飛んで終わっていることだろうが、そんな素人でもわかることをどらさんが考えていないわけがない。
「うわぁっふぉぉおおおおお!」
どうも軽く聞いた感じでは畳の周りに透明のバリアがあり、そのバリアが凌いでくれてるようだが、どんな原理でどう実現したのかは俺やゴリラが聞いたところで絶対わかるはずがないし、気持ちよく空を旅できるならそれでいいと詳しく聞くことはしなかった。
「我ながらいい発明だぁ。気持ちいいねぇ~~」
それに、どらさんもひけらかすことを全くせず、純粋に畳で空を飛ぶことを楽しんでいる。まあ、それ故に困るというか、苦しい思いをするときもあるんだけどな。
「…………」
にんにくの時とか……。
「このまま……へ……飛んでいけたらな……」
「え? なんて言いました? どらさん」
にんにくの時のお口シュッシュの苦しさを思い出していたため、どらさんが言ったことがあまり聞こえず聞き返したのだが……。
「好きだと言ったんだよぉ~。百太郎君のことがぁ~」
と何故か抱きつかれてしまった。
「あ、ありがとうございます」
と、返したが、俺もそこまで抜けているわけではないのでわかっていた。
「…………」
そんなことを言ってなかったこと。
「…………」
悲しんでいるような感情が一瞬言葉に混ざっていたことを。
「…………」
そして、一瞬で本当に見えたかどうか確信は持てないが
「…………」
抱きつかれる瞬間に見えた瞳は涙で潤んでいるように見えたんだ。
「…………」
当然俺としては何かあるなら力になるつもりだ。だが、はぐらかすという珍しい行為をしたという事は踏み込んで欲しくないということだと思う。少なからず今はそう思っている筈。
「…………」
だから、いつもと変わらずを演じるしかない。
「うう~む。ごろにゃ~ん」
「あっ……」
とか思いつつも、気づけば未だに腹辺りに顔を埋めているどらさんの頭とか撫でてしまったりしていた。
「すいません。な、なんか、あの、猫と思ってしまって」
とっさに言い訳をしている俺にどらさんは……。
「かまわんよ」
と、いつもの無表情、無感情に戻っていた。
―――そして、数時間後。
「ふぅ~……」
暮れそうで暮れない。そんな暮れ泥む空を、鬼我島学園の屋上上空をホバリングしている畳の上に三人並んで座りながら見ていた。鬼我島の気候は常に他の地域で言う春の気候で安定していて、この空景色自体も決して珍しいわけではない。
「綺麗だな……」
が、空飛ぶ畳の上からというのが初めてで新鮮なんだと思う。全てが始めて見た景色のようで、凄く綺麗に輝き目に映りこんできて、できる限り目に焼き付けようとか思って……
「…………」
色んなとこを隅から隅まで見て記憶しようとして……。
「うぅっ……」
「グスっ……」
俺とゴリラは泣いていた。
「す~……す~……」
どらさんは俺の右肩を枕に寝ている。
「な゛んだろうなぁ~……」
「わ゛がらん。げどな゛げてくるよなぁ~……」
目を擦り、涙混じりの声で語り合う野朗二人とすやすや眠る青い髪の少女。すごい絵面なのはわかってる……。
「ううぅ……」
「ぐぁぁ……はぁ……ぁ……」
が、凄く泣けてくるのだ。
「だまらんよなぁ~。な゛んがさぁ~……」
「わ゛がる。わ゛がる」
どらさんが右肩を使ってくれてるからいいものを、もしそうでなかったなら、ゴリラと抱き合いながら泣いていたかもしれない。だが、そんなおぞましく臭そうなことをしてしまったら、恐らく明日の朝一番に自殺していたろうから、心のそこからよかったと思う。
「づうがさぁ。ごれ゛どうや゛っだらお゛りれんのがなぁ~」
「わ゛がらへん。どらざんね゛でるじざぁ~」
俺とゴリラは次第に泣く方角が変わり、降りれず帰れないことに涙することになったのだった。
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