行こうよ!アリスの家

「やっぱりさ、おにぎりよりにぎりめしと言った方がカッコいいと思うんだよな」


「まあ、男らしい感じはするな」


「だろ?かぁ~……ほんっと、最近の若者はおにぎりおにぎりってなんとひ弱な事か。嘆かわしいことこの上ねえな」


「いや、そもそも若者ってか、全般的にそんなにおにぎり連呼してへんと思うけど」


「いや~ほんと嘆かわしい。もうこれはにぎりめし戦争を起こさなければ……」


そう決意を決め、屋上扉のノブを掴む。


「いや、あかんで?ほんまやめてやっ。そんな変な戦争起こすのだけはマジでやめてやっ?」


ゴリラが背後で何かを言っていたが無視し、扉を開け放つ。


「にぎりめし出てこいやーっ!!!」


“今日こそ、お前をピンフォールだ!”の勢いでファイティングポーズを取る。


「いや、うるさいわ。お前」


「ああっ!?何がうるさいだこの野郎!このゴリラめがっ!」


と、言ってから気付く……。


「ま、まさかっ……!」


にぎりめしとタッグを組んだのではあるまいなっ……!


「いや、この野郎ちゃうわっ。お前にぎりめし味方ちゃうんかっ!なにリングに呼び出して闘おうとしとんねん!!」


「うるせえこの野郎!俺はおむすび代表だ、馬鹿野郎!」


「おまっ、言ってること無茶苦茶やんけ!にぎりめし可哀想やろ!」


「ああっ!?なんだとっ!」


こいつっ……にぎりめしが可哀想だと……。


「いや、てかさ、可哀想も何もあれは食いもんだ。そんな感情抱かない」


あのガンジーですらそこまでは思わない筈だ。飯は食うだろ。


「おい、ちょっ、なんでいきなり冷静なんねん!俺が変人みたいになってるやんけっ!」


「いや、でもお前……ふっ」


「なんやねん!今何で鼻で笑ってん!馬鹿にすんなってお前こらっ!」


「いやいや、そりゃお前、バカ―――」


と、言いかけた時……。


「とぉりゃっ」


背後から声が聞こえたかと思うと、瞬時に両脇腹を親指でグリグリされたような、なんともな感覚が走る。


「ああんっ!」


その感覚から一刻も早く逃げたい一心で必死に身をよじり……。


「な、何奴っ!!」


距離をとってから、背後を振り返ると、そこには……。


「やっぱりかっ!恋ちゃん、てめえっ」


両手をぎゅっと握り、こちらを見据えている恋(やつ)が居た。


「てめえって誰に言ってんだてめえ!宇宙まで蹴っ飛ばすぞ!」


「えっ……?いやいや、何故お前が怒って―――」


「お前って女の子に対して言うんじゃないよっ、お前っ!て言うかお前、アロマ姉さんに何したんだ!」

人に叱っときながら「てめえ」や「お前」を連呼し、怒りを露にし恋ちゃんは叫ぶ。

…………ていうか、アロマ姉さんって誰だなんだ……?


「さっき突然、奉仕活動部辞めるって言われたんだぞ!始まっても無いのにだぞ!」


奉仕活動部員にそんないい香りしそうな人居たっけな……?


「どうしてくれんだ!アロマ姉さんはあちきの安定剤なんだぞっ!あちきの……あちっ―――っわあぁあああーーーん!!」


最終的には号泣し、あんだけ怒ってたのに俺の胸に落ち着く恋ちゃんだった。


「…………」


ん~……アロマ姉さん……か。女は二人しか居ない筈だから恐らくアリスの事なんだろうな……。


「って!なんだとうっ!?本当かそりゃっ!」


と、恋ちゃんの両肩を掴み問うが……。


「うあぁああああ」


更に泣きが強まっただけったので……。


「お、お~~し、おし。いい娘だ~。いい娘強い娘だから泣くな。なあ?」



と、なだめなだめて……15分弱経過後。



「そ、その、ご、ごめんなさい……。つい感情が高ぶってしまって……」


泣き腫らした目からまだ涙が溢れるのか、目を擦りながら恋ちゃんはそう言うので、俺は「いいよ」と

恋ちゃんの頭をポンポンし、改めてアリスの事を聞いてみることにした。


「で、その、本当に辞めるって言ったの?」


「うん……。退部する折りを言いに職員室に行ったら……じろさんが居なかったから、明日には……と」


涙を堪えつつ恋ちゃんはそう語る。


「あぁ……。階段の下の彼処の霊はじろさんなんやな~……やっぱり」


ゴリラは納得したように頷いた。


「ふむ……」


納得するとこ違くねえ?  とも思ったがあえてそこは置いておき、これは少しばかり一大事である為、二人にある提案をしすぐさま行動に移すことにした。









「まじか、おぉい……。マジでこんなとこに住んでるん?」


閑静な住宅街。ゴリラの声だけが響く。


「あぁ……間違いない。電話で聞いたしな」


正直、黙ってろと思う。が、黙って歩いていてもどんどんと足取りは重くなるだろうから、それならなんやかんや話している方がましなのかもしれない。


「ふわぁ~……。城みたいな家がほんと沢山……」


学園より更に上のほうにある、金持ち―――しかも超が付く―――しか住んでいないと噂の高級住宅街である『ハクチョウ台』とかいう名のいかにもで、いかにも俺が嫌いな場所……。

そんな所をこれまたいかにも場違いな野郎二人と少女の三人が左右を見上げながら歩く……。

もう、最悪だ。いろいろ……。


「ようやるわ、なんやねんあれ。メリーゴーランドちゃうん?」

「あぁ……。間違いねえな……。休日に家族、親戚総出で乗るのかな……。馬鹿みてぇ」


庭でバーベキューでもしながらってか……。


「うっわおっ!百ちゃん見て見て!しょんべん小僧が40人ぐらい円で居る!」


「あぁ……見てるよ……。てか、あんま大きな声で言わないのよ。恋ちゃん」


ああいうの、水道代とかどうなってんだろうな……。

つうか、40体にしょんべんされる庭って、金持ち感覚ズレてねえか……?

すごいってか、アホじゃない?


「はぁ……」


まだまだ、入り口付近でこれじゃ……アリスは……。


「うぅぶるるっ……」


だ、駄目だ……。冬の立ちション並に、急に大きな震えがきやがった……。


「アリスの家は……もっと奥なんやんな?」


言うなっての……。トドメを刺そうとするなっての、クソゴリラめ……。


「ええっ!!じゃ、じゃあ、家なんてもっと大きくて、メリーゴーランドにしょんべん小僧が100人乗っちゃうくらい!?」


「…………」


恋ちゃんも大分なんかズレてるが……まあ、その通りといえるのかもしれない。

というのも、学校からアリスの家へと出発する時、肝心の家が何処なのか分からないことに気付き、直ぐ様じろさんの机から生徒名簿を拝借して住所を確認したのだが、いまいちピンとこず。

しょうがないのでアリス宅へと電話を掛けてみると、アリスの姉らしき人物が電話に出て、丁寧に―――と言うか「ハクチョウ台の一番上です。直ぐに分かりますよ~。大丈夫」と凄く軽く説明された……。


「…………」


未だに正確な場所は分かっていない……。

だが、すぐに分かるくらいの豪邸なんだろうと容易に想像できる訳であり…………。


「それが何よりも恐いんだよ!ばっきゃろぅ!!」


こみ上げて、こみ上げて、こみ上げて、限界に達した言葉を今、私は解放しました。


「おまっ、静かにろって!さっきより明らかに空気変わってきてるんやからっ」


そうなのです。なにやら、違うのですよ。

空気、雰囲気、という目では見れないが感じることの出来る何かが。だから余計に私は昂ぶったのです。


「そうだよ百ちゃん。さっきのが普通の家に思えてくるくらい、更に大きいんだよぉ……」


そう言って、恋ちゃんが手を強く握ってきたので握り返す。

どうやら、彼女も相当怖気付き始めていたんだろう。握った手から震えが伝わってくる。


「…………」


「む?」


ある一軒の家の前を何気なく見ながら通っていると、丁度、玄関のドアが開き、中から見たことあるような人物が出てくるとこだった。


「あら……?貴方は……」


その人物もこちらに気づいたようだが……。


「いやぁっ、ちょっと、来なくていいってっ」


何故かわからんが、門を開け寄って来ようとするその人物に両手を向ける。


「来なくていいとはなんですのっ!?どちらかというと、いらしたのは貴方の方ではなくてっ!?」


ん……? あぁ……そうか。確かに、その人物が住んでいる所へ通りすがりとは言え出向いた形になってしまったから、俺達が現れた事になるのか……。それならしょうがないな。


「いやぁーーっ。また、会っちゃっターーネっ! オンナー!」


ウエルカムさを特盛感じさせる、陽気なイタリア人の様に両手を広げ明るく挨拶してやる。


「変わり身、速ぁっ!なんですの貴方っ!?」


なんですのって、お前がなんだよ。少しは喜べよ。ウエルカムなんだからよ。


「いや、つうか、同じクラスやっちゅうねん。一応、毎日会っとる」


ゴリラが何を言ってるのか分からない。


「百ちゃん……誰なんです? あの、お嬢様丸出しのキンパチさん」


恋ちゃんはヒソヒソ声でこっそりと聞いてくる。因みに、キンパチとは超有名な先生では無く、恐らく、金髪ツインテール略してキンパチと言っているのだと思う。


「ああ、この人はね~。同じクラスのティッシュ中島さんだ」


軽く恋ちゃんに紹介すると……。


「は、初めましてっ!ティッシュキンパチさん!じ、自分っ、さ、五月っ、れ、恋と申します!」


緊張しながらも、ちゃんと元気よく頭を下げ挨拶する。


「うん、流石、可愛い幼馴染みだな」


頭を撫でてやると……。


「へへへっ」


と、少し照れながら恋ちゃんは喜んだ。


「ちょっと待ちなさい!!」


「オォゥ……」


「ひっ……」


「うるさっ。こらぁ、あかんて……」


急に叫びやがったので俺達は思わず耳を塞ぐが、ティッシュ中島はそんなの関係ねえで続ける。


「ティッシュ中島ってなんですのっ!?あと、貴女も紹介された名前を言いなさい!と言うかせめて中島は付けなさい!!」


恋ちゃんを指して何かを言っているが、今の俺達にはごもってしか聞こえず、何を言ってるのかいまいち分からなかったが、恐らくは俺と恋ちゃんがふざけた事を怒っているのだろうと思われる。


「大体、貴方達が何故こんな所にいらっしゃるの!?」


「え?なんだつぃみはってか?」


「そうです。私の隣が変なおじさんです」


「だっふんだか、お前等……。てか、からかうのはもうやめたれって。俺等は―――」


と、ゴリラがここ、ハクチョウ台に何故来たかを説明する。


「そう言うことでしたのね……」


状況が分かったとばかりに中島は頷き、そして……。


「ただ、納得いかないですわね」


と、鋭い視線で睨んできやがった。


「あぁ?なんでまた怖い顔してんのよ。お前は相当にアレな人なのか? 自分の非を認めたから謝る。それ以外に理由なんて要らないだろ?」


と、行動は伴って無いかも知れないが、まともっぽいことを言ってみる。だが……。


「いいえ、その事ではないですわ」


と、中島は首を振り再び口を開く。


「あの方の御宅までは詫びに行くのに、私にはないのですか? と、それが納得いかないのですわ」


「え? いや、それはお前……。また、別のお話……」


なんだってんだ、この女。凄まじく図々しい。と言うか、そもそも何を謝れってんだ? 冗談じゃねえよ。


「あん、こら。あぁん?」


俺は眉間にこれでもかと力を入れ、眼光鋭くを意識―――して、どうにかなるのかは知らないが、睨んでやった。


「何睨んでんだ、このう!!」


「いたっ、ちょっ、恋ちゃん痛いっ。ごめんっ!」


中島はおっかなかったので、代わりに恋ちゃんを睨んだことが怒りを買ってしまい。左の脛辺りに猛々と浴びせられるローキックの嵐に数秒も耐えられず謝る。


「何してんねん……」


ゴリラはいつもながら呆れやがるが、そんなこと言われたってしょうじゃないかっ。


「だ、か、らっ!何故私には詫びの一つも無いんですのっ!」


「のぉおおうっ!何でお前までっ―――いってっ。まじ、痛ぁっ!」


中島も恋ちゃんに加勢し、空いていた右の脛辺りにローキックの嵐を浴びせてくきやがる。


「ちょっ、マジでやめっ―――痛いっ!痛いよー!ごめーん!ああーーーん!!」




で、数分後――。


「もう、そろそろなんかな?」

「うおおっ!すっごいっ!!金のしょんべん小僧ですよっ!!」

「あ、あんなの全然凄く無いですわっ」

「…………」


俺達は再びハクチョウ台の最奥目指し歩いていた。


「ええ~~なんです~?ツンデレっちゃう人ですか~?キンパチせんぱ~い」


「つ、ツンデレって無いですわっ!と言うか、キンパチ先輩と呼ぶのはお止しなさい!」


ムキになるのが面白いのだろう。先程から恋ちゃんは中島をからかって遊んでいる。

まあ、恋ちゃんの言葉にいちいち否定的な反応する中島も悪いんだけどな。


「…………」


と言うか何故居るんだろう? 両脛ローキック嵐の後、ごく自然な流れで付いてきた気がする。


「…………」


と言うか、最後尾を少し遅れて無言で歩いている俺こそが、付いてきちゃった人みたいな位置付けにすら思える……。


「まあ、いっか」


それほど馴染みが早い奴なんだろう。お高くとまってる感はあるが悪い奴でもないしな。少しうぜえけど。


「はぁ~……。もう、そろそろかねぇ~」


なんて、後頭部に両手をやり、気楽に構えながら、少し前を行く3人に近付いた時


「ん?なんかおかしいぞ?」


ゴリラが右側にあるどこぞの家の塀に目をやりながら言うので、すかさず……。


「頭が?」


と、聞いてみる。


「いや、頭ちゃう。頭は全然大丈夫や。けど……」


言いながら、ゴリラが塀を伝うようにずっと先の方まで目をやるので……。


「なんだよぅ…………」


なんだか怖くなりながらも同じように目をやると。


「どこまで囲っているのかしらね?」


「て言うか、そもそも何処から始まってるんですか?」


と、中島と恋ちゃんも同じように先へ目をやりながら、恐らくゴリラが言おうとしていた疑問を口にした。


「なんだよ、おいぃ……。マジかよぉ……マジカルかよぉ……」


嫌な予感をビンビン感じついそんな意味不明な事を口にしてしまう。


「意味分からんけど……言いたいことは分かるわ……」


ゴリラが珍しく共感を示したのは、やはり、状況は異様と言うこと……なんだな。


「分かるのか分からないのかどっちなんですの?矛盾してますわ」


中島はそれに食いつくが。


「空気読みましょうよ、キンパチ先輩。人と言う字このうっ」


恋ちゃんは恋ちゃんなりのごもっともな事を言う。


「もうさ、あれだな……」


これは恐らく、アリスの家の塀なんだろう。そして、皆―――というか、俺とゴリラだけかもしれないが―――引いてるわけで、こうなりゃ仕方が無いよな。


「帰るかっ」


清々しく明々と言った。


「いやっ、なんでやねん! アホか、ここまで来て、おいっ!」


「そうですわっ!お天道様が許しても私が許しませんわよ!!」


「んだよ、百ちゃんシッ○!!ファッ○ユー!!」


分かってはいたがやはり皆からは非難轟々だった。


「アホなこと言ってんとほら行くぞ。おらっ」


と、ゴリラにシャツの襟を猫掴みされるが、俺にも理由ってもんがあるので、ゴリラの腕を掴み必死に訴えかける。


「い、いや、でもさっ。何処までかわかんねえしっ!! て言うか、て言うか、うんこしたいしさ俺!!」


そこまででは無かったが、便意があるのは確かだ。


「うるさい!何処までかわからんねやったら調べるまでや! それに、うんこやったら我慢できる! 行くぞおらっ! ほらっ!」


「そりゃ無いぜっ! やめてよ父さん!」


「じゃかぁしぃっ!」


厳しい父、それに反抗する子というような構図になっている俺とゴリラ。


「なんなんですの……このお二人」


背後を歩きながら呆気に取られる中島。


「ぴゅるる~~ぴゅい~~」


その更に背後で丘を越えて行きそうなくらい、ご機嫌に口笛を吹いている恋ちゃん。

と、なんやかんやと騒がしくしつつ、恐らく目的地であろう、この何処まで続いてるか分からない程に長い塀で囲われた家の門を目指し……。




―――歩くこと小一時間。



ようやく、たどり着き、でた言葉が……。



「でっけえっ!! 門でっけえよおい!! 戦車二台までなら余裕かよおいっ!!」


だった。


「なんやこれ……。てか、門だけちゃうぞ。ここだけ英国の王宮や……」


「す、凄くない……なんて……言えませんわ。これは……」


「でも、金のしょんべん小僧……居ない……」


俺達は想像を遥かに越えた家――――と言っていいのかもはや分からないが――――に圧倒され、広大な景色を堪能するように見上げ見渡しするしか無く、誰もインターホンを押そうなんて考えもせず、押したがりもしなかった。


「ふぅ……」


だが、石を削って作られた表札は、間違いなく『鬼白』となっている。



「いやぁ……これは……。本当に“あの”鬼白さんかな?」


ゴリラに聞いてみる。


「いやぁ……“あの”鬼白さんで間違いないんちゃうかな。てか、来たら分かる言われたんやろ?」

「まあ……うん」


確かに「すぐ分かります」と軽い調子で言われたんだが……。家の規模がでかすぎて、爆弾処理と同じような「間違いは許されない」という、極度の緊張感に襲われつつある訳で……。青か赤か、正解か不正解か、処理か爆発か……。


「うう~む……。悩むぜ~……」


インターホンを睨みながらそう呟く俺に……。


「いや、ピンポンぐらいで大袈裟やろ。てか、鬼白なんて名字そう居らんし、居たとしても同じ地域に二人も居らんて」


と、ゴリラは軽く叩きながら言ってくる。


「まあ、そうなんだが……」


確かに、多いであろう田中とかも同じ地域に居ない場合も――――。



「まあ、田中はクラスに二人居るな。よし、ほいっ」


さっきまでが嘘だった様にインターホンを迷い無く押す。


「ええっ……おまっ、切り換え早っ――――てか、その納得は逆や!それやと鬼白も二人居る説の方やろ!」


「なっ……!」


た、確かにそうだっ……。ダブル田中の日直があればダブル鬼白の日直もあると言う可能性が……なんて目を見開き、自分でもアホだと思うことを考え始めた時だった。


『誰だ』


そう、インターホンからぶっきらぼうに問われたので、直ぐ様インターホンに顔近付け名乗る。


「私だ」


と。すると、インターホンからも直ぐに返答がくる


『お前だったのか……』


と。正直、意外だった……。俺はかのお方に声だけで識別できる程覚えられていたんだ……。

ただ驚いてばかりもいられないので、再びインターホンに顔を近付け―――。


「暇をもて余した――――」


『言わせないぞ。何用だ貴様。ていうか顔近い。真っ暗で何も見えん、やめろ。ふざけず答えろ』


見事にぶった切られてしまった……。つうか、そうか……。インターフォンってレンズ付いてるからすぐわかるのか……。しかも、この規模の家なら監視カメラの四つや五つ、いや数十個はあるだろうし。そもそも、インターフォン押す押さないまで全部見られてるか……。


「しょうがねえな、まったく」


「ふざけず答えろ」と先手まで打たれたしまったし、まじめに答えるしかねえか。


「あの、百太郎ですが、アリスさん居ますか?」


『ちょっと待ていっ!! 噛み合って無いぞ貴様っ!ここに居るだろうが!誰だか分からんのによくふざけれたな、おいっ!』


「いや、分かっていたんだけどね。ぶっきらぼう指数でさ。ただ、最初から始めた方がいいかなって……」


『変人のクセに変なとこ真面目か貴様!』


いや、だから変人なんだと思うんだが……。


「ま、まあ、その、百太郎が色々謝りに来たよぉ~。は~い」


下を出してお茶目な顔を作る。


『腹立つな……。ま、まあ、他の者に見られたくないので早く入れ』


アリスがそう言って直ぐ、目の前の巨大な門が開かれたので、俺達は遂に鬼白宮殿の敷地内へ足を踏み入れる事となった。



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