ラブたっぷり

「すいません……。はい、すいません……。申し訳ない、はい」


「本当に分かってるのか?」


「はい、重々承知してます。すいません、はい」


「ふん………」


屋上の硬い床で正座する俺をアリスは腕組をして見下ろしている。


「くっ………」


辛い………。何故こんなに怒られるんだろうか………。しかも俺だけ………。


「うわぁっ、リアルなうんこみたいですよ! あの雲ぉっ」


「ほんまや。臭そうやなぁ」


ゴリラと恋ちゃんはロピアン達と共に屋上のフェンスの前に横並びに立ち、空を眺めている。


「こら、よそ見すんじゃない!」

「は、はいっ。すいません!」


俺、何してるんだろう………。数分前までは、幼馴染みでもあり後輩でもある娘を叱ってた筈だ。

それが今は同じクラスの生徒に先生みたいな怒られ方してる。


「うむぅ………」


いやぁ、人生何があるか分かりませんなぁ。


「怒られてる時に目を閉じて頷くな! 何に納得してるんだお前は! 人の話を聞け!」

「えっ………いやいや、ちゃんと聞いてますよ。すいません、はい」

「まったくけしからん! お前はけしからん!」


アリスのやつ……。

「母さん!お茶っ!」と後ろの襖に苛立ちを露にそう叫ぶ、頑固親父みたいな口調になってきてやがる。めんどくせえな。更に怒らしたっぽい感じだってのか?


「ん………?」


いや、待てよ? そもそも何故アリスはこんなに怒ってるんだ?

俺はただ、放課後に屋上集合を呼び掛け、ゴリラと向かう途中に恋ちゃんと出会し、なんやかんやで結構待たして、探しに来たアリスから全速力で逃げた。


「………」


ワイルドだな俺……。こりゃ、悪いわ。

言い出しっぺが遅れちゃな……気心知れた相手だったり、そんな仲良くなくても、人によっては大丈夫かもしれないけど、アリスは見るからに気にするタイプっぽいから、完全アウトだ。


「………」


今度からは相手を見極めるか。


「こら、勝男っ!! 聞いとるのか!」

「は、はい! すいまっ―――――かつお?」

「人の話も聞けんとは、まったくっ」

「いやいや、否定はしないけどさ。てか、かつおって―――――」


「なに?」そう問おうとした時だった。


「おいお~い。一発目からサボりけぇ?」


屋上の扉が開く音がして、アリスが扉の方へ顔を向けたので俺も顔を向けると、じろさんが『楽しいみかん』と書いた段ボール箱を両手で抱え、屋上へと出てくるところだった。


「いや、見てわかるだろ。サボってた訳ではない。むしろ今すぐ始めたい所だ」


正座したままじろさんに言葉を返す。


「じゃ、早いとこ始めるんでぇな」


じろさんは俺の居る場所まで歩いてくると、抱えていた段ボールをドスっと俺の前に置いた。


「なんなんそれ?」


俺の背後でゴリラが聞いてくる。

 

「奉仕活動依頼状箱とでも言っとこうかな」

「名前を聞いただけで分かるぐらい、捻りの無い良いネーミングですね」


俺の側に屈み、奉仕活動依頼状箱見てニコニコしながら恋ちゃんは嫌味を言いやがる。


「まったくだな」


アリスは同調し……。


「楽しいみかんってなんだい?」


ロピアンは段ボールの文字に興味津々。


「何が入ってるんですか?マタタビ?」


それは間違いなく無い、寝子。っ

たく、反応がそれぞれで騒がしいやつらだ。


「お前等さ、さっきまで俺を放置してたのに―――」

「いいから、早く開けろぃっ」


ええっ、なんなの!? 喋らしてもくれないだとっ……!?


「マジかおいっ……」


驚きとともにじろさんを見る。


「ふぅ~………ああ? なんでぇ。変な顔しやがってぇ。べらんめぇ」

煙草をふかしながらそう言われただけだった。


「百ちゃんが変な顔してるのはいつものことですよ。それよりも、早く開けましょう」

さらりと酷いこといいやがるな、こいつ。


…… まあ、いいや。


「でえいっやぁっ」

豪快に段ボールを開け放ってやる。


「おおっ!!」


中を見るとノートの切れ端や便箋、茶封筒なるものまで段ボールいっぱいに入っていた。


「うわ凄いな。あんな意味分からん演説みたいなんでようここまで……」


「すげえだろぃ? 俺っちも驚いたぜぇなぁ」


何故か自慢げでそう言い上機嫌でじろさんは煙草をふかす。

生徒の前で同等としてやがるなこのおっさんは。


「じゃあ、皆で手分けして―――」

「うわぁ~可愛いっ」


俺が言い終わる前に恋ちゃんは既に段ボールから便箋を一つ掴み出していて、何故かしきりにニオイを嗅いでいた。まあ、嗅いでる意味はわからないが、女の子だな~と思う。


「うわぁ、苺柄ですよぉ~。匂いは何の変哲も無いですけどねぇ。可愛いぃ~」


やっぱ可愛い物が好きなんだな。でもそういう君はもっと可愛いよ。


「うぉっほん!」


恋ちゃんを見つめていると背後でわざとらしい咳が聞こえたので振り返る。


「うぉっほん咳なんかしてどうした? 鬼白アリスよ」

「べ、別にどうもしないっ」


声を掛けてみたらそっぽを向く。

なんだ? 俺に大してツンデレ使ってくるのか、こいつ?


「…………」


あ? ていうか何故、俺にツンデレな態度を取るんだ……?

まさか、本当にあの廊下での一件で恋の炎でも点火してしまった………とか………?



「いいや、いやいやっ」

まさかだよ、まさかっ。そんな単純な思考だったらこの先が思いやられすぎて辛く厳しすぎるっ。

生徒の依頼なんか聞いてられねえだろっ。


「よ、よしっ。皆で手分けして全部読破するぞ!」

とりあえず、アリスの事は考えないよう努め、ダンボールをひっくり返し依頼書群を床にぶちまけた。今日の風は吹いてもそんなに強くないので依頼書が飛ぶこともないだろうし、まあ、飛んでっても儲けだ。


「こうして見ると更に凄いな」

ゴリラが紙の小山を見て感心の声をあげる。確かに紙が山を成すとは相当な量だと思うので、それには頷ける。


「ふむ………」

それにしても……… 。


「茶封筒、渋いな」

いくつかある茶封筒の一つを手に取り、中にある手紙を取り出す。


「よし、第一報読むよ」

皆が頷くのを確認してから、手紙を読み上げていく。




皆さん、こんにちは。

僕はこの、鬼我島学園の一年です

この度手紙を出さしていただいたのは他でもありません。

僕は、2年B組の鬼白アリス先輩が好きです。

大好きです。

貴女の事を考えると夜も眠れず………… 。


「もっ………ぷぷっ。もっぷぷっ………ぷぷっくくっ」

だ、駄目だっ。こみ上げる笑いでこの先が読める気がしないっ………。


「どうしてんお前。『も』なんや?」

必死に堪える俺を不審に思ってかゴリラが問おてくる。


「い、いやぁっ、大丈夫っ。いくぞっ。………もっこっ…………ぷっくくっ…………ーーーーばははははははは!」


遂に爆笑してしまう。


「なんやねんて! どうした!?」

ゴリラは寝転がって腹を抱えて笑う俺から手紙を奪い取ると変わって読み始めた。


「え~~貴女の事を考えると夜も眠れず………ぷくっ…………も、もっこりしてしまいます………」


ゴリラが読み終わると一瞬場が静まり返り、間を置いた後でこの場に居る野郎達は全員笑だし、女性陣は恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「けひゃひゃひゃ。どんだけ正直な坊主なんでぇっ。けひゃひゃ」

「はははは。これこそ、偽り回りくどさその他一切無しのドストレートな野郎の気持ちだっははははは!」


じろさんと床を叩いて爆笑していると、アリスがスクっと立ち上がり……。


「う、嘘だっ! 私を想う男がそんな変態なわけ無い!」

落ちていた素直なラブレターを拾い上げ目を走らせた。


「くくっ……脚色ぅ………い、一切無しだろ?」

真っ赤な顔で真剣に読んでいるアリスに声を掛ける。


「どうですか?」

そう言い、アリスの顔を窺いつつ恋ちゃんも手紙を横から覗き込んだ。



「たいだ…………」

「たいだ?」

「変態だー!!!」


アリスの手によってくしゃくしゃにされた手紙は空高く舞い上がり屋上のフェンスを越え、遥か遠くに飛んでいった。


「おいおいっ。何も投げることねえんじゃねえのけぇ?」

「うるさい! 貴様もぶん投げるぞ!」

一応、担任であるじろさんにもそう言うアリスは、恥ずかしさじゃなく怒りで顔が赤いみたいだ。


「と、とりあえず、皆で手分けしよう」


ナイスだロピアン。この悪くなった空気をいち早く読み取るお前は貴重だ。奉仕活動部の財産だ。




――30分後―― 。




「で、ほんとにほんとに大、大、大大dieぃ………大好きです。ロピアン先輩………と。……はぁ~~…………俺ぁ、お前が嫌いだ」


「ど、どうしてさっ。僕はなにもしてないよ」


ちっ、ったく、甘ちゃん坊やめが。


「あのなぁ。俺やゴリラはお前達ファンクラブのラブレター仕分け係じゃねえんだよ! 馬鹿っ!」

そう、依頼状だと思った紙々は大半がロピアン、アリス、寝子へ向けたラブレターだった。


「そんなこと言われても、僕らにはどうすることも出来ないよ」

「あぁ~駄目だ。お父さんなんとか言ってあげて」

俺は手紙を新聞の様に読んでいるお父さん(ゴリラ)に援護を頼んだ。


「いや、良いんちゃうかな」

「ほら、お父さんも―――――お父さんっ!?」


何故っ!? あんたどうした!?  何故、肯定するんだ!


「いや、そんな顔で見るなよ。俺も貰ったからさ、手紙」


なんだってっ!!?


「おのれー!! 誰じゃっ! 唯か!? 唯なのかバカタレー!!」

「あ、ああ……」

なんか照れるゴリラ。


「このバカタレが!! 恋に現を抜かしてる場合か!! 汗をかけ! 汗水垂らせそれが青春っ!」

「あ、百ちゃん宛だ」

「―――やっほいっ」

恋ちゃんから封筒を奪うとウキウキしながら手紙を取り出し読む。






桃太郎先輩へ。

私は一年A組の由加です。



「百だけどね。まあ、いい、なになに……」


貴方を目にしてからずっとずっと………


「おお! おおっ!」


この展開はーっ!


「いや、待て待て、落ち着けぇ………」


こういう時こそ真底深い呼吸が必要だ。


「すぅ~………ぴゅぃ~……………」

「おい、深呼吸変やぞ」

ゴリラがそんなことを言うが気にしない。さあ俺に幸せを与えてくれ、由加。


「ふしゅぁぁぁ………」

息を吐き出しながら手紙の続きを読む。





貴方を目にしてからから、ずっとずっと、ずぅーーっと。





貴方の事が嫌いです!!!!!!!!!




「わぁぁあああああああああああああああおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!????!!???」

あまりの驚きとショックに意識せず変な遠吠えが出る。




「ぷっ…………くくく」

「クスクス」

「ひそひそ…………」

何故だ………。 何故初めての手紙が、力強く嫌いと書かれないといけないんだ。


「……………」


何故、呆然と立ちつくす脇で友達と思っていた奴等に笑われたりひそひそ話をされなきゃならないんだ。


「あぁ………かみ………神よぉ………」


神様。


俺ぁあんたを


しばく。


「終わりなん?」

神の居場所が分からないので、とりあえず傾いている太陽を睨んでいるとゴリラが半笑いで聞いてくる。


「ああ!? 知らねえよっ!! あるよ!! あるともさっ!!」

腹が立つが、何故嫌われてるのか気になるので乱暴に手紙を顔の近くまで持ってきて続きを読む。




校内放送聞きましたが、鬼白先輩にちゃんと謝れないんですか!?

馬鹿ですか!?  馬 鹿 ですか!?  貴 方 馬 鹿 で す か !?

鬼白先輩に悪戯しないでください。話さないでください。近づかないでください。同じ空気を吸わないでください。消えてください。



以上、乱文失礼しました。



一年A組 由加。




「ぁああああああーーんパーンチィィィィィィ!! ぁぁあああーんキークゥゥゥウゥ!! 」

言いながら手紙をぐっしゃぐしゃにして、煙草に火を着けようとしたじろさんからライターを奪い取り……。


「ヴあいヴあいぎぃぃぃぃぃぃんんんんんん゛ん゛!!!」


火あぶりの刑に処してやる。

燃えればいい、この怒りと共に灰になればいいのだ……。



「そこまでする気持ち分かるわ。流石に腹立つなそれは」

ゴリラが気の毒そうな顔を向けてくる―――が、それも今の俺は腹が立つ。

と、言っても八つ当たりするわけにはいかないので、燃えた紙を足で踏みゴリラに向き直った。


「またさ、またさっ、散々言っといて最後謝ってるのがムカつく! 『私は謝れるのよ』みたいなエゴがさああぁぁああぁぁぁぁあああーっ!!」

込み上げる怒りを全て紙にぶつけるべくダンダンと踏み倒してやる。



「まあぁ~~…………ふぁ~………ぁぁ……最初はぁ、こんなもんけぇ?」

「おい! あんた俺の担任だろ! 欠伸なんかしてないでなんかしてくれ! 俺悪質な手紙貰ったよ!?」

胡座をかいてダルそうに座っているじろさんのどうでもよさそうな態度につい熱くなり、Tシャツの袖を引っ張り必死に訴える。


「や、やめっ、やめろいっ。日頃の行いが悪いんでぇ! 自業自得だバカげぇッ!」


だが、俺の日頃を否定され、自業自得とおまけにバカまで言われてしまった………。


「く、くそっ………」

こうなりゃ致し方無いっ……………。


「ゴリよ! 一年A組に火を放て! その火を天下統一への足掛かりとせん―――うっ!?」

「火計を使うな。バカ」

アリスはそう言いながら手を引っ込める。

「っくぅ………」

なにも首にチョップをくらわさなくてもいいのに………。

意識飛びかけたぜ、まったく。


「あのぉ………結局、ラブレターと不幸の手紙だけなんですか?」

首を左右に振ったり擦ったりしていると、寝子が皆に聞くように言った。

「まぁ………そうなんじゃねえか?」

俺が確認した手紙はロピアン宛のラブレターばかりで、ゴリラも同様にロピアンとアリスのラブレターに自分が一枚だった筈。



で、聞いてるって事は寝子も同じ様にラブレターばかりだったみたいだから……。


「………」

残るはアリスと恋ちゃんか。

「どうだった?」

俺は隣に座っているアリスへ顔を向け―――。


「ん………あれ?」

そういえば、なんで恋ちゃん居るんだろう?奉仕活動部じゃねえのに。


「どうだった?」

一度アリスへ向けた顔を、前に座って空を見上げている恋ちゃんへ移す。


「依頼的な手紙あった?」

「えっ、ああ。いえ、ありませ―――――」


「ちょっと待てーい! 一度顔を向けといて何故、別のオナゴに声を掛けるっ!」

恋ちゃんが話終わる前にアリスがそう言い、何故か胸ぐらまでを捕まれる。


「ちょっ、どうしたアリっちゃん!? てか、オナゴて何時代だ。お前っ」

「アリっちゃんと言うな! 何時代でもいいだろう! それより何故だ貴様! 答えろっ!」

ブンブン揺さぶられ俺の視界は高速で上下にいったりきたり。


「ちょっとは抵抗しろよ、お前」

顔は見えないが呆れた様子でゴリラが言ってるに違いない。


「わわわわ、分かったからららら、言うからららら」

「なんだ………そのワザとらしい喋り方」

「い、いや、揺さぶられてる感を……………。てか、そんなことはどうでもいい! 恋ちゃん!」


「犯人はお前だ!」ぐらいの勢いで恋ちゃんに人差し指をつきだす。

「は、はい」

いきなりで驚く恋ちゃんだが、その顔も可愛いと思う―――って、違う違う。



「君は奉仕活動部でもないのに何故手伝っているんだ! 奉仕活動部に奉仕活動! それがホントのボランティアかぁ~~いっ!?」




“か~いっ?”




“~いっ?”




“いっ………………?”



“いっ…………?”



“い……”




声がでか過ぎて無駄に「か~~い」が屋上に響く。



「…………………」




そして静寂が訪れる。



「…………………」



一人立ち上がり、可愛らしい女子に人差し指を向ける、俺。



無言で視線を向ける部員と担任。



恥ずかしさに反比例して、綺麗にオレンジ色に夕づいていく地面のアスファルトに俺に皆。



網目上の黒い影を落とすフェンス。



今気付いた………。





これは俺。





完全にスベッた……。




「ぁ………ぁぁ………」


ど、どうしようっ………。

引くに引けないこの右手、曲げるに曲げれないいこの脚、逃げるに動かないこの身体。


「ぅ………あぁ………っと………だ、だな………」


ドッと嫌な汗が全身から噴き出す……………。

つうか、誰か何か言え……これじゃ公開処刑だ。

イジメを助ける以前に俺が虐められてる。

今の俺を、どうか助けてくれ……。


「ぅ………ぁ………ぁの………」

ぎゃ、虐待だよぉ………じいじ。



「ぬぁ~、その、なんでぇ。この嬢ちゃん入部したんだわ」

頭を描きながらじろさんがそう言う。


「そう………なの………?」

「はい」

恋ちゃんは微笑みそう返してくる。



「皆は………知ってた………?」

「うん」

頷く皆。


「な、な………ぜ………かな………?」

恋ちゃんに顔を向ける。


「なんか楽しそうだし、イケメン揃いなんですもん」

お決まりのニコニコでそう返された……。



「そ、そうか………。ま、まあっ、それならしょうがないよねぇっ」

つられて俺もニコニコしてしまう。

「百ちゃん以外ですけどね」



くっ…………。




やっぱこいつ嫌いっ!


「手紙チェックしてる時よぉ、おめえトイレ行ったろ? そん時に入部届け書いたんでぇ」

はっは、と笑いながらじろさんが言い、俺以外の皆も笑い出す。


「いやいやいやいやっ」

ちょっ、誰か言えよ皆の衆よ! ていうかっ―――。


「おい、じろよっ! じろよお前、言えよバカタレ!」

「ああ? 何故言わなきゃならねぇんでぇ。知りたきゃ聞けってんでぇ。バカが」

うわ、この人嫌い。なんなの? 本当なんなの? このオヤジなんなの?


「ありえないわっ。なんなのっ!?」

非難をたっぷり込めた目でじろさんを睨むが、じろの野郎は俺の視線を気にもせず煙を吐き出し、欠伸までしやがる。


「それよりどうするんだ? 依頼も無いのに活動しようもないが」

「確かにそうやな~。どうするん? 奉仕活動部代表取締役」

アリスとゴリラ―――いや、奉仕活動部の皆が、じろさんを焦がそうと必死で睨んでいる俺に視線を向けてくる。


くそがっ、重要なこと言わないくせに、なんで決定権だけ委ねんのこいつらまじでおい。死ね。


「さあ、どうするんでぇ? 代表取締役」

じろさんもそう言ってニヤニヤしながら視線を向けてくる。

ほんと腹が立ちやがるが、まじで、どうすんだこれおい。


「あぁっ? それはお前………」

ただ、どうするもこうするも依頼が無けりゃなにも出来ないしな……………。


「きょ、今日は解散!だ 明日っ! 明日ちゃんとしよう! ほ、ほらっ、日も低いし!」

なんやかんや思っても、皆の視線を受けて緊張し出した俺は、咄嗟に山に向かって随分傾きつつある太陽を指差していた。


「おいおい、始めっからそんなんでいいのけぇ?」

そんなじろさんの一言で、皆も不満そうな顔をする。

「い、いいのだ! 俺は代表取締役なのだ! 代表取締役がいいと言ったらいいのだ! 取締役は正しいのだ!」


て言うか、俺に指示を仰ぐのが間違ってるのだ!

奉仕活動部、いや、学園一かもしれない程、めんどくさがりだなのだ! 俺は!


「お前ら全員、ば、馬鹿ボンなのだっ!」

依頼が無いなら無いでいい。自らの足で探すなどめんどくさいし、そこまでする気は無い。もっと言えば、やりたいことしかしたくない我が儘で天の邪鬼なのだ。



なんて、俺が自分の駄目さを理由にいっそ何もやらない方法を考え始めていると、ゴリラが口を開いた。



「無いなら無いでいいんちゃうかな? 絶対とは言われんけど、問題なく平和いうことでさ」

「うむ………。まあ、確かにそうとも考えれるな」

ゴリラの言葉にそれまで黙って傍観していたアリスも同意し、ロピアン、寝子、恋ちゃんの三人も頷いている。


もしかしたら俺だけじゃなく、皆もそんなにやる気は無いのかもしれない。まあ、そらそうだよな。恋ちゃんは凄く個人的な理由で自ら進んで入ったが、他の、俺含め全員は無理矢理部活を立ち上げる為に入部させられたようなもんで、奉仕活動に興味があるわけじゃない。



「うん………」

それに、具体的な活動内容のイメージが出来てないわけで、どうやる気になればいいかも正直分からない………。



でも、そうすると、俺の天の邪鬼が口を開く。



“それで良いいのか?”

“そんなんで、いざ生徒から依頼がきた時に解決出来るのか?”



と。



「はぁ…………」


答えは否だろう。お互いの気持ちも分からず、奉仕活動部の信念の様な物も固まってもいなくてはチームワークもクソもない気がする。


いや、まあ、俺を省いてチームワーク出来てきてる気がしないでもないけどさ……。



「……………」

これは、やはり………めんどくさいが………―――。



「まあ、おめえ等が良いなら俺っちは何も言わねえやな。じゃあ、今日は解散だな?」

「え………?。あ、ああ。解散でいいけど…………」

「あぁ?………んまぁ、俺っちは監視役みてえなもんで、指示をする立場ではねえからな。んじゃ解散でぇ」


じろさんは反応が遅れた俺を変な目で見ていたが、何を問う訳でもなくそう言うと、腰を上げ扉の方へと向かった。


「………」

俺はその背中をなんとなく数秒見送ってから、皆の方へ向き直ると……。

「んじゃ、俺等も帰るか」

そう声を掛け立ち上がった。


「そうやな」

「うむ」

ゴリラ、アリスに続き、他の皆も立ち上がり、屋上の扉へと向かって歩き出す。


「それにしてもぉ………」

恋ちゃんが突然、横並びに歩いている俺達を追い越し、先頭に躍り出ると振り返って、順に皆の顔を見比べるようにして視線を向けていく。


「ほんと、美男美女が集まってますね~」

と目を輝かす。


「そうかい?」

フフっと、親指と人差し指で顎を挟んでみる。


「はい! 百ちゃん以外」

こいつ……ニコニコ言えばなんでも許されると思いやがって。 クソッタレめっ。


「アリス先輩は綺麗で凛としている系です。ロピアン先輩はカッコよくてシャープな英国紳士系です」

「ん? まあ、確かにかなりハイスペックだよな。どんなパソゲーも持ってこい的な」

女王様に御姉様、王子様に御兄様だもんな。


「寝子ちゃんはキュートな癒し系。ゴリさんはゴリゴリの護られたい系です」

「まあ、そうだな。ノートだけど意外にハイスペックでなんたって可愛いいデザインで癒してくれるかもね。ゴリラはデカくてゴツいデスクトップで、見た目通り馬力が凄いよね」


確かにすげえ奴らかもなぁ、ほんまに。


「い、いや………」

「そんな………」

「ことは………」

「ないで………」

4人で一つの言葉とし、デレる4人だ。


「………」

羨ましいもんだわ………。ええ、ほんとに。

「……………」


「ん? 空なんか見上げてどうしたの? 百ちゃん」

「う、うるせえっ。ただ上を向いて歩きたいだけだっ」

分かる………。今なら、分かるぜぇ………。9さん………。


「ちくしょうめっ……」

でも明日もあるもんね。9さん。


「も、百太郎も………い、良いと思う………」

「あ、えぇっ………? 何か言った?」

俺は制服の袖で然り気無く目を拭い、アリスに顔を向けたが……。


「な、なんでもないっ」

と、何故か怒ったようにそう言い、ズンズンと先に進むと屋上扉をくぐり行ってしまった。


「なんだ………? 俺変な事言った?」

ゴリラにそう聞いてみるが


「いや、言ってない」

と、自分でも分かってた返事が返ってくる。


「なんだったんだろうか?」

「さあ?」

「まあいっか」

「ええやろ」

俺とゴリラはそんな言葉を交わしつつロピアン達に続き屋上を後にした。








「やっぱりね、ツンデレやクーデレは世界を救うと思うんだよ」

屋上を後にし5人で昇降口に向かっている時だった。ロピアンがいきなりそんなことを言い出したのは。


「まあな~。嫌よ嫌よも好きの内ってそう言うことなんだろうな~」

「僕はね。やっぱりオタク文化は偉大だと思うんだよ」

「まあな~。ツインテールも捨てがたいぜな~」

そうこう話す内に昇降口に着き、各々の下駄箱に向かったが、棚の向こう側から更にロピアンが話してくる。


「創り出すのもやはり、そういうのを愛しているからこそなんだよね」

「まあな。やっぱり金髪ツインテールいいよな~。ああ~~でも黒髪もやべえな~」

「捨てがたいよね」

「いや、捨てるなんてとんでもねえ。ひっくるめて抱き締めようぜ」

「そうだねっ」


ロピアンとの話が一段落した時、お次はゴリラが話し掛けてきた。


「お前等、凄いな………。話し、全っ然噛み合ってないと思ったら、最後はピッタリ合わさったで」


心底驚いた顔で言ってくるがなんのこっちゃ分からないので、代わりに……。


「まあ、ゴリラもさ。ツンデレ、ツインテール好きだろ」


質問をぶつけてやる。


「はあ? いきなりなん――――好きやで」

ニヤリと笑うゴリラ。スケベな奴だ。


「ふふふ」


不適、いや適した笑いを漏らす俺。


「ふふふふ」

ロピアンも同様に笑い、端から見たら怪しい集まりと化した俺等三人の元へ、恋ちゃんと寝子がトコトコとやって来た。


「ぬふふっ、じゃあ帰るか」

ニヤリと言ってしまう俺。


「オーケー」

同じくニヤリゴリラ。


「イエァ、ザッツライ」

ニヤリロピアン。


「うぅ………短時間でキモいぃ………」

「はいですぅ………」

ニヤニヤな俺達を引き気味で見ている恋ちゃんに寝子、この5人で外へと出る。





「おそーーーい!!」

すぐさま俺達の元へ飛んできたこの言葉。このキリっとしたような、よく響く凛とした声は……。


「待ってたのか、アリス。ありがとな」


少し離れた位置で腕を組み、昇降口を睨むように相対して立っているアリスに声を掛ける。

まるで通せんぼだな。仲間の為、何人たりとも橋を通さんと、橋に背を向け、何千、何万の軍勢に一人で立ち向かう三国志の歴史上最強に近い人物の様だ。

まあ、彼と根本的に違うのが、性別と言葉。


「ふっ………」


おそーーーいってな………。 確かに威圧感はあるけど、それ以上に俺達が来るまでずっとそうして待っていたと思うと、可愛いところもあるんだなってのが先に立ってしまう。


「べ、別に待ってなど、い、いないぞっ!」

そう言って頬を赤くすると更に可愛いと思え、ロピアンでは無いが気持ちは凄いわかる。

こりゃ、救うね。俺個人の世界を。


「じゃあ、まあ、一緒に帰らしてくれよ。皆揃ってさ」

「そこまで言うなら、しょ、しょうがないな、うん」

そこまでも頼んだつもりないが、すんなり皆の輪に入るアリスを見届けた後、いつものように馬鹿話をしながら、帰路につく奉仕活動部初日の夕暮れ時だった。





………と、綺麗に締めくくったが、活動自体、何もしていない初日。

こんなのでいいのか? なんて質問自体馬鹿げてる。良い訳がない。



色々決めて、なんとかしなきゃいけないんだろう。恐らく俺が………。



「はぁ………」



めんどくせえけど、明日からは頑張ってみるかねぇ。




しゃーなしやけどね。ほんま。



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