向かうことすら困難につき・・・

―そして放課後。

今日一日、学年男女関係無く知らない生徒に沢山話し掛けられた。

「……………」

俺以外の奉仕活動部のメンバーについて…………。


「はぁ~…………」

いや、いいんだ。わかってるよ。そんな理由がなかったら俺になんて話しかけないって。


「あぁ………………ほんとにな………………」

アリスとロピアン。この学園の二大スターがどの部活にも属してなかったのに奉仕活動に入るなんてことになってんだもん。


『そらまた、どういう過程で?』なんて、皆気になるのが普通さ。ただ俺に聞かず本人に聞けよってのはものすごく思うがな。


「ふっ………………」

まあ、そう思いつつも答える俺も優しいやつなのかもしれない。ただ、少し驚いたのは何気に寝子も人気があったらしいということだ。というか、あのお披露目で目にして人気が出たのかもしれない。三年の女子が質問に答える俺を無視して可愛いだのなんだのキャーキャー言っていたので……。


「他所でやれ」

そう言ってその場を去ったが背後ではずっとキャーキャーやっていた。そしてまた、別の三年に寝子の事を聞かれ答えたらキャーキャー無視。


「っ……………」

二回目なので物凄くイラッとした。だから………。


「だよねだよねっ。そうだよね!ねぇ!キャーー!!」


一緒にキャーキャーしたら……。


「ぶふぅっ………………」


何故か叩かれた。


「………………」

叩かれた頬に触ると、まだ少しジンジンしているのがわかる………………。


「………………」


この一件があり、俺は寝子の事少し嫌いになってしまった。やはりこの世は顔か………………と。


「いや………………」

性格も良いのかあの三人は………………。

まあ、アリスはキツめで少しクセがあるあるけど………………。でも、根は悪くない訳でさ………………。


「ん………………? いや、待てよ………………?」

こんな事を考えてる俺は自他共に認めるまるでダメ男みたいじゃないか。


「えぇっ……………」

そ、そんな筈はっ………………え? まじで? そうなの?


「な、なあ、ゴリラ」

確かめるべく、隣を歩くゴリラに声を掛ける。


「あ? なに?」

「俺ってさ………………」


こんなことを急に聞くのもなんだが、これは、わりと行動を共にしていたゴリラにしか聞けないことだとも思う。だから、躊躇うことなく聞く。


「俺ってどんな奴?」

「変な奴」


はい。即答で“変な奴”頂きました。だがまあ、その件は後でぶん殴ることにして、今は詳しく聞くことにする。


「どう変な奴?」

「意味分からない事を言っては人を困らせ快楽を得る。変人変態ですかね~」


なんだよ、ゴリラ。凄い俺のこと見てた…………。


「いや、まあ、否定はしない。でも、皆よりエンターテイナー精神が強い、ただそれだけさ。それに変態じゃなく変人だ」


だが、この線引きは譲れねえんだ。間違いは正さねえと。


「それいつも言ってますよね。その発言がもう変態ですよ」

「あぁっ? いや、それは違――――――」

「お前、誰と話してるん?」


なにっ…………。ゴリラに反論しようとしたらゴリラに話し掛けられた……だと………?


「いや、ちょっと待てよっ。お、おかしいだろっ」


ゴリラが学園に二人とかありえねえってそんなの。


「何奴っ!!」


勢いよく振り返ると女子生徒が一人、ニコニコと微笑みながら立っていた。


「お、御主は……………」

「ほんっと変わらないですよね。百ちゃん」

「百ちゃん?」


ゴリラが引き気味で「なんだ、お前」と言いたげな視線を向けてくる。


「いや、ちょっ、恋ちゃん。学校ではモモちゃんとか――――」


「恋ちゃん?」


ゴリラが「どんな関係だコイツ等」と興味津々で俺と女子生徒を見ている。


「ち、違うぞ! お前が思ってる事では断じてないぞ!」

「思ってるって何が? 別に俺、なんも思てないで」


と言いつつニヤニヤするゴリラ。ああー殺したい!


「だからーっ! そのニヤニヤをやめ――――――」


「ほんとに何もありませんよ。ただ家が隣で、ただ小さい頃から仲良くて、ただ結婚を明日に控えてる。ただそれだけの仲です」


「そうだ! ただそれだけの――――なんですってっ!?」


同意しかけたが、明らかにおかしい単語が入っていたのに気付き女子生徒へ顔を向けた。


「ま、マジか………………。それはお前………………はやないか………………?」


ゴリラは口に手を当て目を見見開く。


「あれぇぇ? お友達は分かるんですけどぉ~。百ちゃんレベル落ちました? 冗談ですよ、冗談」


少しムッとしたようにそんなことを言う女子生徒だが…………。いや、まじで勘弁してほしい。俺はこう見えて純真無垢なんだ、ちくしょうっ。


「あのな恋ちゃん。こんな所でそんな事を言っちゃ駄目だ。例え冗談でもそっち系の冗談はある意味テロみたいなもんなんだ。駄目だろう?テロは。恋ちゃんもテロ行為されたらやだろう?」


子供に言って聞かす様に優しく言ってやる。まあ、なに?これが一歳とは言え、歳上である者の態度ってもんですわ。やはり今のギャルはちゃんとした道を進む為に叱る男が必要なんやでぇ。


「うわぁ~カッコいい~。人には散々色んな事を言うくせに、どや顔で説教してますよ~。この変人カッコいぃ~」


くっ、こいつっ。


「いいか良く聞け恋ちゃん! テロはアフガ――――――」

「てか、ほんまはなんなん? 幼馴染み?」


おぉ…………。そういやまた脱線してしまってたな。


「ああ、ただの幼馴染みで。ただの一年生。五月恋(さつき……れん)だ」


また要らないことを言わせないよう、ゴリラにさっさと紹介する。


「んっ………………」


そんな俺の姿を恋ちゃんは何か言いたげにムッとしながら見ていたが、ゴリラも自己紹介し出したので、結局何も言えず慌てて頭を下げていた。つうかムッとした意味がわからねえな………………。







一方屋上では………………。


トントントントン………………。


先ほどからずっと床を一定のリズムで叩く音だけがする。


「んー………………」

「………………………………」

「………………………………」


トントントントン………………。指先で軽く床を叩いて出している音。


「んんー………………」

「………………………………」

「………………………………」


普段は運動場からは運動部の掛け声やボールを蹴る音や打つ音、そして地面を蹴り走る音。校舎からは楽器を奏でる音や発声練習等の音等、様々な音が聞こえてくるものであり、静かとは程遠いが、なんだか心地よくて落ち着く音だと僕は思う。


「はぁ………………………………」

だが今は、僕を落ち着かせてくれる音がしない。 いや、正確にはいつもと変わらない音がしてる筈。


「………………………………」


だが、その音が耳に入らない。殆んど無音なんだ。聞こえるのは微かな唸り声と、トントンと一定のリズムを刻んでいる、屋上の床と指が奏でる音。普段なら聞こえないであろう音が、耳元で鳴ってるんじゃないかってぐらいはっきりと聞こえる。


トントントントン………………。


狂うことなく一定だ。


「ちっ…………」

「っ………」

「ひっ…………」


それに全面がコンクリートの狭くて冷たくて硬くて寂しい。そんな部屋に獰猛な大蛇と一緒に放り込まれた様な背筋も凍る感覚が付きまとう。


「っ……………」


指をほんの少し、ちょびっと………………。微と呼ばれるぐらい動かしただけで、状況を読み込めないまま視界がブラックアウトしてしまいそうな物凄い危機感。


「うぅっ………………」


この世で恐ろしいもの沢山あると思う。


でも僕は思うんだ 中でも人間が一番恐ろしいって。


恐ろしい事をするのも人間。恐ろしい物を生み出すのも人間。


幽霊…………、それも元は人間。


そして人間の中でも一番恐ろしいのが……………。


「はぁ~………」


不機嫌な女性だ。今僕は心からそう思うよ。


「………………………………」


一体、何してるんだよ、百太郎くん………………。


「ああーーーーっ!!!」

「うわあああああーーっ」

「ええっ…………………………」


アリスさんが叫び声と共に立ち上がり、それに驚いた寝子君が僕に抱き着いてくる。因みに僕は、この短時間でアリスさんと呼ぶことに決めた。


「遅いっ!! 何してるんだアイツは!!」

「ほ、ほんとだね。何してるんだろう………………。ほんとに……………」


一刻を争うよ百太郎くん。


「もう待ってられんっ! こちらから出向いてやるわ!!」

「えっ、えっ、その―――――」


僕が喋り終わる前に、アリスさんは校内へと入っていってしまった。


「あ………………あああ………………」


ごめんよ、百太郎くん。


なんだか信長みたいなアリスさんを僕が不甲斐ないせいでそちらに放ってしまったよ………………。


ほんとにごめん…………。








「百ーーっ! 百はどこじゃー!! 誰かあるっ!!」

そんなことを言いながら私は階段を駆け下りる。


「猿っ! 猿はおらんのかぁ!!」

何故こんなに腹が立ってるのか、何故こんな言葉を発しているのか分からない。


「圧切をもたんか!!」


が、そんなことはどうでもいい! 百太郎を見つける! それしか頭に無い。

「うおっおまっ、危っ」

階段を下り角を曲がった時、誰かとぶつかりそうになったが気にせず走った。


「お、おいっ鬼白! 廊下走んじゃねぞ! それに何時代だおめぇ!」

背後で誰かがそう言う。恐らく話し方からして担任だろう。確かに廊下を走るのはほんとに危ない行為だと思う。


けど、今はそれどころじゃない。




視界にアイツが映ってるから!!








「だからーっ! た! だ! の! 幼馴染みだろ」

「そんな強調しなくていいじゃないですか! いい加減、放り投げますよっ!」

「いやいやいやいや。何も放り投げなくていいだろう。それ俺可哀想だよ」

「じゃあ分かりました。放り投げてちゃんと拾います」

「よっしゃ! じゃあそれで手を打とう」

「がってんだっ!」


俺と恋ちゃんは外国人の様に握手をしたままハグをし、長かった幼馴染み戦争に終止符を打った。


「はぁ~……………なんやねん、お前え――――えっ!? うわっ! うわうわうわぁっ!」

「お前がなんだ。昔の格ゲーか?」

「ち、違っ―――てか後ろ! 後ろっ!」

ゴリラが珍しく取り乱しているので背後を振り返る。


「きゃぁあああああああ」

口を開けたら意図せず出る高い悲鳴。


それもそのはずだ………………般若が………………。

は、般若がっ………………。



般若が猛スピードで向かってきてるぅーーっ!!!


「打ち首じゃーーっ!!」

なんか恐ろしいことも叫んでるっ!!


「や、ヤバいっ! ゴリラに恋ちゃん! 分かってるなっ!? フォーメーションBだっ!」

「お、おう!」

「は、はいっ!」


僕達、私達は共に校内を吹き抜ける風になった。

どこまでも吹き抜けるつもりで風になった。

僕達ならいける。


そう思ったんだ。


この時はこれでいいと思ったんだ。


ほんとに本気で思ったんだ。



だから僕らはやったよ。




見事に…………。






捕まった………………。

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