華麗なるお披露目

―体育館内―


「え~やはりハゲマール社の育毛剤は私にはあっている訳でして。中でもハゲマクリと言う育毛剤が―――――」

「ふぁ~~ぁぁ………」


ちょー眠い……………。教頭さっきから同じ話ばかりだ。


「………でして、やはりハゲマクリは――――」

ああ~もうっ! お前がハゲマクリなのは分かったから少しは俺達の事考えてくれ! 趣味で壇上の袖に立ってるんじゃねえぞ! くそっ!!


「長いな……………」

上靴を手に持って教頭をロックオンしたまさにその時、隣で両肩を下げ天井を見上げているゴリラがそう呟いた。


「ほんとにな…………」

上靴を下に落として足を突っ込みながら背後を振り返ってみると、ロピアン、寝子、アリスの三人も同様に両肩を下げ、ダランと頭を下げたり傾けたりしてうんざりした様子で立っていた。


「これやったら、遅刻した方が良かったねぇ~……っと」

真面目に立ってるのも馬鹿らしくなり、壇上袖の床に胡座をかいて座り壁に凭れる。


「ああ~………最高だ」

座るのがこんなに楽とは知らなかったよ。


「確かにそれは俺も思うわ」

ゴリラも隣に腰を下ろし、俺とゴリラが座っているのを見た、ロピアン、寝子、アリスの三人も床に腰を下ろした。


「やはり世界平和イコール私の頭であり――――」

なにやら、一層熱くなっている教頭は自分のハゲ事情と世界平和を物凄く強引に結び付けてるようだ。


「どう広がればそんな話になるやら………」

そんなあんたの頭ん中が世界平和だ。もういっそ爆裂にハゲちまえ。


「んんんんんんんっ…………」

「なあ、おい」

「えっ…………ああ、なに?」

身振り手振りで熱く語っている教頭の頭を忌々しく睨んでいると、アリスが声を掛けてきた。


「壇上に出た後何をすればいいんだ?」

「ん?………おおっ、確かに」


何するんだ……? いや、まあ、話をするんだろうけど………………何を話すんだ?

てか、誰が話すんだ?  袖で待機以外、何も聞いてねえよ。


「分からんけどとりあえず、ラインダンスでもするか?」

「す、するかっそんなことっ」

だよな。じゃあ………。


「とりあえず、ゴリラ。お前“えいどりあん”と叫べ」

「あほか。嫌じゃ。誰が叫ぶか」


う~~~~む。これも断りよるか…………。


「では………………」

どうしよう…………。じろさんに聞くにしても何処に居るやら分からん。てか探そうにもこう問題が発生した時に限って教頭の話が終わりそうな訳で………………。


「では、私の話はこれぐらいにしまして……………」

やべっ、ちょっ。


「もう少し延ばして」

と、教頭に合図を送ってみるが……


「???…………では、新しく出来た部活動の紹介を……………………」


「What?」と言いたげな顔をしつつも呼び出すのを止めようとはしない。本当、ただのハゲマクリだ……………。


「奉仕活動部の皆さんです。どうぞー!」


合図を無視してテレビ番組のゲストの様に呼び出しやがった……………。

使えないハゲだ、まったくっ。


「おい、早く出ろ」

呆然と立ち尽くす俺の背後でアリスが言う。


「っつぁあ………………くそっ………………」

こうなりゃやるしかないかっ。何をかはわからねえが、やるしかねえっ。


「ちっ…………」

教頭をまっすぐ睨んだまま壇上中央へと踏み出していく。後は皆付いて来ないとかコント的な事をしないことを願うだけだ。


「………………」

そして、歩くこと10歩未満くらいの旅を終え、壇上の中央へとたどり着く。


「どうぞどうぞ」

教頭はすぐさま俺にマイクを渡して場所を明け渡した。


「えっ…………?」

いやいや俺にマイク渡されてもさ…………。


「どうすんだよ、これ」

俺はマイクを手に持ったまま、ちゃんと付いてきていた奉仕活動部の面々に助けを求めてみるが……。


「気合いやで」

ゴリラは親指を立て。


「百太郎君なら大丈夫」

ロピアンは優しく微笑み。


「ゲリラ放送何回もしてるんだろ。大丈夫だ」

アリスは腕を組んで傍観を決め込む。


「ファ~………………イトです………………」

寝子はねんねの時間らしい。


「………………」

チームワークが今から不安だ…………。助け合いもクソもない………。


「いや、違うか………」

俺を除いた4人でチームワークが成立してるんだ、多分………………。


「はぁ……………」

もう嫌いだコイツ等…………………。


「ふっ…………………」

でも分かった…………。やってやろうじゃないか。


「ふふふっ…………ふふふふふ」

喋る前から笑みがこぼれてくるぜ。


「お、おい。変なこと言うなよお前」

ゴリラがそんな事を言ったが無視し、視線を向けてきている全校生徒の方へ素早く向き直りマイクのスイッチを入れる。


『ハローエブリワァン…………ヌッ』

静まり返る体育館内。


「あかんわ…………。英語言い出したらもう、あかんやつや…………」

ゴリラのため息だけが響く。


『え~~お呼び預かりました。奉仕活動部代表取締役2年B組、忍者五郎こと百太郎でございます』


ざわめき出す体育館内。


「ああ? なんやねんそれ」

ざわめくゴリラ。


『荒廃しきったこの学園を立て直すべく立ち上がって参りました。以後お見知りおきを……』

困惑する全校生徒。


「荒廃しきったて………。平和そのものやろ、お前がなんかせんかったら」

冷静な指摘ゴリラ。


『この場所に立つまで道のりは険しく………そして長かった………』

聞く姿勢に入り耳を傾ける全校生徒。


「何が険しくて長いねん」

うるさいゴリラ。


『紙に名前を書き…………名前を紙に書き……………書いた名前を紙に……』


「三回も言うな。書いた名前を紙にってなんやねん」

ほんとうるさいゴリラ。


『だが、私は負けなかった。誓ったんだあの空に! 君と見たあの空に………今は亡き、君がいる、空に……』

すすり泣く生徒がちらほら体育館内。


「うっうっ………」

「ううっ……ズズッ」

泣いている寝子とアリス。


「いつ誰が死んで、ってか、なんでやっ。なんで泣いてるんやお前等!」

黙れゴリラ。


『あの時君は言ったね。今日の朝御飯はカップラーメン………最後の力を使って……さ……』

泣き崩れる男子、背を向けて男泣きする女子、体育館。


「ううっ………わああーん」

「うああああん」

抱き着いてくるアリスと寝子。両脇で支える俺。


「意味わからんて。きもいぞっ」

虫歯になれゴリラ。


『だから何かあれば……………何かあれば言ってください! 言うのが恥ずかしいなら屋上の出入口前に箱置いてますんで投書してください! 貴方の一票が世界を救いハゲマクリです!! 以上、ほぉ~しかつどうぶでした~』


マイクのスイッチを切るとスタンディングオベーションが起こり、ピュイーやらピィーやらの指笛とパチパチと手と手を打ち鳴らす音に包まれながら、俺はアリスと寝子を支えつつ壇上降りると体育館を後する………。



敵意を込めて睨んでいる一人の女子生徒が居たことを知らずに………。


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