放課後クソ野郎

そして放課後。

たどり着くのが長かった……。


だが、時が来てしまったら来てしまったで嫌なもんだ、だるい。

奴等の前では軽く言ってたが、やはり怒られると分かっていて職員室に向かうというのは凄く嫌なもんだ。


いや、と言うかだな、そもそも職員室に行くって行為事態が凄く嫌なもので、たかがプリント一枚取りに職員室に行くだけでも俺には多大な覚悟を要する。しかも、入ったら入ったで職員室内では何故か怯えてしまう。


罪を犯した訳じゃないのにパトカーを見るとドキッとして、過ぎ去るまで蛇に睨まれた蛙のようになってしまうのと同じ様な感覚であり、無罪なのに自首する、単騎で敵地に乗り込む、そんな感覚に苛まれ職員室へ行くのに物凄く時間が掛かってしまう訳で………。

普段からそれなのに説教を聞きに行くなんて、いやんもうっ、職員室へ辿り着くのは一週間後になるんじゃないかしら?




「あ、あの、百太郎くん」



自分の席に座り職員室に対する熱い思いに胸をたぎらせていると、意外な人物が声を掛けてきた。


「ちゃんと本返した?」


そう、田中君だ。 下の名前は知らない、てかそもそも田中かすら危うい。まあ図書委員だかなんだかだった気がする。


「多分、まだ返してないよ」

借りたかすら覚えていないね。こりゃ参った。


「無くしたら弁償だよ?」

弁償………。嫌な響きだ。


「ああ、多分家にあると思うからさ、明日持ってくるよ。なんたって今日は教科書すら持って来てないからね」

「そうなの? まあ分かったよ。明日、絶対に忘れないでね」

そう言って田中君は去ろうとしたが、俺は引き止めた。


「なんだい?」

田中君は立ち止まり振り向く。

「大した事じゃないんだけど………いや、大した事なのかな? その、あのさ………」

「うん?」

言いづらそうにしている俺を田中君は不思議そうに見てくる。

何を戸惑ってるんだ俺は…………。


これじゃ田中君に告白しようとしてるみたいでかなりキモいぞ。さっさと言え! 言うんだ百っ!


「君は田中君………だよね?」

よし言った。任務完了。 田中だと確信はあるが、不安が少しでもあれば聞くべきだ。

まあ、正直、彼が田中であろうが佐藤であろうがどうでもいい。


これは「どうだったかな~?」と、自分がモヤモヤに苛まれないようにという自分勝手な考えからであり、答えを知ることで自己が満足出来ればそれで良いのだ。



「うん、田中だよ。佐藤田中」

「えっ……」


彼は今なんて……。


「ごめん、もう一回言ってくれない?」

名前を二回言わすという無礼を働いた俺に、嫌な顔せず田中君はもう一度名乗った。


「佐藤田中だよ」

んん………親御さんの意図が分からねえ…………。

田中の様になって欲しいから田中にしたのか?

てか、田中と言っても抽選的過ぎるだろ! どの田中だよ!彼はどの田中なんだっ!!


「じゃあ、僕は図書室行かないといけないから」

俺が考えていると、佐藤田中君は手を振り爽やかに去っていった。

今聞いても直ぐ忘れると思ったけど彼は絶対忘れない。

俺の記憶に深く深く刻み込まれた………。


佐藤田中………二大スター的に多い名字を二つ持った君よ、永遠に…………。


「何に手を合わしてるんだ?」

「えっ………?」

目を開けると、目の前にこれまた意外な人物が居た。


「鬼白田中だ」

「誰が田中だっ! 私はアリスだっ!」


はぁ、すぐビッグヴォイス返しだよこの子。


「ビッグヴォイアリス」

「変なあだ名を付けるなっ!」

「そうビッグボイスだからあだ名付けられるんだよ!」


負けずと言い返して睨むとアリスも応戦してきた。

てか、こやつ凄い良い香りがする。



って、おおうっ、いかんいかんっ。いつも脱線して真剣になれぬ。

ちゃんとしなきゃ、いっそおもいきってどついてみようか?


「お前等、実は仲良いんちゃう?」

手刀を作りかけた時ゴリラが声を掛けてきた。

確かに喧嘩するほど仲が良いと言うし……。


「もしかしたら――――」

「失礼な。そんなことは絶対に無い」

「っそ、そうだ。そ、それは無い」

あ、あぶねえっ。一人祭りをするところだった。ひぇ~危ない危ない。


「そうか? でも、百太郎さっきもしかしたらとか――――――」

「や、やめなっ!もしかしたらとか言ってなど無い!私」

こいつ要らんことは聞いてやがるっ。


「いや言ったやろ。しかも動揺して言葉おかしなってるし」

「む、ムーンソルト!」

他に要らないことを言わせないよう、ゴリラにヒップアタックをお見舞いした。

「うわっ、ちょっ」

不意打ちだったので尻餅をつくゴリラ。

「つ、月に代わってお尻だよっ! 全員集合!!」

即席決めポーズを取る俺。


「……何してるんだい?」

「む、ムーンソルト……?」

いつの間にか教室に入って来ていたロピアンと寝子が、尻を擦っているゴリラと、ポーズを取る俺を変な目で見ている。


「な、なんでもない。そんな『またかお前』みたいな目で見るな! これは正当な攻撃だ!」


ロピアンと寝子に正当性を訴える俺。


「何が正当な攻撃やねん! 俺何もしてないぞ」 正当性は無かったと俺に主張するゴリラ。

それをいつもの事と無視しロピアンはアリスに顔を向けた。


「今日はごめんね。百太郎君は変な奴だけど悪い奴じゃ無いんだよ」

「おいっお前何をっ―――」

「貴様が謝る事じゃない。それに、授業中に消しゴムのカスを投げてきて謝るどころか私が不快に思う事を言ってきた。変で嫌な奴と私は思うが」


アリスはそう言うとまた俺を睨んできた。


「いや、あやまっ――――」

「確かにそれだけ聞くと変で嫌な奴だけど…………。ほんとに悪い奴では無いんだよ………」


ただ、とロピアンは続けるが、どうやら俺の話題なのに俺自身は入れないようなのでとりあえず席に座ろう。


「変人なんだよ」

ロピアンは凄く真面目にアリスに言う。

「答えになってないぞ」


『なに言ってるんだお前』と、言うような顔をロピアンに向けるアリス。


「ん~~ふ~~」

「いや~、僕もなんて説明したらいいか分からないけど。余計な事や意味不明な事を言ったりしたりするけど馴れたら楽しい奴なんだよ。意外に友達思いだしね」

「そうなのか? 今日の放送にしても、貴様達は奴に振り回されてるだけに思えたが………。友達思いの奴がそんな事するか?」

「ま、まあそれは………」


おお、ロピアン早くも論破か?


「はぁ~ぁ~~ふんふぅふ~~」

「それに………」

アリスは急に俺に視線を移した。

自分の話をされてるのにコイツは座って音楽聴いてるんだぞっ!」

「うおっ! グンってっ! グンって嫌な感じした!」

アリスにイヤホンを引っ張られ、耳に痛みではないなんとも言えない不快な感覚が走り、思わず耳の穴に指を入れた。


「見損なったよ………百太郎」

ロピアンが悲しみを込めた目で見てくる、が、何を言ったか分からない。 口の動きで多分そう言った気がした。


「なんも聞こえないんだよ。見損なったって言った?」

「耳塞いでたら、そら聞こえへんわっ」

ゴリラが無理矢理、俺の両手を掴み耳から剥がす。


「おっ?…………おおっ」

さよなら無音の世界。こんにちは騒音の世界。

「あ、あのぉ…………そろそろ行った方が」

生まれたての心境で辺りを見回していたところ、寝子のおどおどした声をが聞こえてきた。


「そうだな。じろさん、そろそろぶちギレて来るしな」

と、席から立ち上がり言った途端…………。


「こらぁーーっ!馬鹿野郎共!!!」

廊下にパタパタとスリッパで走る音と怒鳴り声が響き始めた。


「す、凄いな。放送の時もそうだが何故分かるんだ?」

アリスが驚いた顔を向けるので俺は少しかっこつけて言った。


「ニオイってやつでね」

「に、ニオ―――――」

と、アリスが聞き返そうとしたところ教室の戸が勢いよく開かれる。

「百太郎てめえっ!!」

「な、なんで俺だけっ」

じろさんって俺しか見えてないっ!?


「うるせえっ! てめえら早く来やがれ! 殺すぞぃ!」

「わ、分かった! ほら行こう」

これ以上ぐずぐずすると鉄拳が飛んできそうなので、皆を促しじろさんの元へ歩き出した。


「ん? ちょっと待てぃ。1………2………3………」

じろさんは何やら俺達の人数を数え出す。

「4……………………5。おおっ、丁度良いじゃねえか。鬼白おめえも来い」

何が丁度良いのか、アリスも来るように言うじろさん。

「ちょ、ちょっと待て!私は何もしてない!」

当たり前の反応を見せる、アリス。


そらそうだ、ゲリラ放送はアリスに向けてだとは言え実行したのは俺等四人。

どっちかと言えば被害者であり、怒られる理由は無い。


「ああ? おめえ、コレと仲良いんじゃねえのけぇ?」

おおっ。俺はじろさんの中でてめえからコレに降格したのか。


「断じて仲良くない! 私からしたら害虫以外の何者でも無いわ!」


おおぉぉ、アリスの中でも人じゃ無くなってしまった………。まあいいか、害虫でコレな奴ってのも悪くない。


「まあ、この際仲良い悪いは関係ねぇ。とりあえず鬼白、おめえも来い」

そう言うとじろさんは廊下へと出て行く。


「ちょっ、おいっ!勝手に―――――」

アリスも後を追うように廊下へと出てじろさんの背に向に向かって何かを言おうとしたが、それを俺は肩を掴んで止める。



「説教って訳じゃ無さそうだし、とりあえず来てみれば?」

ああいう時のじろさんは何を言っても聞かないことは、俺は嫌というほど知っているからだ。


「だからっ、なんで私が―――――」

アリスは手を振り払い、お次は俺に訴えようとするが……。

「いや、俺もわからんよ。でももう何言っても聞きゃしないよ、じろさんは」

そろそろ廊下の角に消えるであろうじろさんをアリスに分かるよう指差して教える。

「なっ、ちょっと待てっ!!」

アリスは大きな声で呼び止めたが、案の定じろさんはそのまま角に消え、後に続いていたゴリラ達も角に消え、廊下には俺とアリスだけが残った。

と言っても俺ものんびりはしてられない。正直、奴等にあっさり置いてかれて焦っている。


「くそっ、無視しよってっ…………」

アリスは悔しそうに拳を握りしめる。

「まあ、理不尽だしバックレても良いとは思うけどさ~。何故呼ばれたか気になるなら、一緒来ても良いんじゃない?」


能天気に言ったつもりだか、正直、早く決めてくれこのアマ、とか思ってたりする。


「くっ……………」

悩んでるのか、悔しがってるのか、アリスは拳を握りしめたまま目を閉じ歯をくいしばり唸っている。

その姿を少し可愛いと思う俺はやっぱり変人なんだな~と再認識してしまう。


てか、そんなことはいい それよりも………。


「てか、早くしろよ、この――――」

「分かった…………行ってやる」


俺が口を開いたと同時にアリスが言った。


「お、おう…………じゃあ行こう」

俺は直ぐ様歩き出した。いやぁ、危ない危ない。思ってた事が口を突いて出るとはこの事か。

また一悶着起こすところだった。と、安堵しながら歩いてたのもつかの間……。


「貴様、さっきなんか言いかけなかったか?」


横に並びながら聞いてきちゃったよ、この人。


「いや、言ってない。何も……………………」

「早くしろとかなんとか……………………」


言ってないと言っただろうが! 頼むよおいっ!


「言ってないよ」

「いや、間違いなく言っただろ。早くしろ………この………この野郎?」

ち、近い線いってるな、このアリスめっ。


「そんなこと言うわけ無い」

「嘘つくな。貴様なら言いかねん。殴るぞ?」


くそっ、粘着質だな。

これだと永遠に聞かれそうだ。ったく、しょうがねえな。正直に言ってやる。


「『早くしろ、このプリティーガールな愛しの人』と、言おうとしたんだ」


うん。…………我ながら何を言ってるんだろう。


「なっ………ぷ、プリティーガールな愛しの人っ。う、嘘をつくなっ」


っつたりめえだろ! 嘘に決まってるのに何故そこで頬を朱に染めるっ! しかも返しが弱いっ!


「ごめん、嘘だ」

「なっ、嘘だとっ………?」

今度は真面目に言うしかない………。


「ああ。ほんとは『早くしろ、この綺麗な奴め。早くしないと、お前を一生涯守る!』だった」


いやぁ、なんだろうな。………俺って言うお前はマジで何を言ってるんだ。


「い、一生涯守るっ……………………?!」

お、おいっ。アリスと言うお前も頬を染めるなって。


「ご、ごめん、違った。『早くしろ、このアリス。君は女王様とか言われてキツいイメージを持たれてるが、実は誰よりも女の子らしい可愛い娘だってこと俺は知ってるよ』だった」


だ、駄目だっ!!



ゴリラみたいにツッコミで止める奴が居ないと俺は………。


俺は………。


アイム……エクスプレスッ!!!!


「そ、そんなこと………う、嬉しくなくもない……」

「へ………………?」


嬉しく………なくも………ない?


「あ、ああ、いや、そうだろう、そうだろう、うんうん。………………マジで言ってますか?」


これはノリでは済まなさそうなにおいがプンプンしてきやがるな……。

つうか、どんだけ純粋なんだよ……。と、思ったが……。


「う、うむ………」

と、真っ赤な顔でコクンと頷くアリスへ今更嘘だと言えない。


「お、俺も、な、なんか嬉しいよ…………」


なんか返していた。


うわ~もう、ごめーん!

こんな俺でごめーーーん!!


と心で謝りながら…………。

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