ゲリラ後クソ野郎達

ゲリラ校内放送でアリスに謝った後、単体で突入してきたじろさんに放送室から引き摺り出された我らレジスタンス“不揃いの元気たち”は、その後の授業は真面目に―――まあ、聞いてはいないけど―――大人しく受け、昼休み、屋上でランチタイムと洒落込んでいた。


   カサカサッ……。


             カサカサカサカサ……。


     カサカサカサカサ――――。


「だあああああ! うるさいっ! なんだ、カサカサカサカサって! ゴキブリかてめえ!」

「いやっ、そんなこと言われても開かへんねんて」

ゴリラは袋に入った菓子パンを掲げて見せ、ふうーっとため息を吐く。


「調子に乗って菓子パンなんかに手を出すからだろ。いつもの様にバナナを食べろ、バナナを」

「いや、いつもバナナばかり食べてないし。てか、バナナ馬鹿にすんなっ! モリモリやねねんぞ元気が!!」


ゴリラはそう言い放つと、再び菓子パンとの戦闘に身を置いた。


「そう言えばあの後どうだったの?」

ゴリラと菓子パンの一進一退の攻防戦に目を向けていると、ロピアンがおにぎりを片手に話し掛けてきた。

「どう言ってあの後が出てきたんだ? てかあの後ってなに?」

「いや、質問で返さないでよ。アリスちゃんどうだったの?」

「ああ、それか~……………」

そういや、教室戻った後何も言ってこなかったな……。


まあ、その代わり歌舞伎顔負けの“にらみ”は受けた訳で、これで俺も一年間……………。

「無病息災だと思うよ」

「えっ、無病息災? なに? どういう事?」

「いや~……」

教室に戻った後の事をロピアンに話した。

「…………それ怒ってるよね」 話を聞き終わった後、苦笑いでロピアンはそう言う。

「うん。まあ…………」

俺もそこまで馬鹿じゃないわけで、ロピアンの言う通りだと思う。

最後に言った一言、多分、それがいけなかったな。

謝りだけで終わりゃいいのをノリに任せて言ってしまった。

でも、アレだけで怒るのは駄目だ。彼女はもっと冗談への免疫をつけるべきだと思う。そうじゃないと俺とは絡めな――。


「いや、もう絡むことも無いか」

「ええっ! 謝らないのかい?」

独り言のつもりで言った言葉をしっかり聞いていたロピアンが驚いた様子で聞いてくる。

「いや、彼女ももう絡みたくないでしょう。それに………」


大して気にはしなかったが、ゲリラ放送以来、クラス学年関係無く野郎達の視線が痛い。

「なあ、寝子」

言葉を待っているロピアンを置いといて、空を見上げながら器用にコーヒー牛乳を飲んでいる寝子に声を掛ける。

「は、はい!」

寝子は急に声をかけられた為心底驚いたようだが、コーヒー牛乳を零さずキャッチする手の速さはやはり猫だった。


「一年でもアリスって人気あるの?」

「えっ、アリス……………? 鬼白アリスさんですか?」

俺は頷いて話の続きを待つ。

「僕はあまり知らないですが。二年B組の鬼白アリスさんは入学当初から同学年の人気を集め、二年に上がった今は二年は勿論、一年、三年にもその人気を広げ、毎日数十枚のラブレターに数回の告白を受けているが未だに彼氏は居ないらしいです」



寝子は一息に語り、再びコーヒー牛乳を飲み出した。

「………何が、あまり知らないだ。めちゃくちゃ詳しいじゃないか。出し惜しみする紫の猫かてめえ」

「えっ………はははっ」

なんか腹立つので、照れ笑いして頭を掻く寝子をヤンキーのように色んな角度から睨んでやる。

「だからなのかい?」

「ああっ?」

次は隣から聞いてきたロピアンを色んな角度から睨む。

「怖じ気づいたのかい?」

「うっ……………。」

ロピアンを下から睨んだまま思わず固まってしまった。

「いやいや、何を言ってるんだロピアン。何故俺が怖じ気づくのさ。バカな~」

はっはっは、と笑って誤魔化す……………い、 いや、誤魔化すって図星みたいじゃないかっ、違う! 断じて違うぞー!!!


「全校生徒。いや、全校男子を敵に回すのが怖いんだね」

「お、おいおい、全校男子ってそんな事があってたまるか! これは喧嘩と友情と汗と血の物語じゃないぞっ!」


バカ野郎め! そんな腕っ節強くねえよ!

「じゃあ、いいじゃないのさ。君はただ謝る。それだけさ。そして…………」

ニヤリと笑うロピアン。


「お前ちょっと性格変わってない? なんかお兄さん的じゃねえよ。ただのエロ男子だ」

「失礼だな。僕は変わってないしエロ男子でもないよ」

「うるさい! お前は梅子(うめこ)とでもよろしくやってろっバカ!」

梅子とはロピアンが入学当初に、何がいいのか五回も告白してやっと付き合えた汗と涙の勲章でもある彼女だ。


「う、梅子は…………もういいんだ」

ロピアンは何故か視線を落とし悲しそうな顔で笑った。

「なんだ? フラれたか?」

「お、おいっ、察しろお前」

やっと戦いに勝ったようで、菓子パンにかぶり付いていたゴリラが隣から言う。

「いや、いいんだ。その通りさ……………」

だが、ロピアンは暗闇へ沈んでいく。

「なんでフラれたん?」

人に言っときながらゴリラてめえも穿り返してるじゃねえかっ………。と、思ったが、そこは俺も気になるので、黙ってロピアンの言葉を待つ。


「他に………好きな人が出来たみだいだよ……」

消え入りそうな声で言うが、まあ、まだ辛うじて顔が見えているので大丈夫だろ、多分。


「最低やなそれっ」

ゴリラが自分の事のように怒りを露にするのはわかる。だが、俺からすれば「だろうね」で済ませてしまえるくらいなものだ。なんせ、梅子にはその節があったんだからな。


元々、明るいタイプではない。て言うか、ロピアンには悪いがはっきり言うと根暗と呼ばれるタイプっだった梅子だ。人気者のロピアンと付き合うに連れて自信をつけ元の根暗から真逆に変貌を遂げた。それは良いことだが彼女は自信をつけすぎた。『誰とでも付き合える』『自分は誰よりも可愛い』と勘違いし始めたのだろう。

ロピアンとゴリラには言わなかったが、他の男子と遊んだだのの噂は何回も耳にしていたし、学校内で他の野郎と仲良く―――ただ仲が良いのではなく彼氏彼女の様な感じで―――歩いているのも見掛けたことがあった。


「ほんとなぁ………」こんなにも落ち込むなら、少しは言ってやってクッションにでもしてもらった方が良かったのかもしれない………が、もう過去だ。



だから…………。


「また、良い娘見つかるって。今度は梅子なんかより数倍良い娘がさ」


と、ロピアンの肩を叩きながら言った。


ありふれたしょうもない言葉で、こういう慰めは正直嫌いだが、ロピアンはアリスと同じ人気者だからホントに良い娘が見つかると思いそう言っていた。



だが………。


「そうだね………」


と、力無く答えるロピアンは暗闇に全身を支配され顔が見えなくなっていた。

こりゃだめだ。確かに実感はねえし、立ち直る時間もまだまだ掛かるもんだし、他人の言葉なんぞ今のロピアンには効かねえ。


「御手上げだぜ」

なんて、ロピアンに背を向け、空へ視線を上げた時。


「彼女か~………」


隣で同じように空を見上げていたゴリラが誰かを想うように口にした。



……まあ、誰かって言うか知ってるんだけど。


「今、唯(ゆい)の事考えてるだろ」

「えっ、いやっ、てか、なんで分かった?」

「いや、分かるだろそれぐらい」


二年D組、無槍 唯

初めは『むそう』なんて、凄い名字だとゴリラからカミングアウトされた時は思ったもんだ 。

と言っても、ゴリラが好きになる娘は何故か変な名字ばかりだし今更なんだがな……。

まあ、小柄で少し幼い顔立ちの明るく元気な女の子って感じの娘だ。


「そ、そうか?」

「ああ。唯と色々したいと顔に沢山書いてある。顔洗え馬鹿野郎」

「いや、ほんまにマジックとかで書いてる訳ちゃうからさ。てか、色々とか言うなヤらしい」

「色々とか聞いて、ヤらしい連想するお前がヤらしいだろ」


まあ確かに、ゴリラが唯一色になるのは分かる。

彼女は誰にでも屈託なく笑顔で接するし性格も申し分ない。


ただ、逆に言うと、そんな娘程距離を詰めるのは難しかったりするわけだ。

『誰にでもだから自分にも』と、ネガティブに考えたりするわけで、最終的に何を考えてるか分からないといった答えに辿り着き、挫折する場合もあると思う。

てか、俺ならそうなるな、多分。


「告白しねえの?」

「いやぁ、まだそんな感じじゃないわ」

彼女みたいなタイプは待ってても好機が来ると思えないんだが…………。

まあ、それを言ってゴリラの背中押すと、何故か俺もって事になりそうで嫌なので


「そうか」

無難に返し、ゴリラとの会話に区切りがついた時だった。


「あのぉ………」

と、見計らっていたかの様に寝子が恐る恐る声を掛けてきた。

「どうした?」

「あ~いや、その、放課後なんですが………」

「うん?」

「僕も職員室行かなきゃ駄目なんですかね?」

「ああぁ…………」

放送室から俺達を引きずり出した後、じろさんは確か『“てめえ等”放課後職員室でぇ!』って言っていた。てめえ“等”の中に寝子も含まれているのかは分からない。元々俺とゴリラとロピアンは放課後に職員室決定だった訳だしな。


ただ、授業中にゲリラ放送をした事に関しては寝子も含まれて居るだろうし…………。


「とりあえず、一緒に来る?」

と、遊びの誘いの様に軽いノリで寝子を誘ってみる。

「えっ、あ、ああ………はい…………」 少し悩んだものの寝子も来ることに同意する。

「よっしゃ。じゃあ午後もやりきって、清々しく皆で職員室に怒られに行くかぁ」

そう言いながら立ち上がり屋上の入り口へと歩き出す。


「そうですね」

「怒られんのに清々しいもクソも無いけどな」

「梅子ぉ………」


約一名、別次元に居るが、ちゃんと付いてきたので4人で屋上から下り自分の教室へと向かったのだった。


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