夢 前編

 目が覚めた。あれは夢だったか。ホッと息をつく。

 奇妙で、背中をさわさわと撫でられるような、どこか恐ろしげな夢だった。


 真っ白な壁の部屋にある、これもまた白い、ベッドの上にいた。部屋の中にはベッドと自分以外には何もなくて、太陽の光も照明もないのにとても明るかった。


 部屋を出ると、白くて長い廊下があり、両側にたくさんの扉もあったが、それも真っ白だった。そういえば、自分が着ていた服もやけに綺麗で白かった。


 廊下でばったりと知らない者に出くわす。顔だけの微笑みを交わしてすれ違う。


 夢でよかった。明るくて、何もかも白い世界なんてありえない。現実はいつも暗い。たまに光が弱く差し込むけれど、ほんのたまにだ。


「おい、遊ぼうぜ」

「ああ」


 眠くなるまで、ヘトヘトになるまで遊ぶ。楽しい。殴り合いをしたり、頭を使って騙し合いをしたり。お喋りをしながら倒れるまで走ったこともある。最後は寝っころびながら、腹の内を何もかも語り合って……きっとそうしているうちに眠ってしまって、また目が覚めて、また遊ぶ。


 そんな毎日の繰り返し。でも毎日違う。これが、俺の楽しい人生だ。


 今日も疲れ果てて、大の字に寝転がっていた。トモが「おいお前」と話しかけた。ん、と返して彼の方を見る。


「お前、これは現実だと思うか」

「……は?」

「もしこれが、夢だったらどうする」


急にわけの分からないことを言いやがる。でもいい、まじめに答えてやろう。


「夢でもなんでも、楽しいからいいじゃねえか。楽しい夢を見て損もしない。おまけにどうせ夢なら、何でもやりたい放題だ、悪くない」


「そうか」

「ああ」

「変なこと聞いて悪かったな」

「ああ」


 彼らは眠りについた。

 白い世界へようこそ。


(続く)

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