孤独
男が一人で横たわっていた。男は何も知らなかった。ふと気が付けば、横たわっていた。
男は立ち上がり、歩きはじめた。
方向もわからぬ、道もない地を。地が地面であるのかさえ、男にはわからなかった。ただただ、歩き続けた。
どれだけの時が経っただろうか。男は何かとぶつかったが、歩くのをやめなかった。
しかし、それは男の手をぐいとつかみ、離さなかった。
「コンニチハ」
それは女だった。女はにっこりとほほ笑んだ。
男は、自分が何も知らずにただ歩き続けたのとは比べ物にならないほどの時間を、女と過ごした。
ある時、女は言った。「あなたはにんげん、わたしもにんげん」
ある時はこう言った。「あなたとわたしは、おんなじよ」
しかしこうも言った。「あなたとわたしは、べつのもの」
やがて、こんなことも言うようになった。「ありがとう」「あなたが好きよ」「あなたは素晴らしい人」「何があっても、私はあなたの味方よ」
「何があっても」と言われても、男は女といる以外何もなかった。
また、時が流れていった。
女が消えた。男が眠りから覚めた時にはすでに、いなくなっていた。
男は立ち上がり、女を探しに歩きはじめた。
だが、すぐに、男は歩くのをやめてしまった。
男は立ち止まり、しゃがみこみ、泣いた。声を上げて泣いた。
しばらくして、男は泣くのをやめて辺りを見渡した。女の姿は見えなかった。
男は独りだった。
男はうつむき、倒れ、そのまま、動くことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます