番外編 ロロの大迷宮と剛腕のリリィ

 ロロの大迷宮と呼ばれる迷宮がこの大陸の中心にある。巨大で途方も無く広い迷宮であり、命を落とすものも多い。だが、それ以上に得るものがこの迷宮にはある事を知っている冒険者達は、今日もこの迷宮に挑み続ける。

 その挑む理由は簡潔で、大陸の国々にある冒険者ギルドに登録している冒険者達が、より下層へ行くことが自国のステータスになり、それによって冒険者への待遇や報酬などが、命を天秤にかけてもお釣りがくる為だ。

 しかしそれにより、殆どの冒険者が高みを目指す事が無くなり、ある一定の階層まで辿り着くとそれ以上の階層に挑むこと無く引き返し、国から称号を得るのが当たり前になっていた。

 国としてその足踏み状態を打破する為に、年に一度武道会を開催し、より高みを目指す冒険者を選抜していた。そして今から二十年前のヒューマンの武道会で優勝した女性『リリィ・フェルラーン』は、仲間達と共に六十層のドワーフの国にいた。


 この世界には七つの種族が居る、ヒューマン族・エルフ族・フェアリー族・ドワーフ族・獣人族・シム族・ミウ族だ。武道会が行われる国は、ヒューマンとエルフとフェアリーとドワーフと獣人の五種族で、各地に集落を作って暮らすシム族と、海や水の傍に暮らすミウ族は武道会が無いらしい。


 そこで選抜され優勝した一名ずつを合わせた冒険者達がリリィの居るパーティである。

 ヒューマンの代表、魔法戦士『リリィ・フェルラーン』

 エルフの代表、弓使い『ルクット・レィ・ファ・タラヌス』

 フェアリーの代表、魔法使い『ヌームス・ラク・ナナタ』

 ドワーフの代表、戦士『ヤァゼ・ヤッジィ』

 獣人の代表、武道家『ポチヌ・ナナーンバス』

 そして、もう一人のヒューマン代表、王国騎士『カカル・タラス・タゥイ・ミスケィス』

 この六人は実力は国が認めるものであり、前人未到の階層制覇を期待されるパーティであった。

 彼らは、ドワーフの国までは難なく到達できた。十二人以上で戦う事が必須とされた五十層のボスも六人で制覇し、そこから直径三百キロもある五十一層からのフロアも六十層のドワーフの国まで二週間掛からなかった。


 ドワーフの国の酒場で六人がこれからの打ち合わせをしていた。


 「ここまでは簡単だったが、これから更に広くなる。最下層までの武器と食料管理はどうなってる?」


 ヒューマンの国最強と言われ、大斧と攻撃魔法を同時に使ながら戦う魔法戦士のリリィがメンバーに尋ねる。


 「そうねぇ、今の食料では九十層が限界ね。もとより情報がないからしょうがないけど」


 はぁと溜め息をつくエルフ代表のルクットは長い茶色の髪をクルクルと回しながら話す。


 「おいおい、六十層まで来てやる気が落ちてきたんじゃないか?ルクット?」


 もう一人のヒューマン代表のカカルがルクットを見て少しムッとしている。ルクットとはこのパーティに入る前から恋人同士であり、各国精鋭のパーティを作ると聞いた時に必死に優勝したリリィに戦いを挑む姿勢を考慮され、今回の攻略パーティに入れたのだ。


 「まぁ情報が無いのは仕方が無いですよ、今までこの先に冒険者が入る事が無かったらしいですから」


 獣人代表のポチヌがまぁまぁとカカルを宥める。情報がない事は、命に関わる為慎重になるのは当たり前だ。


 「そうじゃのぅ、ワシもこの国は久しぶりじゃ。だがこの先に言った事は無い、それがこの国の決まりのようじゃしのぅ」


 一番年配のドワーフの代表ヤァゼもこの先の階層は知らない。


 「一応このエリアには食料が買えるわけですから、数階進んで引き返してみてはどうでしょうか?」

 

 フェアリー代表のヌームスは安全策を取るべきだと主張している。

 この階層まで来るとやはり疲労は溜まっており、なかなか先に進む活力がわかないのだろう。引き返す冒険者の気持ちが少しだけわかった彼らだったが、代表として攻略に来ているという事もあるし、やはり自国に名を残したいと言うのが勿論あるので、帰ろうとは誰も口に出さない。

 この階層まで来るのに約半年かかった。もちろんそれでも早い方だ、しかし所詮は各国からの寄集めパーティであり苦楽を共にする時間がまだ短く不満もそろそろ出る頃である。


 「これはまずいなぁ一人一人が強くても、まとまらなきゃこれより下層に行くには難しいぞ」

 「そうじゃなぁだがここで戻るわけにもいかんなぁ」

 「まずはこれから先の強敵に備えよう、ヌームスの言う様に数階層を踏破してみて考えよう」

 「そうですよ、ここまで半年だけどまだまだ時間はあるし」


 リリィとヤァゼ、カカルとポチヌの会話を聞きながらルクットとヌームスは頷いた。様々な罠や魔物などを蹴散らし、それから少しずつだが階層を進めて、八十層まで辿り着く事が出来た。

 獣人とドワーフの階層以外の十階層ごとに階層ボスが居り、この先に下りれるかの力試しの基準にもなる相手だ。


 「八十層まできたがやはりボスはオートマトンなんだな」

 「ここの迷宮の主が作った代物じゃからのぅ」

 「だが今回は大きさが半端なものじゃないな」

 「ええそうね、シム族の中でもあのサイズは見たこと無いわ」

 「ど・・・どうしましょう」

 「まぁいつも通りです!強い奴ほど燃えてきます!」


 巨大なムカデの形をしたシム族のオートマトンは、こちらを警戒しつつも口を開く。


 「ヨクキタナ ボウケンシャ ワレヲ タオセバ サラナル カイソウヘ ススムガヨイ」


 大きな口を動かし片言で話し始めるシム族のムカデを見ながら、リリィ達は武器を構える。


 「でかいだけじゃないって所を見せてみな!」


 そう言うとリリィは軽々と大斧を振り回し、ムカデに向っていく。その最中に無詠唱で武器に付加をかけ、大斧は赤く燃え上る炎を纏う。


 「いつ見ても、リリィ殿の魔法付加は目を見張るわい」


 ヤァゼが感心しながらも、大剣を振るいムカデの攻撃してきた前足を止める。そこへすかさずリリィが首を切断する。ビクビクっと動きながらも次第に動かなくなり、ムカデの頭が語りだす。


 「ミゴトダ ツギノ カイソウヘ ススムガ ヨイ」


 あっさり倒したのを他のメンバーがみて不満をもらす。


 「ちょっと!早すぎじゃない、本当に強い敵なのか分からないわ!」

 「ホントだよ!もう少しリリィが手加減してくれないと、僕らの出番が無いよ!」

 「確かに毎回ボスはリリィ殿が倒しております!」

 「いいじゃねーか!次の階層に進めるんだから!」


 そう、リリィの強さは他のメンバーの群を抜いていた、彼女は農民の家に生まれたが幼少の頃より魔術の才に恵まれ、そして武の才にも恵まれた。しかしその才能を両親は否定して、農業を継げとしか言わなかった。だからだろうか、リリィは十六歳で家を飛び出し今年で二十三になる。


 「強さか・・・それは何故だか分からない。小さな頃から、精霊の力に頼らず魔法が使えたからな」


 それはこの大陸に住むものにとって驚きの発言である。


 「え!精霊の力を借りてない!?あれほどの魔法を使いながら!」

 「ほ・・本当なの?そんな事ありえるのかしら・・・・」

 「いや・・本人が言ってるのだから間違いないんじゃ」

 「すごいなぁ・・・リリィは」

 「ほっほっほ、まるでこの迷宮の主ロロ様のようじゃなぁ」


 驚く発言をサラッと言うリリィに他のメンバーは固まったままだ。


 「そういやぁここの主ってなんでこんな迷宮作ったんだろうな」


 唐突にリリィが質問する。


 「そりゃぁ趣味じゃないの?」

 「いや違うだろ・・・なんかもっとこう・・なぁ」

 「何ででしょうね」

 「考えたこと無かったですね、名声の稼ぎ場所と言う事しか聞いていませんし」

 「そういやぁワシのひぃ爺さんが言っとたな、各国の冒険者を鍛える為と・・あとなんじゃったかな」


 それを聞いてリリィもその疑問に答えが見つからないと思い考えるのを止めた。


 「まぁこの程度なら最下層まで早いかもな、そしたらゆっくりと宿酒場でもしたいなぁ」

 「おっ初めて聞いたぞ、リリィは冒険者やめるのか?」

 「いいじゃない、ここまで来れたのもほぼリリィのお陰だし」

 「確かにそうですね、リリィさんがいなければドワーフの国で引き返してたかもしれません」

 「本当にそうですよ、早くクリアしたいですね!どんな財宝があるんでしょうね」

 「ふぉふぉふぉ、リリィが宿酒場とは活気がありそうな店が目に浮かぶわい」


 八十層をあっけなくクリアした事で、百層まで一気にクリア出来るとみんなが気合を入れ直した。だが、この迷宮が造られたもう一つの理由、闇の王を封じると言う事は長い歴史の中で消えてしまったようだった。

 そして運命の八十八階層に辿り着く。リリィがこの階層にきてから少しピリピリしていた。


 「リリィどうしたんだ?この階層に入ってから様子がおかしいぞ?」

 「ああ・・なんだか少し違和感と言うか寒気がするんだ」

 「あなたが風邪ってわけじゃないでしょ・・・ちょっと怖いわね」

 「大丈夫ですよ!リリィさんに頼りっぱなしの私達じゃないですよ!」

 「そうです!ここまできたら一気にクリアです!」

 「そうじゃ、その意気じゃ!今まで成し遂げられなかった偉業がもう目の前じゃ」


 そう言いながら数日歩き広いフロアにでる。迷宮なので薄暗いが、ある程度は見通せるくらいの明るさはある。


 「今日はここで一旦休むか」


 カカルがそう言った時だった、リリィが武器を構える。


 「おいおいおい、なんだこの気配は・・・・危険すぎる!」


 リリィがそう言い放ち歯をガチガチと鳴らす。それを見た他のメンバーがリリィの視線の先を見る。黒い靄が奥をユラユラと揺らめいている。今まで出会った事の無い魔物のようだ。


 「何・・・あれ・・・」

 「震えが止まらない・・・・」

 「あんな奴・・・が・・・居るなんて」

 「お・・・思い出した!!ひぃ爺さんの言っておった言葉じゃ・・・あれは闇の魔物じゃ!!この迷宮は闇の王を封じておる!!」


 ヤァゼが言う闇の魔物と対峙して十数秒、ゆっくりとこちらに近づいて来ている。殺気が尋常じゃなく、空気までもピリピリと震えている感じがする。六人の冷や汗は止まる事は無く、恐怖が自身を被い尽くそうとした時だった。


 ガキィィィンン


 リリィが大斧を振り下ろし、地面には大きな亀裂が入る。


「逃げるよ!あいつには勝てない!」


 リリィ一撃でハッとしたメンバーは意識が覚醒する。しかしその闇の靄は徐々に人の形へと姿を変えていくまるでヒューマンの老人の様にも見える。そして、悟らせるように話しかけてきた。


 『こんなところまで人が来るとわな・・余程のつわものか、馬鹿のどちらかじゃろうな。逃げ切れると思うのか?思うのか?』

 「逃げてやるさ化物め!」


 そう言うとリリィは、片手に既に溜めていた風の魔法を闇に放つ。轟音を上げながらも闇に絡みつく風を見ながら炎の魔法を放つ。火柱が天井まで届きその中心に闇が蠢いているのが見える。


 「今のうちだ!いくぞ」


 六人は一斉に来た道を走り出した。振り返らずに全速力で、しかし闇はダメージなど無いと言わんばかりに追いかけてくる。


 「くそっなんなんだアイツは!」

 「いやよ!死ぬのはいや!」

 「こわいこわいこわいこわい」

 「足が・・攣りそう・・・」

 「わしが一番足がおそいんじゃ・・・・ひぃひぃ・・・」

 「つべこべ言うな!逃げなきゃ死ぬぞ!」


 六人は必死に文句を言いながらも全速力で駆け抜けていく。闇は付かず離れずフワフワと宙を浮きながら後を付いてくる。そして、一人が足を挫き転ぶ。ヤァゼ・ヤッジィだ。


 「ぐわっしまった・・・足が・・」

 「ヤァゼさん!」

 「立ち止まるな!見捨てるしかない!」

 「そうよ!このままじゃ全滅するわ!」

 「えっ・・・!えっ・・・!」

 「見捨てられる訳が無いだろう!ここまで来た仲間だぞ!」


 リリィは立ち止まりヤァゼの元へ向う。しかし闇が空間に手を入れると大きな鎌を取り出した。


 「ひぃ・・・!!」

 「やめろぉぉぉぉ!」

 

 リリィが飛び掛ると同時にヤァゼは二つに斬れた。血飛沫が通路に円を描くように飛び散る、そこへリリィの一撃が闇に食い込む。

 しかし、闇と言う名を持つ者と言う事だろうか。空を斬り、闇はその後ろのメンバーへと牙を剥く。


 「いやいやいやーーーー!」


 ザシュッ!と言う音が聞こえ、ルクットの頭が地に落ちる。そのまま回転を緩めずに闇はヌームスとポチヌを斬った。


 ザシュ!ザシュッツ!


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ぎゅぅぅぅぎぁぁぁぁぁ!」


 二人とも悲鳴を上げつつ地に伏せる。カカルは剣を抜き、リリィと挟み撃ちにしようと狙っているようだ。


 「リリィ、俺らはもう助からない!それなら一矢報いてやろうぜ!!」

 「あぁ!!そうだな!そうじゃなきゃこいつ等が浮かばれない!」


 そういうと二人は互いに武器を構え、闇に向う。そこで闇がまた言葉を発する。


 『ふむふむ、成程、成程。男は要らないが、女は使えそうだな』


 そう言うと一瞬消え、カカルの後ろに現れる。ザシュっと音を響かせ、あっけなくカカルは斬られ上半身と下半身が別々に落ちる。


 「こんのぉぉぉぉぉ!」

 『ふぉふぉふぉふぉ、怒れ怒れそれは我らの馳走じゃ』


 そう言う闇に、リリィはふと怒りが静まった。いや今するべき事を思いついたと言うのだろうか。大斧を地面にすて両手を横に広げた。


 『ふぉ?なんじゃもう終いか・・つまらんのぅ』

 「いや、暫くはお前と遊べるかもな!」

 『なんじゃと?』


 そう言うと、リリィは防御魔法を展開する。薄緑色の膜がリリィを中心として広がっていく。そして闇に殺された五人を包む程大きくなる。


 『クッ貴様!防御魔法が使えるとは!戦士じゃなかったのか!』

 「はん!始めに私が風と炎を使ったのを忘れたのかい?あんたじゃこれは破れない!」 

 『ぐぬぬぬ、ふ・・・ふぉふぉふぉふぉっ!じゃぁその体力がいつまで持つか我がここで見ていてやろう!』

 「暇な爺だ、好きにしな!だがこいつらは海に還るそれまでは触れさせない!」


 そう言うと、リリィは防御魔法を張り続けた。そして七日後、ヤァゼが光の粒になり消えだした。それをきっかけに他のメンバーも光の粒となり消えだした。

 リリィも限界だった。だが、仲間を無事に海へと還せた事で自分の役目は終わったと防御魔法は消えていく。


 『ふぉふぉふぉふぉ、まったく凄い奴じゃ・・じゃがこれなら強い闇の魔物が出来よう』


 そう闇の魔物が話した直後だった、光の線が魔物の体を突き抜ける。


 『ぎ・・・なに・・・・が・・・・お・・まえは・・』


 そう言い残すと、闇の魔物はコアになり地面に落ちた。それを見下す肩ほどまでに伸ばしたクリーム色の髪の綺麗な女性、ロロの大迷宮で九十層を守護するオートマトン『ラル』であった。そしてもう一人、その女性よりも綺麗な顔立ちの銀髪の女性がその後ろから歩いてくる。


 「ロロサマ モウシワケ ゴザイマセン ワタシ ガ メンテナンス ノ タメニ ヤミヲ ホウチシテ シマイ」

 「気にするな、お前が居なければもっと酷い有様になるだろう」

 「ソウイッテ イタダケルト ワタシモ スクワレマス」


 それを見ながら、リリィは何が起こったか訳が分からなかった。

 

 「あ・・・あんたらは一体・・・・・」


 そして、リリィを見る二人。


 「こんな所まで下りてくるとは優秀な冒険者だが一人なのか?」

 「ふふふ・・・いや・・・闇に襲われてな、私だけが生き残ったのさ。防御魔法で奴らが還るまでここを離れなかっただけさ」

 「エッ!ナノカカン モ ボウギョマホウ ヲ!ロロサマ カノウナノデショウカ?」

 「ふむ・・・・」

 「ふふふ・・・可能かどうかじゃなく、可能にしたんだよ・・・奴に負けたくなかったんでね」

 「ははは、面白い冒険者だ。出会ったのも運命だろう、地上に戻してやろう。ただ記憶は消すがね」


 そう言うと、ロロと呼ばれた銀髪の女性はリリィに近づく。しかしそこでふとリリィの顔をみる。


 「ん?お前・・名前は何と言う?」

 「へっ・・・そう言う時には、あんたからまず名乗りな!」

 「ナンダト!ブレイモノ!」

 「こらラル、静かにしなさい」

 「ハ モウシワケ アリマセン」


 ラルと呼ばれたオートマトンはしょんぼりと肩を落とす。

 

 「すまないな、私はこの迷宮の主でロロルーシェ・ノーツと言う」

 「なっ!まさか・・・・悠久の魔法使い!?」

 「ふふふふ、そう呼ばれる事もあるな」

 「そうか・・失礼なことを言い申し訳なかった。私はリリィ・フェルラーン」

 「なに!フェルラーンだと!」


 ロロルーシェは約二万年前に聞いた名前と聞き驚く。 


 「ロロサマ ドウサレマシタ?」

 「お前の家は、昔からバルザナか?」

 「ん?そうだが・・あぁ・・・大昔はコーラスワードに居たとか眉唾な話を祖父母がしていたな」

 「ははは!!そうか!そうか!!どうりでナタシャに面影が似ていると思った!」

 「ナタシャ?誰だそれは?」

 「ふふふ、ナタシャは私の妹でな。まぁ続きは家に帰ってからだな、ラル引き続き九十層の警備を頼むぞ」

 「ハイ カシコマリマシタ」


 そう言うと、ラルは警備に向かい。ロロルーシェとリリィは専用通路を使い昇降機で一階へと一気に上がる。


 「こんなものがあるとは・・・・」

 「ふふふ、知らないだろうな」

 

 一階に戻ると、水色の髪の二体のオートマトンが出迎える。


 「オカエリ ナサイマセ」

 「オカエリ ナサイマセ」

 「ああ、ただいま。お客さんだ、丁寧におもてなししなさい」

 「カシコマリマシタ」

 「カシコマリマシタ」


 二人のオートマトンは、踵を返しへとリリィを案内した。そして部屋に入ると椅子に座らせる、そしてロロルーシェも椅子に座った。


 「では先程の話をしようか。私も大昔、二万年前はコーラスワードに居てね。そして妹のナタシャと小さな頃は一緒に暮らしていたんだよ、私が魔法の研究をしだしてから、なかなか逢う機会がなくなってそのまま離れ離れになってしまった。まさかこちらの大陸に移動していたとは思わなかったがな」

 「そうなのか・・・・そんな大昔に・・・でも用件はそれだけじゃ無さそうだな」


 うんうんと頷き、ロロルーシェは話を続ける。


 「流石はナタシャの子孫だな。私はずっと闇の魔物と戦ってきた、だがどうしても一人だと限界があるんだ」

 「なるほど、でもオートマトンがいるじゃないか」

 「いや、人形たちは力があっても私の魔法が全て使えるわけではない」

 「ふむふむ、それで私にその魔法を覚えろと?」

 「いや、リリィ・・君でも無理だろうな」

 「では何故私をここに?懐かしの再開ってわけじゃないだろ」

 「そうだ、リリィに頼みがある。私の魔素を使って君に子を宿して貰いたい」

 「なっ・・・子を宿すだって!はははは!こりゃぁ凄い話になってきた」

 「ふふふ、冗談だとおもうかい?」

 「いや思わないね。だが、あんたも女性じゃないか」

 「そうだ、私も女だが子を産めないのさ」


 リリィには少しだけ彼女の顔が辛そうに見えた。

 

 「そうか・・・・すまない。でも何で私なのさ他にも女性は大勢いるだろ」

 「子を作るを事を考えてから多くの女性を見たが、私の魔素に耐えられる者が居ないのさ。リリィおそらく君は、精霊の力を借りずに魔法が使えるんじゃないか?」

 「なんでそれを!・・・そうさ私は昔から精霊の力を必要とせずに魔法がつかえる」

 「それが今の女性達は無理なのさ、古代人と呼ばれる七つの種族に分かれる前の人間と体の情報が少し違うらしい」

 「そうなのか・・・じゃぁ無理だと言ったら?」

 「うーん・・無理やりと言うのは性に合わない。その時はまた探すさ」

 「はははは!面白い人だねあんた!良いよ!乗った!どのみちこのなりじゃ結婚も諦めてたしな!」

 「そうか!感謝する!だが条件がある子供を生んだ後、記憶を消すか外で見守るか選んで欲しい」

 「な・・・・そうか・・・悠久の魔法使いの子を産んだとなれば、あの闇に狙われる可能性があるのか」


 まるで妹ナタシャと話している様な気になるロロルーシェ。


 「さすがだな・・・よく分かる・・・すまない」

 「いや・・・いいんだ、いつか会いに来てくれるかもしれないだろ?」

 「そうだな、一人立ちして旅立つ時にはまずリリィの居る場所に向わせよう」

 「そうか・・・なら南の町ルンドルで宿酒場でも開こうと思っていた所だ」

 「それはいいな、それまで資金など私に任せろ。何十年人が入らなくても潰れる事はないぞ」

 「ひどいな!まぁそれでも待つさ」


 それから十ヵ月後にリリィは無事に女の子を出産した。リリィとロロルーシェの昔の名を取り、『リリルカ』と二人で名づけた。そして出産後体力が戻ったリリィは、いつかまた会える日を夢見て、迷宮を後にして南の町ルンドルで宿酒場を始めた。

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