第25話

 リリィとリリルカが再会を果たしている頃、イサムはシム族のタチュラと呼ばれたクモのコアに蘇生を掛けていた。


 「あ!イサム!そいつは蘇生しない方が良いかもよ・・・」

 「もうしちゃったし、敵の情報を聞かなきゃいけないだろ?」

 「そいつは、コロニー内でも嫌われてたニャン」


 エリュオンとミケットが闇クモの評判が悪かったと一生懸命説明しているが、その間にタチュラは真っ黒だった体を真っ白に変えて、イサムの目の前に現れた。そして話している二人を無視して、イサムにその大きな前脚で抱き付いた。


 「ああぁ愛しきご主人様!妾の腹を突き破り命を奪ったでは飽き足らず、妾の命をコアに戻し使役したいだなんて!何と言うお方!貴方様に生涯、忠誠を誓います!」


 ギチギチと歯を擦り合わせて、喜びを表現しているのだろうか。隣でエリュオンは、やれやれと手を横に上げ首を振っている。


 「一応突き破ったのは、エリュオンとミケットなんだが・・・・」

 「何をおっしゃいますの!?あの弱いおチビさん二人を使役しているのは貴方様でございます!」


 それを聞いて、側にいた二人が頭に来るのは当然だろう。


 「今の言葉!聞き捨てならないわね!」

 「そうニャン!もう一度倒すニャン!」


 大剣と爪を構え、臨戦態勢をとる。タチュラはイサムを離し、エリュオンとミケットの方向に向き直す。

それを見ながら「はぁっ」とため息をつき、イサムが仲裁に入る。


 「喧嘩するなら三人とも保管しとくぞ・・・それと、タチュラはまず町の人達に謝るんだ」


 三人とも動きがぴたっと止まり武器をしまう。そして、遠くで離れて見ている町の人達の方にタチュラは向き八本の脚を曲げて、地面にペタッとくっ付いた。


 「この度は、ご迷惑をお掛け致しまして、誠に!誠に!申し訳ありませんでした!」


 当たり前だろうが、町の人達もかなりの恐怖を感じているのか、こちらを見てるばかりで当然近寄っては来ない。


 「当たり前だよな、食べられたんだから」

 「では私がリリィと説明して来ます」


 後ろからメルと手を繋いだ二人、リリィとリリルカがやって来た。


 「イサムって言ったな、さっきは信じず悪かった」

 「いやぁ普通なら信じないし・・気にしないでくれ」

 「私も助けて貰ったんです。イサム様には感謝しきれません!」

 「俺一人では無理だからな、みんなのおかげで何とか出来てるもんだよ。取りあえず町の人達に説明を頼む」

 「わかった、恩人を無碍にする奴らはこの町には居ない。まかせとけ」


 そう言うとリリィとメルとテテルが町の人達に、説明をしに向った。ビクビクしながらこちらを見ている町の人が落ち着かない原因はタチュラにあるだろう。それを保管して一旦消そうかとイサムが迷っていると、エリュオンがタチュラに話しかける。


 「タチュラ!町の人が怖がっているわ、もう少し小さく出来るでしょ!」

 「何を言っているのかしら?妾を好きにして良いのはご主人様のみ!豆粒の女児に何を言われても聞く気は無いわ!」

 「ん?タチュラ小さくなれるのか?町の人を怖がるから小さくなれるならなって欲しいかな」

 「勿論で御座います!貴方の為ならば、何処までも小さくなる事が出来ますわ!」


 そう言うとすぐさま小さくなっていき、手の平に乗る位まで小さくなるとイサムの肩に飛び乗る。


 「こら!イサムの肩に乗るなんて、後から入ったくせに生意気よ!さっさと降りなさい!」

 「下に居たら、あなたの汚い靴で踏み付けられるのが目に見えていますわ!」

 「この靴はイサムが買ってくれたのよ!汚くないわ!」

 「な!!なんですって!ご主人様!妾にも!妾にも是非に彼奴よりも良い物を!」

 「仲良くしてくれたらな・・・闇のコロニーの中でお前ら喧嘩ばかりしてたんだろうな・・・・」


 闇のコアを蘇生する度に喧嘩しているので、容易にまずは喧嘩するだろうと分かる。


 「で・・では・・仲良くします・・・・エリュオン・・妾が・・悪かったわ・・・」

 「ふ・・・ふん・・・わかればいいのよ・・・私も言い過ぎたわ・・」


 ぎこちない二人の関係だが、全てを恨む闇の魔物達だからこそ仲良くする事が無かったのかもしれない。これから少しづつ変わっていければ良いと思う。そしてミケットは飽きたのかリリルカと遊んでいた、種族の違いなのか性格なのか分からないが色んな人が居るから面白いとイサムは思った。

 そこへリリィとメルが町の人に説明をして戻ってきた。タチュラが小さくなった事で、少しは落ち着いたようだ。


 「説明助かったよ」

 「いや、シム族が小さくなったおかげで警戒が解けたようだな」

 「そうですね、いくらロロ様の使いと説明しても、自分達を食い殺したシム族にいきなり謝られても困惑するだけですから」

 「も・・申し訳ありません・・・・・」


 小さくなっていたタチュラが更に小さくなる。反省はしているのが分かるから、それ以上は誰も責めることは無い。


 「取りあえず私の家に行こう。聞いたと思うが宿屋をしていてな、ゆっくり話も出来るだろう」


 そう言うと、リリィを先頭に宿屋へとみんな向った。宿屋に向う途中で家の屋根が吹き飛んでいた住人が膝を付いていたが、あれはメルがしたとは言えずにそのまま通り過ぎた。


 樽ジョッキとベットの絵が描かれた看板が見え、そこでリリィ立ち止まる。


 「酒場もしているからな、外に逃げている他の住人と冒険者共も安全だと分かったら戻ってくるだろう。それまでは、ここでゆっくり食事でもしていきな!泊まれる空き部屋もあるから遠慮するなよ!」


 リリィはそう言うと、カウンター等の片付けをやり始めた。リリルカとテテルの二人は片付けを手伝うようでパタパタと走っていった。

 イサム達は、倒れている丸テーブルと椅子を起こして座る。


 「タチュラ話を聞かせてくれ、黒髪の女性とは誰だ?何をするつもりだ?」


 イサムは気掛かりな女性の話を聞く、オートマトンを簡単に手駒にできるならロロルーシェに急いで伝えておくべきだろう。


 「妾が知っているのは、『ルーシェ』と言う名前と闇で食い尽くせと言う命令のみですわ。次に向かうのは、ヒューマン族の国『タダルカス』と言っていたのでそこでも何かしているのだと思われますわ」

 「タダルカス・・・・」


 メルは暗い顔をしている。テテルを助けた時もそうだったが、タダルカスに何かあるのだろうか。


 「メル、タダルカスに何かあるのか?顔色が悪いような気がするんだ」

 「イサム様・・・オートマトンの顔色なんてありませんよ・・・と言えないですね」

 「やはり何かあるのか?」

 「はい、タダルカスはヒューマンの王国です。そして四千年前は私達の住んでいた『レイモンド王国』だった場所です」

 「そうか・・滅んでしまったんだな」

 「はい、あの時闇に侵略され全てを失いました。その後、浄化されたのを聞いた親族がそのままそこを自分の国として建国したと聞きました。しかし私達にはもう関係のない事だと思い、接する事も殆ど無かったのです」

 「そうなんだな・・・」

 「しかし建国したタダルカス王は、とても優しき方で人望もあったと聞きます。消えた王国を今一度光の国と謳われる国にしたいと奮闘したと伝え聞いております。そしてその意思を継ぎ、現代までその思想は伝わって下ります」

 「なら良い事じゃないか、でもその顔を見るといい国じゃ無さそうだ」

 「はい・・三年前よりタダルカス国王が病に臥したと聞きました。そして長男であるアートルフィット殿下が今は国内の政治を行っているらしいのですが、現在はとても酷いと言える有様です。獣人達は奴隷として扱われ、大通りに昼夜問わず奴隷商が店を構えています。国王様のご子息は他にお二人下りましたが、この三年で病死したそうです」

 「なるほど・・それは完全にその長男に殺されたとしか考えられないな。ロロルーシェは何も言わないのか?大陸全体に影響力があるんだろ?」

 「いえ・・ロロ様は闇以外では、成るべく干渉しないようにしております。国が栄え滅ぶのは人の世界の理だと言って、どんなに悪い国であっても口を挟むことはありません。ただこの四方にある町だけはロロ様の管轄として見られている様で、戦いで領土を得る国であっても、この町と迷宮だけは絶対に手を伸ばす事はありません。手を出せば、自分達の国が滅ぶと知っているからです」

 「流石だなロロルーシェ・・・」

 「私達もそう思っていますが、生まれた国が朽ちていくのは見ていられないものがあります」

 「そうだろうな・・・で、行くだろ?その国に」

 「え・・ですが・・・それは」

 「いや、だってロロルーシェは闇にしか興味を示さないと、その国の長男も知っているから好き勝手しているんだろ?闇の黒髪女が向った国がタダルカスなら丁度いいじゃないか、闇のせいにして長男をギャフンと言わしてしまおう」

 「ふふふふ・・本当にイサム様は面白いお方ですね」

 

 片手を口に当て笑うメルを見ながら、タチュラがボソッとエリュオンに話しかける。


 「ねぇエリュオン・・・オートマトンだからあまり表情は見えないけど、あの子ご主人が好きなんじゃないかしら?」

 「入って間もないのに良く分かったわね。私のイサムを狙う女は容赦しないわ」

 「私の?妾のご主人様を、私の?言っている意味が良く分からないわ」

 「何言ってるニャン、ミケの事が一番好きニャン」


 丸テーブルの上に居るタチュラと椅子に座るエリュオンとミケットが火花を散らしている。それに気がついたイサムは、やれやれと思うが武器を出したら注意しようと無視した。

 そうしていると、一通り片付けのすんだ三人がこちらに向かってきた。


 「リリルカとテテルのおかげで早く片付けられたよ。取りあえずもう直ぐ夕暮れだ、ここに泊まっていきな。それと食事もだね、イサム!あんた酒が飲めるんだろ?獣人の国のビールがあるから付き合いな!リリルカに逢えた祝いに一人で飲んでもつまらないじゃないか!」

 「ははは、そうだな。わかった!付き合うぞ!」


 リリィはそう言うとまたカウンターの中へ入っていき食事の準備を始めたようだ、テテルとリリルカも後に続く。メルも手伝いますと席を離れた。

 残った三人にも手伝うようにイサムが指示をだし、リリィとリリルカの再開と無事にこの町が平和に戻った祝いの宴が夜遅くまで続いた。

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