第24話

 メルが思いっきり蹴り開けた『冷蔵庫』の二つある下の大きい方の扉は吹き飛び、家屋の屋根を削りながら何処かに消えていった。

 その中に佇む白く、そして丸いフォルムのあいつ。イサムの『防御力の低そうな場所』にしがみ付き自滅した卵型オートマトンのカルが、腕を組みし仁王立ちしている。いや、カルだけではなかった、同じ卵型のオートマトン達がひしめき合って立っている。


 「我らカル中隊!主人の為に全身全霊をかけ敵を討つ!殻の一片になっても怯むな!突撃ー!」


 カルの掛け声により、卵型の集団は様々な武器を持ち、子グモ達に向かい攻撃を始めた。その中には、口が無いのにラッパを吹き鳴らす卵もいる。

 次々と子グモ達を倒していくカル中隊。それを見ながらメルが呟く。


 「なんであんなに増やしたんだろ・・・・ルルルに後で聞かなきゃ・・・」


 その頃、食べられたイサムは丁度クモの腹の中で落ち着きを取り戻していた。食べられ時は焦りもあったが、浅瀬で溺れて足がついたと気がつく様な感じだろうか。目の前にいる金髪で美人だが屈強そうな体と、威圧されそうな眼光放つ女性が張る強力な防御障壁で、難なく立てるほどの空間を確保している為だ。


 「町の人間じゃないね、冒険者か?」


 その女性は、両手を広げて障壁を張りながらも、その意識はイサムをしっかりと捉え、攻撃するなら容赦しないと威圧的な雰囲気を放っている。だがリリルカの母親だと直ぐに分かった。


 「あんたがリリィ?俺はイサムだ、ロロルーシェの仲間なんだが・・・」


 するとリリィが鋭い目を見開き笑い出した。


 「ははは!お前みたいな弱そうな奴がロロ姐さんの仲間だって?冗談は顔だけにしときな!」


 笑いながらも、見開いた目を細めてイサムを分析している様だ。


 「だよなぁ普通に考えて、そう思うよな。事実、俺弱いし」


 イサムは頭をぽりぽりと掻き、この町に来た理由を口に言うよりも見せた方が良いと思いっきり、一言だけリリィに伝える。


 「取りあえず信じてもらえる様に、障壁をもう少し広げる事とか出来ないか?」


 リリィが障壁の中で侵食を防いでいる死体が百人程居るだろうか、それをここで蘇生するには広さが足りない。


 「無理だね、逆に狭まってる方さ」

 「そうか・・・じゃぁテテルを呼ぶから、少し待っててくれ」

 「なに?お前さんテテルを知ってるのか?」


 そう言うリリィが警戒をし続けるのを見ながら、メニューを開きテテルを呼び寄せた。目の前に光の玉が現れて、瞬時に人の形へと変わる。


 「え・・・イサム様、ここはシム族の中ですか?」

 「な・・!テテル!無事だったのか!」


 テテルはイサムの方向を向いていた為にリリィには気がついていなかったが、リリィはその髪色とメイド服を見て即座に気がついた。そして、その声にテテルも振り返る。


 「リリィ様!良くご無事で!」


 そう言うとテテルはリリィに抱きつく。


 「お・・おいテテル抱きつくな、障壁が崩れる!」

 「も・・申し訳ありません!」


 嬉しさのあまり、リリィに抱きついてしまったテテルにイサムが魔法障壁をお願いする。


 「テテル、後ろの人達を生き返らせたいから、もう少し障壁を広げたいんだ」

 「うわっ・・・・りょ・・了解しました・・!」

 「なんだと・・・生き返らす??どういう意味だ」


 死体に気がついていなかったテテルが一瞬驚くが、直ぐにリリィの障壁に重ねて自分の魔法障壁を広げる。


 「よし、それ位あれば大丈夫だ!いくぞ」


 膨れ上がったクモのお腹で食べられた人々は、生き返っていく。町の人達とリリィがそれに驚かない筈は無いが、目の前で起こっている事なので否定もできない。


 「信じられない・・・そんな魔法が存在するとは・・・・・」

 「まぁ・・ロロルーシェが俺に付加した魔法らしいが・・・・それで、ここから出るのには腹を斬れば良いのか?」

 「ああ、だが持ち合わせの武器がないな」

 「じゃぁ、もう二人仲間を呼ぼう」


 イサムは、エリュオンとミケットを呼び寄せた。


 「イサム!良かった!無事だったのね」

 「タチュラが急に動きが止まって、膨らみだしたからもしかしたらと思ったニャン」

 「あとは腹を破るだけらしい、余裕だろ?」


 少しだけ意地悪したくなったイサムだが、二人は俄然やる気らしい。

 

 「まかせてよ!ここからなら、余裕の余裕よ!」

 「同じくニャン、片手で十分ニャン!」


 そう言うと、二人は大剣と爪を構え天井目掛けて武器を振るう。その衝撃で腹が破れ、勢い良く二人が外に飛び出る。その後にイサムとテテルとリリィ、そして町の人達が無事に姿を現した。


 「流石はイサム様ね。リリィ様も無事に出てきてるわ」

 「お母さん・・・」


 少し離れて見ていた、メルとリリルカも安心してホッとする。そしてリリルカは走り出す、母親だと直ぐに分かった。リリとルカに分かれていた時のルカに髪色と顔がそっくりだ。


 「お母さん!!」

 「まさか・・・・そんな!」


 そう言うと、リリルカはリリィに抱きつく。それを受け止めるリリィ、十八年と言う長い年月が一瞬だったかのように二人は親子だと理解し、互いが抱きしめる。


 「お゛か゛あ゛ざん゛!!」

 「逢いたかったよリリルカ!」


 二人は涙を流しながら離れる事無く抱きしめ合っていた。

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