第23話

 一か八かの勝負だったが、シュールなメルの狙撃とは裏腹に、高速で撃ち出された蘇生弾は放物線を描いてテテルのコアに着弾した様だ。即座に表示された名前を押しテテルは無事に保管され、早速確認する為にテテルを呼び出す事にする。

 眩い光から透明に近い四枚の羽根の生えたフェアリー族の少女が現れる。淡いピンク色の髪を後ろでポニーテールにしメルと同じ様だが、少しスカートが幅広なったメイド服を着ている。


 「こ・・・・ここは・・はっ・・メル様!」


 テテルは周囲を見渡しながら、メルに気付き抱き付いた。


 「申し訳ありませんメル様!私が不甲斐ないばかりに、ご迷惑をお掛け致しました!」


 メルに抱き付いているテテルは、悔しさと嬉しさのあまり涙を流す。それに気付いたメルが驚く。


 「テテル・・・貴方はもう・・人形では無いわ。その涙が何よりの証よ・・・」


 メルは片方の手で頭を撫で、もう片方の手で涙を拭う。


 「あれ・・・・何で・・涙が」

 「貴方を助けたのは、後ろにいらっしゃるイサム様よ」


 テテルは、メルにしがみ付きながら、ゆっくりと振り返る。そして、イサムの顔を見るなり赤面してメルに再び顔をくっつけた。


 「助かって良かったな、テテル。俺はイサムだ、宜しくな」


 怖がらせない様にと、優しく挨拶するイサム。すると、メルの胸下辺りに顔をくっつけたテテルが振り返らずに話す。


 「イサム様!誠にありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」


 顔をくっつけたまま良く話せるなと、苦笑しながらも「宜しくな!」と答え、メルを見ると彼女が助かったのが嬉しかったのだろう。まだテテルの頭を撫でている。


 「申し訳ありませんイサム様。テテルは人見知りの様で、その上いきなり所有者が変わった事により動揺しているみたいです」

 「ははは、気にしてないよ。それよりも町の状況はどうなのかを知りたいな」


テテルが落ち着くのを少し待ってから詳しく町の状況を聞く。


 「取り乱してしまい、誠に申し訳ありません。私はテテルと申します、19年前にリリィ様のご出産をお手伝い致しました経緯により、今回はリリィ様の住まわれる町の調査をロロ様よりお願いされました。結果は見ての通りの有様で誠に申し訳なく、深く反省致しております」


 本当に反省しているのだろう、また涙目になっている。


 「いや、取りあえず助け出せたから良かったよ、もし蘇生魔法が効かなければ浄化される所だったしな」

 「そうです。イサム様の機転によりテテルを救う事が出来ました」

 「蘇生魔法・・・凄い魔法ですね・・・これならリリィ様も・・・!」

 「リリィ様も?てことは・・もしかして」

 「申し訳御座いません・・・私を庇い・・あのシム族に食べられてしまいました」


 それを聞いて、リリルカが膝を付く。


 「そ・・そんな・・お母さんが・・・死んじゃったの・・?」

 「いえ・・わかりません・・・大丈夫だと言って、口に飛び込んだように見えました」


 その話に何やら考えていたメルが話しに入る。


 「それで町の方はどなたか生きているのですか?」

 「いえ・・・みなさん・・・食べられてしまいました・・・」

 「そうですか・・・もしかしたらですが、リリィ様はシム族の中で生きている可能性があります」

 「おいおい本当かよ!?」

 「はい、もともと十九年前のあの日も一人生き残ったのです。迷宮八十八層で闇に襲われ仲間達が死亡しても、自身の防御魔法で仲間達全員が魔素の海へ還る七日間ずっと障壁を張り続けていました」

 「七日間も飲まず食わずか・・・タフだなリリルカのお母さんは」

 「そうなんだ・・・会いたいよ・・お母さん」


 町の住人が全員食べられたと聞き、暗い雰囲気になる。


 「だったら急ごうか、十九年前は一人生き残ったかもしれないが次は生き返らせる選択肢がある」

 「そうですね、闇の魔物が現れた事で町全体に障壁魔法は張られていると思います。しかし恐らくもう三日は経過していますので早く対処しないといけないですね」

 「テテル、ちなみに敵はあのシム族?だっけ、あれが一匹なのか?」

 「本当はもう一人居ました、黒髪の女性としか分かりません。私はその女性の魔物にコアを掴まれて闇に侵食され、その後に南の『タダルカス王国』に行くからとシム族と私に伝えて居なくなりました」

 「黒髪の女性とタダルカス王国・・・嫌な予感しかしないですね・・・」


 メルは顔色が少し悪い気がする。その王国に何かあるのだろうか。


 「じゃぁとりあえずは、そのクモだけか」

 「そうです・・私がしっかりしていれば・・・」

 「わかったわかったから泣くなよ!泣くのはリリルカの母親と町の人達を助けてからだな!」

 「ぐすっはい!次は負けません!」

 「その意気だ!早く出発しよう」


 早く助けたいと先を急ぐが、エリュオンとミケットは終始俯いたままだった。


 「勝つ方法がイメージ出来ないわ・・・」

 「そうニャン・・・近接だとどうしてもあいつの糸が邪魔ニャン・・」


 弱音を吐く二人にイサムが活を入れる。


 「おいおい、二人ともそんなに怖いなら『保管』に入るか?そうしたら寝てる間にちゃちゃっと俺達がやっつけてやるよ」


 イサムのその挑発に頭にきたのだろう、二人の目に火が灯る。


 「イサム!何を言ってるの?私が怖いですって!?冗談じゃないわ!余裕よ!余裕!」

 「そうニャン!あんな奴片手で楽勝ニャン」


 二人は鼻息も荒く興奮する。イサムの挑発にまんまと乗っかってしまった二人をみてテテルが笑う。


 「ふふふ、仲が宜しいのですね。私もコアのメンバーに入れて嬉しいです」


 そう言うテテルにエリュオンが近づく。


 「私の方が少し背が高いわ!私の方がお姉さんね!胸も私が大きいし!」


 ぐいっと背筋を伸ばし胸を張る、それをみてテテルも負けじと胸を張る。


 「私も負けてないです!」


 それを見ながら、イサムが子供だなとため息をつく。


 「どんぐりの背比べだな・・・」

 「イサム!それはそちらの世界の言葉ね!でも褒め言葉には聞こえないわね」

 「二人ともこれから成長するさ、今比べても意味が無いって事だ」

 「そんなの分かってるわよ!気持ちの問題よ!」

 「どんな気持ちだよ・・・・・」

 「ぷっぷぷぷ」


 テテルが嬉しそうに笑うのをみて、皆も和やかな雰囲気に戻る。そして南の町ルンドルに到着した。障壁魔法が発動している為、町は薄い膜に覆われている。


 「中央に居るなクモ」

 「居ますね、かなり大きいですね」

 「そうです、なので皆さん丸呑みで食べられてしまいました」

 「お母さん・・まっててね・・必ず助けるからね」

 「余裕よ・・タチュラなんて余裕!」

 「そうニャン・・皆が居るニャン・・・」


 各々と話す中、まだ町の門の前に居る為だろう、向こうも掛かって来る気配は無い。


 「まずはどうしようか、遠距離攻撃が良いって言ってたよな」

 「そうね、タチュラは糸で相手を動けなくするのが得意なタイプよ、だから遠距離からの攻撃に弱いわ」

 「糸が届かない場所からの攻撃か、それだとリリルカ頼りになるな」

 「一応私も妨害魔法で援護します、それだと糸を避けながら近接攻撃も当たるはずです」

 「よし、じゃぁまずは一発でかいのをあいつに頼む。それが戦闘開始の合図で!」

 「うん!わかった!」

 「ミケも頑張るにゃん!」


 その間にメルは、武器を呼び寄せる。


 「ルルル、『ゴリラ』送って」

 『待ってましたーあれ豪快だから好きですよー』


 メルの両腕に前に魔法陣が現れる。その中に両腕まで入れると、地面に触れるほどの大きな腕と手がついた黒い武器がくっ付いて現れた。


 「メルその武器でかいな!」

 「テテルをいじめた罰を与えないといけませんから」

 「いたずらっ子にゲンコツか・・怖いな・・・」


 メルが『ゴリラ』と呼ぶ武器の腕を曲げ、ゴインゴインっと拳を合わせた。そして戦闘が始まる。リリルカが目をつぶり、手を上げるとクモの上空に瞬間的に雲が出来て、雷が落ちる。


 ピカッ!ガガーン!!ゴロゴロゴロ! 


 壮絶な爆音と共に、クモに雷が直撃する。普通の人なら即死レベルだ。


 「それでは行きましょう!」


 メルの一声で、各自が突撃する。


 『ギィィィヤァァァ!!イタイわね!このワタクシに何するのよ!』


 いきなりの不意打ちにかなりご立腹のシム族のクモは、向ってくるメルにクモの糸を吐き出す。


 ビシュゥー!


 噴出され黒い糸にも動じず、それを良く見ながらかわして、握り拳を思いっきりクモの頭に叩きつける。


 ガゴン!


 金属の重い音と硬い物がぶつかる音が合わさり、悲鳴が聞こえる。


  『ギィィィィおまえっぇええええ!よくもやったな!!』


 メルをターゲットに糸を吐き出してる隙をついてエリュオンが足に切りつけ、ミケットがお尻に蹴りを入れる。


 シュッ!キィィィン!ドッゥ!


 「やっぱり硬いわねー」

 「硬いニャン」


 二人に目をやるクモは、ハッと気がついた様に声をかける。


 『エリュオンンン!ミケットォォォォ!あんた達!何で攻撃してくるのよぉぉぉぉぉ』


 元々は闇の魔物の仲間同士だからだろう、不意に攻撃され少し戸惑っている。


 「良いから早くやられなさいよ!」

 「お前に勝ち目は無いニャン!」

 『ぐむぅぅぅぅっぅぅぅ、お前達も食い殺してやるぅぅぅぅるるる』


 完全にキレたシム族のタチュラと呼ばれるクモは、距離をとりお尻を振り出す。すると、お尻の先端から小さなクモが大量に生まれていく。


 「おいおいおい、子グモが湧いてるぞ・・・・」


 イサムはゾゾゾーッと鳥肌が立つ。


 「私が一気に焼却します!」


 そう言うとリリルカは、炎の魔法を放ち火柱が上がる。しかし、それを嘲笑うかの様に炎を上手く避けた子グモ達はリリルカに糸を吹き付ける。


 「ああ゛!!」


 リリルカは一気に糸まみれになり動けなくなる。


 「リリルカ様!いま助けます!」


 テテルが近寄り糸を引っ張るがまったく切れない。


 「オートマトンじゃないから武器も召喚できない・・どうしよう」

 「これを使え!」


 イサムが剣をボックスから取り出し、テテルに渡す。しかしそこへ本体のタチュラがやってくる。


 「イサム避けるニャン!」

 「そう言われても!でかすぎだろ!」

 「私が止めます!」


 メルが『ゴリラ』の両手を開き、タチュラの開いた口を受け止める。しかし両腕が塞がっているのを見逃すはずは無く、前足をメルに向って振るう。

 直撃を受けたメルは腕の武器が外れ、遠くに飛ばされてしまう。


 「ぐううううう」


 飛ばされるメルはかなりのダメージがあったらしい、即座に動けない。そしてその勢いのままタチュラはイサムを丸呑みした。


 「イサム!こんのぉ!吐き出しなさい!」


 エリュオンの大剣をいとも簡単に跳ね除けるタチュラ。予想していた以上に硬い外皮にてこずっている。


 「小さいのが邪魔ニャン!!」

 「イサム様をだしなさい!」


 ミケットとテテルが必死に攻撃しているがタチュラは、まったく動じていない。その間に武器が外れてしまったメルはルルルに連絡を入れていた。


 「ルルル、あいつに挽回のチャンスを与えたいのだけど、用意できる?」

 『あらら、あいつを出すので?かなりお困りですねー。あいつもそのチャンスを待ち侘びていますよー』

 「そうね・・・しょうがないから送って頂戴」

 『了解致しました!!あいつと言うかあいつら送ります!』


 ルルルとの通信が切れると、上空に2メートル程の魔法陣が現れる。そこから白い長方形の箱が下りてきた。そして、その扉が二つある箱から声が聞こえてくる。


 「この機会を、今か今かと待ち侘びておりました。呼び出された事に、我輩感動致しております」

 「そこらへんの小さい奴らを全て倒しなさい」

 「もちろんであります!正常に戻りました我輩に何なりとお任せ下さい!」

 「御託は良いから早くしなさい」


 しかし中々箱から出てこない。


 「・・・・・・・・あのメル様・・・」

 「なによ!早くしなさい!」

 「扉を開けて貰えないでしょうか・・・これは内側から開かないのです」


 ピシッ!と音が聞こえた様な気がしたが、メルは思いっきり白い箱『冷蔵庫』の扉を蹴り開いた。

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