第22話
みんな初迷宮で疲れていたのだろうか、食事を済ましてテントに入ると直ぐに寝てしまった。睡眠を必要としないメルが見張りをしてくれて、イサム達も安心して一夜を明かせた。
「ごめんな、メル。一晩中見張りをさせてしまって」
早く起きたイサムが、テントの外で朝食の準備をしているメルに声をかける。
「おはようございます。気にしないで下さい、オートマトンは寝ることが無いですし、疲れもありませんから」
顔に変化は無いがイサムには、少し寂しそうに見えた。
「そんな事言うなよ。エリュオンもミケットも同じコアなのに寝てるよな、メルもいつかきっとゆっくりと寝れる日が来るはずだ」
何気無いイサムの一言だったが、メルは凄く嬉しかった。
「ありがとうございます。イサム様位ですよ、オートマトンにそう言う事を仰るのは」
オートマトンと言えども、自己意識を持つ彼女は優しく笑う。そんな話をしていても、朝食の準備は着々と進む。イサムはメルの笑顔を見ながら、どうする事も出来ない不甲斐ない自分に少し苛立ちを覚えた。
「ふぁぁーおはよぅー」
「おはよーー」
「おはようニャン・・・・」
朝食が出来上がるタイミングで三人が起きてきた。リリルカの水魔法で、顔を洗った後に朝食を食べ始める。それを見ながらメルが、この先の予定を話し始めた。
「この先二十キロ先に目的地のルンドルがあります。ロロ様の予想では戦闘は避けられないとの事ですが、一つ気掛かりな事があります」
「気掛かりな事??」
「そうです。偵察に向ったオートマトンからの連絡が途絶えたと聞いていると思いますが、その子『テテル』がもし闇に侵食されていた場合ですが、十キロ手前で向こうの索敵範囲に入ると思います」
「十キロ前でこちらに気付くって事か・・・凄いなそのテテルってオートマトン」
「テテルはフェアリー族です。フェアリー族は、索敵魔法と妨害魔法が非常に得意なのです」
すると、エリュオンも考え込んでいる。
「もしそうなら厄介な相手ね・・私もミケットも近接タイプだし・・・リリルカの遠距離魔法でどれ位の距離を攻撃出来るの?」
「私は家の周りが一キロしかなかったから、実践でいきなり長距離攻撃は経験ないよ・・」
「困ったニャン・・・」
三人とも腕を組み考えている。
「とりあえずは、闇に侵食されてるか分からないんだろ?」
「そうです、私も五キロまで近寄れば分かるのですが」
「じゃぁまずそこまで進もう。相手に気付かれてもそうでなくても、戦わなきゃいけないだろうし」
「そうですね、まずは向いましょう」
五人は朝食を済ましテントを片付けた。そして、ルンドルへと向けて歩き出す。ルンドルまでの道は、見渡す限りの平原だが大昔から多くの人が行き交っている為だろう、人や馬車の車輪などで踏み固めた道が舗装されたように続いていた。
そして言っていた五キロ地点でメルが歩を止めた。
「そうですか・・・残念です・・・・」
「どうした?やはり侵食されているのか?」
「そのようです・・・・リリルカ、遠視魔法で見えませんか?」
「やってみるね」
リリルカは片手を目に当てると反対の目に丸い魔法陣が浮かび上がる。
「あれがルンドルね・・・・中央の高い見張り台に黒い服の女の子がいるよ・・・羽の生えた子で目の焦点は合っていない感じだけど・・こちらを向いているみたい・・」
「やはりテテルですね・・・」
「あっ・・あとその見張り台の下!・・・なんだろ・・足が八本の大きなシム族のような」
「タチュラだわ!!!」
「え!タチュラ!?嫌ニャン!関わりたくないニャン!」
エリュオンをミケットがリリルカの話を聞くなり、かなり嫌な顔をしている。
「おい、なんだよタチュラって・・?」
イサムには見えてないので何が居たのかもまったくわからない。
「闇の魔物でシム族のタチュラよ・・・八本足で糸を吐き出し相手を動けなくしてから食べるの」
「それ蜘蛛か!・・うへぇ・・・そんなのも居るのか闇の魔物には・・」
イサムも虫は苦手だった、おまけに話を聞くだけでもあり得ないサイズの大きさである。
「イサムの世界ではクモと言うのね・・・あいつは外皮は硬いし、糸は邪魔だし近接の私達では戦いにくい相手よ・・出来れば遠距離で戦いたい相手ね」
「ふむふむ・・・なるほど・・」
「しかし、その前にテテルを処理した方が良いでしょう」
「処理ってどうするだ?もう向こうは気がついてるんだろ?」
「そうですね・・・ルルルに遠距離の武器があるか聞いてみましょう」
メルはそう言うと、片手を耳に当てルルルに連絡を取る。
「ルルル聞いて・・・・テテルは既に、闇に侵食されていたわ」
『そうですか・・・残念です・・・・で、どうされました』
「今ルンドルから五キロの地点よ、障害物は無し。ここから攻撃できないかしら?」
『それなら、おもしろ・・いえ、長距離に特化した武器があります。魔法を込めて、相手に接触時すると発動する魔導弾を撃てます。二発しか撃てないですが、五キロなら十分当てられる距離です』
「そう、じゃぁそれを送って。魔法はリリルカの浄化魔法を弾に込めればいいのね?」
『そうです、弾を握って魔法を込めて貰えば大丈夫です』
「分かったわ」
『残念ですが・・・これしか方法が思いつきません・・・では、通信終了後『リュウグウノツカイ』をお送りします。』
「そうね・・・いい子だったのに・・悔しいわ・・・じゃぁ、お願いね・・・」
メルは通信を切ると、重なった二つの魔方陣が回りながら離れて行く。その中から銀白色で平べったく長い魚が現れる。全体が現れると紅色の背鰭と胸鰭と腹鰭をピーンと伸ばして斜め垂直に立っている。口は下あごが突き出ており、そこから銃口が見える。尻尾まで紅色の背鰭が六メートル程続いて、その尾っぽ部分に引き金があるようだ。
「こ・・・これ・・リュウグウノツカイじゃないのか?」
イサムがたまにテレビ等で話題になる深海魚じゃないかと口にする。
「良くご存知ですね、これは長距離狙撃銃の『リュウグウノツカイ』だそうです」
「狙撃銃って・・・・凄いの作るな・・・」
イサムには、作り手のセンスがまったく分からなかった。
「リリルカ、この弾に浄化魔法を込めて下さい」
そう言うとメルは、銀色で缶コーヒー位のサイズだろう弾をリリルカに渡す。
「良いよー、この中に向って念じればいいのかな」
「それで良いと思います」
「いや、ちょっと待ってくれ!」
リリルカが魔法を発動しようとしたが、イサムが急にそれを止める。
「どうしたのイサム?」
「ちょっと聞きたいんだが、浄化魔法の弾をそのテテルに当てるとどうなるんだ?」
「テテルのコアに直接当てます。闇に完全に侵食されたあの子の魔素は浄化されて、コアのみロロ様の下へ帰るはずです」
「てことは、あの子を殺すって事か?」
「それしか方法が無いのです」
「この銃は弾は何発撃てるんだ?」
「二発です、それ以上は撃てません」
「そうか・・・なら、試して貰いたい事がある」
イサムは、もしかしたらと思った事を皆に伝える。
「この前の獣人の城での戦闘で、蘇生のスキルレベルが一つ上がったんだ。もしかしたら、あの子を救えるんじゃ無いかと・・・もしかしたらなんだが・・・」
「なるほど、あの子のコアに直接蘇生を撃ち込むわけですね・・・でも成功するかは分からないですね」
「ああ・・・だから最初の一発目は蘇生を撃ち込んで、ダメなら浄化じゃ・・間に合わないか?ただ、そうするとロロルーシェのコアが俺のコードに書き換わるかもしれないが」
「いえ・・・そういえば、エリュオン達を呼び寄せたり保管出来るって言ってませんでしたか?」
「そうそう、保管ってあったな。エリュオン、この保管って意味通りだよな?」
「そうよ、コアをイサムが保有しているボックスに保管するのよ。保管されると仮死状態みたいな感じになるのかしら・・・私にはして欲しくないわ・・」
「ふむ・・・じゃぁ蘇生弾を当てて、あの闇に侵食されたコアを直接蘇生した場合は、コードが書き換わって保管が使えるかもしれないな」
「やって見ないと分からないですが、試してみる価値はありそうですね。私も出来ればテテルを救いたいです・・・あの子は凄く純粋で良い子なのです」
メルが悲しげに言う。ならば尚更とイサムも弾を受け取り蘇生魔法を込める。弾が輝きだし、魔法が封じされている証に光が継続してぼんやりと輝いている。
「よし、これで良いかな」
「私も出来たよー」
リリルカも浄化魔法を込めてメルに渡す。若干蘇生魔法の方が、弾の輝きが強いみたいだ。
「では、始めましょうか」
メルはそう言うと、『リュウグウノツカイ』中央付近にある側面より弾を入れ後方に移動する。空気抵抗や様々な抵抗を受ける弾を『リュウグウノツカイ』が自動で計算するらしいので、メルは標的に照準を合わせて撃つだけである。
後方にうつ伏せに寝転び銃を構えるメル。それを見ながら皆が思い思いに声を漏らす。
「カッコいいわね」
「決まってるニャン」
「メルかっこいい・・・」
「いや・・シュール過ぎるだろ・・・・」
深海魚を銃として作る製作者もそうだが、それを平然と構えて狙うメイド服のメル・・イサムには、この世界のカッコ良さを理解するにはまだまだ時間が掛かると思った・・・。
「イサム様、保管の準備をお願い致します。必ず成功しますよ!」
銃を構えながら、メルはイサムに伝える。
「ああ!準備完了だ。宜しく頼む」
「行きます」
そう言うと、メルは引き金を引く。『リュウグウノツカイ』の目が光り下あごの銃口から弾が発射される、シュポッと音がしてキィーンと耳鳴りがする。それでもコアストック画面から目を離さない。そして遠視魔法で見ていたリリルカの声が聞こえる。
「メル!テテルに命中しました!」
「まだ表示されない!待ってくれ」
「取りあえず浄化弾の用意をしておきます、リリルカ合図をお願いしますね」
「成功しろ・・・成功しろ・・」
「苦しんでるのかな・・・白い靄が・・・」
周りもリリルカ以外は見えていないが、成功を願っていた。そして声がする。
「イサム!白く変化したよ!」
そして、コアストックに表示される『テテル』の名前。
「今だ!」
イサムは保管をタップした。
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