第21話

 各自が準備を終え、家の前に集まる。魔法でアイテムボックスに収納できるので、手荷物などは無い。

そこへロロルーシェとノルも見送りに出てくる。


 「イサム、いくら頑丈でも武器はあった方が良いだろう。これを持って行きなさい、イサムが装備できる武器をマコチーに調達して貰った。余程気に入られたようだな」


 「マコチー・・・ありがとう」


 イサムはそう言うとロロルーシェから一振りの剣を受け取る。


 「何やら知り合いの名工が作った剣で、エク・・・」

 「まさか!エクスカリバー!?」

 「いや、エクレアと言う剣らしい」


 よく見ると、確かにチョコレート色の鞘に刀身が薄っすらと黄色味のかかった味わい深さがある。


 (お菓子かよ!)


 「いや、マジで!嬉しいけど!なんか・・・強そうなイメージが湧かないぞ・・マコチー・・・」

 「イサム安心して、私が指南してあげるわ!」


 エリュオンが腕組みしながら頷く。


 「お手柔らかに頼むよ・・・」


 案外、自分にピッタリなのかも知れないと一応ボックスに収納した。


 「それと、出かける前に私とフレンド登録を済ましておこう。ルルルが言うには、それで君とも念話が出来るらしい」

 「それは便利だな!早速登録しよう!」


 そう言うと、メッセージが送られてきた。


 『ロロルーシェ・ノーツさんとフレンド登録しますか?』

 『Yes / No』


 「もちろんYesと」


 そうイサムが言いながらYesをタップすると、フレンドリストにNewの文字を確認する。しかしよく見ると、初めてフレンド登録をしたのに2/999となっていた。


 「ん?おかしいな他にも誰かとフレンドになっているのか?」


 この世界にフレンドは居ないので、フレンドリストを見ることが無かったイサムは、恐る恐るリストを開く。


 『イシュナ・ドラグリア』

 『ロロルーシェ・ノーツ』


 知った名前だった。ここには居ない、いや・・・いるはずの無い名前だ。


 「い・・・・・イシュナだって!?・・・何で『イシュナ・ドラグリア』がフレンドリストに!」


 驚くイサムにロロルーシェが追い打ちをかける。


 「何だ、イシュナを知っているのか?彼女は、二千年前に大戦で活躍してくれた異世界の戦士だ」

 「二千年前!?・・・知ってるも何も・・・・短髪赤毛で竜人の女性じゃないのか?」


 イサムは同様を隠しきれない。何故ならイシュナとは、三年前にサービスが終了したオンラインゲームで、イサムが六年間の間使用していたキャラクターだからだ。だが二千年前に何故彼女が居たのかが分からない。


 「ふむ、容姿や種族を知っているという事は、人違いでは無いらしいな」

 「異世界っていう事は、ロロルーシェが呼び出したのか?」

 「いや二千年前に突如、大陸北のエルフの森で大きな魔素を感じて、調べに行った時に出会ったんだ。だが、こちらに来る前の記憶はない様だったな」

 「そうなのか・・・でも何故異世界からだと思ったんだ?」

 「この世界には、竜も竜人も居ないからな。まぁ、彼女と知り合った後、彼女と仲の良くなったオートマトンが私に頼み込んで竜へと姿を変えた以外にはな」


 謎が謎を呼ぶ話に、イサムも混乱する。


 「ちなみに、過去に行く魔法ってあるのか?」

 「いや、作れない事は無いだろうが、今は存在しない筈だ。存在していて、私が知らないだけかも知れないが。もし誰かが過去に戻れば、そこから時間は別の道を創り出し、今存在する元々の時間とは違う道を進むだろうな」

 「なら、この世界が別の道の可能性は?」

 「それも無いだろう。時間魔法は、異世界召喚魔法と同じく魔素を多く必要とする筈だ。使用すれば必ず気が付くはず」

 「そうかぁ・・まぁ会って見ないことには分からないな」

 「そうだな、しかし私の人形の方は随分と連絡がつかない状態だからな・・・」


 イサムもフレンドリストのイシュナは灰色の文字で連絡できないようだ。


 「コアが戻ってきてないなら、どこかで生きてるかも知れないし必然ならいずれ会うだろう」

 「それもそうだな。もし外で会うことがあれば、たまには顔を出せと言っておいてくれ」

 「了解だ、今は考えても意味無さそうだし。ついでに他のメンバーもフレンド登録しておこう」


 リリルカとメルは登録出来たが、エリュオンとミケットはイサムの保有するコアの性質なのかフレンド登録出来なかった。イサムも気持ちを切り替えて、いよいよ出発する。


 「今回ノルはお留守番だ。メル、みんなを頼んだぞ。」

 「畏まりました。お任せ下さい」

 「行って来るねー!」


 そう言うと、五人は迷宮入り口に歩いていくのだった。ノルは少し不安そうにメルを見ている。


 「ノル、今回の旅でメルも少しは成長するだろう」

 「はい、そうだと言いのですが・・・」


 共に行動することが多いノルとメルは、姉妹と言うこともあり、やはり姉に頼ってしまう所があるとロロルーシェは考えていた。今回の旅で少しは自分が引っ張っていく、そんな指導力を養って欲しいとノルと相談して決めたのだった。


 一方、内壁の見えない扉まで来たイサム一行は迷宮に入る。


 「本当だ、壁ばかりで完全に迷宮になってるのか」


 扉をくぐると直ぐに直角に曲がった壁に阻まれる。そして壁伝いに進むと壁、また進むと壁と迷路が永遠と続いている。


 「二千年かけて作り上げた迷路ですからね、冒険者にとっては自分を鍛える良い場所になり得ると思います」


 少し誇らしげにメルは答える。その表情も嬉しそうだ。しかし今回は迷宮探索では無いので、メルが記憶している南の町ルンドルへと急ぎ向っている。途中噴水のある場所で休憩し、予定通り夕方には南の入り口へ到達する。


 「今日は少し先にテントを張り休みましょう。明日にはルンドルに到着します、戦闘の可能性もありますので、十分休養しましょう」


 メルが指示を出し、他の4人が準備を始める。今回はメルがリーダーだと言わないでも分かっている様だ。当たり前のようにみんな動いている。

 二つのテントを出し、メルとリリルカ、イサムとエリュオンとミケットで分かれる。イサムは一人で寝たいと言うが、どうしてもイサムと離れたくないらしい。


 「本当になんでなんだろうな・・・・普通に一緒に寝てる俺も俺だが・・・・」


 慣れは怖い。イサムはそう思いながら、夜は更け次の朝を迎えるのだった。


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