第20話
朝になり、ゆっくりと目を覚ますイサム。夜中の事もあり、良く眠れたのかどうか分からないボーっとした感じで意識が覚醒し始める。すると、またベッドの中に居るだろうと思っていた二人の姿は無く、扉の向こうがバタバタと騒がしい。
イサムはゆっくりと扉を開けると、リリルカとエリュオンとミケットが、あれじゃないとかこれじゃないとか言いながら騒いでいる。
「おはよう。どうしたんだ?そんなにバタバタと慌てて・・」
「おはようイサム!旅の仕度だよー!」
「旅?誰が旅するんだ?」
走りながらリリルカが答える。唐突に旅と言われても、寝起きの頭に直ぐには入ってこない。
「決まってるじゃない!あたし達よ!イサムも早く準備して!」
「あぁ俺達ね・・・旅かぁ・・そういえばしたこと無いな・・」
イサムには今まで旅をした記憶が無い。ゲームの世界なら相当旅をしたが・・。
「まだ寝ぼけてるニャン!早く起きるニャン!」
肩をつかまれ揺らされたイサムがようやく意味を理解する。
「はぁ!?旅?何処に!何でなのか説明してくれ!」
イサムが混乱している所に、ノルが食事が出来たと伝えにきてくれた。
「イサム様おはようございます。朝食の用意が出来ております、ロロ様も居りますのでそちらへ」
ロロルーシェも居るそうなので話を聞いてみようと食事の部屋へ向う。
「おはよう、イサム。騒がしいだろう」
「お・・おはよう。旅って何の事なんだ?」
夜中の事もあり、少し言葉が詰まったイサムだったが、ロロルーシェに変わりが無いので特に気にしないようにする。
「それの事だが、南の町ルンドルで少し闇を感じてな。調査に行ってもらおうと思う」
「ルンドル?もしかしたら獣人の城のようなものじゃないだろうな?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。行ってみないと分からない状態だな。偵察の人形と連絡もつかないし、もしかしたら既にやられているか、乗っ取られてるかもしれないな」
「なんだか曖昧だな」
「そうなんだ、何と言うか君らの世界で電波妨害と言うのかな。上手く察知できないのだ」
「なるほど、それでオートマトンを送るよりは直接見に行った方が良いのか」
「その通り、それに君らのレベル上げも兼ねているからね」
たしかに獣人の城での戦闘後ステータスを確認したらLv1からLv13まで上がっていた。
「まぁ食事しながら聞いてくれ、少しこの大陸の話をしよう。ここの大陸名は『東の大陸:バルザナ』と言われている。そして『西の大陸:コーラスワード』があり、私は西の大陸で生まれ育ち一万年後に東の大陸に移った。それ以降見に行っていないので西がどうなっているかは分からないが、大陸が二つに分かれたと聞いたな・・」
「ふむふむ。この世界には大きな大陸が二つあるわけだ」
「そうだ。そしてこのバルザナの中心にあるのがこの迷宮「ロロの大迷宮」だ。まぁ私が造ったから私の名前をただ付けただけだが、その迷宮の四方に入り口があり南に位置する町にルンドルと言う町がある」
「四方に入り口って事は、残りの三ヶ所にも町があったりして?」
「ふふふ、四方何処からでも進入出来るようになっているから、冒険者が集まればやはり町は自ずと出来るらしい。商人たちはそこに集い町を作り冒険者達から金銭を稼ぐ、大したものだよ彼らは」
頷きながら、ロロルーシェは話を続ける。そこへ準備の終えたリリルカもやって来て椅子に座る。
「取りあえずは準備終わったよー」
「丁度良かった。リリルカに話しをしないといけない事がある」
「ん?なにかな?」
「お前の母親の事だ」
「お母さん?私が生まれた時に亡くなったって言ってたよね?」
「そう、その時はそう言うことにしていたのだ、お前の母親とな」
「え!?お母さんは死んだんじゃないの?」
「いや、お前の母親は南の町ルンドルで宿屋の主人をしている。名前は『リリィ・フェルラーン』と言う」
「えー!お母さんが・・・生きてる・・・・!」
「そうだな・・・十九年前の事だが、この大迷宮で唯一八十八階層まで辿り着いた冒険者たちがいてな、それがリリィ・・お前の母親がいた冒険者六人のメンバーだ」
「八十八階層・・・とても凄いことだよね?」
「そうだ、偉業と言えるだろう階層だろうな。約二千年辿り着けなかったのだから・・だか、そこに闇の魔物が現れた。それを感知して駆けつけたが、五人が死亡しリリィだけが生き残ったのだ・・・そして名前を聞いて驚いた。私の妹、ナタシャの子孫だったでは無いか・・・・」
「おばあちゃんの妹さんの子孫・・・」
「そうだ、ナタシャの子孫は大昔にバルザナに移住したらしく農業を営んでいたが、リリィはそれが嫌で冒険者になったと聞いた。私は不老不死になり子供が埋めなくなったが、闇と戦うにはどうしても私の遺伝子を継いだ子供が必要だと考えていた為、私の細胞と適合率が高い私の妹の子孫にお願いして、子を宿して貰ったのだ」
「ってててことは、おばあちゃんがお父さん??」
「はははっいやいや、私はリリルカの祖母であり父親ではないだろうな、母親だけで妊娠して出産したと考えた方が良いかも知れない」
笑いながらロロルーシェはリリルカの頭を撫でる。
「リリルカが独り立ちして自分の身を護れる様になるまでは話さないとリリィと二人で決めたのだ。もし私の遺伝子を継いだ子を、宿した女性と知れれば闇に狙われる可能性もあったし、勿論リリルカも狙われる可能性もあったからな」
「確かにロロルーシェの子を宿したと言うだけで狙われる可能性はあるな・・・」
話を聞いていたイサムも腕を組み頷いている。
「まぁ・・・今それが予想した方向に向いて、彼女が狙われたのかもしれないが」
「じゃぁルンドルが闇にって言うのは、お母さんが狙われたの!?」
「直接攻撃出来ないなら外から攻めようって事だろうな。誘き出す餌にされたのかも知れない」
「そんな・・・・」
酷く落ち込むリリルカ。
「で、闇を感じたのは昨日なんだろう?ロロルーシェ」
「そうだ、だから朝早くから旅の仕度をさせている」
ならばとイサムはリリルカに話す。
「リリルカ!行って見なきゃ分からないが、今から行けば間に合う可能性があるからロロルーシェは準備させてるはずだ。それにもしもの事があっても、俺が居るじゃないか。蘇生が使える俺が」
イサムはリリルカに元気出せとニッコリ笑ってピースサインをする、そして少し涙目のリリルカが微笑む。
「ふふふ、ありがとうイサム。でもその仕草は何?イサムの世界では意味のある仕草なんだよね?」
どうやらこの世界ではピースサインが通じないらしい・・・。
「え・・・えっと、任せろって意味だ!」
「その意気だイサム、リリィがもしもの時は頼んだぞ。あいつの事だ、おそらくは大丈夫だと思うがな」
ロロルーシェもイサムに蘇生させるつもりだったようだ。大丈夫と言うのは、強い冒険者だからと言う意味だろうとイサムは納得する。
「任せとけ!一気に闇のやつらを片付けて、リリルカの母親にもカッコ良い所見せてやるぞ!」
ロロルーシェの妹の子孫であり、リリルカの母親と言うことでかなりの美人だとイサムは期待していた。
「では、準備が出来たらまずは迷宮を徒歩で出る事になる。メルに護衛させるから、夕方には南の入り口に到着できるだろう」
「随分と時間がかかるんだな」
「そうだな、一番上の階層とは言え迷宮だ。魔物の居るし、入り組んでいるのはどの階層も変わらない。まぁ初心者が鍛える場でもあるし、憩いの場もあるからここを挑む冒険者には危険ではないがな」
(たしかに一番上の層の難易度が高ければ誰も下に降りれないな・・)
「今回はメルが先導してるから迷わず外に出れる、目的はルンドルだからな」
余りのんびりするなよと釘を刺されたような気がしたイサムだが、子供の頃の遠足の様なワクワク感が沸きあがっていた。
「よし、じゃぁ俺も準備をすましてルンドルにさっさと行こうぜ!」
気合を入れるイサムとリリルカを見るロロルーシェは、問題ないと安心している。話している間、廊下でエリュオンとミケットが走り回っていたが、それ程自分達の荷物が無いと気が付いて座り込んだ時間と同じ位であった。
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