南の町ルンドルとリリルカの母
第19話
昇降機が地上に到着し、ロロルーシェの家へ向うと入り口の前に彼女が待っていた。帰ってくるのが分かっていたのだろう。
「おかえり。いい服を手に入れたなイサム」
「ただいま! ロロルーシェ! 素材をマコチーに提供してくれたって聞いたよ、ありがとうな!」
服の着心地も良く、異世界に来て服に不満があったイサムは感謝の言葉をロロルーシェに伝える。
「ふふふ、お安い御用さ。みんなもおかえり、疲れただろう中に入りなさい」
すると家の中から扉を開け、メルが出てきた。
「おかえりなさいませ、夕飯の仕度ができております」
「ありがとうメル! もう大丈夫なの?」
リリとルカが心配してメルの顔をじっと見つめる。
「ご心配をお掛け致しまして、誠に申し訳御座いません。浄化処理を受けて、無事に回復致しました」
夕暮れになり、取りあえず中に入りましょうとメルに言われ、家に中に入る。数日だが、懐かしいそんな感じの明るい部屋が出迎える。すると、ロロルーシェがリリとルカの方へやって来る。
「二人とも、この首飾りをつけなさい。」
そう言うロロルーシェは、二人に銀色と金色の半月同士がくっ付いた様な玉がついた首飾りを渡す。
「それは融合魂玉と言う魔具だ。二つに離れた命を合わせる効果がある」
「良かった! やっと戻れるな!」
責任を感じていたイサムも喜んでいたが、だが当の本人達は余り元気が無い。
「ん? どうしたんだ二人とも? 嬉しく無いのか?」
「嬉しいよ、嬉しいけど…」
「なんか姉妹が増えみたいで、楽しかったからね…」
「なるほど…そうか……そう言われると、二人でいつもはしゃいでいたな…」
「体が別々に蘇る事なんて実際に体験出来ないものね…」
エリュオンも責任を感じているのだろうか、言葉足らずだが会話に入ってくる。しかし、ロロルーシェが一人に戻す理由を説明する。
「貴重な体験だが、このまま体内魔素が不安定な状態を維持すると、いずれリリかルカ…もしかしたら二人とも魔素の海に引き寄せられて消滅してしまうからな。その場合は、片方消えた場合でも経験した記憶は融合せずに消えてしまうだろう」
「そんな…」
「そうなの…?」
リリとルカは哀しそうに見つめ合う。
「だからこの首飾りで強制的に元の体に戻さなければならない、ただし意識は二人ともあるはずだから体一つに心が二つの状態に暫く続くだろうがね」
「その暫くってのはどれ位なんだ?」
「それは私にも分からない。数日後か数年後なのか、だがそれのせいでリリとルカの精神に影響する事は無いだろう。徐々に二人の魔素が融合していくが、元々は一人だったからな。それに悪い事ばかりじゃないぞ、二つの精神があるから、魔法の発動時間は半分なのに様々な経験は二倍だ」
「そ…それに! 姉妹が居なくなるみたいな感じだろうけど…私達もいるわ! もう姉妹みたいなものよ!」
「ふふふ、ありがとうエリュオン。すごく嬉しい」
「リリルカに戻るだけだし、悲しい気分じゃないわ。でも、ありがとうエリュオン」
リリとルカがエリュオン感謝の気持ちを言う。あれだけルカとエリュオンは言い合いをしていたのに、数日一緒に過ごして、何かが芽生えたようだ。
「べ…別に感謝しなくてもいいわよ…」
イサムはウンウンと感慨深い気持ちでうなずいた。
ロロルーシェから受け取った首飾りを、リリとルカは「せーの」の掛け声で装備する。そして淡い光が二人を包み込むと、徐々にその光が強くなりそして二人を大きく包み込む。
イサム達もその眩しさに目を細めるが、光の中を見通すことは出来ない。
ほんの数秒だろうか、徐々に光が治まってその中に一人の女性が立っている。リリルカだ、銀色と金色の髪が艶よく光り、二人のときよりも若干大人びた感じを見せる彼女は優しく微笑んだ。
「うん…可愛いな」
ついイサムは声に出てしまった。後ろからエリュオンが「何を言ってるの?」と服を引っ張るが、リリルカは顔を赤らめて照れている。
「よし、ひとまずは問題なさそうだな。リリルカ気分はどうだい?」
ロロルーシェは、一人になったリリルカに状態を尋ねる。
「なんか不思議な気分…元々一人だったのに、二人が共存してる感じって言うのかな…上手く言葉では言えないや…でも嫌じゃない感じ」
「そうか、なら問題は無いはずだ。流石は私の孫だな、ではまず食事にしよう。新しい仲間とも話がしたいからな」
ミケットを見ながらロロルーシェは食卓へと歩を進める。入り口の部屋を抜け、食事が用意されている部屋に入ると、豪華な夕食が用意されていた。
上座にロロルーシェが座り、隣にリリルカが座る。そしてリリルカの前にイサムで、その隣にエリュオンとミケットが座った。ノルとメルは、水を注いだり食事を切り分けたりしている。
「それでミケット、君は誰かに指示を受けて獣人の城を狙ったと聞いた。エリュオンとも面識があったようだが、闇の魔物達はお互いを意識して存在しているのか?」
「そうニャン。ミケ達は、コロニーと呼ばれる幾つかのコアがくっ付いた状態で闇の中に漂っているニャン。その中で、偉そーな奴がたまに来て指示を出してるのを見てるニャン」
「その偉そうなやつと言うのは?」
「ミケ達はコア同士で認識してるから姿や形は分からないニャン…でも【ダジュカン】と呼んでいた気がするニャン」
「ダジュカン…聞いた事は無いな…」
ロロルーシェも自分の記憶を探るが、ダジュカンと言う名前は出てこなかった。
「あーそれで思い出したわ、そのダジュカンが言ってたのが【ルーシェ】様って奴なのよ」
「ミケも聞いたニャン! ルーシェ様のご命令を伝えるとか言ってたニャン」
「おばあちゃんに似た名前が付いてるのね」
「ふむ…そうか…それは今後調べてみよう」
ロロルーシェは言葉重くそして深く考え込むように言葉を伝えた。話しながらも食事は進み、食べ終わる頃にそろそろお風呂と言う会話が聞こえてきた。
イサムは今度こそ一人で入りたいと思い、後で入ると伝える。
「イサム、もう一度入った中じゃないか。二度も三度も変わらんよ。見えないようにして上げるから」
「いやだ! 今度こそ一人でゆっくりと入りたい!」
「イサムと入りたいニャン!」
「私は別に入ってやらないでもないけど」
「私は…その…別に…」
ミケットは置いといて、他のメンバーは一度みんなで入っている事もあり、おまけに見えたくない場所は魔法で隠してあるのでそれほど気にはしていない。
「いやだ! 見えなくても…いや! 寧ろギリギリ見えない方が余計に気になるわ!」
「はっはっは! 気になるなら魔法を解除してもいいぞ」
「おばあちゃん! それはだめ!」
「ミケはイサムなら問題ないニャン!」
「わ…私も…いいわよ!」
「良くない! 良くない! 何考えてんだ! 俺は一人で入るぞ!」
それが当たり前だとイサムは反論するが、ロロルーシェの一声で話は進む。
「ノル! メル! お前たちも入るぞ、イサムを持ち上げて連れてくるように!」
「はい、了解致しました」
「はい、畏まりました」
「おいおい、了解するな! 畏まるな! 俺は一人でゆっくり入りたい!」
そう言うイサムを力で勝るノルとメルは両脇から腕を抱え、そのまま露天風呂へと連れて行くのであった。
「おい、ちょっ…まて! おい! お――――い――…」
●
その夜。みんなが寝静まった頃にロロルーシェの部屋の扉を叩く音がする。
コンコン
「入っていいぞ」
「ロロルーシェ…夜分にすまない」
「イサムか、どうしたんだ?」
入浴後でもあり、寝間着に着替えたロロリューシェは色っぽく見える。
「あぁ…いや…ちょっと良いか?」
「どうしたんだ、改まって。遠慮せずに中に入りなさい」
「お…おぅ……」
部屋の中に入り扉がしまる。柔らかなお香の匂いで部屋が暖かくそして包まれるような感覚に不思議な気分になる。部屋を見渡すと中は、書籍や様々な魔法の道具など、分けのわからない物が沢山置いてあった。
「みんなの居るところじゃ聞けないことがあってな…」
「そうか、何の話が聞きたいんだ?」
椅子に座って本を読んでいたロロルーシェが、本をテーブルに置きこちらへ向く。
「獣人の城で気を失った話を聞いたと思うが、その時に夢を見たんだ」
「ほう、一体どんな夢だった?」
「見慣れない町…獣人の町よりも遥かに文明が進んでいる場所に、小さな女の子と手を繋ぎロロルーシェと三人で歩いてるんだ。俺は少し大人びた感じだったが……あれは何だったか聞きたくて…」
ロロルーシェは少しだけ目を閉じ、何かを考えているのか息を吸い込みそして目を開ける。
「その夢を見たのか、恐らくは【蘇生】の基礎を作った者の記憶だろう」
「基礎? てことはロロルーシェが作ったわけじゃないのか?」
「その夢の男性が蘇生の基礎を作り、私が作り上げたと言ったほうがいいかな。私の夫だった人で、名前はルドガーだ」
「えっロロルーシェ結婚していたのか?」
「ふふふ、もちろんだ。二万年も前の話だがね…そこ女の子は私の子【ルーシェ】だろう」
「ルーシェって、食事の時にエリュオン達が言ってた闇の?」
「おそらくはそうだろうな。コアの初めての人体実験で、私達は病気で死んだ実の娘を使ったのだ。そして実験は成功して、コアの命を繋ぎ止める事に成功した」
「そうだったのか…じゃぁ何で闇の方にいるんだ?」
「夫が…ルドガーがな…闇の王を生み出したんだよ。娘をコアから蘇らせる為に、様々な実験をしたらしい、その時に生み出されたと聞いたが…真意は私にも分からない…」
「そうか…でも、その不老不死は?」
「私は彼の罪を、そして娘を人体実験でコアに留めた罪を今も背負っている」
「長く生きることで、自分に罰を科しているのか」
ロロルーシェは目を瞑る。
「そうだな…それもあるテンそして、闇の王を倒す事が私の役目だ」
「そのルーシェの存在は知っていたのか?」
「いや…あの日…闇の王が生まれた日にルーシェのコアも消えた。もしかしたらと思っていたが、二万年も時を過ごしていたとは、私は本当に娘になんと言っていいか…」
少しだけ涙ぐむロロルーシェにイサムは話しかける。
「ノルが言ってたよ、コアから生き返らせる事が出来たとしてもロロルーシェの傍に居たいと。もし償いたい謝りたいと思うのなら、まずは闇からルーシェを助けてその後考えよう」
「ありがとうイサム…少し強くなったんじゃないか?」
「そんなことは無いよ…あの時は、人を殺して生き返らすなんて理不尽な事を強制的にさせる、最悪の魔法使いだと思っていた。でも、どんなに理不尽でも人と違う力を持っていても、それで救われる人が居るならそれで良いと思う。目の前で死んでいる人を見て助ける力があれば、やはり俺はその力を躊躇無く使うと思うんだ」
「そうか…すまないな、君にも迷惑をかけるが…これからも頼むよ」
「気にするなよ。この世界の方があの世界よりもよっぽど充実してる。夢なら覚めない方が良いな」
「ははは、そう言ってくれると呼び寄せた私も救われるよ」
「本当に救われるのは、闇の王を倒して、ルーシェを助けて、そして不老不死から開放される事じゃないか?」
「若いくせに良く分かってるじゃないか。夫のルドガーみたいだな」
「その蘇生の記憶って奴に影響されてるのかもな、それじゃぁ部屋に戻るよ。話しをしてくれてありがとう」
そう言って、イサムが部屋を出ようとした時だった。
「イサム、昔話を聞いてくれたお礼にまじないを掛けてやろう、また不安になった時に護ってくれるまじないだ」
「それは助かる、じゃぁ宜しく頼む」
「では、目を閉じて気を楽にしてくれ」
イサムは目を閉じリラックスした状態で立っている。お香の効果もあるのだろう、かなり落ち着いていた。
すると、少しだけ体が温かく感じた。そして自分の唇に触れるやわらかい感触に一瞬反応するが、それがまじないの所作なのか、それ以外の何を意味するのかはイサムには分からなかった。ただ、かすかに残るその感触が心地よく、そして何とも言いがたい高揚感を与えてくれた。
「おわったぞ」
「あ…お…おう。ありがとう、それじゃぁおやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言うと、イサムは部屋に戻っていく。扉が閉まり部屋に戻っていく足音を聞く、ロロルーシェはそのまま目を瞑りその目から涙が零れる。
「ルーシェがまだコアに…もしかしたら助けられるのかもしれない…それに…イサムの夢…いや…あり得ない…幾ら顔が似ていても、この世界には生まれ変わりはないのだから…」
涙はロロルーシェの頬をつたい落ちる。遥か悠久の時を越え初めて感じる希望の光に、ロロルーシェはその涙を止める事が出来なかった。
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