番外編 ルルルと武器開発室

 大迷宮の第十層には各階層を管理するオートマトン達のメンテナンス室がある。

 その他にも、オートマトン製造室、性能向上研究室など様々なオートマトン達のオートマトン達によるオートマトン達の為のフロアと言っても良い程の建物が複数建てられている。


 そのフロア一角にある建物の中に、構える一部屋【オートマトン武器開発室】ここでは日夜オートマトンが使用する武器の開発が行われている。


「いやぁーアノマロカリス凄かったねー!」

「異世界数億年前の生物! あれは反則でしょ! 振り回す度にメル様が凄い事になってたよ!」

「いやいや、もう少し本体から伸びる鰭を改良したら攻撃範囲増えなくない?」


 武器開発担当のチャンとリンとシャンは、先日の獣人の城での戦闘で使用した武器の話で盛り上がっていた。二千年前の大戦に参加したチャンが死亡してオートマトンになり、その後戦災孤児で亡くなった妹のリンとシャンをルルルに頼み込む形でオートマトンになった経緯により、一緒にルルル担当の武器開発室で苦楽を共にしている。


 視覚魔法で異世界の観察をしながら、異世界の武器の研究や異世界生物を模した性能の高い武器などを製作する事で三人の評価も高いが、やりすぎる事もありルルルにはそれが悩みの種でもあった。


 挙句の果てには、武器開発室を異世界『日本』の古民家を取り入れた改築を勝手に行い、初めて囲炉裏やかまど等を見たルルルは、ヒューズが二本ほど飛んだと言う逸話がある。


 その開発室に足音が近づいてくる。


カツ カツ カツ


「やばい! ルルル様だ! 隠れろ! 閂(かんぬき)を忘れるな!」


 長女のチャンが一声掛けると、一斉に他の二人が大戸口に閂を掛けの各場所へ隠れる。


バキッ


ガラガラガラ


 大戸口に掛けてあった閂がくの字に折れ大戸口が開く。


「……」


 キョロキョロと部屋の中を見渡すが誰もいない。だが気配は十分にある。それを知っているルルルは土間へと上がりそのまま床に土足で上がる。


「あっ…土足厳禁です…」


 小さな声が囲炉裏の中から聞こえる。ルルルは近づき、そのまま囲炉裏の横についている取っ手を引き上げる。そこには人が一人入れる程の空間があり、チャンがしゃがんで隠れていた。ルルルは見下しながら、一言チャンに話す。


「出てきなさい」


 チャンはさっと囲炉裏から飛び出して床に正座する。つぎにルルルが向ったのは、土間にある水瓶である。柄杓の乗った蓋をそのまま開けると、リンがしゃがんで隠れていた。


「出てきなさい」


 リンはさっと水瓶から飛び出してチャンの隣に正座する。つぎにルルルは上を見上げると、入り口の上にいるシャンを見つける。


「早くおりて来なさい!」


 シャンはさっとしがみ付いている柱から手を離すとリンの隣に正座する。ルルルは土足のまま床に上がり。三人の前に立つ。「土足は…」と言うチャンの声など無視だ。


「何故私がここに来たか…分かるわね?」


 ルルルの冷たい言葉に三人は身震いを一つして、チャンが答える。


「えっと……な…なんでしょう…?」

「とぼけないで!」


バキッ!

 

 ルルルが右足で地団駄を踏み床に穴が開く。

 

「ヒィッ!」


 チャンの悲鳴が上がる。リンとシャンは下を向いてガクガクと震えている。


「ロロ様に怒られたわ……何故だと思う!」

「えと…ア…アノマ…ロカリスですか?」


 武器の事だと分かっていたが、その武器の使用許可を出したのはルルルなので、チャンも少し反発しようとする。


「で…ですが、メル様へお送りしたのはルルル様ですし….」

 

 バキ!


 左足の床も穴が開く。


「口答えしない! 階層警備に回すわよ!」

「そ…そんな殺生な!」


 怯えるチャンを庇うようにリンが口を開いた。しかし、それも怒れるルルルには火種にしかならない。


「あの性能は何? 最終試験段階では、あそこまで汚染を及ぼす程の武器では無かったはずよ! 製造時に弄ったわね?」

「えっと…そ…それは、ちょっと…もう少し威力が強い方が効率が上がるかと思いまして…」


 それでも口答えをするチャンの両頬をルルルは片手で摘む。チャンは唇を尖らした様な顔のまま、人なら涙を溜めているだろう顔をしている。


「いい、良く聞きなさい。私達は闇の魔物と戦っているの、普通の魔物ではなくね。その闇の魔物を倒し返り血を浴びれば汚染されるわ、だから成るべくなら血を浴びない方が良いのは分かるわね?」

「ふぁ…ふぁかりふぁふ」

「よろしい、じゃぁあの武器はなぜあれほど血を浴びる設定にしたのかしら?」


 ルルルがチャンの頬から手を離し突き破った床から足を抜き、土間へ降りる。


「次は無いわよ、試験後の改良をする時には必ず報告しなさい」


「はい!」

「申し訳ありませんでした!」

「ごめんなさい! もうしません!」


 三人が土下座しながら誤ったのを見て、首を振りながらルルルは部屋から出て行った。


ガラガラガラ


ピシャッ!


 ルルルが居なくなった部屋で三人は大きな溜め息をつく。


「こ…怖かったぁ…今回は本当に殺されるかと思った」

「良かったですね…ルルル様…恐ろしいです…」

「すこしオイルちびりました……」


 鬼気迫るルルルを見た三人は、心から反省した。しかし反省しても開発の意欲が消える訳ではない。


「あっそうか! 血を浴びない様に盾を補助装備にすれば良かったんじゃない?」

「あーそうかぁー! その手があったね! でもいっその事、他のオートマトンを送れる装置作らない?」

「それなら、この冷蔵庫とか良さそう! かっこいいし!」


 扉の向こうで立つルルルに気がつかない三人に、無い胃が痛むルルルであった。

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