第17話
イサムが目を覚ますと、エリュオンとミケットが隣に寝ていた。
「あぁ―――…」
ボリボリと頭を掻くと、イサムは何も言わない。迷惑をかけた事のお詫びの気持ちもあるのだろう。そこへノルが入って来る。
「おはようございます。ご気分は如何でしょうか?」
そう言うノルが優しい笑顔でベッドの側にある椅子に腰掛ける。
「ごめんな、迷惑をかけて」
素直に出た言葉だ。しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。
「本当にそうです。帰りたいなんて…私達を見捨てないでください」
オートマトンは涙を流さない。いや流せないのだが、ほんの少し涙が見えた気がした。
「ごめんな…」
しばらく沈黙があり、エリュオンが起きる。いつもと違う、ぼーっとした感じだ。
「ん? エリュオン体調悪いのか」
そこにリリとルカが入って来る。
「エリュオンもミケットも寝ずに看病していましたから」
「そうよ、心配掛けすぎよ」
やれやれとルカが首を振る。そこでやっとイサムが起きたのに気が付いたエリュオンは目をパッチリと開き、イサムを抱きしめる。
「イサム! 心配したんだから!」
「いやぁエリュオン…ごめんな、所でここはまだ城なのか?」
「ええ、そうです。戻るといったのですが、蘇生の勇者を、そのまま帰らすわけにはいかないと言われ、お部屋を貸して頂きました」
「そうだったのか…て言うか、勇者ってなんだよ。気絶して迷惑を掛けただけじゃないか」
首を振るノルはイサムを見て微笑む。
「イサム様、蘇生を忘れていませんか? あなたの蘇生魔法は、この世界で一人しか使えないのです。ですが今回、蘇生魔法を知っているのは獣王様のみです」
「そうかぁその方が良い、生き返らせる魔法なんか知らない方が、毎日を一生懸命生きれる。人は短い人生だからこそ、精一杯頑張れる…はずだよな」
「そうですね…とは、私達は言えませんね…」
「あっいや! 違うんだ! もし…もしもの話だけど、コアから命を取り出せないのかな? だってさ、この魔法は闇の王を倒す為だけにあるもんだろ? だったら、いつか闇の王を倒したら、もう長く生きなくても良いんじゃないか?」
「ふふふ…そうですね。そんな日が来ると良いですね」
ノルは、可愛くそして哀しく笑った。
「ですが、そうなるとロロ様が一人になってしまいます。私達は、あの方の側にずっといたいのです」
「ロロルーシェは…望んで不老不死になったのか? そうは見えない気がするんだが」
夢の事は話さずに、ノルに尋ねる。
「それはご本人に聞いてください。私達は、ロロ様の手となり足となりこの世界の為と思い日々生きています」
「まぁ人の生き死にを語るほど、俺は長く生きてないが…戻ったら話をしてみよう」
命の重さなど測れるわけでもなく、考えてもきりが無い。
「取りあえずこの場所を出なきゃな、お城なんて堅苦しくていつまでも寝てられない気分になる。そう言えば、メルは居ないようだけど?」
そう伝えるとノルが答えた。
「メルは十階のメンテナンス室に居ります。浄化と今回は少しばかり無茶をしたので、恐らくはロロ様よりお怒りを受けているものかと」
「そうか…それは怖いな…それほど暴れたのか……確かにあの惨劇の殆どをノルとメルとミケットがしたんだよな…特にあの中庭は酷かった」
「はい。無許可の武器の使用と汚染値が七十%を超えていましたので、危うく魔物になる所でした」
「まじかよ…メルはノルとそっくりだけど、猪突猛進型なのか…」
「双子なので顔は似ていますが、チョトツモウシンとはどういう意味ですか?」
「そうだなぁ、周りの事を無視して一つの事に突っ走るって言う意味かな」
そういうと、ノルは腕を組み、片手を顎に当てて少し考える。
「たしかに…その通りかも知れませんね」
「そういや、エリュオンもそのタイプだな」
「むぅ、失礼ね! そこまで突っ込んでいかないわよ!」
そう反論した時に、イサムの後ろから声がする。
「いやーチョトツモウシンニャン」
ミケットも目を覚ました様で、尻尾を振りながらエリュオンを冷やかす。
「なんですってー!」
エリュオンはミケットに飛び掛りながら、ベッドの上で暴れている。
「ははは…元気が有り余ってるな…」
イサムは昨日の疲れも何処かに飛ぶほど、彼女らに元気を分けてもらった気がした。
「それで、今日はどうするんだ?」
するとリリとルカ買い物に行きたいというので、それに付き合うことにした。城を出る前に獣王が話しをしたいと言ってきたが、イサムが嫌がった為ノルが話をして城を出ることにした。
「イサム様良かったのですか? 獣王様とのお話。」
「いやいや、話すも何も王様でしょ? 緊張して何も話せない」
「ふふふ、そうですか? 恩を売るチャンスだったかもしれませんよ」
「いやいや、売っても何も良い事なさそうだし…」
悪戯な笑顔を見せるノルを見て、俺も馴染んできたのかなと思うイサム。城を出て、洋服屋にまずは入る。明日イサムの服が出来ると言っても、ミケットが破いた上着と下着が無いのでそれを買いに来た。割と繁盛している店の様で、品揃えも豊富に揃っていた。
「イサムーこの紐のパンツとかどう? 私に似合うかな?」
「イサム! それよりもこっちのブラの方が私に似て可愛いと思うニャン」
「それ程可愛くないでしょ!」
「それはこっちのセリフニャン!」
「おいおい、店の中で喧嘩するなよ…お前ら仲が良いのか悪いのか分かんないぞ」
「ふふふ、仲がいいのですよ」
ノルは妹のメルが居るからか、落ち着いて見ている。そこにリリとルカも傍によってくる。
「イサムの下着はこれでいいかな?」
「上着も持ってきたよ」
リリが下着と、ルカが上着を持ってきてくれた。
「エリュオン、ミケット…見習え…ありがとう、これで十分だ!」
イサムは、今着ているシャツと似たような白シャツとグレーのボクサーパンツを受け取った。支払いはノルがしてくれるので非常にヒモ感があるが、裸一貫で来たし異世界の通貨を持ってないので全てお任せである。
「ノル、支払いありがとうな」
「いえ、ロロ様よりイサム様への購入資金をちゃんと預かっておりますので」
「へー幾ら位預かったんだ?まぁこっちの通貨が良く分からないけど」
「そうですね、次元ボックスに入れてありますのでお見せ出来ないですが、あの城の半分は買えると思いますよ」
「貰いすぎだろ! 何考えてるんだ…ロロルーシェは…」
「おばあちゃんは豪快だからねー」
「そうそう、三年前も畑の鍬が直ぐ脆くなるって言ったらオリハルコンの鍬を造らせてたし、柄は世界樹の神木で作ったと言ってたね…あれ相当高いはずだよ…」
リリとルカもその豪快な金銭感覚にはドン引きらしい。
「てか…それもう伝説級の鍬なんじゃ…お金持ちは俺らが百円だすのと一万円出すのが同じ感覚だと聞いたが、それ以上だろうな間違いなく」
他にも食料や破損した自宅の備品などを色々と買い、壁の家に戻ってきた。昨日の事もあり、早めに寝るようにと促されて、夕食と部屋で入浴を済ました後に直ぐに眠ってしまった。
そして次の日を向かえる。
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