第14話

 朝になり、イサムはやはりと思いシーツを捲るとエリュオンが丸くなって寝ていた。


「エリュオン、おはよう。何でまたここで寝てるんだ?」

「ふぁぁぁぁ…決まってるじゃない…イサムのコアだからよ」

 

 目を擦りながら、側に居るのは当たり前だと言う。


「おいおい…コアだからって一緒に寝るのはダメだろう」

「どうして? イサムは嫌なの?」

「そう言う意味じゃなくてだなぁ…てかどうやって入ってくるんだ?」

「イサムがいる場所に、瞬時に移動出来るのよ。それに、イサム側から強制的に呼び出す事も出来るはずよ」


 髪を解いたエリュオンが、ペタッとベッドに座り腰に手を当てながら「ふふん」みたいな顔をしている


「マジかよ…瞬間移動みたいな感じだな…」

「空間転移魔法の応用みたいなものかしら」


 そう言いながらメニューのコアを開き、ストックコアの表示下にあるエリュオンをタップする。【呼び出す】【呼び戻す】と【保管】と【覚醒】の文字が書いてある。呼び出すの文字は薄い灰色で、目の前にいるからだろう。呼び戻すも灰色なのは近くにいるからだな。


「この保管ってなんだよ?」

「それだけは絶対しないでよ! 閉じ込められたくないわ!」

「わ…分かったよ…」


 エリュオンの気迫に押されて、たじろぐイサム。


「じゃあ、覚醒は?」

「それは知らないわ」

「パワーアップ関係だろうか…どのみち今は、使えそうに無いな」


 灰色文字で、タップしても反応が無いので無視しておく。


「呼び戻すはどれ位の距離なんだろうな、あとで試してみよう」


 すると、トントンとドアをノックされ朝食が出来たとノルが伝えに来た。


「エリュオンも居るんでしょ、イサム様の仕度の邪魔をしては駄目よ」

「してないわよー」


 部屋に居るのは既にばれているようだ。


「取りあえず瞬間移動が出来る事は、みんなに伝えとこう」


 親指を立てて「いいわよ」とエリュオンから了承をもらい、部屋を出てみんなの所へ向かう。



「みんな集まりましたね。今日の予定ですが、私はロロ様の指示により獣王の城へ行く用事が出来ましたので、食後そちらへ向います」

「では、私はリリとルカに新しい魔法衣の試着後に魔法の訓練を行います」

「わかりました」

「りょうかーい」


 ノルは獣人の王の城へロロルーシェの用事を済ませに、メルはリリとルカの修行を見るようだ。


「じゃぁ俺は街をまだ見てないから、散歩でも行こうかな」

「私も行くわ、どのみち暇だし」


 イサムとエリュオンは朝食を終えると、街に出る。


「昨日甘いお菓子を見つけたのよ」

「おいおい朝食食べたばかりだろう」

「甘いものは別腹よ!」

「異世界でも女性は同じ事言うのね…」


 街に出た二人は、お菓子を買いブラブラと街を歩いていると、急にエリュオンが立ち止まる。


「ん? どうしたエリュオン?」

「イサム、ちょっと移動しましょ」


 エリュオンはそう言うと、イサムの腕を掴みスタスタと歩き出す。人混みを抜け路地を曲がり、段々と人気の無い場所へと街の景色は変わる。そして細い通路を抜け少し道幅が広がった時に、後ろから声がした。


『エリュオン、こんな所で何をしてるニャン』


 急に後ろから呼び止められイサムは驚くが、エリュオンは気が付いていたようだが振り向かない。


「エリュオンの知り合いか? でも語尾にニャンが…ついてるって言うことは!」


 酒場でネコ耳が普通に話していたので、非常に不完全燃焼だったイサムは期待を込めて振り返る。


「イヌじゃ――――――――――――ん!」


 イサムはがっくりと膝が折れ、地面に手を付く。


『なんだこいつ? エリュオンどういう事だニャン? オートマトンに取り付いて上ったはずニャン』


 ホルターネックのビキニを着たその女性は、顔は人型だが大きな耳は垂れ、手首と足首に黒いモフモフした物が付いている。ショートパンツのボタンを外してあり、お尻には尻尾を出す穴が開いているようだがネコのそれではない。そう、見た目は闇を纏った人型プードルのようだった。


「なんであんたがここに居るのよ、ミケット!」

「突っ込み所が万歳過ぎて、元の世界にトリップしそうだ…だがエリュオンの知り合いという事は…闇の魔物って事か…どうする…でも殺意が半端無いぞ」

「殺すしかないわ」

『それはこっちのセリフニャン』


 イサムは立ち上がり、エリュオンに話しかける。


「闇の魔物で良いよな…」


 エリュオンは頷くが、固まったまま動かない。よく見るとミケットと呼ばれた犬の名前が表示されている。


【ミケット】【闇の魔物 近接型】


「やっぱりそうか…まずいな」

『取りあえずエリュオンには話があるけど、隣の奴は用が無いから消えるニャン』


 もの凄い殺意を感じ、イサムは動きが固まる。その瞬間腹部に衝撃が走り、吹き飛ばされる。


ギャリン! ガンガンガン! ドシャッ!


「なっイサム!」


 隣に居たエリュオンが反応できない速度でイサムに攻撃を仕掛ける。

 細い路地だった為、壁にぶつかりながら地面に叩きつけられる。どうやら爪で横腹を引っ掻いたらしい、4本の爪あとがシャツを切り裂きぱっくりと開いている。切れたのはシャツだけだが。


『爪いったぁーい…堅いニャン! だけど、次ぎは殺すニャン!』

「させないわ!」


 エリュオンは空間から大剣を取り出し、ミケットと呼ぶ闇の魔物に斬りかかる。


『あららぁ? どうしてこっちに攻撃してくるニャン?』


 ヒラリと大剣をかわし、後ろに回転しながら、ネコのように着地する。


「相変わらず素早いわね。力は私の方が上なのに」

『にゃふふふふ、当たらなければ意味が無いニャン』


 それを見ていたイサムがエリュオンに話しかける。


「逃げられそうに無いか? エリュオン」

「それは無理そうね。速さが違いすぎる」

『何を言ってるのかニャン、ミケから逃げられるはず無いニャン。殺してあげるから諦めるニャン』

「どうにかネコプードルを倒す方法があればいいのだけど…まったく思いつかん」


 ちらりとエリュオンを見ると、向こうをこちらを横目で見ていた。

 

「イサム、私に考えがあるわ。朝を思い出して」

『ふん、こんな場所に居ると魔法使いにバレそうだから、さっさと済ますニャン』


 ミケットは少し屈んだと思った瞬間、地を蹴り突っ込んでくる。エリュオンは身構えるが、狙いはイサムだ。


「ちっ、速過ぎる!」


 振り返ったエリュオンの目に、ミケットがイサムを蹴り上げようとしているのが見えた。


ギャリン!ガンガン!ザザッ!


 先程と同じようにイサムは弾き飛ばされる。上に蹴り上げたイサムを、さらに追い討ちとばかりに右左の爪で引き裂こうとする、そしてエリュオンとの距離が徐々に開いてくる。ミケットはエリュオンの動きも警戒しているが、動いていないのを察知し攻撃を強める。その間イサムは考えていた、エリュオンが言った事を。


「落ち着け、朝を思い出せ…そうか! あれだ!」


 イサムは更に攻撃を受けて、壁や地面に叩きつけられながら倒れる。そこにミケットがイサムを踏み付ける様に落ちて来た。


「何をぶつぶつ言ってるニャン」


 ガスッガスッ


 足で何度もイサムの頭を踏む、下を向いているイサムは平然としているがミケットは気が付いていない。そして大きく太ももをあげ、ボールを蹴るようにイサムを蹴り飛ばした。止めとばかりに飛び上がりイサムが地面に叩きつけられると同時に頭を掴み地面に擦り付ける。


 その攻撃をを平然と受けているイサムはメニューを開く。【コア】を選択し【エリュオン】をタップ、【呼び戻す】が灰色から白色に変わっているのを見た瞬間タップする。

 するとミケットが攻撃してる真上にエリュオンが現れる。


「甘いわねっミケット!」

『なにっ! しまっ――――』


 一瞬の出来事だった。それが分かっていたエリュオンは、大剣を大きく振りかぶっていた体を、横に回転させながらミケットの首を刎ねた。


ブシュ―――――!!


 頭がごろごろっと転がり、切れた首から黒い煙が噴出す。そしてある一定量の煙を噴出すと、今度は体の中へ戻っていき、やがて丸い水晶の様な形に変わる。


「ふぅ…あぶなかった。助かったよエリュオン」

「朝の確認のおかげね、イサムが堅くて助かるわ。敵に隙が出来やすいし」

「いやぁ…そう言われると囮でしか役に立たないが…ま…まぁ取りあえず蘇生してみよう」

「えっ蘇生するの? いいじゃんしなくても…」

「何でだよ、また敵として来られたら困るだろ」

「そ…それはそうだけどぉ…独り占め出来ないぃ」


 訳のわからない事を呟きながら、嫌々と首を振るエリュオンを無視して、イサムは禍々しいコアへと戻ったミケットに蘇生を掛ける。エリュオンを同じように、初めは苦しそうにしていたコアの中の闇は白色に変わり、形を変え始める。


「生き返らすと、色々な部位が黒から白に変わるのは同じだな」

「まぁ闇が浄化されてるわけだし、黒じゃなくて白が染められてるって方がしっくり来るかしら」

 

 元の形が形成されるのを見ながら、寝転んでいるミケットの傍でイサムとエリュオンが会話している。やはり少し成長しているようだ。出る所ははっきりと膨らみ、腰のくびれもより引き締まっている。イサムとエリュオンのやり取りを聞きながら、目を覚ましたミケットはシュパッと即座に正座した。


「ごめんなさいニャン…」

「やはり、エリュオンと同じで、闇の時に攻撃を仕掛けた最悪感みたいなのは覚えているんだな」

「それに禍々しい記憶もあるわ」

「エリュオンも殺されたのかニャン?」


 ミケットは座りながら首を傾げてエリュオンを見る。


「魔法使いに一瞬で握り潰されたわ」

「でも生きてるニャン」

「そうよ、彼…イサムに蘇生されたの」

「まぁそうなんだよ…」

「え! 生き返ったのかニャン!?」


 ミケットの垂れていた尾っぽがピンと立つ。


「まぁ当然そうなるわよね」

「そう言えば…ミケの首も切れてないニャン」


 正座しながら自分の首を触る。エリュオンは意図がありこの階層に居たようだと感じ、ミケットに質問する。


「それでミケット、この場所で何してたのよ」

「エリュオンと同じで命令を受けていたニャン」

「私は【魔法使いを殺せ】としか言われてないはずよ、あなたは違うの?」

「それは話半分で勝手に飛び出していったからニャン…」

「うるさいわね…早くあそこから出たかったのよ。つべこべ言わずに早く言いなさいよ!」


 蘇生され闇が浄化される前から、エリュオンはせっかちの様だ。


「獣人の城にいる奴らを闇に侵すことニャン。ちょうど不満を持っている奴らが何人か居たから、闇を分けてあげたニャン」

「なんでそれを早く言わないんだ! メル達に伝えにいくぞ!」


 イサムは踵を返し、メル達の元へ急いで向う。ノルは朝から城へ向かった、もうすぐ昼だ何事も無ければ良いが。

 走った事で数分でメル達が居る家に着く、急いで扉を開けるとリリとルカが魔法衣を着て瞑想している最中だった。


「ん? どうしましたイサム様? そんなに慌てて」

「メル! 獣人の城に闇をばら撒いたと聞いたんだ! ノルは大丈夫か!?」


 少し驚きなんで知っているのか、と疑問に思ったメルはイサムに尋ねる。


「誰に聞いたんです? 確かに少し闇の動きを感じたとロロ様は昨晩仰っておりましたが…」

「この子だ、名前はミケットで元闇の魔物だ。さっき蘇生して―――」


 後ろに居たミケットを、両手で掴みグイっと前に出す。話を聞いたメルは急いで外の扉へ向う。


「急ぎましょう、お姉様一人では大変でしょうから」


 すぐさま家を飛び出し、六人は城へと向かう。だがイサムには、この先に待ち受ける惨劇を知る由も無かった。

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