第13話

 マコチーから替えの服を受け取りイサム達一行が家に帰る頃には、夕暮れ時になっていた。ノルとリリとルカは、晩御飯の買出しに行くとかで途中から別行動になった。

 

「地下の世界なのに、しっかりと夕方にもなるんだな」

「ロロ様の空間魔法で天井に擬似太陽と星を付けて管理していますからね」

「月は無いのか?」

「それはイサム様の世界の衛星と呼ばれるものですね。似た様な物はありますが、名前は【大きな星】と呼ばれています。この迷宮の遥か上空に私達が生まれる前からあって、この星と一緒に回っているようなので迷宮の上からは消えることがありません。」

「不思議な星もあるんだな」


 メルと話しながら、家の中に入る。来るときは余り気にしていなかったが、中央の入り口のカモフラージュ用だとしても、住むには十分すぎるくらい豪華な内装だった。


「この豪華さでカモフラージュ用なんだよな…」

「はい、たまに獣人の王家の方が城以外でロロ様とお話をする時などは利用されますね」

「なるほどね、なら豪華じゃないとな。そういえば、どうしてみんなロロ様って呼ぶんだ? ロロルーシェを略してるのか?」

「いえ違いますよ。最近は【ロロルーシェ・ノーツ】と名乗っておりますが、昔は【ロロ・ルーシェ・ノーツ】と名乗っておりました」

「なるほど、そうなのか」

「ルーシェ?」


 ふとエリュオンの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「ん? どうしたんだエリュオン」

「うーん、どっかで聞いた名前の気もするんだけど…思い出せないや」


 イサムも思い出せない事など多々あるので全く気にならない。


「思い出せないなら、大した事じゃないだろう。必要ならまた思い出すさ」

「そうだね、それよりも…ありがとう、洋服の事」

「いやいや気にするなよ、それに一枚だけじゃ着替えられないしな」


 昨日の事もあり、服があと1枚くらいあっても良いだろうと思ったのだ。その時ドアが開き三人が帰ってきた。


「おかえり、早かったな」

「おかえりー」

「おかえりなさい」


 先帰宅組みが挨拶すると、リリがニンマリと笑い袋から食べ物を出す。


「ただいま! むふふふ、今日はメメルメーのお肉だよー」

「ただいまもどりました。肉屋に寄ったのですが、どうやらイサムの喧嘩を見ていたらしく、面白かったと格安で売って頂けました」

「さらに私がもう一声って、値切ったんだよー!」

 

 リリルカの時には言えなかったのだろう、ルカは頬っぺたを赤くしてとても嬉しそうだ。

 

「むふふふふ、普段は言えないのに何故か今回はもう一声が出たのよねー!」

「おおーいいねぇ、最近肉を食べてなかったなー」


 ほとんどが、コンビニか商店街のスーパーの弁当で済ましていたイサムには、肉はかなりのご馳走なのである。もちろん隣に住んでいた真兎の作った料理が一番のご馳走だったのだが。


「だけど、そのメメルメーって何の動物の肉なの?」

「メメルメーはメメルメーだよー!」

「この王国でも、祝い事でしか出す事の無い希少な動物のお肉です」


 イサムは、希少な肉と聞いて急激に空腹感が生まれる。


「焼肉もいいし、カレーに入れると肉は旨いよなー」

「カレーですか? 存じませんが…スープか何かですか?」

「煮込み料理だな、うちの母親の作ったカレーも旨かったな」


 イサムが母親のカレーを思います。実際は連日作らない様にと想定されていたのかもしれないが、それでも美味しかった。


「イサムの世界では女性が料理を作るのですね」

「いや…そう言うわけではないが…でも女性の作る料理って良いよな」

「イサムは面倒くさいだけじゃないの?」

「おいおいエリュオン、実は俺は料理が作れるのだ」


 そこの言葉を聞いて、エリュオンが驚く。


「えっうそ! ぜんぜん見えないし」

「子供の頃は両親がいつも仕事で忙しくてな、一人で作るのが当たり前だったんだ」

「両親かぁ…私はいないからなぁ…あっ! でも、おばあちゃんやノルもメルも居るから寂しくないけどね!」

「いや悪い! そんなつもりじゃ無かった」

「リリ! 私も居ないから安心して!」

「エリュオン…リリを励まそうとしているつもりだろうが、それじゃ逆効果だ」


 献立はバーベキューにするみたいだ。キッチンの横には室内用にカスタマイズされたバーベキュー用の大きなコンロがあり、6人で囲っても余裕があるくらいの大きさだ、煙を上に吸って室内には煙は広がらないタイプらしい。メメルメーの肉をノルが切り分け、野菜などをリリとルカが切り、イサムとエリュオンが鉄串に野菜と交互に通していく。テーブルと皿の準備をメルがしている。

 

 メメルメーの肉は、赤身の肉で脂肪が少ない。しかし霜降りで非常に食欲をそそる。リリにメメルメーの姿を聞いたが、水牛のような角に豚鼻で羊の様にモコモコの毛に覆われいるが、毛を刈るとシマウマの様な模様があるらしい。


「まったく分からん生物だな…」


 想像するが、全く頭に浮かばなかった。


「そういえば、オートマトンって料理食べれるのか? 昨日はノルは食べてなかった気がしたが」

「食べれますよ、そのまま魔素として体内のエネルギーに変わります」

「すごいな、俺らの世界の技術では到底及ばないオーバーテクノロジーって奴だな」

「そんなことありませんよ、そちらの世界で得た知識が今に活かされています。こうやって、片言ではなく話せるのも真兎の技術を応用しています」

「真兎さんかぁ…じゃぁ真兎さんも誰かの命がコアに入ってるって事なのか?」

「いえ、あの子は完全に機械と魔法を組み合わせて動いているようです。ロロ様は【魔法AI】と仰って下りました」

「それってとんでもないことじゃないか…すごいなぁ」


 人工知能をさらっと作り、人と変わらない存在をも作る。ロロルーシェって本当にすごいとイサムは心から驚きの声がでる。


「あの方はあまり褒められる事を嫌います。ただ長く生きているだけだと、時折悲しげな表情を見せるのです。出来ればイサム様も、我々同様に驚くことは沢山あるかも知れませんが、それが当たり前だと接して頂ければ幸いだと思っております」

「そうか…長い時間を過ごしているから、凄くないか…わかった! てか俺もこの世界じゃ凄い存在だろ! たぶん…」

「たぶんではありません。私達はイサム様を命を懸けて守る義務が御座います」

「そうです。闇の王を倒すには貴方の力が必ず必要になります。私達の積年の想いを遂げさせて下さい」


 ノルもメルも真剣な表情でイサムを見つめる。


「まぁ辛気臭い話は止めにして、どんどん食べよう!」


 先に焼き始めていたエリュオンは串を両手で持ちながら、ガツガツ食べている。


「おいおい、肉ばかり食うなよ! 野菜もちゃんと食べないと大きくなれないぞ!」


 そう言うとイサムも一口食べる。メメルメーの肉は、蕩けるような肉の旨みを口の中に広がり、なんとも言えない高揚感を得る。食べたことの無い肉の、超越した美味さににイサムは感動する。


「これ…うっま! 旨すぎる!」

「私の方が大人だって言ってるでしょ!」

「大人はそんな食べ方はしないんだよ! もう少し大人しく食べろよ!」

「うるさいわね! ルカを見てみなさいよ! 私と変わらないわ!」


 ルカを見ると、確かにエリュオンと同じように鉄串を二本もってかなりの勢いで食べている。


「ンモンモモーモモ!」

「ルカ…何て言ってるか分からないよ…」


 半分の自分なので、リリは恥ずかしさのあまり何て言っていいかわからず、自分の皿の料理を黙々と食べる。そして賑やかな夕食がおわり、各自部屋に入ることにする。


 この家は各部屋に風呂とトイレが完備されており、高級ホテルの様である。リリとルカとエリュオン、ノアとメル、そしてイサムが一人部屋に入る。


 その真夜中。


『ノル、聞こえるか?』

「はい、ロロ様どうされました?」

『獣王の城に少し闇を感じた、朝皆が起きたら様子を見に行ってくれないか?』

「了解致しました。もしもの時は如何致しますか?」

『イサムとリリルカに経験を積ませたい、今のイサムでは真の蘇生魔法には到底及ばない』

「わかりました。メルを待機させ、もしもの時には一緒に向わせます」

『ああ、たのんだぞ』

「メル、聞こえたわね」


 ノルはメルとおでこをくっ付けて両手を繋ぐ。


「はい、お姉様。もう私達のような人を増やしたくありません」

「そうよ。今まで闇に侵された人間は、浄化で消滅させるしかなかった。でも、イサム様がこちらに来た事で消滅させずに生き返らせる事ができるわ」

「はい、もう怖がりません」

「躊躇無く、殺しなさい。必ずイサム様が生き返らせてくれるわ」

「はい、お姉様」


 そして深い夜は終わりを告げ、朝を迎える。

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