第7話

「さて、そろそろノルが帰ってくる頃だし、私の人形について少し話をしようか」


 先程、家に入る前に黒色のメイド服を着た女性をノルと呼んでいた、壊れたメルと呼ばれるオートマトンを【メンテナンス室】へ連れて行けと言っていた気がするので、ノルもオートマトンなのだろう。


「誰かさんが斬ったんだけどね」


 ルカがまた火種を投入しようとしたが、今回は「ハイハイ」と上軽くスルーされているが、小さな火花がお互いの目から飛んでいる様な気がする。

 

 雰囲気を変えようと、イサムと向かい合わせに座っているリリがノルとメルの話をする。


「ノルとメルの服は、三年前おばあちゃんが異世界に行った時に本を送って来て、ドワーフの仕立て屋さんに作らせたみたいだよ。エプロンドレスのヴィクトリアンメイド型って言う服みたい」


 と話す。


「そういえば見た目は、貴族とかに仕えていた風のメイド服だったかな?」


 フリル付きの長めのワンピースだった程度しか思い出せない。

 そして、ロロルーシェはみんなが落ち着いたのを見て話し始める。


 「さて、私が作った人形【オートマトン】は、さっきも言った様に【闇の魔物】同様にコアの中に魔素を入れて動いている。コアはその中に魔素を封じ込め、擬似的に【魔素の海】を人工的に作り上げたものだが、元々は大昔に他の魔素学者が考案した代物でね」


 一瞬ロロルーシェは哀しげな表情を見せたが直ぐにいつもの表情に戻った為、四人が気付く事はなかった。


「闇の魔物のコアは、人や動物を浄化する際に出る高純度の不純物を取り入れているが、私の人形がコアを動かす為に必要なのは、人や動物の新鮮な魔素でなければならない。そして私の保有しているコア、百万個の中に入っている人や動物の魔素の殆どが、二千年前にこの場所で闇の魔物を封じる為に一緒に戦った兵士達を閉じ込めてある」


「百万個…途方も無い数だ」


 するとルカが補足する様に話しに入る。


「人や動物は、七日間は肉体だけの状態でこの世界に存在するの。でもその間は体の中の魔素は抜けてる状態だから、そこに悪い魔素…不純物の魔素が入ると魔物になってしまう。でもあの戦争では、広大な場所に死亡した人達を七日間保管する場所はそう多くは無かったらしいし、保管されるのはやっぱり…各国の上位階級の人達が優先だったの。」


次にリリが一呼吸して話す。


「そこでおばあちゃんは、死体を放置して魔物になるくらいならコアに封じ込めてオートマトンとして蘇らせ、再び兵士にする提案を各国の王に話した。もちろん反対も沢山あったみたいだけど、結果はオートマトンのおかげで闇の魔物達は全て浄化され眠りについた。もちろん強制じゃ無くて、オートマトンになるか、そのまま魔素の海に還るかの選択はあったと聞いているけどね」


 するとエリュオンが口を開く。


「二千年前に浄化されたのに何故私たちは存在しているの? 眠りにつくと言ってるけど、私は眠りについた記憶は無いわ」

「浄化されて記憶が無いとかじゃないの?」

「眠ってたと言うより、沢山のコアが産み落とされて形を成したと言う感覚しかない」


 ルカとエリュオンは、うーむと考え込んでしまった。それを聞きながら、ロロルーシェが答えを言う。


「浄化されるとコアの中身は、本物の魔素の海へ還るのだが、器の部分のコアだけは空になって残るんだ。そして空になったコアは十分程で姿を消してしまう。主の下へとね…コアには…【パーソナルコード】が書き込まれているんだ」


 聞きなれない言葉にみんな首をかしげる。


「パーソナルコードとは、所有者をあらわす記録のみたいなものだよ。いくら闇の魔物を倒しても必ずコアは、闇の王へと戻るように組み込まれているのさ」


 右手を上げて当然のようにエリュオンが質問する


「じゃぁなんで私は戻らないの?」


 いい質問だとロロルーシェが指を右手の親立てる。


「そこで私が創った蘇生魔法の出番だ。闇の魔物のコアに、浄化の魔法をかけるとコアだけになって持ち主へと戻る。それなら浄化をせずに仮死…コアの状態に戻して蘇生させたら、浄化されつつもそのままの形で蘇るのではないかと仮説を立てた。蘇生は、浄化の上位魔法だと思ってくれば良いが、本来は肉体と魔素の海に向かった魂とも呼べる魔素が繋がっている、細い魔素を手繰り寄せて肉体に戻す魔法だ、結果は見ての通り、エリュオンは浄化されて可愛い女の子に生まれ変わったのさ」


 ニコッとエリュオンに笑いかけるロロルーシェに、エリュオンは耳まで赤くなってモジモジしている


「だが、これは仮説の段階だから再度調べる必要があるが、恐らく死亡すれば闇の王の元にコアだけは戻るだろう」


 ロロルーシェの一言にシュンと肩を落とすエリュオンにイサムが声をかける。


「大丈夫だ! そのときは俺が何度でも蘇生してやるよ」


 イサムもロロルーシェの真似をして、握り拳のまま右手の親指だけを上げてエリュオンを精一杯励まそうとする。

 

「あの場所に帰るのも、死ぬのもイヤ! その時は絶対頼むわよ!」


 うっすら涙目になっていたエリュオンもイサムの真似をして親指を上げる。

それを見ながらリリとルカも右手の親指を上げて、五人とも暗い雰囲気を消す様に笑い声を上げた。

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