第47話
イサム達がパックに食べられた直後の闘技場ではアナウンスが鳴り響く。
『お待たせ致しました! ヒューマンの女性達の登場で御座います!』
ワーっと歓声が聞こえ、メル達が手を縛られて入って来る。
「ここでもイサム様と念話が出来ないので、食べられたと考えて間違い無いですね」
「そうですね、念話が繋がらないのは赤い箱の影響でしょうか?」
「なら、ちゃっちゃと済ませて助けに行くわよ」
「じゃぁイサムから頼まれた事を、おばあちゃんに聞いてみるね」
リリルカがロロルーシェに念話を繋ぐ。
「おばあちゃんちょっと良いかな?」
『どうしたリリルカ? 何かあったのか?』
「うん、イサムからのお願いでテイルガーデンの浮遊島の浮揚魔法を全て解除しても良いかだって」
『はっはっは! 流石はイサムだ! 面白い事を言う! 何か考えがあるのだろう? ティタがそっちに着いたら聞いてみてくれ。一応彼女が作った場所だ』
「わかった! 聞いてみるよ!」
念話を切り、メル達に伝える。
「ティタが良いなら良いだって。イサムは面白い奴だと笑ってたよ」
「まぁそうでしょうね、普通はそこまで考えないですから」
「イサムは外の世界から来たから、発想が違うのかもよ」
「でも、そのお陰でこの国もまた安心して暮らせる場所になるはずです」
話をしていると、奥の檻が開き魔物が現れる。小手調べと言わんばかりの敵、角の生えた兎【アルミラージ】が五体出てくる。
「馬鹿にしてるのかしら?」
「私達が弱いと思っているのでしょう」
「イサムが居ないからって弱いフリしても意味ないでしょメル」
「フリなどしていませんよ、エリュオンより私は弱いですよ」
「そんな言い合いしてる場合じゃないですよ。さっさと倒しましょう」
テテルは前で結ばれている縄をいとも簡単に引き千切る。それを見てメルとエリュオンも引き千切り、メルがリリルカの縄を解く。
「ではティタを呼びますので、魔物はお願いします」
「しょうがないわね、行くわよテテル」
「了解しました。【ナナホシテントウ】来て下さい!」
「じゃぁ私は魔法で援護するよ」
メルがルルルに念話繋ぎティタを呼び出そうとする前に、エリュオンは大剣を取り出しテテルは魔法陣から赤い体で七つの星が背中に付いている人の頭ほどの【テントウムシ】を片腕に取り付ける。そしてリリルカは、魔素を集め魔法の準備に取り掛かる。
そして、思いっきり高く飛んだエリュオンが大剣を構え大きく振り下ろす。
「とぅりゃぁぁぁぁぁ!」
その瞬間、エリュオンとテテルは消える。
「あら? イサム様が呼び出したのね」
「じゃぁ私が倒すよ」
リリルカがそう答えると、火の魔法を放ち五体のアルミラージは一瞬で火だるまになる。そこへ中央の穴から声がする。
「妾も居ますわ」
声のする方を見ると、穴からタチュラが登ってきた。
『た……大変です! シム族が上がってきました! 兵士の皆様討伐をお願い致します!』
メル達の後ろの柵が開き、兵士がぞろぞろと入って来る。はぁとため息をつきメルはルルルに念話する。
「ルルル、ティタの準備出来てる?」
『はーい、準備出来てますよー! お送りしますねー!』
メルの上空に三メートル程の魔法陣が展開される。その中から白く四角い箱が音を立てながら少しずつ降りて来る。
ヴォォーン ゴウン ゴウン
何かが回転している様な音を立てながら降りて来るその白い箱は、イサムが居る世界の衣服を洗う機械。二層式洗濯機が上空からゆっくりと現れ、静かに地面に着地する。
ピーッピーッピーッ
音が鳴り左側の蓋が開く。その中から、ぴょこっと顔が出て来る。エメラルドグリーンの髪色に綺麗な顔の女性、この国テイルガーデンの初代女王ティタニアがそのまま飛び出し閉まった蓋の上に乗る。
「なんじゃここは? わしの時代にはなかった建物だのぅ」
幼い顔だが腰まで伸びた長い髪に緑色の淡いドレスで身を包み、ヒラヒラと背中の羽根が動いている。
「ようやく来たわねティタ。ここは闘技場よ」
「闘技場!? 何でそんなものが必要なんじゃ? ここはテイルガーデンであろう?」
「そうよ、取りあえずは目の前の兵士達を大人しくさせましょう」
いきなり現れた謎の装置と一人のフェアリーに戸惑った兵士達だったが、一人の兵士が声を上げる。
「おいベル! お前はさっきパックに喰われたはずだ! それになんだその恰好は…それに何だか幼いな」
「誰じゃ? わしはお前なぞ知らぬぞ?」
「ふん! 下層民のくせに生意気な口を叩きやがって! 痛い目にもう一度遭わせてやる!」
「下層民? なんじゃそれは?」
聞き覚えの無い言葉を耳にしてメルに尋ねる。
「メル、下層民とはなんじゃ? 初めて聞く言葉じゃ」
「いまこの国では、上層中層下層と人の住む場所と人そのものに格差があるのよ。下層はそれは酷い扱いを受けているわ」
それを聞いたティタの顔色が変わる様な気がした。
「な……なんじゃと! なんじゃとぉぉぉぉぉ!」
周囲の空気が揺れ、地面の小石が浮きあがりだす。兵士達や闘技場の観客達も声を出さず、その光景を見て動揺している。そしてキョロキョロしだしたティタが遥か上空に見えるテイルガーデン城に目をやる。
「どれ、直接聞いてみようかのぅ!」
ティタが城へと手を伸ばし、掌を開きそして握る様な仕草をする。そしてグイッと引っ張ると何かが叫び声と共に飛んでくる。
「ぎゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」
飛んでくる一人のフェアリーをガシッとティタが掴んだ。それは、現テイルガーデン女王【ディアナ】である。濃い金色の髪を乱しながらも頭に乗せた王冠は落ちていない、だがすでに気絶していた。
「起きろ! お前に聞きたいことがある!」
揺さぶられようやく目を覚ますディアナは、状況が分からずまだぼーっとしている。
「おい! お前が現女王じゃな、この国の有様は何じゃ!」
「え…はっ! 何者だ貴様! 誰か! 誰かおらぬか!」
いきなりの出来事に戸惑う兵士達も、この国の女王が目の前に現れ捕らわれているのを知り、直ぐに剣を向ける。
「貴様! その手を離せ! 誰を掴んでいるのか分かっているのか!」
そう言うのは先程ティタに暴言を吐いた女性兵士である。
「二千年も経つとここまで変わるものなのか? メルよ、わしのやり方が間違っていたのかのぅ…」
「それはどうかしらね、人は良くも悪くもなるわ。貴方が原因を作ったとは言えないわね」
「早く離せ! 私はこの国の女王だぞ! フェアリーのくせにそんな事も知らないのか!」
ディアナの言葉に、また怒りが込み上げるティタ。片手で持ち上げている腕を引き寄せて顔を近づける。
「何じゃ、お前もわしの顔を知らんのか? 肖像画はあったはずだかのぅ…それとも捨てたのか?」
肖像画と聞き、ディアナの顔色が徐々に変わり始める。彼女には見覚えがある。この国では王より女王が偉く、その歴代女王が描かれた肖像画の一番初めにある女性を必ず見るのだ。何故なら他の肖像画より倍以上大きいからだ。
「え…ま……まさか! ティタニア…さま? ティタニア様!?」
震える、ガクガクと震え持ち上げられている足から水がポタポタと落ちる。
「やっと思い出したか…で、この国の今を聞こうかのぅ。下層民とは何じゃ?」
「そ、そそそそそそれは……浮遊していない大地の者……達を…そう呼んでます…」
「何故そう呼ぶのじゃ? その意味は何じゃ?」
「そ……それは………」
「ハッキリ言え! このまま握りつぶしても良いのじゃぞ!」
「それは! 人を見下し、敬われ、優越感に浸りたかったのです!」
ビュッと突然ディアナを壁に投げつけた。
「ぎゃへっ! あ゛あ゛あ゛…」
「女王様!」
近づこうとする兵士達の足が動かない。ティタが魔法で固定させているようだ。洗濯機から飛び降り、スタスタとディアナの元へと歩いて行く。血だらけの顔で必死で逃げようとするディアナの髪を掴み持ち上げる。
「た……たすけふぇ……」
「そう言う民は居なかったのか? お前に助けを求める民は居なかったのか!」
持ち上げ、次はメル側に投げる。そしてティタは、メルに尋ねる。
「殺したらダメなのかのぅ? わしは、心から此奴が許せない」
「駄目です。イサム様がそれを一番嫌うのです。あの方は、目に映る全ての人を救いたいと思っています」
「イサムとやらは今ここに居らぬのか……では、それまで待つとしようかのぅ…リリルカ、こいつを回復してやってくれ」
「わかったわ」
ディアナの回復を頼まれ、リリルカは傷を癒す。それを確認したティタはディアナを掴み洗濯機の中へ放り込む。
「助けてー! 出してー!」
そんな声など聞こえないと、ティタは洗濯機の上に座り足を組む。周りは一切声を出せない、恐怖が周囲を包み兵士達も動けないでいる。
「早く来ないかのぅ」
「テテル達が一緒に居ますので、直ぐでしょう」
「それと、イサムからの提案があるからそれも検討してほしいの。おばあちゃんから許可は貰っているわ」
「ん? 何かのぅ?」
「この島全てを下に降ろすって」
「はははは! 面白い奴じゃのぅ! まぁ会ってから話を聞こうかのぅ!」
ティタは足を組み返し、羽根をパタパタを動かしながらイサムが来るのを待っている。一方エリュオンとテテルを呼び出したイサムだったが、急に呼び出したエリュオンの大剣が目の前に振り下ろされる直前であった。
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