第43話
イフリ山の村でフェアリーの兵士達に捕まったイサム一行は、フェアリーの国【テイルガーデン】へ向かう為に何も言わず兵士達に着いて行く。そして現在、山の麓にあるの小さな町の牢屋の中に居た。
「テテル、フェアリー達の国まで後どれ位で着くんだ?」
「早くて半日位ですが、兵士達にあまり急ぐ様子が無いので、一日はかかるかも知れません」
村の人々が殺され、それが国に送られて来た異常な事態なのに、焦っていない彼女らの様子を見て少し疑問に思う。そこでイサムは近くにいる警備の兵士に声をかける。
「なぁ、村の人々がどうなったのか知らないのか?」
「私語は禁止されている。私から話す事は出来ない」
出来ないと言う事は、何か知っているとイサムは考える。マップを見て近くに他の兵士が居ないのを確認し更に尋ねる。
「今周りに他の兵士達は居ない。詳しく教えてくれ」
「……」
「私達は、ロロの大迷宮から来た者です。イフリ山の精霊イフリトが暴れていたのでこの子が契約しました。イフリトをお見せしますので宜しければお話をお願いします」
イサムが尋ねても話さない兵士に、メルがイフリトの契約を話す。そして、メルがリリルカを見ると証拠にと小さなイフリトを召喚する。
「イフリト、少し出てきて」
リリルカが両手を前に出して、イフリトを呼ぶとディフォルメされた小さなイフリトが現れる。
『呼んだか古代種よ』
「リリルカよ、古代種と呼ばないで」
『すまない。以後気を付ける』
それを見て兵士が、サーリットの鼻まで下ろしたバイザーを上げて目を見開き跪く。
「お会いできて光栄ですイフリト様! 私はあの村に住んで居た者です!」
兵士は頭を下げ、イフリトに対して敬意を表す。
「話してくれないか? 何があったんだ?」
「分かりません、突如テイルガーデンに巨大な四角い箱の様な物が島の中央に現れたのです」
「島? テイルガーデンは海に浮かんでいるのか?」
「違いますよイサム様、海ではなく空に浮かんでいるのです」
「え! 空? 空中に浮かんでいるのか!」
「そうです。お昔にロロ様が空に浮上させたと聞きました」
「……まぁそれは置いといて、それで兵士がイフリ山まで来たのか」
兵士は頷き、話を続ける。
「はい……あの赤い箱の中には私の両親も居ました…無残にあの箱の中に浮かんでいました…」
兵士は目に涙を溜める。そこへ他の兵士がやって来る足音がする、リリルカは急いでイフリトを帰還させた。
「おい! ベル! 何をやっている! 話をするなと言ってるだろうが! まったく下層民が!」
その兵士は跪いていたベルと呼ばれた兵士を蹴る。それを見てイサムが声を上げる。
「お前が何やってんだ!」
「うるさい! 切り捨てるぞ! お前も話などするな!」
そう言い捨てると、兵士は牢屋を出て行く。
「悪かったな…他の奴が来てるのに気が付かなくて…」
「いえ……お見苦しい所を見せして申し訳御座いません……」
ベルと呼ばれた兵士は立ち上がり警備する素振りを見せながら話を続ける。
「それよりも下層民とは何ですか? 初めて聞きました」
テテルが不思議そうにベルに聞く。
「え? ご存じ無いのですか? 今から五百年程前に女王様が変わり、体制がが変わったと聞きました。浮遊島の高さに合わせ、上層中層下層と分けられ差別されるようになったと聞きます。私は村の出なので、生まれた時から下層扱いだそうです……ちなみに先程の方は上層民で私など足元にも及びません」
ベルは寂しそうに、でも諦めている様に笑う。
「信じられません! ティタ様が聞いたらどれ程お嘆きになるはずか!」
テテルの怒りが込み上げているらしく、地団駄を踏んでいる。
「ちょっとテテル静かにしなさいよ、ここで怒っても意味ないでしょ」
「分かってますけど、許せません!」
大人しくしているエリュオンがテテルを落ち着かせる。
「あの……ティタ様というのは?」
ベルが聞き覚えのある名前を耳にしてテテルに尋ねる。
「ティタニア様です。今は大迷宮でご活躍されています」
「なんですって! ティタニア様はご存命なのですか! 信じられない!」
「存命というかオートマトンですが……一応元気です。元気すぎて困るぐらいです」
「そうなんですか……今の国を見たら辛いでしょうね……」
そこにメルが爆弾を投入する。
「まぁテイルガーデンに着いたらお呼びしますから、お怒りになるでしょうね」
「え! 呼ばれるのですか!」
「当たり前ですよ、ティタがどれ程荒れるか見物ですね」
メルの言葉にベルが振り返り後ずさりする。
「まぁ悪い奴はいずれ叩かれる。自業自得だよ」
「それで、赤い箱はそのまま放置してるのですか?」
「いえそれが……」
テテルの赤い箱への質問に、ベルは口ごもり何も言わなくなる。
「ん? もしかしてすべて浄化したのか?」
「いえ……」
「なによハッキリ言いなさいよ!」
言わないベルにエリュオンがイライラする、それをイサムがなだめていると話し始める。
「ジャイアントパックです…ジャイアントパックに食べられたんです!」
「何だよそのお得感満載の名前は……」
「見ればわかります……もう私の両親も村の人達も開放される事はありません……」
「食べるって事は魔物か何かだろ? じゃぁそいつを倒せば良いんじゃないか?」
ベル以外全員が頷いている。それに対しベルは首を振る。
「無理です! あんな巨大な生物を倒せるはずありません!」
「それは見てから考えれば良いだろ、取りあえずはフェアリーガーデンに無事に行かなきゃな」
「そうですね、今は大人しくしていましょう。目を付けられても動きにくいですから」
イサムの言葉にテテルも頷く。イサムもどんな巨大な生物でもこのメンバーなら大丈夫だろうと、考えてしまう様になったのも異世界に慣れてきた賜物だろう。そして明朝イサム達は無理やり起こされ、テイルガーデンへと向かう事になる。
二十数名の兵士達は均等のとれた間隔で道を急ぐ、イサム達は中央付近でベルと共に歩いている。そこに昨日の兵士がベルに文句を言う。
「おい! ベル! さっさと歩かせろ! 日が暮れるぞ!」
「すみません! 急がせます!」
ベルがイサム達に話す。
「すみません、もう少し早くお願い致します」
「それで言うこと聞くのかよ! 大人しいから縄を付けてないだけで、今からつけても良いんだぞ!」
「はい! すみません! 早く歩け!」
嫌な上司が部下に無理やり仕事をさせるような感じだろうか、イサムは少しイライラしていた。
「なんだぁその目は、軟弱な男が偉そうに睨んで何様だ!」
「おい、パワハラ野郎。その発言、後で後悔するなよ」
「はっヒューマンがなんか言ってるぞ、ぱわ? 何とかだとよ。まったく意味が分からねぇな」
人を見下す典型的な馬鹿な奴だろうとイサム達も考えるが、ベルはオドオドして落ち着かせようとしている。イサム達に手を出させて、罪人に仕立てようとしているのが見え見えなので挑発には乗らない。
「お前らなんてパックの餌になればいいんだよ!」
「そのパックってなんだ?」
イサムがワザと話に乗ると、嫌みな兵士がここぞとばかりに話し始める。
「はっはっはっ、見せてあげてもいいがな」
「そうか、なら見せてほしいかな。でも俺なんか食べたら腹を壊すかもな」
「ははははは! なかなか面白い奴だな! ここの兵士達一人にでも傷つければ、お前もパックの餌にしてやるよ!」
そんな言い合いをしていると、イサムの目にもの凄い光景が目に映る。本当に空中に島が浮いている。
「凄いな! こんな風景見たことない!」
「本当にすごいね、おばあちゃんって偉大だなぁ」
「本当よね、私も初めて来たけど感動したわ!」
見上げる三人に他の二人も頷いている。
「私もその時にご一緒したかったですね」
「私もです……」
そしてイサムも行動に出る。
「お前らは待機な。たぶん今ティタを呼んでも解決しないだろうからな、まずは俺が餌になる」
「え! イサムまさか…!」
イサムはエリュオンの言葉を待たずに、絡んできてた兵士に近づく。
「おい! さっさとパックに会わせろよ!」
イサムはそう言うと、思いっきり嫌みな兵士を殴る。兵士は突然の攻撃に対応できずそのまま倒れる。兵士は驚きながらも声を上げる。
「そ…その男を捕らえろ!」
一斉に兵士達がイサムに群がる、イサムは抵抗せずにそのまま捕まる。
「貴様! よくもやったな!」
「お前が手を出せって言ったんじゃないか。早く会わせろよ、そのピックだかプックだかに」
「良いだろう、お望み通り会わせてやる。おい! こいつは上層民暴行罪でコロシアム行きだ!」
イサムは兵士達に縄をかけられて、そのままフェアリーの国テイルガーデンの中へ連れていかれる。他の仲間たちもやれやれと後を着いて行くのだった。
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