番外編 続 ルルルと武器開発室

 ロロの大迷宮十階にある武器開発室では、今日も三人のオートマトン達が武器の話で盛り上がっていた。


「いやぁやっぱり打撃武器は【クロマグロ】で決まりだね!」

「チャン姉ちゃん何言ってるんだよ! 本当なら【メバチ】か【キハダ】の方が使い勝手が良かったのに、勝手に変更するから…」

「そうだよ! 私が作った【ロウニンアジ】の方が全然性能上だったし!」


 四角いテーブルの上には竹を編み込んだ籠に入ったミカンのヘタから浮き上がる、マグロのホログラムを回しながらコタツに入っているシャンは文句を言う。


 その開発室に足音が聞こえて来る。


カツ カツ カツ


「やばい! ルルル様だ! 隠れろ! ドアチェーンも忘れるな!」


長女チャンの一声掛けると、一斉に他の二人は玄関扉に鍵を掛け各場所に隠れる。


ガチャガチャガチャ


ブチン! ギィィ


 玄関扉に掛けていたチェーンは引き千切られ、ドアノブも完全に潰されている。


「……」


 部屋の中には誰もいないが気配は十分にある。それを知っているルルルは居間へとそのまま土足で上がる。


「あっ…また土足…」


 小さな声がコタツの中から聞こえる。ルルルは近づき、そのままコタツ布団を引き上げ中を覗く。そこにはチャンが横向きに寝転んで隠れていた。ルルルは覗きながら、一言チャンに話す。


「出てきなさい」


 チャンは横にゴロゴロッとコタツから飛び出して畳に正座する。つぎにルルルが向ったのは、台所にある戸棚である。幾何学模様の入った摺りガラス戸を開けると、リンがしゃがんで隠れていた。


「出てきなさい」


 リンはさっと戸棚から飛び出してチャンの隣に正座する。つぎにルルルは上を見上げると、天井の板を少しずらして覗いているシャンを見つける。


「早くおりて来なさい!」


 シャンはさっと天井裏から降りてくると、リンの隣に正座する。ルルルは土足のまま居間の畳に上がり、三人の前に立つ。「土足は…」と言うチャンの声などもちろん無視だ。


「私がここに来た理由…分かるわね?」


 ルルルの冷たい言葉に三人は身震いを一つして、チャンが答える。


「えっと……ははは…なんでしょう…?」

「とぼけないで!」


バキッ!


 ルルルが片手でコタツを叩き四角い台は真っ二つに割れる。


「ヒィッ!」


 チャンの悲鳴が上がる。リンとシャンは下を向いてガクガクと震えている。


「メル様に怒られたわ……何故だと思う!」

「え…今回は…特に何もしていないと思うのですが…」


パンッ!


 コタツの真上に取り付けてあった四角いカバーの中の丸い蛍光灯が突然割れた。


「何もしてなくて、ここに来るはずないでしょ!」

「は…はい! そうですね!」


 しかし、今回はチャンも記憶を探るがまったく思い出せない。


「はぁ……ルンドルの時に実戦投入された【転送機】を設計したのは誰?」


 それを聞いてシャンが恐る恐る手を上げる。


「ぶ……無事に転送出来たと思うのですが…」

「そうね、無事に転送出来たわ…」

「でしたら何故にメル様はお怒りに……」


 ルルルは、シャンの前に立ち屈みながら両頬を片手で摘む。シャンは口を尖らしたままガクガクと震えている。


「転送が出来たから終わりじゃないのよ、自力で出れないなら意味無いわ」


 ハッとした顔になるシャン。だが理由があるようなのでルルルは手を緩める。


「で…ですが! 転送中に扉が開放されない様にロック機構を取り付けないと亜空間に放り出される可能性がありまして……」

「貴方が扉を必要とする装置を作るからでしょ!」


 シャンの唇は再度尖り、震えは最高潮に達する。


「ふ……ふみまへん…」


 ルルルはゆっくりと手を離し、シャンの頭を撫でる。


「いい、良く聞いてね。別に謝って欲しいから怒っているのではないのよ、技術者として使う側の気持ちも考えて欲しいの。助けに行ったオートマトン達が転送機から出れなくてどうするの?」

「もっともです……」


 シャンもかなり反省している様子なので、ルルルも深い溜息をつき立ち上がる。これで終わりかと安堵の色を見せる面々だったが、まだあるようだ。


「次に、【ジャンガリアン】と【パールホワイト】を設計したのは誰?」


 びくっと体が動いたのは、リンである。ルルルはシャンの前からリンの前へと移動する。


「あの武器の発想は凄く良いわ、でもどうして動力を持久力の無い子で使ったのかしら?」

「え……ですが開発段階で長期戦には向かないと、お話していたのですがルルル様が可愛いから良いと仰ってたではないですか……」

「そうよ、あの子達は可愛い。だけど、敵を二体三体位で回転が止まるのはどうかと思うの」


 ルルルは可愛い物が好きだ。だが、それはそれこれはこれである。リンの頬っぺたを屈んだルルルが両手で摘み話を続ける。


「実戦で使ってみないと分からない武器もあるかもしれない。でもね、使用者の命は貴方達の武器に掛かっているのよ!」

「ふぁい……ふぁかりふぁしふぁ」

「分かればいいのよ」


 ルルルは立ち上がり玄関へ向う。そして扉の前で振り返り笑顔で三人に伝える。


「次は誰か現地で戦って貰おうかしらね。直接データを取るのも必要よ」


バタン!


 そう言葉を残し扉を閉め、ルルルは去って行った。

 ルルルが居なくなった部屋で三人は大きな溜め息をつく。


「はぁ……私…今回何も無くてよかったぁぁ」

「もっと頑張らないとですね……」

「冷蔵庫…いい案だと思ったんだけどなぁ」


 そしてルルルの最後の言葉に話題が移る。


「現地、誰が行く?」

「えっそりゃぁ長女のチャン姉ちゃんでしょ!」

「そうだよ! だって実戦経験ないし!」

「え! いや経験ないなら積もうよ! あんた等武器作るだけじゃ駄目だよ!」


 ルルルは、そのやり取りを扉を向こうで聞いている。


「なんだかなぁ……」


 技術者として成長するのはまだまだ先の話である。

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