第41話

 命の抜けたコアを拾い上げるイサム、そして暫くするとコアは消え【未使用コア】としてメテラスの名前と置き換わった。


「ロロルーシェが前に言ってたな…コアに戻るか選択出来るって…あいつは死を選んだんだ。本当にずるいよな…」


 イサムは先程抜け出した大きな穴の上から、六百年前の都タナスータを見下ろした。その隣にエリュオンが来る。


「もう六百年経ってるのよ…あの悲劇から…誰も覚えていないわ…」

「そんな事ない、俺らが覚えているじゃないか…」


 声に出さずに涙を流すエリュオンをイサムは優しく抱き寄せる。それを切っ掛けにエリュオンは声を出し泣き出した、それを止める者は誰もいない。


「私たちが何をしたって言うの! ただここで暮らし、生きていただけなのに! それが運命だったの?」

「違う! 運命なんて都合の良い自分への言い訳だ! 助けられたはずなんだ…みんなを…」


 エリュオンの記憶を見たイサムも涙を流す。でも、どうする事も出来ないという現実が目の前にあり自責の念に駆られる。他の三人も黙ってそれを見ていたが、イサムがエリュオンに話しかける。


「リリルカ、土の精霊はこの後どうするんだ?」


 土の精霊タイタの手に乗っていたリリルカが答える。


「この後はコアだけ帰還しちゃうから、作った体はここに残していこうかと思うけど」

「なら、この大きな穴を精霊の巨体で埋めてくれないか?」

「うん…大丈夫だよ」


 リリルカはそう言うとタイタを動かし大穴へ向う。そして、その中へ入ると大穴は完全に無くなってしまった。


「ありがとう、リリルカ」

「気にしないで、タイタもそう言ってる」

「本当にありがとう、リリルカ」


 イサムとエリュオンはリリルカに感謝を告げる。しかし、それを見届けたかの様に魔物達が現れる。


「まだ生き残りが居たようですね! こんな時に出てくるなんて本当に腹が立つわ! 来なさい【クロマグロ】!」

「えっ!」


 イサムの驚きなど関係無しとメルの目の前に魔法陣が現れ、二メートル程の黒く大きな魚が引っ張り出される。その太短い紡錘形に尻尾は無く、変わりに長い柄が付いている。

 左右にブンブンと振り回すと、冷気が周囲を冷やしイサムの方まで涼しくなる。


「はっ!」


 勢いよく飛び出したメルは、【クロマグロ】を容赦なく振るい溶岩の体を持つ人型の魔物を次々と粉砕して行く。それを見ながらイサムが呟く。


「あれ武器なのか? それとも冷凍マグロなのか…最近食べてないな…マグロ…」


 それを隣で聞いていたエリュオンが何言ってんだと言わんばかりの顔でイサムに答える。


「あれ打撃武器でしょ?」

「そうです、あれは打撃武器です」

「イサム、あれは食べられないよ」


 テテルとリリルカにも突っ込まれ、遠くを見つめるイサム。その間にメルは見える全ての魔物を一撃で倒し戻ってくる。


「本当に魔物って無神経ですよね! 人の気持ちなんか全然分かっていない!」

「……だよな」


 メルが持ってるマグロを触りながらガックリと肩を落とすイサム。しかしそのマグロの目は、敵を倒した達成感により活き活きしていた。


「さて、気持ちを切り替えよう。あのノイズが言ってたフェアリーの村人達は本当に国に行ったと思うか?」

「恐らくは間違いないでしょう。どの様な方法かは分かりませんが、冗談で言うとは思いません」

「絶対に許せない! イサムさま、もしそうならまだ間に合うのではないですか?」


 テテルは同じフェアリーが無残に殺されたのを聞いてから、ずっと腹を立てている。間に合うというのは、生き返らせて欲しいと言う意味だろう。


「そうだな、ロロルーシェに連絡したらそっちに向うか」


 イサムはロロルーシェに念話と繋げる。


「ロロルーシェ、リリルカのイフリト契約は終わったが、村の人達はどうやらフェアリーの国に、死体で送られた可能性がある。だから助けに行く。」

『やはり殺されていたか。フェアリーの国とは最近付き合いがなかったからな、一人適任が居るから現地に着いたら転送させよう』

「了解だ、現地に着いたらまた連絡する」


 イサムは念話を切り、他のメンバーに伝える。


「フェアリーの国に行くならば適任者を送ると言う事だった、誰だろうな」

「恐らくはティタでしょう。三千年前にフェアリーの国【テイルガーデン】を建国した女王です」

「え! その人もオートマトンなのか?」

「そうです、ティタ様は我らの王。ロロ様を知らない世代でも、誰も逆らおうとはしないはずです。何しろ御伽噺に必ず出てくる方ですから」

「なるほど、それは助かるな」


 しかし、村から離れようとした時だった。突如イサム達に声を掛ける者が居た。


「貴様ら!ここで何をしている!」


 振り返ると、大勢のフェアリーの兵士達に囲まれていた。イサムはマップを確認すると、完全に包囲されている。


「完全に包囲されているぞ、ここは冷静に対処しなきゃな。テテル頼めるか?」


 同じフェアリー族なら警戒もされにくいと判断したイサムはテテルに頼み、テテルも頷く。


「私達はここの村を助けに来た者です! 既に誰も居らずこれからテイルガーデンへと向う所でした!」


 テテルは、肝心な所は抜かしながら正直に話す。しかし、隊長だろうそのフェアリーの兵士は眉をしかめて声を荒げる。


「嘘をつけ! この現場の有様を見てみろ! この場所に平然と居るお前らを信用できると思うのか!」

「本当です! あなた方は何故この場所に来たのですか? 村の人達がどうなったのか知りませんか?」


 今は兎に角、兵士を刺激しない様にと思ってはいるが変貌した村を見てそれは難しい。


「その話は国に付いてから詳しく聞こう! お前達この者達を捕らえろ!」

「なっ! そんな! 待って下さい!」


反論しようとするテテルをイサムが止める。


「テテル、ここは我慢しよう。ヘタに手を出しても国に行くのは同じだからな」

「そうしましょう。危険な時はその時また考えましょう」

「へぇ、メルと意見が合うとは思わなかったわ」

「二人とも仲良くしててくださいね」


 各自暫く大人しくしようと言う事になり、イサム達は抵抗せずにフェアリーの兵士達に捕まる。フェアリーの兵士達を良く見ると、全員女性で背は低いがとても強そうに見える。


「全員女性とは、フェアリーは女性ばかりの種族なのか?」

「違います、女性の方が男性フェアリーより強いのです」

「そうなのか…すごいな」

「黙れ! 大人しく付いて来い!」


 イサムは怒られ、すみませんと謝りながら兵士達に付いて行くのだった。

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