第35話

「お待たせしました。お暇だったですか?」


 メルがぼんやりしているイサムを見ながら話しかけた、イサムの隣にエリュオンがぴょんと座りその肩に乗っていたタチュラがイサムへと移動する。


「いや、それほどじゃなかったよ」

「タチュラ! そこが定位置みたいな移動しないでよ!」

「妾はここが一番落ち着くのですわ」

「・・・それで、どうだったんだ? 武器召喚と念話は使えそうなのか?」


 そこにルルルがやってきてメルとテテルに何やら手渡す。


「これで武器召喚と念話は使えます。ですが、残念ながらエリュオンちゃんとタチュラは武器召喚は使えなかったわ」

  

 本当に残念そうな顔をしてルルルが言う。エリュオンは首を横に振り、ルルルに気にしないでと伝える。


「別に武器が無いわけでも無いし、大丈夫よ! ありがとうルルル」


 その言葉を聞き、ルルルはしゅぱっと座っていたエリュオンを両手で持ち上げぎゅっと抱きしめる。


「ぎゅぅくっくるしい! で、で、念話は使えるの!?」


 苦しいながらも、ルルルに念話の話を聞く。


「あっごめんなさい・・詳しく説明するわ。メル様とテテルに渡したのはイヤーカフス型の装置です。これで武器召喚と念話が使えます。武器召喚に関しては直接呼び出せるようになっています。」

「それは便利ね、念話も通常通りなの?」

「そうです、ですがもう一度登録しなおさないと駄目みたいです」

「わかったわ、ありがとう」

「ありがとうございます。ルルル様!」


 ルルルに感謝を告げるメルとテテルだったが、ルルルは嬉しい顔をしていない。それに気付いたイサムが尋ねる。


「ん、どうしたんだルルル? 良くない事があるのか?」

「オートマトンの表情を良く読めるわね・・・そうなのよ・・・エリュオンちゃんとタチュラは武器召喚は使えないって言ったけど、念話も所有者が同じコアのみしか使えないのよ!」


 ルルルはエリュオンを抱きしめたまま顔をくっ付けグリグリと頬ずりしている。


「これでやっとエリュオンちゃんと念話出来ると思ったのに・・・・・」


 ゾゾーっとエリュオンの赤黒い髪が逆立った気がした。


「そうか・・・まぁ俺は連絡が出来るようになったから良かったよ、ありがとうルルル」

「それじゃぁ意味無いのよぅー! ううう・・・・」


 涙は出ないが泣く振りをするルルルにエリュオンも仕方ないと頭を撫でる。そこえロロルーシェからイサムへチャットが入る。


『ルルルの方は無事終わったか? 終わったら直ぐに戻ってきて欲しい。また強い闇の波動を感じた』

「わかった、今丁度終わった所だ。直ぐに戻る」

『では待っているぞ』


 ロロルーシェはチャットを切り、イサムは他のメンバーに伝える。


「また強い闇を感じたらしい、ルルルが良いならもう上に戻るが大丈夫か?」

「ええ・・大丈夫よ・・・メル様とテテルはいきなり実践で武器召喚は試して大丈夫ですが、不具合がありましたらまた修正致します」

「わかったわ」

「了解しました」

「それとイサム、貴方の使っているメニューでショートカット出来る機能を追加したわ。項目を開かずに直接実行可能のはずだから、後で確認してね」

「マジで? それは助かる!」


 名残惜しそうにルルルは伝えると、エリュオンをゆっくりと降ろして頭を撫でる。


「エリュオンちゃん、また遊びに来てね」

「う・・うん。また来るよルルル・・・」


 いつも強気なエリュオンも、どうやらルルルの強引さは苦手らしい。イサムは苦笑しながら昇降機へと向う。その後、ロロルーシェの家へと戻ったイサム達はノルの出迎えで直ぐに中に入る。中には既にリリィとリリルカが座っていた。


「急かして悪かったな、だが今回の強い闇の波動を感じた場所が、ちょっと厄介でな。これを見てくれ」


 ロロルーシェは、テーブルの上に大きな地図を広げる。そこには、ロロの大迷宮を中心に様々な町や城などが書かれており、大陸の広さを感じる。


「まずは、今いるこの場所がこの大陸の中心、ロロの大迷宮だ。そこから下にあるのがルンドルだな、今回向って欲しい所は西にある」


 ロロルーシェは迷宮を指差しそこから左へと動かす。西の町を過ぎそのまま幾つかの村等を越えた先に大きな山脈があるようだ。


「西の町から遥か先にある山脈の一際大きな山『イフリ山』で強い闇を感じた。恐らく罠の可能性が強いな」

「罠? 俺らを誘き寄せてる可能性があるのか?」

「そうだ、今大陸中から小さな闇を感じるがイフリ山で強い闇を感じることは無かった。だが、狙った様に強く波動を出して威嚇している。そしてその威嚇場所が、イフリ山の精霊『イフリト』が加護している村だ」

「精霊? 精霊もいるのか・・」


 イサムはロロルーシェやリリルカが普通に魔法を使っているので、精霊の存在を考えていなかったようだ。

「勿論居るさ、私やリリィとリリルカは精霊の力を借りずに魔法を使う事が出来るからな。まぁ居ないと思うのも当たり前か」

「それって凄い事なんだよな?」

「そうだ、だから問題があってな。私は特に精霊と仲が悪い、イフリトとはかなりな」

「なんだよそれ・・・喧嘩したとか?」


 イサムは冗談を言うようにロロルーシェに聞いたが、冗談では無かったらしい。


「はははは、その通りだ。この大陸に来た時に、やたらとちょっかい掛けてくるもんでな、アイツの体半分消し飛ばしやったら数千年動けなくなってあの山が出来たらしいぞ」

「らしいぞじゃないだろ・・・・ どうやったら山が出来る喧嘩するんだよ・・・」

「やったもんは仕方が無いだろう、だから今回はイサムにお願いしたいんだよ」

「おいおい、山作る奴とどうやって戦うんだよ」


 そこでリリルカが手を上げる。


「あのね・・・私が契約をしにいこうかと・・・」

「け・・契約? 意味が分からない。闇を倒して、イフリトと仲良くなろうって事?」

「まぁそんな感じだな」

「まじか・・・そんなに簡単にいくのかよ・・・」


 イサムの想像を遥かに超えている為、まったく理解できない。


「簡単ではないだろうが、リリルカに契約して貰わないと周辺の地域が消し炭になるだろうな」

「勘弁してくれ・・・・断れないイベントかよ・・・・で、誰が他に行くの?」


 少しやけ気味でロロルーシェに尋ねる。


「私とリリィは無理だな、リリルカの契約を邪魔してしまう」

「だろうな・・リリィも似たようなものかな?」

「そうだ、精霊を頼らない奴は嫌われるな」

「でも、リリルカは良いのか?」


 精霊に嫌われるなら、リリルカもじゃないかと尋ねる。


「リリルカは、地の精霊『タイタ』と契約しているからな。イフリトを抑えるには有効だ」

「抑える? もしかして戦って力を示せって事?」

「はははは、良く分かったな」

「・・・・・・・」


 イサムは言葉が出ない。ゲームイベントのような事がリアルで起こると、これ程のストレスになるとは思いもしなかった。


「一応・・・ミケットにもチャット入れとくか・・・いくかもしれないし・・・」


 とりあえず仲間を増やして攻略しようとしたイサムだったが。


『念話が出来るようになったのニャン。でもミケ暑いところは苦手だから、引き続きこっちでお手伝いするニャン』

「そ・・・そうか・・頑張れよ!」


 イサムは、ミケットとの会話を終えた。そして更にタチュラが言う。


「ご主人様、私も火は苦手でございます。出来ましたら、保管にてお運び致しますようお願い致します」

「そ・・そうか・・・・それはしょうがないな・・・」

「私もロロ様のお手伝いがございます」


 ノルもそう答える。そして、周りを見るとどうやらイフリ山へ向かうのは、イサムとメルとテテルとリリルカ、そしてエリュオンのようだ。


「大丈夫よイサム! ちゃちゃっとやっつけちゃいましょ!」


 エリュオンの言葉を聞いて、ショートカットの設定は早めにしておこうとイサムは思った。それから一時間後に各自準備を済ませ、イフリ山へと向うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る