第34話
目の前に煉獄の炎が広がる、それを防ぐ為に広がる薄緑の膜のような防御魔法。それが間違えだったのかもしれない。私達は抗ってはいけなかったのかも知れない。
でも遅すぎた、人は弱い。限りなく弱い。自分が生きる為にした事が、自分を殺す事に繋がる。だけど、そんなの分かるわけがない。でも、もうそんな事考えなくても良い。
だって私はもう生きていないのだから――――――。
ガバッ
エリュオンは、勢い良くシーツを押しのけ起きる。
「はぁはぁ・・・酷い夢・・あれ?・・・なんの夢見てたっけ・・・」
酷い夢を見ていたと思うのに、思い出せない。そして周りを見渡す、メルとテテルとタチュラが寝ている。
「あれイサムが居ない・・・・起きたのかな?」
窓から差し込む朝日に目を細めると、外に人の気配がする。ベッドから降り、窓の外を見ると知っている人影が二つ動いている。
「おいおいイサム、それじゃぁ駄目だ。簡単に斬られて終わりだよ」
「そんな事言ってもなぁ、なかなか難しい」
イサムとリリィが木の剣だろう武器をもち互いに構えている。そしてイサムがリリィに向い駆ける。
「駄目駄目、直線的に斬ろうとしても避けられて逆に攻撃を喰らうよ」
リリィは片手でイサムの攻撃を受け流しそのままカウンターで切りつける。練習用の木の剣は、刃先は平く刀身も鋭くないが、剣の熟練者が扱えばどんな武器でも凶器に変わる。それでもイサムにとっては、一切ダメージは無いので、リリィは少しだけ意地悪したくなる。
「ぐぁなんでだ・・・」
「直線じゃぁ斬る場所を相手に教えてるのと同じだよ、こんな感じでわざと直線的に見せて変えるんだ」
リリィは上から斬りつけるが、防ごうとするイサムの剣に当たるそのギリギリで角度を変えて突きに変わり胸に刺さる。いや刺さりはせずに百メートルほどイサムは吹き飛んだ。
「がはっ・・・なんでだ・・・全然見えないぞ」
「はははは、当たり前だ。まだまだ素人に見切られるほど鍛錬をさぼっては無いよ」
勿論イサムにダメージがあるわけではないが、かなりの距離を片手で吹き飛ばすリリィの強さに、イサムは感嘆の声が漏れる。そしてリリィは大きく振りかぶると、イサムに向けて振り下ろす。
ガガガガガ!
剣圧により生み出された斬撃が地を削りイサムを襲う。両手で顔を防ぐ様にしているイサムの体に触れる前に斬撃が消える。
「俺もそれくらい出来るように強くなりたい」
「ふふふ、良いね。頑丈とは聞いてたけど、ピンピンしてるじゃないか。治癒魔法の用意もしてたんだけどね」
「頑丈だけが取り柄みたいなもんだな・・・じゃぁ続き宜しく!」
イサムは再び駆け出し、リリィと同じ様に頭を斬り付けようとして突きを放つ。しかし難なくかわされて足を引っ掛けられる。それにまんまと引っ掛かり、前のめりに転がる。
「ぐうううう、くっそぉまだまだぁ」
「その意気だ、早くかかってきな」
部屋の中からエリュオンがそれを見ているが、それに気が付く事もなく二人は剣を交える。
「ふぁぁぁぁ・・・もう少し寝よっと・・・・」
エリュオンは一つ大きなあくびをすると、ベッドへ再び入り込む。
「ふぁぁぁぁ・・・」
朝食の席でイサムが大きなあくびをする。
「眠たそうですね、イサム様。随分と朝早く起きられましたが鍛錬は如何でしたか?」
朝食の準備をしながらメルがイサムに尋ねる。
「いやぁリリィが強いってのは聞いてたけど、これ程相手にならないとは思わなかった」
(本当は、起きたらメルの顔が目の前にあって、背中にはエリュオンがくっ付いていたから悶々して二度寝出来なかったとは言え無いよな・・・)
「ははははっ、イサム! これ程もなにも、まだ半分も力を出してないよ」
「まじかよ・・・・だって斬撃とか普通でないぞ」
リリィに相当しごかれたが、まったく相手にならなかったイサムは更に落ち込む。
「落ち込む暇なんて無いよ、日々鍛錬だ。気を抜くと命は無いよ」
「分かってるよ・・・日々鍛錬だろ」
「斬撃でるわよ普通に」
「ええ、出ますね」
エリュオンとメルが普通に斬撃は出ると言い、イサムはこれだから異世界はと口を尖らす。そのイサムを見ながら、ロロルーシェが今日の予定を伝えてくる。
「それで今日だが、メンテナンス室に行って一応みんなのコアを見ておこう。特にメルとテテルはオートマトンの体を失って武器召喚も念話も繋がらなくなってしまったからな」
「わかりました。流石に武器が無いと困りますね」
「そうです、タチュラと戦った時にはヒヤヒヤしました」
「それと、エリュオンとタチュラにも武器召喚と念話が使えないか調べて貰う」
イサムの肩から降りてテーブルで食事をして居るタチュラが答える。
「妾は、特に必要は感じませんがご主人様がどうしても仰るならば構いません」
「私も一応持ってるからなぁ。他の武器って言っても私は大剣以外は使いたくないし」
「私はここでお母さんと魔法の特訓をするよー」
「ちなみに俺は他の武器とかないのか?」
イサムのその言葉にリリィが反応する。
「あんた・・・初心者の武器すらまともに使えないのに何言ってんだい!」
「あ・・ははは、じょ冗談だよ・・怖ぇなリリィ・・・剣の鍛錬を励むよ・・」
「中途半端じゃ命がいくつあっても足りないよ、まずは剣を励みな!」
「りょ了解だ!」
実際イサムの母親と左程変わらない年齢のリリィに言われると、どうも従ってしまう。それでも嫌な気分ではないのだが。
「では一先ずは十階のメンテナンス室に向ってくれ」
ロロルーシェが伝えると、各自が動き出す。イサムはメンテナンス室について行く事にした。リリルカを残して、イサムとエリュオンとメル、テテルはメンテナンス室に向う。即座に走ってくるルルルがメルに抱きつく。
「メル様ぁーご無事で何よりですー! テテルあなたも助かって良かったわねー!」
メルに抱きついた後にテテルにも抱きつく。そしてその後は勿論エリュオンだ。
「エリュオンちゃん! 会いたかったわぁ!」
ぶんぶんと振り回しながら、クルクル回るルルルにエリュオンは当然無抵抗だ。
「おいおい、ルルル。それくらいで勘弁してやってくれ」
「うーん、目が回るぅ」
振り回されすぎたエリュオンが、目が回ったのだろうヨロヨロと歩いているのをイサムが受け止める。
「あぁごめんなさい・・・ちょっとやり過ぎちゃったわ」
テヘペロっと舌を出すルルルに反省の色は無いようだ。
「それでルルル、コアの事なんだけど」
「はい、ロロ様から聞いております。武器召喚と念話ですね、調べますので中にお入り下さい」
ルルルがそう言い、イサム以外の四人はメンテナンス室に入っていく。イサムは外で待機と言われた為、ベンチの様な椅子に座りぼーっと忙しくしている他のオートマトン達をみていた。そこにイサムへ声をかける者がいた。
「イサム殿、少し宜しいでしょうか?」
話しかけてきたのは、南の町ルンドルで活躍した卵型オートマトンのカルだった。
「こっちに戻ってきてたんだなカル!」
「はい、無事にルンドラの復旧作業が完了し、昨日ここへと帰還いたしました」
まじめに丁寧に答えるかる。そしてまたもや土下座のような状態になる。
「イサム殿、メル様をお救い頂き誠に、誠に有難う御座います」
「何言ってんだよ、助けられたのは本当にまぐれだったんだ」
カルは立ち上がり、深々と頭を下げる。
「それでも帰って来てくれたのが大事なのです」
「それならいいが・・・・・結構救えなかった感があるんだけどな」
「イサム殿は、心に決めた方など居られますか?」
「急に話が変わったな、こっちに来る前は居たけど・・・どうだろうな・・・」
隣人の真兎を思い出したが、イサムはそれが恋だったのか分からない。
「我輩は四千年前より、九十層のラル隊長をお慕い申し上げております」
「へーそうなんだ、成就すると良いな」
ラルに会った事は無いが、ノルやメルと共に長い時間生きているオートマトンってのは知っている。
「ふふふ、そうですね。いつか夢が叶えばいいのですが・・・」
「応援はするが、協力は出来そうにないな。オートマトンの恋愛事情も分からないし、自分自身も恋人いないからな・・・・」
「イサム殿には大勢いますでしょう、選り取り黄身取りで御座いますよ」
「あいつらはコアを所有しているって意味で好意を持っている感じがするけどな」
訳の分からない親父っぽい駄洒落をぶっこんで来るが、普通に答えるイサム。
「はっはっは、それはイサム殿がまだ未熟な証拠であります」
「そうだと良いな・・・」
「いつか必ず良き人が傍に、いやもう居るのかも知れませんが・・・おっと時間をお取りしました、我輩はこれにて失礼します」
カルはまた深々とお辞儀して、仕事へと戻っていった。小さなカルの背中が少しだけ大きく見えたイサムだった。しかしその目線の先に奇妙な三体のオートマトンを見つける。
先頭は正方形の木の板を抱え上げ、真ん中はその板を乗せるだろう四つ角に足のついた四角い枠、そして最後の奴は花柄の掛け布団をもっている。
(ん? あれコタツじゃないか? この世界にもコタツがあるのか?)
じっと見ているイサムに気がついたのか、三体の女の子であろうオートマトン達はそそくさと奥の建物に消えていった。
「なんだったんだ? あいつらは・・・」
色んな奴がいるなと、イサムの頭にハテナが出ている所にメル達が丁度戻ってきたのだった。
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