第31話

 国王の部屋は、城の五階で皇太子の部屋のほぼ真上にあった。人一人が立てるほどの窓枠の縁に掴まり、窓の鍵を確認した。しかし、鍵はかけられていなかったのでイサムは物音を立てない様に、恐る恐る中に入る。

 魔法灯の緩やかな灯りが部屋全体を照らしているので、薄暗いが何かにぶつかる事は無さそうだ。マップを確認すると扉の向こうに兵士が二人居るので、気付かれた時に入れない様タチュラに扉に糸を吐く様伝え国王の元へ向かう。


 (魔物にはなっていない様だな・・・)


 その部屋の中央にある大きなベッドに横になっている人が、間違いなく国王だろう。そばに寄ると、胸に突き立てられた異様な柄の短剣が不気味に輝いている。


 (たぶん呪われた武器だ、さっきのやり方でどうにか出来るかな)


 イサムは、先程覚えた蘇生を手に込める方法で短剣を触る。すると、禍々しい黒い靄を噴き出しながら短剣は消えていった。それを確認して国王に蘇生を行う。眩い光が部屋を照らして国王はゆっくりと目を覚ます。


 「ん・・・何故私ははここに・・・そなたは何者だ?」


 目が覚めた国王は、優しくも威圧ある目でイサムを見ながら尋ねた。


 「俺はイサムと言います。ロロルーシェの仲間なんですが・・・」

 「ふむ、私は死んだと思っていたが・・・病も消えておる・・そなたは、闇の者ではないな」


 ベッドから体だけ起こし、ジロジロとイサムを見る。


 「賊でも無さそうだし、ロロ様の仲間と聞くと余計に疑いたくもなるが・・・」


 そして国王は扉を見るがタチュラが糸を吹き付けている光景を見てふぅと溜め息をつく。


 「あれでは兵も呼べんな、私にして欲しい事は何だ?」


 イサムも直ぐに納得してくれるとは思っていなかったがもう少しちゃんと説明したいと考えていると、壁に掛かっている大きな絵を見つける。


 「国王、信じれないのはわかります。なので下の皇太子の部屋にそこの絵の女性、メルが居ますので彼女から聞いて下さい」

 「何!?まさか・・・本当にロロ様の使いだと言うのか・・・」


 半信半疑の国王はベッドから降り、当たり前のように立ち上がる。


 「まさか病が治るとはな・・・で、何処から行くのだ?扉は通れぬ様だが」

 「少し我慢してもらって、窓から下ります。あの仲間が安全に降ろしてくれます」


 イサムはタチュラを指差し、タチュラも丁寧に頭を下げる素振を見せる。


 「ふむ、シム族か。まぁおぬし達にまかせよう」


 それを確認したイサムは、タチュラを呼び国王を背中に乗せて安全の為に糸を巻きつける。そしてイサムも背中に乗り下の階へと窓から下りる。


 「お帰りなさいませイサム様」

 「早かったわね」


 メルとエリュオンは、窓の傍で待っていたようで直ぐに向い入れ、国王を丁寧にタチュラから降ろす。


 「タダルカス国王様、私はロロ様の従者メルと申します」

 「私はエリュオンよ」


 深々と頭を下げるメルに国王はすぐさま近寄り片膝を付き、メルの片手を取る。


 「メルフィ殿下・・・・誠に申し訳御座いません。光の国たるこの城を闇の手にまたしても・・」


 気持ちが高ぶり涙が込み上げてきたのか、それ以上国王は何も言わない。


 「御立ち下さいませ国王様。現国王の貴方様が使いの従者に膝を折るなどあってはなりません」

 「そんな事を申されましても・・・私は・・先代や祖先に顔向けできませぬ・・・」


 頭を上げる事が出来ない国王に、メルも両膝を付き国王の両手を握る。


 「大丈夫です。私も救われました、この国も必ずまた救われます」


 その言葉を国王は聞き、涙を流す。イサムはそれを見ながら、ここへ最初に来る前にみた灰色丸が大量にある部屋へと向った。部屋の前には国王の胸に刺さっていた短剣と同じ様な異様な形の錠が掛けられている。イサムは同じ様に蘇生を錠にに掛けると黒い靄とともに鍵が外れ消えていく。


 「さて・・・余り惨いのは勘弁して欲しいな・・・・」


 そう言いながらイサムは扉を開ける。すると中が真っ白な部屋が現れ、多くの死体が宙に浮いていたり地に転がっていたりと不思議な空間がそこにはあった。長い年月が経っているはずなのに、殺された時の状態がそのまま維持されているというか、時が止まっている様に感じる部屋である。そこへエリュオンが後ろから声を出す。


 「こ・・・これはコアのような空間みたいね・・・こんな大きな空間ありえないわ・・・・」

 「コア?その中と同じ状態って事か?」


 コアは知っているが、その中がどうなっているか等イサムにはわからない。ただ、頷くエリュオンがそう言うならそうなのだろう。


 「じゃぁとりあえず順番ずつ生き返らせよう、このままじゃ可愛そうだ」


 イサムは人がぶつかって蘇生しないように、余り大量に初めから蘇生せずに徐々に数を増やしていった。もちろん始めに部屋に入った時に殺された獣人の女性も蘇生を掛けているので、ゆっくりと一人ずつ目を覚ます。


 「きゃぁ!・・・ここは・・!」

 「ん??どうしてここに・・・・」

 「あれ・・・・私は殺されたんじゃ・・・・」


 各々が周囲の状況を理解できずに混乱している。それが当たり前だろうが、そこからやがて現実に戻され、恐怖や悲しみに震える者や泣き叫ぶ者などがちらほらと現れる。


 (こうなる事は解ってる・・・・でも生き返らせるのが先だ)


 イサムはひたすらに蘇生を続ける。そして一時間程で全員生き返らせることが出来た、予想以上に人数が多くコアの空間から出せれない女性たちも大勢居る。


 「千五百人は居るんじゃないか・・・・殺しすぎだな皇太子・・・・」


 死んでしまった皇太子を見ながら、闇とはここまで酷いものなのかと改めて感じるイサムだが、生き返った女性達の矛先は、当たり前だろう皇太子に向けられている。


 「こいつが・・・・こいつのせいで私達の人生は滅茶苦茶に!!」

 「そうよ!誰がこいつを殺したかわからないけど、死体でもいい!だれか私を殺したみたいに、こいつを短剣で突き刺して!」

 「どうして!どうしてまたここに居るの!私は死んだはずなのに・・!!」


 そこに、一人の獣人の女性が落ちている短剣を拾い、皇太子を刺そうと飛び掛る。しかしそれをイサムが体を張り止める。


 ギィィン


 イサムに当たった短剣は女性の手から離れ床に落ちる。


 「どうしてですか!何故駄目なのですか!」


 泣きながらイサムに敵意をあらわにする。それでもイサムは退かない、そして話を始める。


 「こいつはもう死んでる。これ以上痛めつけても何もならないし、あんた達の心が傷つくだけだ」

 「じゃぁどうしろっていうの!?住処を奪われ、家族を失った!生き返ったって何も無いわ!」

 「そうよ!どうせまた死ぬのなら、こいつの死体に一矢報いて死にたいわ!」


 沢山の人の声が、波となってイサムに押し寄せる。それでもイサムは冷静に答える。


 「俺はあんた達を生き返らせたイサムっていうヒューマンだ。それをお節介だと言うのならそれでも良い。だが俺の出す提案のどちらかを選んでくれ、答えはその後でも良いだろ?」

 「提案?何を偉そうに!あんた何様なの?生き返らせたって?それで私達が喜ぶとでも?」


 イサムは首を横に振る。


 「別に喜ばそうとしてるわけじゃない、死んだ人間を生き返らせる能力があるから生き返らせるんだ。生き返ったのなら、あんたらの人生はそこで終わりじゃないはずなんだ!つらい事があったら必ずそれと同じ重さの良い事があるはずだ!俺はそう信じてる、だから生きて欲しいんだ!」

 「そんなの傲慢な正論よ、だれも救われないわ!」

 「そうだ、傲慢だ。だから提案するんだ、それを聞いて生き方を決めるかまた死ぬのか選んでくれ」


 イサムはそう言うとロロルーシェにチャットを繋ぐ。


 「ロロルーシェ、話がある」

 『何だイサム?メルのコアが消えたが大丈夫なのか?』

 「ああ大丈夫だ。訳は後で説明する、この前ノルに預けていたお金は俺が使っていいんだよな?」

 『突然だな、もちろんかまわんが何を買うんだ?』


 いきなりの話でロロルーシェも意味がわからない、だがイサムの事だから問題ないと考えた。


 「獣人の国の郊外にまだ空き地があるはずだ、そこの土地を買いたい。タダルスカ王国の奴隷だった人達をそこに住まわせたいんだ」


 それを聞いて、回りの獣人達は驚きの声をあげる。それもそうだ、ロロの大迷宮の外に住む獣人達にとって、獣人の国は『夢の国』と呼ばれ憧れる、聖地みたいな場所なのだ。


 『ちょっとまってくれ、獣王に聞いてみよう』


 ロロルーシェは直ぐに獣王へと念話を繋ぎ、確認する。


 『獣王聞こえるか』

 『これはロロ様、こんな夜分に如何されました?』

 『お前は、イサムに恩を返したいと言っていたな?』

 『はい、勿論で御座います。先日の件で私どもの国は救われました』

 『なら話は早い。タダルスカ王国の獣人奴隷達をイサムが解放したようだ。そちらに住まわせたいと言ってきてるがどうする?』


 獣王は耳を疑った。イサムと呼ばれる蘇生の勇者は、我が国を救った事に飽き足らずタダルカスの獣人達まで救ったのだ。獣王はの目には涙が溢れている。


 『も・・・・勿論で御座います!!我が国が責任を持って、その獣人らを受け入れます!なんと言っていいか!うぉぉぉぉん』

 『わかった、じゃぁ詳しくはまたあとでな』


 獣王は泣き出してしまったので、ロロルーシェは早めに切る。


 『待たせたなイサム、獣王から許可が下りたぞ。国を挙げて対応してくれるそうだ』

 「よかった、じゃぁ取り合えずここには千五百人くらいだが、その倍くらいは頼む。国中の囚われてる獣人を送りたいんだ」

 『わかった伝えておくよ』

 「ありがとうロロルーシェ」

 『気にするな。また後で連絡をくれ』

 「わかった、落ち着いたらまた連絡する」


 イサムは一通り伝えるとチャットを切る。そして奴隷だった女性たちに話す。


 「一つ目の提案は、住む場所を失った人も居ると聞いた。だから獣人の国に住んで貰う、もちろん家もあるし食べる物も働ける場所もあるはずだ。獣王が約束してくれたらしい」

 「そ・・・それ本当なら・・・すごい事だけど・・・・」


 周りの獣人達も先程の怒りを忘れる程に混乱している。


 「そしてもう一つの提案だ」


 イサムは後ろで倒れている皇太子に蘇生を掛ける。皇太子は光を放ち失った腕も再生され生き返る。


 「な・・・なんで生き返らせるの!!」


 獣人の女性たちが恐怖に顔が引きつり、後退りする者や涙を目に溜める者など大勢居る。それを見ながらもイサムは話を続ける。


 「さて二つ目の提案だ。そこの短剣でも使うと良い、皇太子を殺したい奴は前に来い。だがその後に生きるか死ぬかは自分らで決めればいい」

 「ひ・・・ひぃ!」


 気が付いた皇太子が生き返った獣人の女性達を見て仰向けのまま後ろに下がろうと必死になっている。


 「千五百人が殺したいと望めば、俺が千五百回生き返らせてやる!こいつと同じになりたいなら前に出て来い!」


 誰も前には出てこない。皇太子は小便を漏らし鼻水を垂らし大泣きしている。


 「わ・・・わだじがわるがったんです!!じぶんのごごろにまけで・・・・やみのじがらをうげ入れだ・・わだじが・・!!」


 そこへ、国王が皇太子の傍にくると思いっきり平手で頬を殴る。


 パン!


 そして反対の頬へ手を返す。


 パン!


 それを何度か繰り返し、国王の顔も涙で溢れる。それでも国王は叩くのを止めない。


 「ごべんなざい・・・・ごべんなざい!!!」


 頬を腫らし泣きじゃくる皇太子に国王も泣き崩れる。


 「獣人の皆様・・・誠に!誠に申し訳ありませんでした!!」


 地に頭を着け謝る国王。そして皇太子も同様に頭をつけ謝っている。そこへ一人の女性がポツリと呟く。


 「それでも・・・私達の初めては奪われたんだよ・・・・もう無いんだよ・・・」


 それを聞いてイサムもポツリと答える。


 「あぁ・・・それな・・非常に言いにくい事なんだが、蘇生した時に傷を全部治してるから・・・たぶんそれも元に戻ってるはずなんだよな・・・・・たぶん・・」


 暫くの沈黙の後。


 「ぷっ・・・あはははは!そんな事を言ったんじゃないのさ!」

 「ははははは!あんた面白い人だね!」

 「え?なに?俺なんか間違る事を言った?」

 「いやいや、良いよあんた! もしそれが再生されてるのなら、あんたが試しておくれ!」


 その言葉に対してイサムは反論する。


 「いや!それは出来ない!・・・・・」

 「なんでだい!私らが汚れてるって言うのかい!?」


 気を悪くした女性がイサムに言い寄る。


 「違う!俺もまだ無いからだ!」


 大声でカミングアウトしたイサムだったが、かなり恥ずかしいようで耳まで赤い。


 「はははは!つくづく面白い人だあんたは!良いよ、私は許す!ここに居るより夢の国に住む方が良いに決まってるじゃないか!」

 「あはははは!私もだよ!どうせ一度死んだんだ!生き返らせたアンタの好きにしな!」


 他の女性達も笑いながら納得してくれたようだ。勿論、辛かった事には変わりないがそれでもイサムを信じ一つ目の提案に皆乗るようだ。


 そこへ生き返った人達の奥から二人の男女のヒューマンが出てくる。それを見て国王がまた泣き出す。


 「兄上・・・反省したのですね・・・・・」

 「お兄様・・・・私達も同じ・・・・権力に囚われた情けない人間でありました・・」


 病気で死んだと言われていた他の二人の子供もこの場所に閉じ込められていた様だ。それを見ながら、ふぅと溜め息をつきイサムはミケットを呼び出す。


 「ぐーぐー」


 どうやら身代わりで牢屋に居る間ずっと寝ていたようだ。


 「おいミケット起きろ!仕事だ!」

 「にゃ! おはようですニャン」

 「ああ・・おはよう。ミケットに頼みがある、そこの獣人の人達を獣人の国に連れて行く事になったんだ、しばらく身の回りの世話を頼む。ほら、服とか着てない子もいるし任せるぞ」

 「了解したニャン!」


 ミケットはそう答えると、獣人の集団へと入っていく。


 「じゃぁ次は殺された家族の所に先に行くか、メル!暫くここを頼む。国王から兵士達に説明も必要だろう」

 「わかりました。どちらへ行かれるのです?」

 「始めに助けた家族の所へ行って来る」

 「了解しました。まだ闇が居るかもしれません、その時はお呼び下さい」

 「わかった、じゃぁしばらくここは頼んだ!」


 メルに話した後、タチュラを呼び外に出ると伝える。


 「お任せ下さい。何なりとご指示を」

 「じゃぁ宜しくな」


 タチュラの背に乗るイサムにエリュオンを飛び乗る。


 「私も行くわ!いいでしょイサム!」

 「エリュオン!私の背中はご主人専用よ!」

 「まぁまぁタチュラ、エリュオンも連れて行こう」

 「そう仰るなら仕方ありませんわね」


 そうタチュラは言うと、窓の外へ飛び出した。イサムはマップを広げ、赤丸があれば即座に反応出来るようにしておく。しかし、赤丸は無くそのまま兵士に掴まった家に到着する。


 「ちょっと外で待っててくれ、中を見てくる」


 イサムは二人に伝えると中に入る。部屋の中は血にまみれ無残な状態の三つの死体を直ぐに見つけた。


 「本当に可愛そうな事を・・・・」


 イサムは三人を蘇生する。光に包まれて三人は目を覚ます。


 「け・・・賢者様!・・私達は一体・・・」

 「悪かったな・・俺たちのせいで酷い目に遭わせてしまって」

 「と・・・とんでも御座いません・・・」

 「それと、これからはこの国も変わると思う。安心して住める国になるはずだ」


 それだけ伝えると、イサムは外にでて直ぐにタチュラの背に乗り移動する。家の外へ三人が出る時には既にイサム達の姿は無かった。


 「じゃぁ城に戻るか・・・ん?ちょっとまてよ」


 マップを開いていたイサムの目に一瞬だけ緑丸が灰丸に変わったのを確認した。誰かが殺されたのだろうか、気になったイサムはその場へタチュラを移動させる。

 移動した場所は、日中見た奴隷店だった。マップで表示されているのはその裏手側みたいなのでそちらへ移動する。するとかなり大柄な男が、獣人の女性を殴り殺している所だった。もう死んでいるのに殴り続けているのを見てエリュオンが飛び出す。


 「エリュオン!斬るなよ!気絶させろ!」

 「たぁ!」


 咄嗟にイサムがエリュオンに伝えると、大剣の刃を横に向け思いっきり叩いた。


 ガゴン!


 「ぐぅぅぅぅぅが・・・・・」


 男は不意に喰らった一撃に白目をむいて倒れる。その音を聞きつけ、昼見た店主が出てくる。


 「何をしている!・・・あらぁこれはこれは昼間の旦那様こんな夜更けに何のようですか?」


 イサムの顔を見て直ぐに昼の客だと気が付き態度を変える。


 「タチュラ!糸でこいつらを貼り付けろ、口にも糸を掛けろよ」


 タチュラにそう指示すると即座に糸を吐き出し、店主と気絶した男を捕らえる。


 「むぐーんんんんんん!」

 「奴隷店は今日で閉店だ、朝までそこで反省してろ」


 イサムは殺された女性を抱えるとタチュラに跨り城へと戻る。その移動途中に女性へ蘇生を掛ける。


 「ん・・・ここは・・・うわ!高い!」

 「落ち着け!この子があの大男から助けたんだ、いま城へと向ってる」

 「あ・・有難う・・・え?城?何で!」

 「こら落ち着け!急いでるんだ!城は今安全だから取り合えず落ち着いてくれ!」


 エリュオンが助けた事を伝えて、暴れるのを抑えつつ城に何とか到着する。そしてまた四階の皇太子の部屋に窓から入る。


 「お帰りなさいませ、あら?お一人増えてますね」


 メルが獣人の女性が増えた事に気が付き、大丈夫ですかと声を掛ける。


 「ここは・・・なんでこんなに大勢の獣人の女性が・・・」


 驚いて周りを見回していた女性だったが、その集団の中からはっきりと分かる声が聞こえた。


 「お姉ちゃん!ケキナ見て!お姉ちゃんが来てくれた!!」


 そう声を出したのは三日前に皇太子に殺された獣人の女性『ククタ』だった。


 「まさか・・・・ククタ!ククタなんだね!」

 「お姉ちゃん!会いたかったよぉぉぉ!」


 ククタと呼ばれた女性と、外で助けた女性が抱き合い大泣きする。それを見ながらイサムはウンウンと頷き次に国王のもとへ向う。


 「あそこで泣いてる女性はさっき奴隷店の外で殺されてるのを助けたんだ。店主と店員らしき奴らは糸で固定しているから兵士に頼んで奴隷になっている人達を助けて欲しい」

 「勿論だ、直ぐに手配しよう」

 「それと、兵士も悪い奴がいるはずだからそいつらも懲らしめてくれよ・・・・罪の無い街の人が殺されるのは勘弁して欲しい」

 「それも承知した!」


 イサムが外に出ている短い間に、国王は兵士の前に現れて指示を出し始めたらしい。もちろん兵士は驚いたが、皇太子や残り二名の殿下も傍に居りすぐさま奴隷だった女性たちの衣服や落ち着ける場所などが提供されている。


 「本当に君には心から感謝している。ありがとうイサム殿」


 国王は深々と頭を下げた。イサムは止してくれと手を振り国王へ伝える。


 「国王、これからが大変だ。あとは貴方達が国を良くしてってくれ、獣人の奴隷だった人達は俺達に任せて大丈夫だ」

 「勿論だとも!本当に有難う!感謝の言葉も見つからない!」

 「気にしないでくれ、それよりもまさか徹夜になるとは・・・・」


 日が昇る前だと言うのに城の中は、建国してから経験した事の無い忙しさと騒がしさであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る