第9話 アジトに潜入しちゃいました。

【いらないよ、こんなもん。】


 ハチベエ、私があげたお守りを地面に叩きつけました。武器屋の真ん前で。

 サスガは呪の人形です。外見も黒いですが腹の中も負けずに黒々してます。

 武器屋のオヤジ、気づいたらどう思うのでしょうか。今からワクワク…じゃなかったヒヤヒヤします。

 とりあえず、そっとしとこ。


 そして私は道行く人にダメ元で訪ねました。


「『砂漠の砂』の人ってどこに居ますか?」


 で…着いちゃいました。

 ここがクラン『砂漠の砂』の隠れ家だそうです。

 以外なことに聞く人聞く人みんな知ってました。悪名高いのかな?

 正面から入ると連行されるかもしれないので裏口探します。

 あそこかな? 勝手口らしきところからこっそり侵入しました。


 まず目にしたのは受付らしきカウンターです。って正面じゃん、ここ。

 カウンターには出っ歯な女の人が座ってました。

 だけど出っ歯は鏡を見ながらキメ顔作りに余念がなく、私に気づいた素振りはありません。

 私はカウンターを素通りしました。出っ歯、ムダな抵抗だよ。


 地下室を探します。だって監禁ったら地下室でしょ?でしょ?

 あっさり見つけました。地下につながる階段です。

 ここまで何人かとすれ違いましたが、何とか見つからずに済みました。

 私は階段を降ります。


 地下は真っ暗でした。あっランプ見っけ!


【ねえ、カンナ。潜入してるのに堂々灯りをつけるってどうかと思うんだけど。】

「暗いのきらい。」


 ハチベエの小言がカンに障ります。

 石造りの床にポタンポタンと滴る音がしました。

 『ザ・地下室』って感じで気分が高揚します。

 きっとビッチは暴力を振るわれ、クスリをキメられ、おとなしくなったところを何人もの男たちに好き放題もてあそばれ、ボロ雑巾のようにここに捨てられ、死んだ魚のような目で意味も分からず怨嗟の声をあげているに違いありません。

 だってそれが『ザ・地下室』ですから。

 社会復帰はムリかな?


 程よく暗いところで、難しいことを考えていると眠くなってきました。がんばろ、私。

 そうこうしているうちに突き当りに着きました。

 階段からここまでだいたい十数歩ってところでしょうか。

 そこは倉庫のようになっていて木箱や樽が所狭しとならんでいました。

 きっとこれらは武器や毒、危険なクスリの数々です。ですけどビッチはいませんでした。

 もう密航船にのせられて大海原を駆け巡ってることでしょう。元気でねビッチ。忘れないよ。


 取り敢えず目的を果たした私はアジトを後にしました。


 結局スイーツは渡せずじまいでした。

 仕方がないので歩きながら食べることにしました。あまくておいし。


【ボクにもちょうだいよ。】


 これはビッチの弔いです。私が食べなきゃ意味がありません。だからあげない。


「探したよ〜って、あ〜それウチの〜!」


 ビッチの想い出が声になって頭の中に響きます。私、ビッチのこと友達って思ってたのかも。


「どうして待っててくれなかったの〜。もう。」


 目の前にビッチがいました。なんで?

 今頃は海の向こうで鎖に繋がれて競売にかけられてるはずじゃ?


「カンナ。今度カンナも『砂漠の砂』に行こうよ。色々、教えてもらったよ〜。」


 ダメだよビッチ。そんな教え嘘っぱちだよ。やめようよ。

 瞑想したって宙に浮かないし、神様なんかと交信なんて出来ないよ。


 その時道行く人に声かけられました。


「娘さん、『砂漠の砂』の話してたのかい?」

「はい。そうですけど。何か〜?」

「いやね、あそこ火事で消火中だそうだよ。なんでもランプの火の不始末だってよ。ひょっとしたら解散するかもって話だ。あそこのクランにはみんなお世話になったんだけどな〜。」

「ええ〜〜! ユウキさんたち大丈夫かな〜。心配だね〜カンナ…ってカンナすごい汗だけど大丈夫? 顔も真っ青。そうだよね〜、カンナもユウキさん心配だよね〜。」

【カンナ、本当のこと話していい?】

「……だめ。」

【じゃあ、それちょうだい。】

「ど…どうぞ。」

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