第5話 お人形屋さんに来ちゃいました。

「シーフ…だったんだ。」


 ほっと胸を撫で下ろす私を見てビッチはキョトンとしてました。

 誰? 撫で下ろしやすそうなんて思った人。放っといてよ。

 もとはと言えばビッチの普段の行いが悪いから間違えたんだよ。私悪くないよ。


「ウチの職業なんだと思ったわけ?」


 本当のこと、絶対に言えません。


「賢者…かな…。ビッ…アヤ、賢そう…だから。」


 その言葉を何とか捻りだしました。思ってもないことを言うのって精神力いるよね。疲れた。


「あはは〜。カンナどういう耳してんの〜。」


 ビッチ屈託なく笑います。ビッチはビッチだから頭の方はちょっとアレなんでしょう。簡単に騙せました。


「でも、そうでもないよ〜。カンナのほうが頭いいよ〜。」


 分かってる、それくらい。

 そんな私達は今何をしているかというと私のお人形を探しに来てました。


「人形屋さん、人形屋さんはっと。あった! あそこだよ。行こ、カンナ。」

「うん。」


 ビッチがメスのフェロモンを駆使して得たであろう情報でお人形屋さんを見つけました。

 どんなお人形が私を待っているんでしょう。ドキドキします。

 ビッチはそんな私を尻目にズカズカお店へ入って行きました。待ってよ、ビッチ。


「いらっしゃい。」


 そこには大量の人形に囲まれた一室の真ん中で、やる気なさそうなオッサンが頬杖をついていました。


「こんにちは〜。人形探しているんですけど、いいのありますか〜。」

「そこにあるのが全部だよ。」

「ありがとうございます〜。カンナ、どれがいいと思う? う〜ん、これなんてどうかな?」

「やだ。」

「即答っ!?」


 ビッチは雑然と積まれた中から一つの人形を取り出しました。なんでファーストチョイスがそれなの?

 夜な夜な枕元に立ってたり、少しずつ髪の毛が伸びてきたり、血の涙流したりしそうで怖いよ、それ。


「じゃあね〜これ。なんか強そうでいいんじゃない。モンスターとの戦闘はかどるかもよ〜。」


 私は首を横に振りました。お人形にそういうの求めてないから。


「う〜ん、これなんか可愛いくない?」


 それは可愛いじゃなくてグロいって言うんだよ。

 女子の可愛いの定義が最近おかしくなってると思うの、私。


 なかなか決まりません。


「すいませ〜ん。参考までにですけど、この人形っていくら位するもんなんですか〜?」


 ビッチはボーダーの服を着た可愛らしい金髪の男の子の人形を手にとりました。

 それ、やめよう。夜になると凶暴化するから。刃物持って暴れるから。アキレス腱5、6本切られちゃうから。


「5000エンでいいよ。」


 高っ!


「100エンくらいで買える人形ってありますか〜?」

「そこの指人形なら100エンでいいよ。」


 ショボッ! それよりもオッサンの『いいよ』って言い方がさっきから鼻につきます。

 ですけど、ここにきて貨幣価値が自分の感覚に近づいてる気がしました。

 何でだろ?ななな何でだろ? 1周回って最近新鮮、そんな気がしました。何でだろ?


「もうちょっとどうにかなりませんか〜?」


 ビッチが『お願いっ』って感じのポージングをしてます。

 オッサンみるみる頬が赤くなってきます、年甲斐もなく。


「弱っちゃったな〜。」


 鼻の下を伸ばしたオッサンを視界に入れるのは苦痛だったので、私はわざとらしくお人形を物色しました。


「これ可愛いかも。」


 私は黒い子猫のようなぬいぐるみを手にとり、胸に抱きしめました。ふかふか。気持ちいい。


「わあ!お嬢ちゃん、いつの間にここに来たんだ。」


 オッサン私を見て驚きました。失礼な。ずっとここに居ましたけど。


「おじさん、そのネコちゃんのぬいぐるみはいくらしますか〜。」

「それはな、売りもんじゃないんだ。」


 ビッチの質問にオッサン口元をキュッと引き締めました。

 その口元は…乾いて割れてネリネリしたものが付着していました…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る