第3話 町へ行っちゃいました。
「ウチ、アヤ。アンタの名前は?」
「カンナ。」
「カンナね! 呼び捨てでいい?」
「様呼称で…。」
「え? なんて言ったの? カンナでいいよね。ウチのこともアヤって呼んでね。」
茶髪のお姉さん改め、メスブタビッチ改め、アヤ(ビッチ)は『にへっ』と人懐っこい笑顔で笑いながら、私を呼び捨てにしました。
この笑顔に世の男どもは籠絡されるのでしょう。
私はそうはいかないからね。女だし…。勝手に呼び捨てにされたし…。
「これからどうしよっか。」
「……。」
私は黙ってうつむきました。分かるわけないでしょ。
「ゴメンネ〜。そんなこと聞かれても困るよね。」
ビッチは両手を顔の前で合わせて困った笑顔を作ります。完全に男ウケするポーズです。紛うことなき天性のビッチです。心せねば。
「とりあえず、出よっか!」
「うん。」
外に出ました。どうやらここは高台に建っている神殿のような建物でした。
見下ろすそこには町がありました。行き交う人がまるでゴミのようです。
先に外に出ていたパーティーの1人がこっちへ来ました。
「アヤちゃんさ、やっぱりオレ達と一緒に行かない?」
ビッチだけ誘うの? 赤髪ピアスのザコ、あなたのこと忘れないよ。
「ゴメンネ〜。ウチ、カンナとパーティー組むことにしたから。」
「じゃあ気が向いたら声かけてよ。」
「ありがとね〜。」
小さくバイバイって感じで手を振るビッチ。
それで正解だよビッチ。あの男、体目当てだから。ビッチにしてはまあ上出来。
「あんなに人いるんだからさ、いろいろ知ってる人いるよね。」
「どうだろ。」
「きっと事情知ってる人いるよ。聴きこみ調査開始だね!」
ビッチはトットットットと軽快に階段を降りて行きました。そううまく行くわけないのに。甘いよね。
◇◆◇
「でね、ウチら冒険者はね適性ってのがあって適性にあった職業につくのがいいみたい。」
「うん。」
「職業につくにはね冒険者ギルドってところで職業を選択すればいいみたいなんだけどね。」
「うん。」
「最初は適性が分からないから、気に入った職業につけばいいんだってさ。」
「へえ。」
「カンナは何にする?」
ビッチは職業一覧が書かれたメモを手渡してくれました。情報だけでなく紙と鉛筆まで手に入れてました。いったいどうやって。
ま、まさか、そんな…。でもこのメスブタならやりかねません。
そんな不純なことして手に入れたものなんて虫唾が走ります。
ここは断固拒否の姿勢を貫かせていただきます。
「人形遣い…かな。」
「へえ〜。カンナお人形好きなんだ〜。なんかカンナらしいね。」
お人形に負けちゃいました…。
「カンナかわいいから、きっと適正あるよ。」
このクソビッチ何考えているのでしょう。おだてても何もあげないよ。
も、もしや私もビッチと同じことをしてこいってこと? そんな適性いらないよ。
「ウチは何にしようかな〜。」
「娼婦…。」
ビッチの目が丸くなります。怒った?
「シーフかあ。いいかもね〜、シーフ。」
娼婦をこれほど喜ぶとは思いもよりませんでした。
ビッチは生まれながらのビッチ。ボーン・トゥ・ビー・ビッチでした。
やはり血には抗えないってことですね。
「女の子2人でさあ、強そうな男たち相手にしていかなきゃだめでしょ。ホントの事言うと不安だったんだよね〜。」
え? 私、人形遣い。娼婦なんてならないよ。
「でもカンナがいれば大丈夫かも。カンナが人形で私がシーフ! やってやってやりまくってお金がっぽり稼ごうよ〜!」
ひょっとしてそういうお人形? 私、立ち位置的にナントカ2号さん?
よく思い出せないけど…。
「じゃあ、ギルド行って登録してウチらの戦場にレッツゴー!だね。」
屈託のない笑顔でガッツポーズのビッチ。
ある意味戦場だけどそんな戦場行きたくないよ。
「あ〜そうそう。最初のうちはねゴブリン相手にすればいいんだって〜。」
ひえ〜〜〜〜〜っ! ゴ、ゴ、ゴブリンですか〜〜〜〜〜!
ムリですムリですムリですムリです…。
「せ、せめて最初くらいはゴブリンじゃなく人間の方がいい…かも…。」
ビッチ、仰け反り加減で盛大に引いています。
「そ、それはちょっとヤバいんじゃない…かな。」
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