4.神に見捨てられた男

 長かった。

 王様は一人で一時間も話しやがりましたのだ。

 タケル王国、やるな……。



 俺が王様の言ったことを三行でまとめる。


 タケル王国には昔からダンジョンと呼ばれている洞窟がある。

 タケル王国の冒険者はそのダンジョンに挑んでいるが、10階層以降の攻略ができていない。

 そのことが災いし、最近ダンジョンからモンスターが出てきて、街の人々を襲うことがある。


 ということだ!


 また『ゴマシオ』というのは、王様の話から推測するに、グルリアスから派遣されてきたダンジョン攻略部隊のリーダーらしい。

 それで『ゴマシオ』に与えられた任務は「ダンジョンを攻略せよ!」というものである。



 ……どうしよう、俺ゴマシオじゃないんだけど。



 俺の心配をよそに、王様の話はまだ続く。


「おぬしと一緒に攻略できそうなメンバーを紹介したいところなんだが、そいつらのプライドが高くてな……」


 いわゆるパーティとかいうやつだろうか。

 もしそんな奴らと一緒に闘ったんじゃ、俺がゴマシオじゃないってことがばれてしまうかもしれん。


「あ、全く問題ないですよ! 俺……じゃなくて、私はソロで攻略できます!」


 なんかハードル上げちゃってるような気がするが、今更引き返すことはできないしな……。


「おお、そうか! 流石ゴマシオ殿は頼りになるな」


 満面の笑顔で笑う王様。


「ご、ゴマシオ! もし成功したあかつきには、妾と婚約してやらんこともないぞ!」


 幼女な姫は頬を赤くして叫んだ。

 叫んだ……叫んだ?



 は?



 隣に座っている王様が発狂した。


「り、リリスぅ! 何を言っておるのだ!」


 ガクガクと幼女な姫の肩を揺さぶって、動揺している。


 爺さん、あんま興奮すんな。またゲロるぞ。

 あ、それはゲイか。


 姫は意地悪そうに笑って、口を開く。


「あははは! 嘘じゃ、ゴマシオの女性耐久度を試したのじゃ!」


 ……んだよ、びっくりさせんなよ。


 高度に訓練された童貞はそんなもんじゃ動揺しねえし!

 女がそういうことするから雑魚童貞は簡単に恋に落ちたり、勘違いしちまうんだよ。


 底辺童貞の現状をなげいていると、横からセシィーが耳打ちしてくる。


「ゴマシオ様、下腹部が膨らんでおります」


「やかましいわ!」


「窮屈なのであれば新しい服を御用意致しますが……」


「余計なお世話だわ!」


「し、しかし……。それではあまりにも可哀想では……」


「なにがだよ!」


 本当に勘弁してください。

 大体美人なお姉さんにそんなこと言われたら、もっと窮屈になっちまうだろうが。


 王様はほっと胸を撫で下ろすと、ゆっくり椅子に座った。


「なんだ……。リリス、ビックリさせないでおくっ──オウエッ!」



 〜ここからは音声のみでお楽しみください〜



「王様ぁぁぁぁぁぁ!」


 少し後方で控えていた兵士が叫ぶ。



 あーあ。

 だから言ったのに……。



 * * *



「では、ゴマシオ殿の健闘を祈っております」


 兵士はビシッと敬礼すると、城内へ戻っていった。


「ふぅ、一段落だな……」


 城からの帰り道。

 太陽は沈み、タケル王国の街を赤く照らしている。もう午後だ。


 俺は馬車に乗りながら、嘆息混じりに呟いた。


 すると、下の方で歩いているセシィーがこちらへ顔を向けてくる。


「何をいっておられるのですかゴマシオ様。これから私たちは冒険者ギルドに向かわないといけません」


「冒険者ギルド……あぁ、冒険者を統括してるとこか」


 4年前にはそんなもんなかったなぁ。

 あ、でもそうか。俺は勇者だったけ。ギルドとか関係なかっただけか。


「はい。『ステータスカード』を入手しないといけません」


「……でも、俺この国の救世主だろ? 何でそんなことしなくちゃならないんだ?」


「救世主であろうがなんであろうが、今日からゴマシオ様はタケル王国の一冒険者です。この国では実績を上げない限り、特別な優遇はありません」


 そりゃひでえ話だ。

 もし俺が本物のゴマシオなら帰ってるぞ?


 ま、いっか。俺偽物だし。


「分かった」


「それと一つ提案なんですが、私とパーティーを組みませんか?」


「……それはダンジョン攻略を一緒にしようってことか?」


「はい、私はヒールが使えます。あまり攻撃は得意ではないのですが、元冒険者の端くれとしてご一緒させていただきたく思います」


「うーん……」


 そう呟いたっきり、考え込んでしまった。


 俺がゴマシオじゃないってことをバレてはいけない。

 だからさっき、王様の前ではああ言ったんだ。


 ……でも待てよ。

 俺がモンスターに殺されて死んじまったら元も子もないんじゃないか?

 ゴマシオじゃないってことがバレる以前に、安全面を確保しておいた方がいいのかもしれない。


「……いいと思うよ」


「あ、ありがとうございます! この身献げてお守り致します、我が主・ゴマシオ」


「お、おう……。これからよろしくな」


 もう俺は取り返しのつかないところにまで来ていた。



 * * *



 ──冒険者ギルド本部



 俺は信じていた。

 ギルドの受付には美人なお姉さんがいるって。


 けど、俺はその光景を見て戦慄した。


 だって…………。





 熟女





 しかいないから。


「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 隣で立っていたセシィーが驚いた表情で尋ねてくる。


「ゴマシオ様、どうしました?」


 いや、なんでもない──と言いかけてやめる。


 多分、これはそういう民族なんだ。

 年齢的には若いのに、見た目が熟して見えてしまう民族なのだ。

 だから、きっと──。



「「「ゴマシオ様、お待ちしておりました!」」」



 俺が冒険者ギルドに一歩踏み込むと、受付の熟女……いや、お姉さんたちが出迎えてくれた。


 俺は一つの窓口に目をつけ、即座に駆け寄ると話しかける。


「き、キミの年齢を教えてくれるかい?」


「いきなりなんてこと聞くでザマス! ……でも救世主様なので教えてあげるでザマス。56でザマス」


 俺は衝撃のあまり、目の前が真っ暗になった。

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