3.救わなきゃダメですか? タケル王国

「へい、らっしゃい!」


 陽気な商人のかけ声が響く街。


 俺はアトウッド家の二人が引く馬車の上で揺れていた。


 ぐるりと街を見渡すと、そこには典型的な異世界風の街が広がっていた。

 沢山の屋台が並び、様々な種類の異世界人が店番をしている。


 ヒューマン

 エルフ

 獣人

 ドワーフ

 小人族パルウム…………


 予想通りの亜人だらけ。

 やっぱり俺はまた異世界に来てしまったんだな……、と強く自覚する。



 ──そんな自分の境遇を喜んでいる俺がいた。

 現実の堕落的に生活する自分から解放されて、嬉しく思う俺がいた。



 ボーッと周囲を眺めていると、屋台の中に一つ──『武器屋』が目に止まる。



 武器屋……武器……剣……。


 あ、そうだ!

 あのとき──ミノタウロスを倒したときの剣はどうなったんだ!?


 ハッと思い出し、下の方でひょこひょこ歩いていた爺さんに尋ねる。


「アトウッドさん。俺を見つけたとき、近くに剣とか落ちてませんでしたか?」


 ふむ、と唸る爺さん。


「そんなものはなかったと思うんじゃが……」


「そうですか、じゃあいいです」


 早々に話を切り上げてしまった。

 この爺さんと話すと面倒なことになるってことは経験済みなんだよなぁ。


 ……しかし、なぜあのとき剣が出現したんだろうか。

 あれがなかったら今頃死んでいたに違いない。


 しかも切れ味もバツグンだった。最高級の武器だろう。

 あれってもしかして──。



「そろそろ城に入りますよ〜」


 セシィーのその声で俺は考えを中断せざるを得なくなった。

 結局真意にはたどり着けなかったわけである。




 * * *




「うわぁ、でっけえ城だなぁ」


 思わず独り言が漏れ出してしまうほどの迫力。

 白い城壁に囲まれたその建造物は、城というにふさわしい城たる風格を持っている。



 ──タケル王国とかいうアホみたいな名前のくせに生意気だった。



 今、俺たちは城門をくぐり抜け、門番の荷物検査を受けている最中だ。


「それはそうでございます。こちら、タケル王国三代名物の一つ、『タケル王国の城』でございますから」


 俺の体を確認しながら、愛想よく答えてくれる兵士。


「そのまんまじゃねぇか!」


「実は名前を募集しているんですが、中々決まらなくて……」


「なんで名前を国民に決めさせてんだよ! 自分たちで決めろよ! マク◯ナルドかよ!」


「まくど◯るど……? よ、よく分かりませんが、ごもっともな意見でございます……」


 そう言ってこうべを垂れてしまう兵士。


 少し強く言い過ぎたか……?

 ま、いいか。俺、救世主だし。


「それでは皆様の荷物検査が終わりましたので、城内にお通しします」


 ガガガと大きな音を立てて扉が開いていく。


「こちらです」


 案内を始めた兵士に俺たち3人はおどおどしながら付いていく。


「アドウッドさんたちは入ったことはないの?」


 俺だけならまだしも、なんであんたらもビクついてんだよ。


「わ、ワシらは初めてじゃ」


「そうですね、緊張します」


 ふーん、そんなもんなのか。



 それにしてもこの城、外観だけじゃなく内装も凄い。

 廊下一面に敷かれた赤絨毯。

 壁に均等間隔で設置された古風な電灯。

 窓から差し込む光がこの城のきらびやかさを一層引き立てている。


 やがて、俺たち4人は玉座ぎょくざの間に着いた。

 どうやらこの扉を超えた向こうに“王”が待っているというのだ。


「おじいさん、この先は行けませんよ」


 セシィーが扉に向かいながら、毅然きぜんとした態度で言う。


「正確に言えば、おじいさんだけは行けません」


「ど、どうしてじゃ!」


 あたふたと困惑しながら聞き返すゲイ・アドウッド。


「それはですね……」


 と、ゆっくり切り出すセシィー。


「キャラが被るからです。おじいさんキャラは二人も要りません。王様だけで十分です」


 幼女キャラは何人いても許されるが、おじいさんキャラは一人まで、とでも言うのか貴様……。


「そ、それなら仕方ないのう……」


 わずかにしょんぼりしたような表情で呟く爺さん。

 そこは強気に出ろよ、爺さん!


 セシィーはふっと笑いながら続ける。


「読者が分からなくなってしまいますからね」


 そういうことかよっ!

 てか、読者に気遣って物語進行させてんじゃねえ!



 一人ツッコミに疲れて、ぜぇぜぇ言ってると、セシィーが侮蔑ふべつの視線を送ってきた。


「そんなに興奮してどうしたんですか?」


「してねぇよ!」


 すると、俺たちの茶番を苦い表情で見ていた兵士が切り出した。


「も、もうそろそろ中に入る準備はよろしいですかね?」


「はい、お願いします」


 兵士はこくりと頷くと、扉の取っ手に手をかけた。


「それでは開けます」


 ギィィという建てつけの悪いドアの音と共に、俺たちは玉座の間へと通される。


「では、参りましょう」


 兵士は先導するように前に一歩踏み出し、静かに歩いていく。

 俺はセシィーと互いに顔を見合わせると、その背中を追った。



 もちろんゲイは置いていった。



 * * *



「ようこそ来てくださった、救世主殿。我の名前はタケルである」


 王様は髭をもじゃもじゃと弄りながら、そんなことを口にした。


 お前かーっ! こんなへんてこりんな国名をつけちゃったアホは!

 幼稚園からやり直してこいゴラァ!


わらわの名前はリリスなのじゃ! この国のお姫様なのじゃ! あはははは!」


 王様の横にはバカみたいに笑う幼女が立っていた。

 もう……本当……この国終わってる。


「俺……じゃない、私の名前はゴマシオと申します」


 うやうやしく礼をする。

 ……ほんっとこの名前だせえな。誰だよ考えた奴。


「ゴマシオ殿、待っておりましたぞ」


 王様も小さく礼をする。

 ゴマシオすげえ! ネーミングセンスはゴミカスだけど、一応は一国の王であろう人の頭まで下げさせるんなんて!


 王様は続ける。


「近年、我が国のGDP《国内総生産》の伸びがかんばししくなくてな……」


 この世界にもそういう基準あるの!?

 てか、なんでいきなり経済の話始めてんだよこのジジイ! 知らねえよ!


「うううぅぅぅ……」


 後ろで控えていた兵士が泣き始めた。


 え?

 今の話のどこに泣く要素があった!?

 これ以上、俺を突っ込ませんじゃねえ!


 なんだか重苦しい空気をブチ破ろうと、俺は渾身の一発ギャグを披露する。


「もう私が来たからには安心してください、履いてますよ!」


 ……。

 …………。


 静まり返る玉座の間。


「お……そうであるか……。確かにそれは安心じゃの……」


「あはははは! このゴマシオはアホじゃ! アホ救世主じゃ!」


 動揺を隠せない王様に、バカみたいに笑う姫。

 俺が『やっちまったか……?』と目を伏せると、横からセシィーのフォローが入る。


「タケル様。このゴマシオ殿は道中でお仲間を4人も失ってしまったようで、精神的に疲れていらっしゃいます」


「仲間が見えんと思ったら、そうであったか……。お大事にな……」


 王様に哀れみの目で見られてしまった……。

 クソッ……受けると思ったんだけどな……。


 すると、王様の横に立っていたリリスが笑い始める。


「あははは! そんなギャグ、一年で消えるに違いないわ!」


 やめろォ!

 世界観を壊すんじゃねえ、このガキぃ!


 俺がギロリと幼女を睨みつけると、「ひぃっ」と叫んだっきり幼女は黙り込んでしまった。


 まぁまぁ、と王様がリリス姫に耳打ちする。


「リリス、それはあまりに救世主様へ失礼であろう」


「すいましぇん……」


 しょんぼりとした表情で縮こまってしまうリリス。

 ふっ、勝った。(幼女に)


「それでは本題に入ろうか」


 オホン、と勿体つけて咳き込んだ王様は、そんなことを口にする。


「本題、と申しますと?」


「おぬしに来てもらった理由である」


 そのことか。

 確かになんらかの理由があるからゴマシオがタケル王国に呼ばれたんだしなぁ。



 ……本物のゴマシオが来ちゃったらどうするんだコレェ。



「何卒申しつけくださいませ」


 とりあえず腰を低くする。


「ダンジョンを開拓して欲しいのだ」


「ダン……ジョンですか」


 あぁ良かった。魔王を討伐するより楽そうだ。


「そうだ。我が『タケル王国』には昔からダンジョンと呼ばれる洞窟があってだな、その洞──」



(テンプレ過ぎて省略されました……全て読むにはここを押してください)

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