第3話 上津怜助の不出来な仮面

第3話 1.

「なー上津。お前やっぱゴールデンウィーク藤峰さんとど一緒にどっか行ったりすんの?」

 荒上がそう言った途端、一緒に昼飯を食べていた男子全員の注目が俺に集まった。

「……い、一応」

「うわ、やっぱそうなんだ。いいな~(まつ毛が天パーになって眼球を抉りまくれ)」

「どこ行くんだよ、この幸せ者(乳首を集中的に蚊に刺されろ)」

「教えねえとただじゃ置かねえぞ~(全ての永久歯が親知らずと化すがいい)」

 羨むような表情の下から隠しきれない悪意が漏れ出している。つーかお前らみんな発想猟奇的すぎない?

「まだ具体的なことは何も決まってねえんだ。とりあえずデートしようってことになっただけで」

「そうか」

 と微笑み、俺の手を取る荒上。

「じゃあ遺言はそれでいいな?」

「なんで!?」

 痛いと思ったら荒上の指が俺の腕にめり込んでいた。殺意が強すぎる……。

「ま……まあ、俺のことは置いといてさ。お前らはどうなんだ? ゴールデンウィークみんなで遊んだりしない?」

「みんなでキャンプでも行こうかって話は上がってるぜ」

「おっ、マジか! いいなそれ! 楽しそう!」

「ただし上津、テメーはダメだ」

「え!?」

「え、じゃねーよ。このキャンプは彼女いない歴イコール年齢のやつしか参加できねえ縛りがあるんだよ」

 荒上を含めその場の男子達全員がニヤニヤしながら俺を見ている。

「そ、そんな……」

「むさ苦しい男だけで集まって世間の女子や彼女持ちリア充への不平不満を言い合って、どうすれば俺達にも彼女ができるのかを一晩語り明かすのさ。てめえのような女持ちの軟弱野郎はお呼びじゃねえんだよ」

「悲しすぎる……」

 女持ちになることが目標なのにその言い草は矛盾していると思うのだが。……しかし、そんな悲しいキャンプでも俺にはとても魅力的だった。

 俺の高校生活最大の目的は彼女を作ることだったが、それと同じくらい男友達を作ることも楽しみにしていたのだ。……とにかく他人との繋がりが恋しい。「友達とキャンプ」という響きには憧れすら抱く。このイベントを逃すわけにはいかない。

「なあ、頼むよ。俺も連れてってくれ」

「さぁ~てどうしよっかなぁ~」

 小悪党のような笑みを浮かべる荒上。「小悪魔のような笑み」と「小悪党のような笑み」って一文字しか違わないのに受ける印象が違いすぎる。この小悪党殴りてぇ。

「……俺を連れてってくれたら渚紗を落とした秘伝のテクニックを伝授してやる」

「ご希望の場所を仰って下さい先生。特等席をご用意致します」

 この変わり身の速さ。忍者かお前は。

「うむ、苦しゅうない。行き先についてはお主に一任しよう」

「ははぁーっ」

 よしよしうまくいった。……渚紗を落としたっていっても実際はこっちが落とし穴に嵌められたようなものなんだけどな。まあ荒上達には我が妹直伝のモテ力アップ講座で存分にトラウマを植え付けてやるとしよう。

「それで、日程はもう決まってるのか?」

「ああ。三日出発四日帰りの一泊二日」

 三日……だと?

「それって変更できねえの?」

「帰省してくる兄貴の都合でそこしか車出してもらえなくてな。なんだ、予定入ってんのか? ……まさか」

 荒上は俺の表情から察したようだった。

「……ごめん。その日は無理だわ」

 渚紗とのデート。その絶対君主命令よりも優先できる事柄などあろうはずもなかった。

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