第10話 印刷場
ルシカとリャオが大市場通りを抜け,三の区印刷場に辿り着いたのは,その日の昼過ぎのことだ。
「これが印刷場・・・」
呆気にとられているルシカに,リャオはにやりと笑う。「大きいだろ?」
それは,煉瓦造りの巨大な建物だった。シンシア城を見たことがないルシカにとって,今までで見た建物の中で一番大きい。だいたい五階建てくらいのようで,ルシカの背丈を三倍にした程の高さの塀で囲まれている。
ここに向かうまでの間,リャオが印刷場について色々説明してくれた。印刷場は一の区と三の区の二カ所にあるということ。学舎で使用する教書や,絵本,物語本などを印刷しているということ。原本を持ってきてお金さえ渡せば,刷ってくれるということ。印刷場のまわりには住宅地が広がっていて,大市場通りとは対照的に静かだ。この印刷場で働く人々とその家族が住んでいるという。
ルシカはその巨大な建物をじっと見ていた。
(父さんもここに来たんだ・・・)
ようやく父の足取りを掴んだのだ。もうここに頼るしかない。父がどんなものを印刷したかがわかれば,居場所の手がかりになるかもしれない。
「行こう,ルシカ」
「うん」
門の前には,見張り役であろう二人の男が立っている。ルシカとリャオはその男たちのもとへ向かった。
「すいません」
ルシカが声をかけると,二人ともルシカたちを見下ろした。
「なんだ」
男の一人がぶっきらぼうに応える。ルシカはあらかじめ持っていたルトの絵を見せた。
「この人,ここに来ませんでしたか・・・?」
男は顔をしかめた。
「ああ?いつの話だ?」
「三週間くらい前だと思うんですけど・・・」
「知らねえな。お前,知ってるか?」
彼はもう一人の男に尋ねる。その男も首をふった。
「さあな。そんな前のこと覚えてねえよ」
にべもなく言われ,ルシカは言葉を失う。ここで情報が得られないと捜すあてがなくなってしまうのだ。
隣でリャオが耳打ちする。
「中に入れてもらおう。中で働いている人なら何か覚えているかもしれない」
ルシカはうなずいた。
「中へ入れてもらえませんか?」
「何か印刷するものがあるのか?」
男の問いにルシカは首をふる。男は,は,と呆れたように笑った。
「じゃあ帰んな。ここはガキの来るとこじゃねえんだ」
「でも,この人のことを覚えてる人がいるかもしれない・・・」
「んなもんいちいち覚えてねえよ」
ルシカとリャオがどんなに食い下がっても,男は面倒くさそうにあしらうだけだった。
どうすればいいのだろう・・・ルシカが困り果てたとき,その様子をじっと見ていたもう一人の男がはっとしたように目を見はった。その瞳はリャオをうつしている。
「おい」
男はリャオを気にしながら小声でもう一人にささやく。
「このガキ,前に来た子じゃないか?ラウガ王子と・・・」
その言葉に彼は目を見開き,リャオを一瞥する。
「王子の側近か・・・!」
当のリャオとルシカは全くわけがわからない。男たちは気まずそうに顔を見合わせ,二人に向き直った。
「・・・まあ,いいだろ。二人とも入れ」
「聞き終わったらさっさと出て来いよ」
突然の男たちの豹変ぶりに二人は驚き,逆に戸惑う。
「早く入れ」
男たちに急かされ,二人は門の中に入った。
「なんかよくわかんないけど,よかったね」
リャオが言い,ルシカもうなずく。
「・・・でもリャオ,あの人たちと知り合いなんじゃないの?」
「え?なんで?」
「なんか,リャオのこと気にしてるみたいだったから」
「そうかなあ?」
リャオは首をかしげる。
大きな扉を開け,二人は中へ入った。
その二人の姿を,門番はじっと見つめていた。
「ありゃあ・・・いつかラウガ王子が巡遊でいらっしゃった時に一緒にいた子・・・だよな?」
「ああ・・・,あの茶髪と赤目・・・」
「王子にオレ達が悪態ついたこと言わねえかな?」
「大丈夫だろ。・・・それに,ラウガ王子は厳粛だが民と国のことを考えて下さる心優しいお方だ。きっと何もないさ」
「まあ,それもそうだな」
ひそひそと話し合う二人の目の先で扉は閉められた。
中は同じく煉瓦造りの,割と殺風景な部屋だった。だが,なかなか広い。正面にさらに奥へと続く扉があった。右横に木造の長机と椅子が置かれており,そこに女が一人座っている。
「いらっしゃい」
五十半ばくらいか,顔のしわが深い,痩せた女性だった。ルシカとリャオは長机の前まで行く。
「印刷するものを見せて。枚数や大きさで値段が変わるから」
ルシカは印刷ではなく,人捜しに来たのだと話した。女は少し驚いたようだったが,
「まあ,門番が通したのだからいいでしょう」
と,一人でうなずいて立ち上がった。
「ちょっと待っていて。中の人達に簡単に説明してくるから」
そう言って彼女は奥へ続く扉を開け,中へ入っていく。
「なんとかなりそうだね」
「うん」
二人がほっとしていると,突然ルシカ達が入ってきた方の扉が開き,男が二人入ってきた。ルシカとルトはぎょっとしてそちらを見る。一人はいかにも優しそうな好青年,もう一人は軽薄そうな青年だった。
「なんだ,受付のばあさん,いねえじゃねえか」
二人男はあたりをみまわし,ルシカとリャオの存在に気づく。
「君たち,ここにいる受付の人を知らないかい?」
優しげな青年が柔らかく尋ねる。
「今,中に入っていきました。もう少ししたら戻ってくると思います」
ルシカが戸惑いながら言うと,彼は「ありがとう」と微笑んだ。
男たちは何かを話ながら壁によりかかる。ルシカとリャオはそれを少し離れたところから見ていた。
「あの人達は何か印刷しにきたのかな?」
「うん。多分,情報屋だと思う」
ルシカの小さなつぶやきにリャオも小声で応える。
「情報屋?」
「各地でおこる事件や出来事を調べて紙にまとめて売り歩くんだ。きっとその記事を刷りに来たんだと思う。胸に白花(サシャ)をかたどったバッチをつけているだろ?あれが情報屋の証なんだ」
「へえ・・・」
「ガキのくせによく知ってるな」
ルシカが相づちをうつよりも先に,軽薄そうな青年がからかうように言った。
「お前らは何しに来たんだ?」
高圧的なもの言いに,ルシカはちょっと返答に困る。もう一人の好青年が
「やめろよ,ニック。怖がってるだろ」
と,彼――ニックをいさめた。
「それより・・・そっちの君,顔色が悪いけど大丈夫かい?」
そう言われ,ルシカはリャオの方を見た。確かに顔色が悪い。さっきまで元気だったのに。
「リャオ,どうしたの?大丈夫?」
ルシカはリャオの肩に手を置いた。リャオは力なくうなずいた。
「大丈夫。ごめんよ」
だが,彼は冷や汗をかいている。ルシカが心配していると,扉が開き,女性が戻ってきた。
「おまたせ。中に入っていいわよ。みんなの邪魔にならないように気をつけてね」
「わかりました」
ルシカはうなずき,気遣わしげにリャオをうかがう。
「リャオはここにいて。俺一人で行ってくるよ」
「うん・・・」
リャオは壁にもたれかかり,ぐったりとしていた。ルシカは心配だったが,今は行かなくては。ルシカは二人の情報屋に頭をさげる。
「リャオをお願いします」
ニックはそっぽを向いているが,もう一人はうなずいてくれる。彼にまかせれば大丈夫だろう。ルシカは片手に父の似顔絵を持って扉の中に入った。
リャオは壁にもたれ,浅い息をくり返していた。
突然どうしたのだろう。胸と頭が痛い。情報屋の二人・・・優しげな青年が気を使って声をかけてくれるが,なぜかこの人達の顔を見るのが嫌だ。
(この人達を見たから,具合が悪くなったの・・・か?)
だとしたらなぜ?
――お前は人を殺せるか?
一瞬,瞼の裏が白く光り,またあの長い黒髪の男が現れる。
(一体なんなんだ・・・?)
自分が取り戻そうとしているものがふいに恐ろしくなり,リャオはぎゅっと目をつぶった。
リャオの身を案じつつも,ルシカは部屋の中に入った。
「わ・・・」
その部屋は,先の受付の部屋とは比べものにならない広さだった。シャナの宿の食堂よりも何倍も大きい。
部屋中に机が整然と並べられており,一つの机に男が一人ついていて,なにやら作業している。ばたん,ばたんと何か板のようなものをたおす音があちこちから響いている。皆真剣に作業し,喋っている者は誰もいない。
ざっと見ても百人近くいるだろう。さらに二階三階にも同じだけの人がいるとしたら,とんでもない人数だ。この人達一人一人に訊いてまわらなくてはならないと思うと,一瞬めまいがしたが,ルシカは気を取り直して男のひとりに声をかける。
「あの・・・すいません」
男は作業を続けたまま,ルシカを一瞥した。
「ああ・・・さっきネラさんが言ってた子か」
「はい。この人,ここに来ませんでしたか・・・?何かを印刷しに来たと思うんですけど」
ルシカが差し出した紙をちらりと見て,男は首をふった。
「知らねえな」
ルシカは肩を落としたが,気丈にうなずく。
「ありがとうございます」
すぐにその場から動こうとしたが,彼の流れるような作業に思わず目をとめてしまう。机の上には黒い板があり,その上に白い紙が置かれている。男は文字が鏡向きに浮き出た不思議な板にインクを塗ると,白い紙にそれを押しつけた。しばらく押し当てゆっくりとはがすと,その紙には文字が見事に写されていた。
(すごい・・・こうやって刷るんだ)
男が邪魔そうにルシカを睨んだので,慌ててその場を離れた。その隣の机で働いている男に声をかける。だが,また「知らない」と首を振られてしまった。
ルシカはそれを百回近くくり返した。
一時間近くかけて,ようやく一階の人達に尋ね終わった。ルトのことを覚えている人は誰もいない。
ただでさえ人と関わることが苦手なルシカは,声をかける度に忌むような目で見られ,胸が苦しかった。
(どうしてみんな,こんなに冷たいんだろう・・・)
だが諦めるわけにはいかない。ルシカは軋む木の階段を上り二階に上がる。二階も同じような造りで,同じような作業がなされていた。ここでもルトを覚えている者はいない。訊きまわるルシカのことを,皆鬱陶しそうにしていた。
三階も同じだった。さらに,仕事の邪魔だと怒鳴られ,突き飛ばされてしまう。尻もちをついたルシカはそのままうつむく。泣きたくなってきた。
男達の冷たい態度と,父のことを誰も覚えていないという事実に,ぎゅっと心臓を握りつぶされる気分だった。
気の毒に思ったのか,初老の男が手をさしのべてくれる。
「近いうちに,大規模な人員削減があるんだ。新しい印刷技術がラージニアから入ってくるようで,人手がそんなにいらなくなっちまった。仕事の出来がよくない奴等から辞めさせられるから,みんな必死に働いているんだよ」
小声でそう教えてくれた。
ルシカは働いている人達を見る。皆真剣で,その背には何か大きくて重いものを背負っているように見えた。
最上階の四階に着く頃には,心も身体も疲れていた。また一人一人に尋ねては,あしらわれる。
半分くらい来た時だった。
「ああ,この人なら,一ヶ月くらい前に来た」
小柄なまだ若い男だ。ルシカは信じられないというように目を瞬かせた。
「本当ですか!?」
「ああ。ちょうどオレが熱があった日のことだから覚えてる。身体がきついのに,五百枚くらいの物語本を四百部刷ってほしいとか言うから,たまげたんだ。この階の奴ら総出でやっても二日くらいかかったよ」
(五百枚の物語本・・・?)
そんな話は聞いたことがない。
「どんな本でしたか?」
「さあ・・・,よく見なかったんだよな。でもなんか,戦争の話だった気がする」
「戦争?」
その言葉にルシカは驚いた。戦争なんて,学舎で本当に少し習っただけだ。気にもとめたことのない単語である。
(父さんは戦争に関する物語を書いて,たくさん印刷しようとしていたんだ・・・)
しかし,何故?父から今まで戦争に関する物語なんて見せてもらったことはない。また,作品を印刷するなんて初めてだ。全く不可解な行動だった。
「どこに行くとかは言っていましたか?」
「いや,聞いてねえな。たいして話さなかったし」
ルシカは礼を言ってその場を離れた。他にも父を覚えている人がいるかもしれない。そう思ってルシカは他の男達をまわった。だが,期待に反して,そんな人はもう誰もいなかった。
「そんなに長い間帰ってこないなら,もう死んでんじゃないのか?あるいは,お前,捨てられたのかもな」
重い足をひきずり階段を下りていくルシカに,柄の悪い男がそう怒鳴った。
リャオは印刷場の側にある原っぱに寝転がっていた。このあたりは印刷場と住宅地以外は割と緑が多い。この野原も,普段は子ども達の格好の遊び場になっているのだろうが,今は殆ど人通りがない。たまに女性や老人が通っていくだけだ。
時間とともに具合はよくなっていったが,なぜかあの二人の情報屋と顔を合わせるのが嫌で,リャオは礼を言って彼らのもとを離れ,ここに来たのだ。
礼を述べた際に,「ルシカが戻ってきたらここにいることを伝えてほしい」と頼んだので,待っていればルシカは来るだろう。
(お父さんについて何かわかったのかな・・・)
ルシカは父親を捜している。だが,自分は失った記憶を探す気はあるんだろうか。
リャオはなんとなく感じ取っていた。自分のこれまでの人生はきっとろくなものではないということを。
(もう思い出さない方が幸せなのかもしれない・・・)
だが,あの長い黒髪の男のことがひっかかる。彼のことは忘れてはいけないような気がするのだ。
もうあたりは夕闇に染まりつつある。リャオはオレンジと淡い青が交じり合った空を見上げていた。
「リャオ」
人の気配とともに名を呼ばれ,リャオは起き上がった。ルシカが夕陽を背に受けてこちらに向かって歩いてくる。
「情報屋の人達からここに来てるって聞いたよ。長い間待たせてごめんな。体調は大丈夫?」
ルシカの問いにリャオは笑ってうなずいた。
「もう大丈夫。こっちこそごめんね」
ルシカはほっとしたように――だがどこか力なく微笑んで,リャオの隣に座った。丁度その時,夕の刻を知らせる鐘の音が鳴り響く。ルシカとリャオはそろって空を見渡したが,どこにも煙はあがっておらず,ただ茜色の空が広がっているだけだった。
「お父さんのこと,なんかわかった?」
リャオは空を向いたまま尋ねる。顔を見て訊いてはいけない気がしたのだ。
「・・・わかんなかった」
ルシカも空を見上げたまま,今にも消えそうな声で言った。そんな声しか出なかった。
「父さんは,戦争の物語を書いていたみたいなんだ。それを刷りにきたんだって。・・・それしかわからなかった」
父さんが何をしようとしていたのか全くわからない。そんな話を書いていたなんて,全く知らなかった。
父は今まで誰より近い人だと思っていたのに,今はあまりにも遠く感じる。
印刷場の男達の冷たい態度や言葉が脳裏に甦る。
「父さんがどこに行ったのか,全くわからないんだ」
ずっと心のどこかで思っていたことが,溢れ出しそうになる。
「もうどこをどうやって捜したらいいのかわからない」
ルシカの言葉を,リャオはじっと聞いていた。
「リャオ,俺,ずっと不安だったんだ」
絶対に考えないようにしていたことを,ルシカは震える声で口にした。
「父さんは,もう,死んでいるんじゃないかって」
言葉にするだけで身体がこわばった。
そんなことあるはずがない。父は必ず生きている。それを信じてきた。
だが,捜すあては全くなくなってしまった。もうどこへ歩いていけばいいのかわからない。
「もうどうしていいかわからないんだ・・・」
圧倒的な心細さの中,ルシカは膝をかかえ,顔を伏せた。涙が溢れて頬を伝う。もうここから一生動けないような気がした。
リャオはそんなルシカをただ見つめていた。酒場で初めて言葉を交わしたときから今までのルシカと過ごした時間を思い出す。ルシカが人と話すのが苦手なのも,何も知らないのに見知らぬ街で頑張っているのもわかっていた。
リャオがルシカにかけたいと思う言葉はひとつだった。リャオは息をついて,できるだけ明るく言った。
「なあルシカ,どこを捜していいかわからないなら,全部捜そうよ。国を一周でも二周でもして,お父さんのこと確かめようよ。確かに,死んでしまっているかもしれない。でも,生きてる可能性だって十分あるだろ」
ルシカは顔をあげる。
「探すあてがないのは僕だって同じさ」
その言葉にルシカははっとした。確かにそうだ。リャオが記憶を取り戻すのだって手がかりは全くないのだ,なのに,リャオは明るく微笑む。
「でも僕は,別に記憶を思い出せなくてもいいんだ。もちろん,取り戻したいって思った時もあるけど・・・今はそうでもない。――だけどルシカ,君は違うだろ。君は絶対にお父さんを見つけ出すんだ」
ルシカの冷え切っていた心に一滴の温かな雫が落ちた。
そうだ。自分は絶対に父を見つけ出したい。会いたい。たとえどんな形であっても・・・。
「二の区に行こう。それでもだめなら一の区に行こう。それでも見つからなかったら王都に行こう。・・・一緒に」
「一緒に・・・」
リャオはうなずいた。「あ,でも王都には簡単に入れないよなあ」と頭をかく。その様子に,ルシカは小さく吹き出した。心がいつの間にか温かい。
(そうだ,捜すあてがないなら,全てを捜せばいいんだ)
国はあまりに広く,一人では苦しい。だが,リャオと一緒ならきっと大丈夫だ。
「リャオ」
「うん?」
「ありがとう」
ルシカが礼を言うと,リャオはなぜ礼を言われたのかわからない,という顔をする。たしか前にもこんなことがあった。
二人はどちらからともなく寝転がり,空を見上げた。
「・・・リャオ,もし君の記憶が戻らないときは,俺の家に来なよ。森での暮らしは楽しいんだ」
自然とそんな言葉がこぼれる。リャオは嬉しそうに笑ってくれた。
「ルシカのお父さんが物語を書いて,ルシカが絵を描いて,僕は何をすればいいんだ?」
「ええ・・・,なんだろう・・・。部屋の片付けかな。俺も父さんも,絵本作りに夢中になると,散らかしっぱなしにしちゃうから」
「なんじゃそりゃ」
二人は笑い合う。すっかりオレンジになった空が,二人を照らしていた。
「・・・ところで今日,夕食と寝る場所はどうする?」
「あ・・・」
情報屋の二人は,夕陽に染まる田舎道を並んで歩いていた。
「ひととおり,見ておきたい場所は見ることができたな・・・」
優しげな青年――ハミルはつぶやいた。その隣を歩くニックもうなずく。
「そうですね。ただ,城を抜け出してもう一週間・・・。そろそろ戻らなくては,皆が心配します」
「わかっているよ」
ハミルはうなずき,小さく笑った。
「しかし,お前の“柄の悪い情報屋”の演技はなかなかのものだったな・・・」
「褒め言葉になっておりません」
ニックは憮然として応える。ハミルはしばらく思い出し笑いをしたあと,ふと憂いの表情を見せた。
「状況は思っていたよりも悪いかもしれないな」
「ええ」
二人はしばし無言で歩を進めたが,やがてニックが静かに尋ねる。
「・・・これから,どうするおつもりですか?ハミル様」
ハミルはニックの顔を見たが,すぐにうつむいた。その問いに応えることはできなかった。
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