第5話
私の職業は占い師である。
リピーターと呼べるお客様の数は10数名。
私には使命がある。
それはお客様を幸せにすること。
どんなに悩んでいても、必ず前向きになれるように努力する。
出たカードを読み上げるだけではない。
悪い結果に思えることでも、良い解釈をする。トリミングして伝える。
京ちゃんはオカマだし、付き合っている男は京ちゃんを大事にしてくれない。
他でも遊んでいるし、京ちゃんのことを金づるのように扱う。
でも、彼が京ちゃんの純粋さに癒されていることは確かだ。
京ちゃんを手放す気はない。
私ですら、京ちゃんには惹かれ、説明のつかない執着を感じる。
これは疑いようもない「魅力」なのだ。
だから、時間をかけて彼に京ちゃんの大切さを分からせるつもりだ。
ただしその前に京ちゃんが彼を疑ったり、責めたりしたらおしまいだ。
どんなにひどいことをされても、絶対に変わらない愛情を、京ちゃんは彼に与えることが出来る。
しかし彼の態度が冷たいので、これまでほぼ報われたことがない。
そして傷ついてここへ来るのだ。
頑張ってと、彼も京ちゃんのこと好きだよと言って欲しいから来るのである。
客観的に見てどんなにネガティブな状況だと思っても、私は京ちゃんが自信を取り戻せる言葉を紡ぐ。
絶対に手を離さない。
成就まで導いてやる。
アサコはコミュニティ障碍。
人の気持ちを理解することが苦手だ。
真面目に取り組み、仕事に猛進する。
融通が利かないので周りに迷惑をかけながら進む。
おべっかどころかすぐに本当のことを口にしてしまう。
人を傷つけるし、誰からも好かれない。
でも、彼女は高機能だ。
実務的能力自体は長けているのだ。
ある種の職業を選べば成功するだろう。
いずれはそちらに導くつもりである。
しかし若いので土台がない。
今は、粛々と現在の職場で貯えを増やしていくべき時期だ。
人間関係も、少しずつではあるが、やはり集団の中で学ぶことが出来る。
彼女は自分を客観視できていないことが、むしろ強みだ。
自信喪失させてはいけない。
IT関係か株か、彼女は興味さえ抱けば大きな成功を遂げる素質がある。
必要なのは自信をつけさせることだ。
なぜなら彼女は素晴らしいからだ。
私は必ず彼女を成功へと導いてやる。
真樹君は、香ばしい男だ。
口を開けば自慢話。
しかしかなり盛っている。
いわゆる虚言癖だ。
確証はないが、盗癖も併発しているだろう。
ルックスは悪くないので女からはモテる傾向にある。
しかし、モデル級と言っていた彼女の写真を見て、この私が一瞬言葉を失った。女の趣味は悪い。
息を吐くのと同じ労力しか使わず、クライアントに対してあらゆる賛辞を繰り出すことができるこの私が、詰まり詰まり彼女を褒めた。
真樹君がもってくるのは、私の普段のパターンでは対応できない方向からの話である。
そもそも占いに頼る人は悩みを持ってくる。
ネガティブなものを示しながら、これ、どうしたらいいでしょうか、と聞くために。
しかし真樹君はここへ、自慢しにやってくる。
ポジティブなものを見せて、さあ、もっと褒めてくれ、と求めてくるのである。
悩みではなく選択肢をもってきて、どっちがいい?と尋ねるのが目的なのだ。
しかし私は動じない。
不幸せな人は幸せに、幸せだと感じている人は更に幸せにしてあげることが大事なのだ。
そして真樹君は、滑稽だ。
私は彼の言動にくぎ付けなのだ。
だから、今は根拠なき自信しか持たない彼を、磨きに磨いて本物の自信を与えてみせる。
不用意に気付かせるのではなく、それと分からぬうちに、いい男になってもらう。
そして必ず彼を自他ともに認める「幸せ」に導こう。
私の常連になってくれたお客様は、今日姿を見せなかった10人ほども含め、みんな変わり者で、みんな愛おしい。
必ず、一人残らず幸せにしてやる。
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