第4話

次のお客は真樹君。


彼は自信過剰な男である。


そもそも占いに来る人種ではない。


しかし来るからには、理由があるのだ。



「先生、こんばんは。」


「こんばんは、真樹君。会えて嬉しいです。」


真樹君は今日も色黒だ。



「あのさ、この前言ってた話。やっぱり間違いなかったよ。」


「え〜と、新しい施設に採用…?されました?」


「うん。ありがとうね、先生。やっぱり正解だった。」


「良かったです。」


「安月給なんだけどね。」


「そうですよね、でも、やりたいことが出来る方が重要ですから。」


「うん。俺さ、昔は広告代理店にいたんだ。」


「はい。伺いましたよね。」


「そこでは若かったけど認められて、部長職だった。年収は800万。」


「はい。すごかったですね。」


「それから、テレビ局で働いたこともある。」


「ええ。おっしゃっていましたよね。」


「部署でリーダー的存在だったんだ。」


「はい。」


「学生時代は野球ばっかやっててね。」


「はい。」


「目立ってたから、いつも先輩に目ぇ付けられてた。」


「はい。」


「音楽も半端じゃない。今、作詞作曲やってる。先生、聴く?」


「ええ、ぜひ。」


「全部英語。」


「すごいですね。」


「うん、今度ギター持ってくるね。」


「嬉しいです。」


このブースで演る気なのか。


「でもね、考えたんだ。本当に今、自分のやりたいことってなんだろうって。」


「はい。」


「だから、今の道を選んだことは後悔してないよ。」


「はい。」


「年収はこれから上がっていく?俺は将来また稼げるかな?」


「はい。そう出ていましたよ。」


真樹君はほっとした顔で頷いた。


「それからさ、今付き合ってる彼女のことなんだけど。」


「ああ、お二人いて、どちらにしようか迷っていらっしゃる…。」


「そうそう。」


「何か変化はありました?」


「あいちゃんは優しいけどちょっと鬱気味。せなちゃんは楽しいけど気性が荒い。」


「そうですね…。現状で鑑定しますか?」


「うん。」


私はカードをきった。


「あいさんのほうが、ご縁がありますね。」


私の答えに、真樹君はため息をついた。


「は〜。そうなんだ〜。ねね、他に今後出会いはある?」


私はもう一度カードをきる。


あいちゃんとはどうするのか、と考えても仕方ない。


「ありますよ。」


「えっ。あるの?いつ?どこで?どんな子?」


「3日後です。う〜ん。これは職場ですね。年上のかたと出ています。」


「へえ〜っ。」


真樹君は頬を紅潮させた。


「ありがとね、先生。じゃあまたくるよ。」





真樹君は今日予約の最後の客だった。


普段余裕があれば続けて飛び入りの客をを待つのだが、今夜は待機なしで帰ることにした。


何より、ずっと頭をもたげていたあの件に、そろそろ自分なりに集中したくなったからだった。

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