第3話

2件目の予約の時間である。


音もなくそっと入ってきて、しなやかに頭を下げるのはアサコだった。


「先生、こんばんは。」

「こんばんは。アサコさん。仕事帰りだよね、お疲れ様です。その後いかがですか?」

私の問いかけに、彼女は髪をかき上げながら答えた。

「先入観なく視て欲しいの。今の私の状況をあてて。」


こういう言い方がまさに彼女らしい。

私はカードをきりながら

「仕事は順調ですね。忙しすぎるけど、充実感があるので今はまだ大丈夫かな。体調はギリギリのところでごまかして進んでますね。プロジェクトの責任者になる話が出ていますよね。お受けになるという意志もおありのようで。」

と一息に喋った。

長引かせる鑑定は嫌いだ。

「あたり。」

という彼女の答えに内心ほっとする。


「先生が言った通り。私、好転してるかな?」

質問口調だが、彼女は明らかに自信に満ちた瞳でこちらをぎゅっと見た。

「はい。もちろんです。引き続き応援していますね。」

私が微笑むとアサコも微笑んだ。

「先生、私ね…。」

「はい。」

アサコの表情が急に歪んだ。

彼女は情緒が安定していない。

前触れなく機嫌が変わる。

「私さあ…。課長から、君ほど仕事できない女は見たことが無いって言われたのよ。」

「えっ、そうなんですか?」

「それでしんどくなっちゃって。」

アサコは机に突っ伏した。

自信たっぷりな後に、唐突に落ち込む。

無神経なのに繊細なのだ。

「そのかた、理解力の無い上司ですね。アサコさんの才能を評価できないことが、問題です。」

「そうなの?私は間違ってない?」

「間違っていませんよ。自信を持ってくださいね。」

「先生が当てたプロジェクトの話。なんかね、資料室に一人で配属なの。私に出来るのかな。」

「アサコさんは、やる気でしょう?あなたは、自信過剰な思いと、とても心配性な考えが両方存在して、かわるがわる心に浮かびますよね。でもね、不安になることはないですよ。まだ、今は修業中だと思って下さいね。いろんなことがありますよ、それはアサコさんが周りから期待されているからです。今はたくさんのことを経験してやるんだという気持ちでいきましょう。上司が手に負えないくらいってね、それ本当は理想なんですよ。」

私がまた微笑むと、アサコも微笑む。

「うん。」

「アサコさんは上に立つ人なんですよ。そういう人は、孤独なものです。」

「うん。」

「大丈夫です。」

「先生、ありがとう。大丈夫だよね?」

「大丈夫ですよ、必ずうまくいきます。」


アサコは安堵の表情を浮かべ、御礼を言って出て行った。

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