#28 宗一

 広がる光景は、いつもどおりの日常だった。

 朝の教室。ごった返す生徒と、雑談に興じる自分たち。亀田一輝と、上村隆介の二人は、いつもどおりに何かしら話をしている。

 変化といえば――たまに話しかけてくるようになった本田優樹と、スマートフォンに追加された、川澄透花と赤坂教諭の連絡先くらいだろう。

 教室に入ってくる大宮教諭と赤坂教諭。二人ともいつもどおりだ。出欠を取り、連絡事項を伝えた後に解散、一時間目の授業に備える。

 自分が向こうに傾いているのは自覚している。だが、まだ向こうには落ちていない。そう思う。だからこそ、こうして平凡な日常を、そのままに謳歌していられるのだ。

 廃通りに飲まれた内山と、飲まれかけた自分と。

 そんな恐怖を知ったのに――いや、知ったからこそ、高野という男は、自分を使おうと考えたのだろう。分を弁えていないと、あの元売りのように暴走する。首輪を付けなくとも、しっかり調教していれば、言う事を聞くと踏んだのだ。

 昼休みに、スマートフォンを確認すると、メールが来ていた。相手は高野孝明からだ。また、何かあったのだろう。

「ごめん、ちょっとトイレ行って来る」

 そう言い残して、宗一は一輝と隆介から離れる。教室の隅にいた川澄と目が合う。どうやら、彼女も連絡を受けたらしい。

 さて、今度はどんな依頼だろうか? 宗一は、憂鬱とも、高揚ともつかない自分の心境が分からず、どうしたものかと苦笑した。

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