#22 宗一
今日の放課後は、今までの人生で一番緊張した放課後だった。ただ緊張と言っても、うれしい緊張では無いが残念だ。
揚げ足取りとカマかけで捲くし立てて、教師を脅迫するというのは、我ながら褒められた行為ではない。しかし川澄透花との協力関係において、できるだけ貢献する事で、彼女に貸しを作る絶好の機械だった。
放課後の赤坂教諭との話の件を、川澄に連絡すると『私も参加する』との事だったので――結果として、放課後の生徒相談室で、女性教師と女子生徒と男子生徒の三すくみが出来上がったのだった。それだけ聞けば羨ましい限りだが、この殺伐とした空気の中で、同じ事が言える人間は、そうそういないだろう。
「つまり本田くんのことは、ご両親も知らない。赤兎馬にいる兄も連絡がつかないと……」
「ああ」
本田から相談を受けていた内容によると、どうやら両親は非行に走る兄と距離を開けさせるため、本田の兄の携帯電話の契約を切って、弟の本田と連絡が出来無いようにしていたらしい。その反動で赤兎馬と面識があったとすれば、何とも皮肉な話である。
「それで、本田について知ってる話というのは?」
「本田くんが現場から出てくるところを見たという、目撃証言があるそうです」
赤坂教諭と川澄透花の二人が目を見張った。
「おいおい……」
赤坂教諭が、参ったとばかりに額に手をやる。
「それ本当だとしたら、大変なことになるわね」
ここで『警察に連絡しよう』と誰一人言わないことから、互いに、互いの立場を、なんとなく察してきた。
「っていうか、なんで昨日言わなかったの?」
川澄が耳打ちしてから、ジト目で宗一を睨む。とぼける以外に手が無かった。
「あれ? そうだっけ? ゴメン……」
本心としては、出来るだけ黙っておきたかったのだ。一度に全部知ってることを言うと、これ以上、聞き出せる事は無いだろうと、それで関係を切られる可能性がある。
「それで? どうするつもりだ? 本田を捕まえるにしても……」
そのとき、機械の振動音が聞こえてくる。マナーモード特有のそれは、赤坂教諭のポケットからだった。
「すまない、ちょっと……」
そう言って赤坂は、教室の窓際に移動する。
「もしもし、赤坂です……あ、本田さん……」
どうやら、相手は本田の親らしい。少しすると、咲良が目を見張った。
「え、かえって来たんですか?
「えっ……」
今、赤坂教諭は、なんと言った?
「そうですか……はい、はい……」
咲良は未だにスマートフォンで、電子の向こうの相手と会話している。宗一は愕然として、一人ごちた。
「本田くんの名前、ユウキじゃないの? ヒロキって……」
「どんな字?」
隣の川澄に訊かれて、宗一は脳内にあるクラスメイトの名前表を思い出す。
「たしか、『優しい』に樹木の『樹』」
「ああ。人名だと『ひろ』って読ませる事あるわね」
そういうことか――全てが繋がった。そして、この事件の犯人と、誰が手伝ったのかが、分かってしまった。
「川澄さん、キミの親玉に伝えて欲しい事がある」
突然の宗一の態度の変化に、透花はクエスチョンマークを浮かべていた。
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