#13 宗一
赤兎馬の連絡先を知るためには、赤兎馬と接触するのが、一番いい方法だ。
『元売りの情報感謝する。赤兎馬の人間の連絡先を教えて欲しい。彼らがハートペインを外に出すのに、関わっている可能性がある』
それが次の指示だった。元売りは既に外にいるというのに、一体どういうことかと訝ったが、宗一が確認した時は、偶然、外にいただけで、大手に捕まらないために、元売りは定期的に移動しているのかもしれない。
しかし、どうやって赤兎馬が外に持ち出しているという情報を掴んだのだろうか?
確かに、辻褄が合う。赤兎馬のような暴走族であれば、人数も合わされば、それなりの量を一度に運搬できる。無論、騒いでいれば警察も寄って来るだろうが……例えば二手に分かれて、片方が警察を陽動し、もう片方が運搬する、ということもできる。
まぁ、その辺の事は赤兎馬をとっちめれば分かる事で、自分は知らなくていいことだ。疑問は残るが、とりあえず与えられた役目をこなすことに宗一は専念する。
赤兎馬との接触には、友人に使える奴がいた。
「え? なんで? 別にいいけど……」
昼休み、宗一が話しかけたのは、上村隆介だった。無類のバイク好きで、赤兎馬に頼んでバイクに乗せてもらった経験がある。彼のツテを利用すれば、赤兎馬と簡単に接触できる。連絡先を交換する事も不可能ではあるまい。
問題として、単純に訊いて、それが協力先に漏れたのを知られると、宗一が漏らしたとバレることだ。ただの暴走族だから、そこまで警戒心は強く無いだろうが、もしバレればリンチ確定である。
宗一は、バイクのカッコ良さに目覚めたという適当な作り話をして、隆介を言いくるめる。
「まぁ、そういうことなら別にいいけどさ」
「いいか? 悪いな」
「うん……あれ? そういや、一輝は?」
「今、赤坂先生に呼び出しくらってる」
本当の事だったが、この話をするタイミングは、意図的だったりする。
「ふぅん。ちょっと連絡とってみるわ」
「今から? ああ。頼むわ」
予想外だったが、むしろ好都合だ。宗一は席を立つ。
「どうしたの?」
「お礼にコーラおごってやるよ。買いに行ってくる」
「いいの? やった!」
単純な奴なので、こういうので機嫌が取れるのは、非常に便利だ。
宗一は財布を持って席を立とうとしたが、隆介が教室をキョロキョロと見渡した。
「あれ?」
「どうした?」
「んや、なんでもない。かけりゃいいや」
何の事か分からなかったが、すぐに隆介はスマートフォンを取りだしたので、邪魔するのは止めておいた。
教室を出て、自動販売機でコーラを購入する。ペットボトルのものだ。二つ買って、一つだけ蓋を開ける。
教室に戻ると、隆介が待っていた。コーラのペットボトルを渡す。
「ウィ。サンキュー」
「どうだった?」
「ん? ああ。とりあえずメッセ送っといた」
隆介がペットボトルの蓋を開ける。「あれ?」という疑問の声は想定済みだ。すかさず自分も開けて「あっ」と声を出す。
「あ、すまん。逆だった。そっち、さっき俺が開けた方だ。まぁ飲んではないから」
「なんで開けたのに飲んでねーんだよ!」
「廊下で開けてたら先生に怒られたんだよ」
「そりゃ怒られるわ!」
隆介からツッコミが入る。日常会話では、信じられる人間の言う事ならば、多少おかしい事でも、ちょっとしたボケで流してしまうものだ。
変なことを言われる前に、さっと一口飲む。飲んでいないのだし、もはや取り替える理由も無い。
「それでさ……」
しばらく適当に雑談していると、隆介は舟を漕ぎ始めた。
「どうした?」
「あー、スマン。ちょっと眠たくなったから寝させて」
「はいはい。授業の前になったら起こすぞ」
「頼むわー」
そう言うと隆介が机に伏せて、昼寝の体勢に入る。五分ほどすると、小さくいびきをかき始めた。
熟睡してるのを確認してから、宗一はそっと、隆介のポケットからスマートフォンを取り出す。
隆介におごったコーラに仕込んでおいたのは、ゾルピデムという化合物で、睡眠導入剤の一種である。下手な刺激さえ与えなければ、しばらくは夢の世界だ。
他人の携帯を覗くなど、最低極まりない行為であるが、そうも言ってられない。許してもらおう。
通話履歴を見ても、それらしきものはない。やはりSNSか。SNSと電話帳はリンクしている。同じアプリは宗一も使っているので、調べるのには五分と掛からない。
最新の送信記録、ついさっき連絡した二人を出す。カタカナ表記でタツジとヒロキという名前だけで、フルネームは分からない。だが別にいい。電話帳を確認する。電話番号をメモって、スマートフォンは元に戻す。
メモった番号を、協力先に、赤兎馬の知人と思われる二人の番号として送る。これでいいだろう。赤兎馬が締められるのも、時間の問題だ。
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