第15話 風呂場で美女に挟まれる
うら若い少女に全裸に剥かれ、女神のような素晴らしいスタイルをした美女が入浴する隣でお湯に浸されるというと、男であれば誰もがうらやむ状況であるが、私は赤ん坊である。
高価で柔らかい物を扱う手つきで産着を剥かれた後、私は軍師マルレイがなぜか私を湯につける準備をしているのを背後から見つめていた。
母は母で、大胆に全裸になってさっそく湯船に浸っている。
金属の板を加工したタライがあった。手でお湯を救うのに、ちょうどいい大きさである。マルレイがそれを見て一瞬不思議そうに固まったが、追及はしないことにしたらしく、母の湯船のお湯を黙って掬いとった。
そんなものまで荷物に入れるから、荷物が大量になるのだ。
とは誰もが思うだろうが、母に対して指摘する人間はいないだろう。
「……いいお湯」
王妃である母はつぶやき、お湯で戯れるように湯を持ちあげた。
「本当に、王族の生活ですね」
「そうですとも」
マルレイの言葉は、あるいは嫌味だったかもしれない。外では、明日の生活を心配し、今夜襲撃されるかもしれないと恐れている人々が、なんとか生活するために悪戦苦闘しているのだ。
ただ、母は誰にも迷惑をかけていない。自分で水を作り、炎でお湯に変えた。
毎日風呂に入ったからといって、責められる理由はない。
「後で背中を流しましょうか?」
「今日はいいわ。キールを洗ったら、軍師さんも一緒におはいりなさい」
「ありがとうございます」
母は器量の大きい所を見せ、マルレイは私を裸に剥いてタライのお湯につけた。
確かに、気持ちがいい。
産れた時からずっと、お湯というものに浸かってこなかった私には、とても刺激的な感覚だった。
少女が私の全身を見つめているという恥じかしさに耐えれば、この上なく気持ちいいものだ。
私が最後に風呂に入ったのは、前世のことである。
本当に最後の時は、すでに葬式を待つだけで、実際には死んでいたため、感覚はない。生きているうちは、自分で体は洗えた。介護士に洗われても不思議ではなかった年齢だが、最後まで一人で風呂は使った。
その時も、これほどは気持ちいいとは感じなかった。
毎日浸かっていたために慣れてしまっていたのもあるだろうが、生まれ変わって皮膚の感覚がゼロに戻ったのだ。
老人の体と赤ん坊の体で、こうも感覚が違うのかと、いまさらながら驚かされた。
軍師マルレイは私の体を洗い、もっとも汚れやすい場所を丹念に手で揉んだ。
つまり、排せつ器官である股間である。
「軍師さん、キールのことはもういいわ。あなたも一緒に入りましょう」
まさか、私の股間を洗いだしたからではないだろうが、母はマルレイの作業を止めた。
「しかし、キール殿下をこのままというわけには」
「大丈夫よ」
母は湯船から半身を乗り出し、私に手を伸ばした。促されるまま、マルレイは私を母に渡す。
私は物であるかのように受け渡され、母の豊かな、裸の胸に抱かれた。
「この子は、うっかり落としたりしなければ、暴れないし、一緒にお風呂に入っても大丈夫みたいだしね」
「そうですね」
母が言いながら元の姿勢に戻る。私を抱いて、お湯の中に浸る。マルレイが服を脱ぎだした。
「私以外の女の子に、おちんちんを洗ってもらうのはまだ早いわ」
『母上、私はまだ生後半年ですよ』
「体だけ赤ん坊というのなら、かえって将来のためによくないわ」
マルレイが背を向けている間に、母は私に囁いた。ひょっとして、私が前世からの記憶を引き継いでいることを悟っているのかもしれない。
そこまでは理解していなくても、精神的には赤ん坊ではありえないことは承知しているのだ。
そうは言いながら、母は私に軍師マルレイが服を脱ぐ姿を見せていた。
「きれいな肌ね」
「おやめください。王妃様のように、美しい体ではありませんから」
「体はまだこれから発達するでしょう。肌がきれいなのはうらやましいわ」
マルレイは眼鏡をはずしていた。眼鏡をとっても目が大きい印象は変わらない。ただし、顔つきが予想以上に可愛らしい印象を与える。
普段の眼鏡が伊達ではないことは解っていたが、見た目の印象を変えるために眼鏡をしていたのではないかと思えるほどだ。
「キール殿下は、私が」
マルレイは本当にぺったりした体をしていたが、膨らみつつあることは見て取れた。母に対して腕を伸ばしたが、母は私を手放さなかった。
「この子は私のよ」
「わ、わかっております」
母は私を改めて抱きしめ、頬を私の頬に寄せた。
軍師マルレイはわずかに慌てたが、私を抱く母の様子に安心したのか、向かい合って風呂を楽しみだした。
人間である。気持ちが良くないはずがない。
「そのうち……他の人々もこのように生活できるようになるでしょうか」
軍師マルレイはお湯で自分の顔を洗いながらつぶやいた。全身が汚れていた印象があったが、事実汚れていたのだとわかる。
それほどの激務だったのだろう。外では、兵士たちがまだ激務を続けている。
「難しいわね。魔術師は私しかいないし、新しく魔術師を育てることができれば、何か方法があるかもしれないけど……どうかしら?」
母は私に尋ねた。だが、当然軍師は赤ん坊に尋ねたのだとは思わなかった。
「そうですね。お風呂に使うだけの水も王妃様の魔術に頼り……沸かすことも王妃様にというわけにはいきません。お湯を作る施設がこの城塞にないのは、昔は大勢の魔術師がいたのでしょう……王妃様が平民に魔術を教えるということができれば、可能性もあるのでしょうが」
それが当然の考え方だろう。私はあえて黙っていた。母はマルレイに言った。
「魔術の素質は血によって受け継がれるわ。現在生きている人たちに、私以外の魔術師がいないのなら、教えても使えるとは思えないわね」
「……そうですよね」
『しかし、魔術が使用できるとは知らずに生きてきたため、代々その力を持ちながら、能力を埋もれさせてしまった人々もいるでしょう。そういう人たちを探すのは、不可能ではないと思います』
私は母に語り掛けた。母はマルレイの前でもあり、何も言わなかった。ただ、私の頬に口づけした。
私はマルレイを見た。
頭の中に、選択肢が浮かぶ。
『知覚魔法―魔力検知』
これで間違いないだろう。魔力があるかどうか、解るはずだ。私は選択した。
私の全身が、強い力に覆われるのがわかった。
強い力の正体が、母の持つ強力な魔力との親和性であり、私自身が持つ能力を感知しているのだと感じた。
私の視線はずっとマルレイに向けられていた。残念ながら、軍師マルレイに魔力はないようだ。
「だぶぅ……」
「残念」
「なにがですか?」
私の態度で理解した母に、理解できるはずもないマルレイが尋ねた。母は笑ってごまかした。
「でも、少なくてもこの子は魔法が使えるようになると思うわ。私の血を引いているのだもの」
「そうですね。とても、ただの赤ん坊とは思えませんから」
「……それ、誉めているわよね」
「も、もちろんです」
母の問いに、マルレイは慌てて答えた。
「でも、この子はきっと、言葉さえ話せるようになれば、簡単に魔術をおぼえると思うわ。だから……一年後には、環境も変わっているでしょうね」
一歳半の幼子に頼れというのは無茶な気もするが、マルレイはそれにさえ暗い顔をした。
「一年後というのは……おおよそ食料が完全に尽きると考えられている時期です。それも、かなり切り詰めた結果です。半年後には、餓死者が出始めると見ています」
「……軍師マルレイ、それなら、この子をこれからも、連れて歩いてくれるかしら。毎日でなくても構わないわ」
母の言うことが解らなかったらしいマルレイだが、母がとてもまじめに話していることだけは理解していた。
「構いません。王陛下に、私は殿下の子守に任じられるでしょうから」
きっと、軍師としては解雇されてしまったのだろう。母は慰めるように私をマルレイに渡した。
母の言う通り、マルレイの肌はすべすべして気持ちよかった。少女に抱かれて緊張する私の股間を、母は無邪気な顔をして洗ってくれた。
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