この道はつづく~シェイド・オブ・ビューティフル
新年の飾りはほとんど外されていたが、まだ初もうで向けのタペストリーはあちこちに吊り下げられていた。その逆三角形のすき間に、朝日からの光が入っていた。
今日から、泉水さんは会社に戻ってくる。年末ぎりぎりのところで無事に退院できて、ずっと実家にいたそうで--病院での事後検診と部屋の掃除で2日潰れちゃいました、というメールをもらっていた。
ホームの左端から、すっと光が伸びている。目を細めて、泉水さんにメールを打とうとして、電話を開いたら、まだ8時前だった。電車に乗っている頃だし、まだ時間もある--カバンをちょっと置いて、自販機に向かった。
そして、いつも通り茶色の缶を選ぼうとしたら--
「ロイヤルミルクティで!」
まぶしくて、見えなかった。
泉水さんが、顔がすこしやせてたけど、たしかに泉水さんが--いた。
「おはよう、向井君、すごく早いですね--私もなんだか早く目がさめちゃって、ここへ寄ろうとしたらあのカバンが見えて--」
僕はホットのロイヤルミルクティを買って、泉水さんに渡した。そして泉水さんがそれを受け取るとき--思わず泉水さんの頭をそっとなでてしまった。泉水さんは猫みたいにきょろりと頭を引っこめて--目を丸くしていたと思う。
泉水さんは頭に乗せられていた手をとった。ミルクティの缶の熱さが残っていた。そのままじっと、手のひらを握ってくれた。
「ありがとう」
0番ホームは、黒いところがぼんやりと朝日に照らされていて、ほんとに”あした”の浜辺みたいに見えた。
(おわり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます