第2話 早産

予定日は4月。

結婚して5年目。

待望の赤ちゃん。

「やっとご対面だね。パパもママも首を長くして待っているよ。」


婚約していた人がお互いにいたのに・・

運命なのよねぇ。

隆二さんと結婚するなんて。

私のほうが3歳も年上なのに、彼はぐいぐいアタックしてきたのよ。

自分だって付き合っている人がいたのに。

「自分、敦子さんに一目ぼれなんです。」

今どき珍しく、男らしいって言うか・・

「あら、付き合っている人いるじゃない。」

「ま、本当に好きな人と出会ったんだから・・仕方ないです。彼女にはきちんと言って別れますよ。」

「だから、僕を選んでくれませんか?」

「絶対、幸せにします!」

真っ向からのアタックに負けたと言うか・・惚れたと言うか。

なんだかんだあったけど、二人で結婚して今がある。

喧嘩もしたし、山も谷も経験したけど・・


やっと、子供ができて本当の家族になれるような気がする。

だって夫婦は他人だけど、子供は血が繋がって二人をより深く結びつけてくれるものだから。


楽しみにしていたのに・・

まだ産み月じゃないけど、お腹が痛い。

ちょっと嫌な感じ。

「隆二さん、お腹が痛いの。病院に連れて行って」

「大丈夫か?」

タクシーで産院に行くと、緊急搬送された。

医師の話では、

「最悪の場合、母体の安全の為お子さんは諦めて下さい。」

「分かりました。仕方ありません。最後までよろしくお願いします。」

隆二さんは覚悟を決めたらしい。


産院の分娩台を占拠して医師と私の戦いが始まった。

「おなかの子を守って下さい。神様」

薄れる意識の中でそれだけを神に祈っていた。


結局、最後の最後まで落ちないでしがみ付いて赤ん坊は産まれてくれた。

大変だったけど・・良かった。

早産だからとても小さくて、体重が軽い。

でもガラスケースには入らなくて良かった。

ガラスケースに入ると何かと大変らしいから。


しわくちゃで、赤くておさるさんみたいな子。

赤ちゃんてみんなそうなのかしら。

女の子。

無事に産まれてくれてありがとう。

隆二さんもすっかりパパの顔ね。

「名前どうする?」

「隆二さん、考えてよ。」


命名

『藤崎 春奈』


3月生まれになっちゃったからね。

桃の節句。

優しい笑顔の可愛い娘に育ってくれますように・・

想いをこめて名づけたよ。


これからどんな人生を歩んでくれるのか・・楽しみよ。


予定日より早く産まれて、本当に小さい。このまま無事に育ってくれるかしら?

ちょっと心配したけれど、食欲旺盛で良く食べてくれる。特にうどんは小さなお口に一本咥えると『ちゅるる〜』と器用に一瞬で吸い込む。あまり長いと喉に詰まらせそので短く切って食べさせると、ニワトリが餌を食べるみたいで面白い。それでちょっと調子に乗って乗って食べさせていたら、あっという間にお風呂屋ベスト3に入る位のおデブさんになっちゃった。

まるでアンパンマンみたい。

小さく産んで大きく育てて成功なのかな?

あんまりパンパンに育ったものだから、誰も『可愛いから抱かせて下さい』とは言ってくれない。『あら〜健康そうな赤ちゃんね』

実際重くて母親じゃなきゃ、抱かないわね。

これはこれで将来が心配。

子育てって難しい。母親になるって一瞬じゃない!このまま無事に育てて一人前にするまでが責任なのね。子泣き爺みたいに重くなって、ずしりと腰に来る子供を背負って覚悟を決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る