第3話 お風呂ベスト3
ギリギリまで頑張って堕ちずに1ヶ月も早く産まれた我が子は、みるみる大きく育って今やいつも行く銭湯のベスト3に選ばれるほどである。
アンパンまんのようにまんまるな顔は、お世辞にも可愛いとは言われなかった。ちょっとはち切れ過ぎていたみたい。この子の将来に不安を覚えていたのは、私だけではないだろう。
隆二さんなんか、本当に俺の子なのかと聞いて来たくらい。ひどい話よね!
『春奈、お母さんだけは貴方の味方だからね』なんて言ってみたりしても、心は晴れない。
隆二さんは職業柄出張が多くて、本当に家にいるのは一週間位だった。会社の社宅に住んでいても、あまり家に帰ってこない旦那を待っているので、実は愛人なのではないかとあらぬ噂が立てられていた。人の不幸は蜜の味と言うからそう言う楽しそうな話題は、暇な主婦には美味しいおかずなのだろう。まぁ実際自分でも疑心暗鬼になりそうで怖くなる。子供と二人きりで過ごす家は寂しい。隣の芝生で、他所のおうちが家庭円満で羨ましく見える。どうしようもなくイライラして子供に当たってしまう事も増えた。そうしてただでさえ不安なのに、子供が熱を出せば放っておく訳にはいかないから、子泣き爺みたいに重い娘を背負って病院まで走る。子供って本当に重いのよ!小柄な私がおデブな娘を背負ってバタバタ走る姿は、哀れの一言。何度も泣きたくなった。
若い頃は男にモテた方なのに、家庭をあまり顧みない男と結婚して幸せだったのかと後悔する時もある。あの頃の私は田舎から出て来て必死に働いて人に舐められないように生きてきた。田舎出の者特有、人付き合いが上手い方ではない。心を許してなんでも相談できる女友達がいたらもっと良かったのにと思うけれどこればっかりは仕方がない。なんでも器用に出来そうに見えて、意外と不器用なのよね。それでも自分が選んだ人だからなんとか上手く乗り越えていきたいと思って頑張った。
子供が幼稚園に上がるまでは夫の転勤に付いて行って移動していた。ある時転勤で行った下関の近所の親切なおばさんが、春奈を連れて美容室でくるくるパーマをかけて来た!
『ほら、この子こうして見ると外人みたいじゃない?可愛いらしくなったでしょう。私の目に狂いはなかったわね』と笑った。
まぁ確かに漫画には出てきたベテイちゃんみたいになったかも。幸いな事に、この頃にはお風呂屋ベスト3のおデブの面影はなくなっていた。
そう春菜を転勤に連れて歩いていたので、幼稚園の年長まで幼稚園には行かせていなかった。さすがにそろそろ幼稚園に行かせないとダメだろうと、それ以後は主人に単身赴任してもらう事になった。
それが愛人疑惑の真相である。
今まで大人に囲まれて育ってきた娘春菜は、初めて幼稚園に行った時、周りにいる子供達にびびっていた。春菜は年長組なのに、同じクラスの子が皆んな自分の名前が書けて活発に活動しているのを見てびっくりしたのだろう。クラスについて行けず、集中力もなくなって、年少組が遊びに行くのを見て一緒に付いて行ってしまったらしい。園長先生に言われて恥ずかしくなった。
しかしこの一件以来春奈のあだ名は『赤ちゃん』になってしまった。春菜はただでさえ3月生まれで出遅れているのに、幼稚園デビューで失敗してしまった。この人生のスタートでの失敗はかなり後々まで尾を引きずる事になる。これは私達親の責任でもあるから春奈には申し訳なく思う。
人生はあぶかたのように(ぼやぼやしてたらあっと言う間に死んじゃう) 四ノ宮麗華 @buru-doragonn
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