第4話 魔法使いと伯×の塩

「塩ね」

「塩ですね」

 教授室の前に山と積まれた段ボール。いくつかは開封してテーブルの上に並べてあるが。

「どれもこれも、塩ね」

「全部塩ですね」

 私は紫の目を、茶々さんは漆黒の目を、塩の山に向けて茫然としていた。

 その中で教授は悠々然とティーパックの三つ浸った紅茶を飲んでいる。

 朝九時半のことである。




 陸上競技場の件から一晩。

 寝て起きても私はなんだか立ち直れなかった。

 言いようもない不安がモヤモヤと渦巻き、ベッドの中でロザリオを握りしめていた。祖父の形見の、銀とアメジストのロザリオは冷たさで私を癒した。

 この人なら祖父から継いだ私の呪いを解ける。そう確信して実験協力の契約書にサインをしたけれど。魔術師を名乗る教授は、実はもっと恐ろしい何かだったのかもしれない。

 昨晩からずっと、そんな疑惑を拭えずにいた。

 

 出来ればもう研究室に近寄りたくなかった。けれど、生憎お気に入りの筆箱を置き忘れてしまった。回収しない訳にはいかない。


 そうして来てみたら入口で唖然と立つ茶々さんと鉢合わせ、そしてこの塩である。




 私は視線を巡らせて自分の筆箱を探した。塩の袋の下敷きになっているのか、見当たらない。

「やぁやぁおはよう。ちょうど良い所に」

 私と茶々さんが入ってもう数分は経っているのだが、まるで今来たかのように教授がカップを置く。塩の袋にめり込ませるようにして。

紫蓮しれん君、キミに手伝ってもらいたい実験がある」

「いやです」

 即答した。嫌な予感しかしない。

 しかし教授は聞こえなかったかのように、大学の地図を差し出した。

「朝十時、夕方四時、夜十時の三回。印の場所に盛り塩をしてほしい。少し動いているかもしれないが、近くに行けば元・動物っぽいのが居るから分かるはずだ」

「いやです」

 元・動物。

 私が教授と知り合いになった経緯であり、祖父の代から続く悩みの種。

 それはヒトならざるモノ、生き物ならざる何かが見える、聞こえる、感じること。そしてソレらに襲われること。

 その原因究明、解決の糸口として実験の協力者にはなったが。

「陸上競技部に動物惨殺が趣味か仕事の子が何人もいるらしくてね。実験台には事欠かなくて助かる」

 おいおいちょっと笑っているけど、それでいいのか?

 とりあえず私は拒否を続ける。

「でもいやです。怖いです。茶々さんに頼んでよ」

「ええっ?! 待ってくださいよぉ」

 茶々さんがネットに包んだ髪と大きな胸を揺らしながら首を振る。

「自分、そういうのは見えないんですぅ」

 そうだった。茶々さんはψサイ。生き物の体に異常を起こす念道力のような物を使えるが、何かが見えたりする訳じゃないのだ。

「それにStudent君はその時間に僕の講義が入ってる」

「って事は教授も居ないのかい」

「准教授だけどね。大丈夫、塩は用意するから」

 心配はそこじゃないし、そんなのは見れば分かる。

 教授は空のカップを流しに置いて立ち上がった。爽やかな水色の千鳥格子が刻まれた、オーバルフレームの眼鏡をずり上げる。

「さてStudent君。二人で手分けして塩の梱包をしよう。10gごと薬包紙に分包してくれ。紫蓮君はそこで地図と実験プロトコルを読んでいてくれ。解らないことがあったら聞いてくれても構わないが一度しか説明しない」

「なんでこんな事しなきゃいけないのか解らない」

「契約違反ではないよ」

 『伯×の塩』と書かれた袋をいくつか抱き、白衣を翻してパーテーションの向こう、実験スペースへ消えていく教授。あわあわと彼を追う茶々さん。

 私は唸り、仕方なく塩の置かれていない椅子を選んで座った。

 私がサインしたあの契約書には一体何が書かれていたんだろうか。



◇◇◇------



「そろそろ五ヵ所目……」

 私は呟き、瞼に流れてきた汗を拭う。

 午後四時、二度目の周回。ただでさえ暑い八月の初旬。まだ太陽の高い時間に広大なキャンパスを巡るのは骨が折れる。何しろこの大学は森と呼んでも差し支えないほど自然に恵まれているのだ。暑さと運動で服も髪も何もかも汗でべったべた。

「居た……」

 私はうわ言のように呟く。本日十一度目の遭遇ともなると流石に慣れた。

 大柄な猫くらいの大きさだろうか。嫌悪感を覚える汚らしい茶色。モヤモヤとした何かが地面にうずくまっている。

 教授は動物がどうこう言っていたし、本当に猫だったのかもしれない。特にこっちを見たり襲ったりする気配はない。

 私は頭の中で実験手法を確認する。

『対象を見付けたら、地図に正確な位置をマークすること』

 携帯のGPS機能と手元の地図を照らし合わせる。

 今までのどのモヤモヤもだが、午前に来たときより大分位置が変わっていた。

『渡された塩の薬包紙を広げ、対象のすぐ傍、できるだけ近くに置くこと』

 ビニール袋から、小さく畳まれた薄い紙を取り出す。伯×の塩が包まれた薬包紙だ。中身が零れぬよう丁寧に五角形に折ってある。

 私はそれを広げ、出来るだけ近寄らないようにしながら、腕を伸ばしてモヤモヤの隣に置いた。

 モヤモヤは少し嫌がって身じろいだように見える。

『塩を置いたら時刻を記載すること』

 私は携帯を見、地図に今の時刻を記載する。16:27。

「はい、次、六ヵ所目……」

 額の汗を両腕で拭い、再び歩き出す。

 暑い。とにかく暑い。木々のせいで風が通らず蒸し暑い。

 早く終わらせてラボに戻って、あの冷蔵庫の冷たい麦茶を飲みたい。





「暑かった」

 椅子に全体重を預けながら私は零す。

 午後五時、目の前には念願の冷たい麦茶。

 そして最悪グラスが置けるくらいには塩と箱の山が減っていた。教授か茶々さんが多少片付けたのだろう。

 伯×の塩と伯×の塩の間に自分の筆箱を見とめる。

 この実験が終わったらもう、ここに来るのはやめよう……。 

 筆箱をしまいながらそう思った。呪いが解けるとか解けないより、もうこの不安や理不尽と戦いたくなかった。

 不意に教授室の扉が開き、白衣姿の教授が出てきた。

 仕事が一息ついたらしい。電気ポットの電源を入れ、茶の準備をはじめる。

 そういえば。

「ねぇ教授。アレらってなんで塩を嫌がったり、塩で倒せたりするの?」

 ずっと前から疑問だった。

「准教授だけどね。そうだねぇ。仮説にすぎないけれど」

 教授はティーパックを五つ、手に取った。心なしか声色も少し疲れている。

「紫蓮君は塩をかけられたら死んだりするかい?」

「しない」

「それは何故だい?」

 逆に質問され、私は考え込んだ。

 そんな事を言われても。

 食べ物だから?

「それは紫蓮君が『膜』で守られているからだ。一番解りやすいのは皮膚だろう。紫蓮君や僕は皮膚という膜で外界と隔てられているから、塩をかけられても中身が壊れて死んだりしない」

 確かに。

「血管に直接塩を入れられたら、流石に体調崩す気がするわね」

 教授は五つのティーパックの紐をより、お湯に浸してぐるぐる回す。

「それでだ。紫蓮君のよく逢うアレらには、膜がないように見えないかい?」

 ――それも、確かに。

「塩。お香。酒。鉱物。そして、聖水。悪しきモノを払う為のツールは、もしや『膜なきモノへの毒』なんじゃないか? 浸透圧で彼らの曖昧な境界を揺らし、エントロピーに抗えなくしてしまうような、そんな物が効くんじゃないか。僕はそう踏んでいるよ」

 教授が紅茶を作る手をふと止めた。

「そうだ、紫蓮君はお祖父さんから受け継いだ聖水があると言っていたね。それもよく効くのかい」

「え、う、うん。あるし、いつも持ち歩いているけれど」

「それ、少し貰えないかな?」

「それはダメ! ぜーーーったいに、ダメ!」

 ばん。

 私は机を叩いた。

 けっこう怒っているつもりなのだが教授は眉ひとつ動かさなかった。

「もう残り少ないのに他人になんかあげられないわ。聖水が尽きたら私もうアイツらを倒せない。そしたら私、死んじゃう」

「ははは。何も一瓶くれなんて言ってないよ」

 教授が笑う。紅茶濃厚液をすすりながら。

「ほんの数マイクロリットルで構わない。超純水で100倍に希釈すれば足りる。それで成分を解析して、似た水を作ることができたら、キミの寿命は延びる。そう思わないかい?」

「……」

 呪いを解くことに直結はしないが、確実に生きるのが楽になる。

 聖水の残り本数は、実の所、もう二十本を切っていた。聖水のしまってある棚を見る度に陰鬱としていた。まるで日に日に燃え溶けて短くなる、自分の寿命の蝋燭を見ているようで。

「……分かったわ」

 私は鞄から聖水瓶を取り出した。コルクで蓋のされた、小柄なガラス瓶である。胴には年季の入った細工、曇ったその奥に透明な水が揺れている。

 教授は席を立ち、実験スペースから何か道具を持ってきた。

 化学の実験を思い出す。ピペットと、チューブだ。

 教授は慣れた手つきでピペットの目盛を100に合わせ、聖水瓶の栓を取り手早く操作。

 100マイクロリットル取ったのだろうか。全く減ったように見えない。

 そしてチューブの中にピペットの先を入れ、何か操作し、蓋をする。

 私は一連の作業を祈るような気持ちで眺めていた。

 これで何か、変わるといい。

「そうだついでに、夜の実験に持って行ってほしい物がある」

 何がどうついでなのか全く解らないが、教授の話が支離滅裂なのは今に始まった事ではない。むしろこの数分間、会話が噛みあっていたのが奇跡である。

「調製してくるからちょっと待ってて」

 私は時計を見た。夕方の五時十五分。

 軽く二時間は待たされると悟り、私は夕食を買いに出かけた。



◇◇◇------



 夜の実験は、少し危険になるかもしれないから。

 そう言って教授が私に持たせたのは三本の遠心管だった。手で握れるくらいの太さと、手にギリギリ入るくらいの長さ。プラスチックでできた、ふたのできる容器だ。50mlまでの目盛が刻まれていた。目盛を無視してマジックで書かれた『①』『②』『③』。

 教授が今までの研究の過程で作った、聖水の代替品候補だという。


 夜十時の少し前。

 私は三本の遠心管と六包の塩を手にラボを出た。

「……いない」

 地図の場所にモヤモヤはいなかった。少し移動したかもと辺りを探し回ったが、どうにも見当たらない。

 私は改めて地図を広げた。

 一回目の盛り塩。大学の北側の森の、外周をなぞるように六ヶ所。

 二回目の盛り塩。そこから半径を縮めるように円を描いて六ヶ所。

 まるで塩のサークルで森の真ん中へ追い詰めていくかのように。

 ……。

 嫌な予感がする。

 私は①の遠心管を握りしめ、下草を踏み、森の中央へ分け入った。




 予想通り、森の真ん中、木々の無い開けた場所にソレは居た。

 しかし予想外の姿だった。

 私は樹の陰でロザリオを握りしめる。

 追い詰められ、集まり、融合したか。はたまた互いに喰い合ったか。そいつは私の身長よりも大きな細長い何かになり果てていた。

 3メートルはあるだろうか。月を背に、上半分を左右に揺らしながらウロウロしている。より濁ってはいるものの嫌な茶色だけが先程の面影を残す。

 これは相手にしない方が良い。

 直観がそう告げていた。

 時刻はもう十時半近い。光を忘れた世界はすっかり冷え切っていたが、気持ち悪い汗が止まらない。遠心管を握った手が滑りそうだ。

 木の幹を離れかけたその瞬間。

 何かが頬に触れた。

「ひっ!」

 悲鳴を上げて身をすくめる。

 ただの羽虫だった。

 なんだ、虫じゃん。

 安堵も束の間であった。

 アレが、動きを止めていた。

 目玉なんてないが確実にこっちを見ている。

 ――気付かれた。

「あああああっ!」

 私はむしり取るように遠心管のキャップを投げ捨て、ヤツに向けて放る。

 ヤツは動じず、左右にグラグラ揺れながらこちらに近付いてきた。

 続いて左のポケットに手を入れ、薬包紙ごと盛り塩を全てぶつける。

 これには多少怯んだようだ。

 しかしせめて包装を緩めてから投げるべきだったかもしれない。数歩と距離を取れないまま再び動きはじめてしまった。

 私は両手に②と③の遠心管を取り――

 ――両手に持ったら蓋を開けられないと気付いた。

「私のバカぁぁぁぁ!!!」

 パニックパニック。

「あああ、もう、バカバカ! 来るな来るなああああ!」

 罵る以外を思いつかない。迫る迫る、名前のないモノ。

「いやああああああああ」

 絶叫のさなか。

 何かが私の脇を飛んで行った。

 樹冠の隙間から差し込む月光を受けて凛と光り、それはヤツを貫いた。

 ヤツは音も無くグネグネ身もだえする。

「はいはい、落ち着いて落ち着いて~」

 心なしか楽しむような歌うような、弾む声。

 振り返ると白い歯が光った。笑顔だ。

「キミ、桂馬ラボに出入りしてる女子高生だよね」

「う、うん、そうだけど」

mt-Keimaミト・ケイマも酷だなぁ。ご婦人に化物退治させるなんて」

 森から現れたのは青年であった。小柄ながらも鍛え上げられた体躯が、服の上からでも見て取れる。この服は白衣だろうか。足元は雑に裁断され切り詰められていた。

「そのチューブ貸して」

 私は②と③の遠心管を手渡す。

 こんがり焼けたチョコレート色の手が、プラスチックを握りしめた。息を飲むほど綺麗な手だ。

「ふっ」

 鋭く息を吸い、青年は跳躍した。

 軽やかに、力強く。

 私は息を飲む。

 青年は3メートルあろうかアレを軽々飛び越えたのだ。

 そして空中で②のボトルを逆さまにする。

 アレは頭から液体を被り少し怒ったようだ。

 しかしあまりダメージはなさそうである。

 青年は再び跳んだ。

 月を背負って空中で反捻り。

 その明かりで青年の髪色が血のような赤と知る。

 目を逸らせない。ゆうるりと夜空を舞う姿は幻獣のようだった。

 飛ぶキャップ。

 ③のボトルが月影に光り、液体が弧を描いた。

 ――!

 空気が揺らぐ気配。

 ③の中身をもろに被ったアレが音もなく崩れて消えていく。

 死臭だけを残し、跡形もなく。

 青年は私のすぐ傍に、事もなげに着地した。

 空の遠心管を私に差し出す。

「はい。③が一番効いたってmt-Keimaミト・ケイマに言っておいて」

 それだけ言って立ち去ろうとする青年。

 私は慌てて問うた。

「あなたは誰?」

「通りすがりの臨床検査技師さ。 mt-Keimaによろしく」

 焼けた肌と短い白衣は、宵闇に紛れて消えた。



 私はしばらく動けずにいた。跳躍の青年の残影が、胸を締めつけている。

 ふと視界の隅で何かが光った。さっきまでアレが居た辺りだ。

 近付き、光るものを拾いあげてみる。

 ブレスレットだった。

 植物の紐にガラス玉が通してある。ガラス玉は沢山の気泡を抱き、月の光を乱反射する。さきほど脇を掠めた光を思い出す。私がパニックを起こす傍らで、さっきの青年が投げた物だろう。

 自分の手首にはめてみた。ガラスのヒヤリころころとした感触が心地よい。

 少しだけゆるかった。



◇◇◇------



「お疲れ様ですぅ」

 戻った私を出迎えたのは茶々さんだった。夜十一時まで大学に残っている彼女も充分お疲れ様である。

「教授、はい。これが一番効いたよ」

 肩越しに遠心管を差し出す。

 今しがたラボに入ってきた教授は大喜びでそれを取った。

「おお・やはりね。ありがとう。地図をくれるかい? 詳しい話は明日聞こう。これから会議だから今夜は失礼する」

 教授室に飛び込み、すぐに出てきて何処かへ走り去る。

 教授の足音が去った頃、茶々さんが私にマグカップを差し出した。好物のインスタントココアが入っている。ありがたい。

「どうでしたか?」

 私は一部始終を話して聞かせる。

 六つだったアレが大きな一つになっていたこと。

 突然現れた、短い白衣に赤毛、焼けた肌の青年に助けられたこと。

 私の胸はまだ月を背に跳ぶ青年のシルエットでいっぱいだった。

「あの人は、誰? 教授と知り合いみたいだけど」

「多分彼が、このラボのもう一人の学生です」

「そうなの?! 名前は?」

 食いつく私に多少たじろぎながら、茶々さんが答える。

「ご、ごめんなさい。名前は知らないんです。あの人もあまりラボに来ていなくて……仲良くないですし……ただ、大学院生で、教授が『沖縄君』って呼んでいるのは知っています」

 沖縄さん。

 月夜に現れた白衣のタキシード仮面さまを呼ぶには、あまり格好良い通り名ではない気もする。

 それでも。

「じゃあ、ここに居れば、また逢えるのね」

 期待に心臓が高鳴るのを感じながら、腕のガラス玉を見下ろす。

 ふと、茶々さんが神妙な顔つきで言った。

「マグノリアさん。実験協力、放棄してもいいんですよ」

「え?」

「また今日みたいな怖くて危ない目に遭うかもしれません。嫌ならやめていいんですよ」

「でももう契約書にサインしちゃったし……」

 戸惑う私に、解り易い言葉を探すようにゆっくりと、茶々さんは説明する。

「実験協力には、いくつか大原則があります。まず大切なのは協力者に危険や苦痛が及ばぬようにする事。次に大切なのは、協力者がいつでも協力の意思を撤回できるようにする事です」

 それって、つまり。

「私はいつでも実験をやめていいの……?」

「そうです。しかも協力者は『何の不利益も被らず』協力の意思を撤回できる事とされています。マグノリアさんはいつでも実験を放棄できます。嫌な実験には協力せず、やりたい事だけやるのも可能です。先生から説明はありませんでした?」

 私は首を横に振る。

 初耳だ。そんなの。

「しかもそれらを説明し、理解を得なければ協力関係は成立しません」

「本当に? 私なんの説明も」

「あと思い当る可能性としては……」

 ちょっと言いづらそうに、茶々さんは目を伏せる。

「マグノリアさんが結んだのは実験協力ではなく、何か別の契約なのではありませんか?」

 契約書の内容をほとんど理解していなかった私には、それすら分からない。

 でも今の自分にはもう桂馬ラボを離れるという選択肢がなくなってしまっていた。増えるかもしれない聖水と、そして。

 私は笑顔を作る。

「大丈夫よ、茶々さん。嫌になったら逃げだすから」

 ブレスレットは海の泡の如く煌めいている。

 あの人にまた逢えるなら―― 。

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