「エピローグ」という名の終わらない物語
第62話 「この子誰?」
□B-Girl
それは凝縮された想いの詰まった物語だった。
どこにでもいそうな何の取り柄もない主人公の少女。でも彼女をとりまく環境は過酷だった。
彼女は残酷な世界で足掻き、そして希望さえ失ったところでようやく大切なものをその心の内に見つける。
誰もが持つ弱さと、誰も持っていないような真っ直ぐな強さをその少女は心に秘めている。まるで、作者自身を映す鏡のようだ。
あたしはプリントアウトされた原稿から目の前の作者である少女へと視線を移す。自然と柔らかな笑みがこぼれてくる。
だが、肝心な事を思い出した私は、おもむろに左腕で彼女の首を捕まえると、右の拳で彼女のこめかみ辺りをぐりぐりと押し当てた。
「うぎゃ、なにすんのよぉ」
「ああ、確かにいい話だったよ。時間が経つのも忘れるくらい物語の世界にのめり込んだよ。でもさ、なーんか、あたしに似たキャラクターが出てくるんだけど」
言葉遣いどころか性格も一緒、細かく描写されてはいないが容姿さえそっくりに違いない。
「そ、それは、ちょっとモデルにしたからで……」
その許可を出してはいないのだけど。
「似てるというか、まあ名前一緒なんだけど」
それはつまり確信的な犯罪というものだろう。
「いや、後で修正するつもりだったんだけど……あはは、忘れてた」
いや、名前を変更してもバレバレだぞ。
「おまけに、何? いつの間にかあたしってば、死んじゃってるんだ」
一番気になったのはその部分。確かに予想外の展開、ゆえにその後の衝撃も大きかった。
「あ、いやいや。物語の進行上、しょうがないんだよ」
笑うに笑えない理由。
「しょうがない? そんな理由で殺されたんか?」
「あははは、殺されてないよぉ、あれは事故みたいなもんだし」
事故ねぇ、だったらまだ殺人事件の方が潔くて良かったと思うぞ。今回の物語は、神による世界への強制介入だ。その神とは誰を指す?
「事故って……殺してるのは、ありす。あんた自身でしょ」
「そ、それは創作者の特権であり、同時に苦しみも味わうんだよ」
あたしはそこで深く溜息をつく。別に本気でケチをつける気はない。ただ、この子の内に秘められた想像を超える世界に私はただただ圧倒されただけなのかもしれない。
そんな中に自分をモデルにされたキャラクターが存在しているのだから、少しは情緒が不安定にもなるってものだ。
「これはあんたっていう神さまに運命を弄ばれた哀れな乙女の恨みじゃ!」
ぐりぐりとさらに拳を押し付けた。もちろん、ある程度手加減はしている。
「どうしたんですか?」
ふいにかけられた声に振り向いた私の隙をついて、ありすはするりと脇を抜けていく。
「聞いてよぉ……」
「そこ! 人に助けを求めるの反則!」
小柄な体型なのをいいことに人の背中に隠れようとするのがあの子の悪い癖だ。
「まあまあ、落ち着いてください。二人とも。それで、原因は?」
いつものように穏やかな口調で成が仲裁に入る。
あたしは無言で、手にした原稿をひらひらと目の前で団扇のように扇いだ。
「まあ、読んでしまわれたのですね」
「読んでしまわれましたよ」
あたしは溜息まじりにオウム返しのような答え方をする。
「それで感想は?」
「圧倒された。それ以上言葉が出てこない」
悔しいけどね。
「ですって。ありす」
小柄な身体がひょいとその影から出てくる。その顔は満面の笑みを浮かべて、とても嬉しそうだった。
その表情を見てあたしは負けを認める。
同じ創作を志す者として自分が超えられない何かをあの子は持っているのだ。
「ところでさぁ」
ありすが不思議そうに扉の外を見ている。しかも成は部室の入口に立ったままで、いつものように窓際の特等席に座ろうとしなかった。
「どうした?」
あたしがそう声をかけると同時にありすが声をあげる。
「この子誰?」
成の後ろにいたのは見かけない女の子。ショートボブの大人しそうな顔立ち。上履きの色が赤だから一年生だろう。
「文芸部に入部希望の子」
「ああ、そういう事か」
少し緊張しているのか、こわばった表情であたしやありすに視線を送っている。
「緊張しないで、みんないい人だよ。自己紹介して」
その穏やかな口調に促されて、その子は一歩前に出てあたしたちと対面する。
「はじめまして一年三組の
あたしは心証を良くしようと極上の微笑みを浮かべて彼女=粃さんに手を差しだそうとしたところで、横からありすがそれをかっさらうかのように彼女の手を取り自己紹介をはじめた。
「わたしは、二年一組の
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