第59話 わたしはいつ目覚めるの?

 しばらく羽瑠奈ちゃんの顔を眺めると、三和土クンに向き直る。

「ううん。そんな偽りの友達はいらない。そんなことじゃたぶん、わたしの心は満たされない。優しさには憧れる……けどね、現実の世界にまで幻想を持ち込むのは空しいだけだってわかったから……思い知ったから」

「なら願いが思いついた時、再びボクを呼ぶといい」

 そう言って三和土くんの身体は細かく、まるで粒子レベルまで分解したかと思うと霧散してしまう。


 それはまるで夢のような出来事だった。


 だからこそ「もしかしたら……」とわたしは考える。


 あれだけ心を許したラビはただの妄想だったのだ。

 目の前で消えた『三和土クンという少年のカタチをした悪魔』でさえ、幻だったのではないか?

 実はすべて夢の中の出来事だったのではないか? そんなことさえ思えてくる。

 そう、自分は夢の中でまた夢を見続けている。


 わたしはいつ目覚めるの?


   *                             *


 近くでパトカーのサイレンが鳴っている。

 どこかで人の悲鳴が聞こえる。

 家に戻る気になれず、半ば放心状態で逃げてきた道を戻っていた。

 途中、追いかけられて転んだ時に落としたトートバッグを見つける。

 しゃがみ込んでそれを手に取り、散乱した中身を拾い集めた。

 奇跡的に財布もポーチも無事だった。

 身分証代わりの生徒手帳が入っていたので、運が良ければ誰かが警察に届けている可能性もあったが、それさえもしっかりと路面に転がっている。


 身分証は確かにわたしのものだ。穴川中あながわなか高等学校、二年三組叉鏡ありすと記してある。


 今となってはなんの意味もないネコ耳の付いたカチューシャもしっかりとあった。

 カチューシャの裏側には、白の顔料系マーカーで書かれた名前が見える。それは、わたしのものではない。

 いつだったか交換した友達の名前。


 『京本きょうもと亜里守ありす


 かつて『キョウちゃん』と呼んでいた少女だ。

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