第48話 「それ捨てちゃっていいから」
その日は緊急の職員会議が行われたらしく、午前中のほとんどは自習で午後からの授業は中止ということになった。
四時限目の終了を合図するチャイムが鳴る。
これでひとまず、わたしは学校という名の箱から抜け出せるだろう。
浮田さんはとうとう来なかった。同じように虐めを受けているとはいえ、根は真面目な子だ。致命的な肉体のダメージを与えられるわけではないのだから、学校を休んでしまったらそれは仮病になってしまう。勉強はできる子だから、あまり休んで学業に響くような真似はしないだろう。
それとも、やはり彼女が今回の写真の件の黒幕で、良心に耐えきれず学校に来られない心理状態になってしまったのだろうか。
うだうだと考えながら帰り支度をしていたところで、隣の男子生徒にいきなり鞄を盗られてしまう。
「チャーンス!」
「あ」
気付いて声を発した時には、その鞄は生徒から生徒へと投げ渡される。
「ほれっ! パス!」
「ほい。新田パス!」
「やめて! 返して!」
わたしは半泣きになっていたと思う。
「おっし。田中……とみせかけてフェイント」
女子のイジメと違って男子のイジメは直接的だ。精神的な被害は女子同士よりマシだけど、物理的な被害が大き過ぎて困る。
「おいおい。フェイントはいいけど、人のいないとこ投げるなって」
「よーし、とったどー!」
「返してよ!」
「あ、手が滑った」
わたしの鞄は窓から放り投げられ、下へと落ちていく。
「おーい、それ捨てちゃっていいから」
たぶん、下にいる子に話しているのだろう。
それはまずい。わたしは教室から飛び出すと、全力でその鞄の行方を追った。
中には大切なものが入っている。上履きと違ってただ買い直せばいいという訳にはいかない。
だからわたしは必死になって探した。
鞄を拾った子が走っていった方向から推測すると、校舎裏にある今は使われなくなった焼却炉だろう。
前にも体操着を隠されていたことがあった。
焼却炉として現役で使われてたら洒落にならない場所でもある。
わたしは焼却物を放り込むための穴に顔を突っ込んで中を探すと、底の方に鞄らしきものが見えた。
そのままでは手が届きそうもなかったので、胸下あたりまでその穴に入り左手を伸ばした。
その瞬間、「せーの!」というかけ声とともに両足を誰かに掴まれ、そのまま胴体を軸に回転させられて中へと押し込まれた。
「うぎゅ」
穴の外からは笑い声がする。聞き慣れた声はクラスメイトの女子だ。
彼女たちには楽しいのだろう。自分より劣った者が存在することが。
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